2026年5月21日木曜日

ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』リプレイvol.3 FT新聞 No.4866

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』リプレイ vol.3  (東洋 夏) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■    FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!  本日の担当は東洋 夏(とうよう なつ)。  ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』のリプレイ小説をお届けいたします。  夜を駆け、人をさらう謎の怪物〈怨霊列車〉の調査を依頼されたのは、十二歳の見習い聖騎士シグナスと、その相棒〈おどる剣〉のクロ。共に調査に参加しようとした師匠は列車によって地上の遥か彼方に置き去りにされてしまい、半人前のシグナスはおっかなびっくり先頭車両を目指して歩き出すことに。生存をかけた冒険の始まりです!  前回vol.2では、列車に乗り込んだふたりが錯乱していた兵士たちを助け、その内のふたりを仲間に加えるところまでをお届けしました。  よく舌の回るお調子者のコビット族のヨンと、巌のようにどっしりといかめしいドワーフ族のアルゴット。四人組になった一行は、次の車両に向かいます。  さあ、怪物の腹の内側には、果たして何が待ち受けるものか。    ちなみに本編の前に申し上げておきますと、今回のリプレイはお食事中の方には向かない描写が出てまいります。予めご了承ください。  また、リプレイの性質上シナリオの根幹に触れます。  ネタバレとなりますので、避けたい方はそっと閉じていただけましたら幸いです。    前口上はこれでおしまい。  さあ、冒険の始まりです!  ◇ 〈シグナス(レベル8、聖騎士)〉 ・技量点:0 ・生命点:8 ・筋力点:4 ・従者点:9 ・技能:【高潔な魂】【全力攻撃】【癒しの光】 ・持ち物:見習いの片手剣(片手武器、斬撃)、丸盾、板金鎧(防御ロールに+1)、金貨21枚、スノーレパードアイ(金貨30枚相当の宝石)、ランタン 〈クロ(レベル11、おどる剣、炎属性)〉 ・技量点:1 ・生命点:7 ・器用点:6 ・従者点:7 ・技能:【装備化】【凶器乱舞】【精密攻撃】【鋼の意志】 ・持ち物:なし    ◇ [2号車]22:晩餐車両  兵士たちに手ほどきされ、シグナスは車両の先頭の扉を開ける方法を会得した。次の車両へは空中を飛ぶ〈怨霊列車〉の繋ぎ目を渡るので、そこにも多少のコツと度胸が必要である。  風吹きすさぶ連結部に立つと、頭上には真っ暗な夜空に輝く一面の星。踏み出そうとする足の遥か下方では、雪原が妖しくほの白い光を放っていた。  今は何処を飛んでいるのだろう。既に廃城は影も形もない。置き去りにされたサー・ノックスも、サン・サレンからの救援の姿も見えない。乗り物といえば馬車、空を飛ぶといえばグリフォンしか馴染みのないシグナスにとって、空飛ぶ列車とは驚異の存在だ。常識外れの度が過ぎて、かえって驚くことを忘れてしまうほどに。  シグナスは平衡感覚を失いそうになりつつも、先に連結部を渡ったアルゴットに手を引いてもらって、ひと跨ぎに次の車両に取り付いた。クロは吹き飛ばされるといけないので、元の鞘の中である。 「先に何があるかは分からん」 と、ドワーフのアルゴット。三つ編みにした彼の髭が、強風にあおられてシグナスの額を叩いた。 「おお、すまん」 「大丈夫です。それより」 「いやいや、おいら達だって開けたさ、何回も」  反対側からコビットのヨンが声を張り上げる。 「だけど開けるたんびに中身が変わるの。おもろだろ。お宝の山に出会うまで開け閉めしたいね」 「けしからん。当初の目的を忘れとる」  アルゴットが顔をしかめ、シグナスに、 「覚悟しておいた方が良いぞ。死の罠であるかもしれん」  そうして開かれた連結扉の先は、しかし禍々しさとは無縁のものだった。  車内にはまた左手に乗降口と、前方に車両内部に続く扉があって、その小さい空間には、ほっとするような暖かな空気が詰まっている。夜空を渡って凍えそうになったシグナスの体は暖気にあたって、緊張をみるみる解いていった。  