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『ゲームブックとTRPGの「危険」について』
(杉本=ヨハネ)
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田林洋一氏による『スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本』 vol.13の記事を推敲するやり取りの中で出た話題で、「ドラゴン・ウォーリアーズ」第一巻の『ドラゴンの戦士』の冒頭(p.11-12)に、「待ち受ける危険も(ゲームブックよりTRPGの方が)ずっと厳しい」と書かれているが、果たしてこれは本当なのだろうか?
ゲームブックとTRPGのどちらがより「危険」かと問われたならば、「危険」が「ゲームオーバー率」と同義であるなら、一般的にはゲームブックであるように思う。
この話題に対して私の頭に真っ先に浮かぶのは、田林氏の記事でよく扱われてきた「単方向性」と「双方向性」のゲームブックという分類だ。
単方向性のゲームブックは、「死にながら」繰り返し挑戦することを前提に制作する姿勢と相性がいい。
名作と名高い〈ソーサリー!〉シリーズの第1巻『魔法使いの丘』など、前半では進むことができる道が3本に分かれ、後半になるにつれて少なくなるという構造はしばしば見られるものだ。この構造は「序盤をより何度も遊ぶ」という前提、つまり「死に戻り」を前提としていると考えると、実に自然なカタチであると感じられる。前半をやり直す際に「今度はこっちを行ってみよう」という遊び方ができる方が、飽きがこないデザインとしてより優秀だからである。また、単方向性作品の場合、構造上どうしても「行けなかったところ」が多くなるため、1冊のボリュームに対する「読むことができた箇所」が減り、満足度が下がってしまう可能性が大きくなる。単方向性かつゲームオーバー率の低いゲームブックはこの点が弱点であり、クリア達成によって「再トライ」への意欲が下がってしまうという構造上の欠陥がある、ということもできる。
これに対して双方向性のゲームブックは、1回の冒険で隅々まで探索することと相性がいい。構造上すべてのイベントを経験するように作ることができ、選択肢を「場所」ではなくイベント内の「選択」によって与える造りとなる。難易度を上げると同じ道を何度も通ることとなるため、ゲームオーバー率を下げるのが自然なデザインとなる。余談だが、ファイティング・ファンタジーシリーズ第8巻、米国のスティーブ・ジャクソン著『サソリ沼の迷路』は優秀な作品で、自身が仕える魔法使いを変えることで「同じ場所で異なるイベントを体験できる」という、「隅々まで探検でき、かつ繰り返し遊べる」という、ボリュームの最大化に成功している。
これに対してTRPGはどうだろうか。TRPGという言葉は幅広いため、ここでは「ドラゴン・ウォーリアーズ」が分類されるであろう、オールドスクールなファンタジーTRPGに絞って考えてみよう。同シリーズの「ゲームブックよりも」危険はずっと大きいという言葉は、事実なのだろうか。あるいは、どう受け止めるべきなのだろうか?
統計的な裏づけがあるわけではないが、TRPGよりもゲームブックの方が、死亡率そのものは高いという体感が私にはある。ゲームブックに多くのやり直しがあったのに対して、TRPGのセッションでは数回に一度、キャラクター1人が死亡するかどうかだった(ここで挙げたい例外は「トンネルズ&トロールズ」のシナリオ「ベア・ダンジョン」だ。ひとつの罠に対する判定に失敗するだけで、1人以上のキャラクターが命を落とすことも珍しくない。1プレイヤーが複数のキャラクターを扱うといった遊び方に言及があることからも、キャラクターの命が「軽い」ことが伝わってくる。エクスキューズを述べるなら、だからといって、トンネルズ&トロールズのシナリオが常に「すぐ死ぬ」わけではない。ひとりで遊ぶソロアドベンチャーとは異なり、「魔術師の島」など、危険度が高くない名シナリオが数多く存在する)。
だから、ここで言われる言葉に納得感はない。それでは、どう解釈するのが適当だろうか?
ここでいう「危険」は、ふたつの解釈ができる。
ひとつは、このような言葉で「ゲームブックからTRPGへのファンの接続」を狙った言葉であり、事実とは異なる「プロレス」的な文言であるという解釈だ。より危険な、スリルのある冒険の世界へようこそ──! そう伝えたかったのかもしれない。
もうひとつは、キャラクターというものにプレイヤーが持つ愛着が、冒険への実感をより高めることで、危険を大きく感じさせるという解釈だ。ややこじつけの感はあるが、ゲームブックにおける「死」が、やり直しの労こそあれど、冒険者を失ったことに大きなショックを受けるほどのものではない「軽い」ものであることは事実である。TRPGには「愛着のあるキャラクターとの別離」という、ゲームブックにはないプレッシャーと緊張感がある。そういう意味で、危険が大きいと言えなくもない。
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