内部に続く扉を一枚挟んで聞こえてくるのは優雅なリュートの響き。さらに扉の上部にはナリクでもまだ高価なガラスの覗き窓があり、向こう側に煌々と照明が点っていることを伝えていた。 「今回はアタリかも」  ヨンが目を輝かせる。 「きっと派手でおもろだよ」 アルゴットは渋い顔で、 「お前の面白いは信用ならん」 と言った。  シグナスは好対照なふたりの間で、 「行くんですよね?」  コビットのヨンはにっかり笑い、ドワーフのアルゴットは牛のように唸る。行くということだ。  三人が慎重に車輌内部の扉を開くと、食器の触れ合う音がどっと聞こえてくる。豪華に装飾された晩餐用の食堂車らしい。着飾った貴族たちが円形の卓に着き、メイドや執事が客席の間を音もなく滑らかに歩いて給仕をしている。 「いらっしゃいませ。切符を拝見いたします」  やって来た白髪の執事に切符を渡すと、彼は一瞥するなり微笑んで、一行を席に案内した。  シグナスが見るところ、これはかなり格式高い晩餐会に紛れ込んだようである。銀製の食器は鏡になるほど磨き上げられ、ナイフだけでなくフォークまで揃えられていた。   (※さて、見た目は華麗なのですが、ここは〈怨霊列車〉の内側。シグナスたちが目にしているのは幻影による偽物の美しさです。出される食事すら幻で、口にする前にその欺瞞を見破れるか、【判定ロール】ないし【魔術ロール】(目標値4)に挑戦します。なお対象は全員ですが〈おどる剣〉は食事が出来ないため、クロは対象外と判断しました。それではいきます。シグナス=出目3で失敗。ヨン=出目5で成功。アルゴット=出目5で成功。おお、シグナスくん。君は相変わらず判定ごとが苦手な少年のままなのだね……)   「ねえ三つ編みお髭のドワーフどん。この三つ編みにそっくりな三又の痩せっぽちは何者だい」 「黙ってろ、チビ助。俺はこういうのは苦手だ」  ヨンとアルゴットが息ぴったりにシグナスの方を向く。本当に仲良しなんだなとシグナスは思った。 「これはフォーク。指でつまむ代わりに、突き刺すんです。見てて」  シグナスの主人である聖騎士ノックスは、騎士であると同時に大富豪の息子である。如何なる食事の場面で主人と並んでも恥ずかしくないように、一通りのマナーは教え込まれていた。それが〈怨霊列車〉の中で活きるとは、思いもよらない事ではあったが。 (人さらいの列車なのに、何でこんなに高貴な人がたくさん乗ってるんだろう。……いや、僕が今すべきは、目の前のパスタを礼儀正しく食べること。ボロを出したら襲ってくるパターンかも知れないし)  前菜に出されたマカロニをフォークで突き刺す。それを口に入れた時、コビットのヨンが真っ青な顔でシグナスを指さし、けたたましい悲鳴を上げた。 「それ食べ物じゃないよお!」  フォークに刺されたマカロニが、独りでに反り返ってシグナスの鼻にぴたりとくっつく。 「うわっ」  思わず口の中から──主人ノックスと一緒だったら叱られるだろうが──フォークを引き戻したシグナスの目の前で、くねくねと動くマカロニが真っ黒いムカデに変化した。シグナスは悲鳴を上げてフォークを投げ捨てる。美味しそうだったミートソース和えのマカロニは、腐ってドロドロした何かの中にうごめくムカデの群れに変貌していた。 「怨霊共め!」  どんと机を叩いてアルゴットが立ち上がった。その瞬間、幻想の晩餐会は砕け散り、客も執事もメイドも円卓も照明も塵と化す。残されたのは暗闇だけ。  シグナスがランタンに火を灯すと、その鎧の爪先をてらてらと光るムカデが横切って行った。    (※残念ながら判定に失敗したシグナスくんは、次の〈できごと〉が終わるまで攻撃ロールに−1のペナルティ。食感を思い出して力が入らなかったりするのでしょうか、と想像するだけでぞわぞわしてしまいますね。そしてプレイヤーは、前回の冒険『写し身の殺人者』で道中の判定ロールを全失敗したシグナスくんを思い出し、別の意味でぞわぞわしております。気を取り直して次の車両に行きましょう!) ◇ [3号車]21:シスターがいる客室車両  這いずる虫たちから一刻も早く逃れたくて、シグナスは次の車両へと急いだ。宙を渡る恐ろしさも、悪夢の晩餐会を後にできるとあっては何ほどのこともない。 「次もおもろだといいねえ」  コビットの兵士ヨンが、もう早や先程の出来事が喉元を過ぎているらしい調子で言うと、 「面白いものか!」  ドワーフの兵士アルゴットが筋肉質の体を憤りに震わせる。 「いやいや、シグのファインプレーよ、あれは。おもろだったよ」  ヨンが黄ばんだ歯をずらりと見せて笑い、ナリクの従騎士シグナスはいたたまれない気持ちになった。極寒の空の上でも頬が火照るのが分かるほどに。 「からかうでない、このイカれコビットめ」  アルゴットが勢いよく三両目の扉を横に滑らせる。内側は予想に反し、厳粛な静けさに支配されていた。三人はそれでも慎重に、続きの扉を開いてみる。  前の車両とは違って、人の気配がなく薄暗い。かすかな光は所々に置かれたロウソクが発しているようだ。座席は二人がけの長椅子が進行方向を向いて二列に並び、その真ん中が通路になっている。  おぞましさは感じられない。しかし前の車両だって最初は由緒正しいパーティーの一幕のように思ったのだから、感覚を信用することはできないとシグナスは自らを戒めた。今回は失敗をしないように気を引き締めなくては……。  シグナスがランタンを持ち上げてゆっくり歩き出すと、不意に〈怨霊列車〉にふさわしいと思えぬものが、くっきりと薄暗闇の中で輪郭を浮かび上がらせた。神像である。それも無数にある。規則正しく並んでいる座席の幾つかが抜かれて祭壇になっており、そこに諸神の像が置かれているのだった。どうやらロウソクは座席ではなく、神像の足元を照らすためのもの、祈りを捧げる明かりのようである。 「礼拝堂、なのかな?」  シグナスの呟きに、アルゴットが髭をしごきながら、 「どうやらそのようだ」 と賛同する。ランタンの灯りが伸ばしたヨンの影が、きょろきょろと辺りを見渡した。 「この中身は初見だねえ。お、ドワーフどん、お前さんのカタクさんじゃないかい」  ヨンが指さすのは、ドワーフに似た姿で表現される、炎と戦の神である。 「うむ。祈りの時をもらえるか、シグナスよ。いかな邪悪であろうと、カタク神への祈りを歪ませることは出来ぬであろう故に」 「どうぞ」  シグナスが見渡すと、そのひとつの座に、剣を手にした善神セルウェーの像が背筋を伸ばして立っておられた。ロング・ナリクの聖騎士はセルウェー神の恩寵によって、奇跡を起こす力を授かる。そしてナリクにおいてセルウェー神は〈唯一神〉だ。何より、シグナスはセルウェー教の聖堂に附属する孤児院で育ってきたのである。このように他宗教の神と一緒くたに並べられるというのは、シグナスの心を波立たせるものだった。主人サー・ノックスであったら何と仰るだろう。  コビットのヨンが獣神セリオンの像の足元に置いてあった器を引っくり返したらしい。派手な音が車両に響き渡る。 「おい!」 と祈りを中断してアルゴットが怒鳴った。ヨンよりもシグナスの方が驚いて跳び上がり、 「おもろだねえ。金貨があったよ」  サン・サレンの金貨を指先につまんで他人事のように言ったヨンのその脳天に、アルゴットが拳骨を落とす。 「騎士様の前で盗みなど、このイカレ──」 「お静かになさいませ」  唐突に放たれた女性の声に、三人は一斉に動きを止めた。最前列の椅子が軋んで、何者かが立ち上がる。 「何奴!」  アルゴットが斧を手に誰何した。板張りの床を踏む軽い足音を響かせて、ランタンの灯りの内側に、怖がる様子もなく黒衣の女性がすたすたと歩み入って来る。  シスターだ、とシグナスは理解した。セルウェー教の装束では無いが、雰囲気で分かる。聖堂付き孤児院で幼い自分を世話してくれたような、神に仕えるシスターに違いない。黒いベールの下から覗くハシバミ色の瞳が、三人を順に見渡した。 「皆様、そのように大きな音を立てられては、子供たちが起きてしまいますわ。それに神々の御前です。礼儀をわきまえていただかなくては」  シスターはなおも斧を構えたままのアルゴットを見、 「ここは清浄です。魔が入ることはできません。暴力を振るう場所ではないのよ」 と言った。不承不承の様子でアルゴットは斧を下ろす。微笑んだシスターは付け加えた。 「静かにしていただけるなら、お座席で休まれても構いません」  しかし、シグナスは急ぐつもりである。背中を向けようとしたシスターに、慌てて声をかけた。 「あの、待ってください。教えていただきたいことがあります」 「何かしら」  三人の中で最年少のシグナスが代表して発言したことに、恐らくシスターは意表をつかれたようである。振り返った彼女は、驚きに目を丸くしていた。 「この〈怨霊列車〉に……」 「しいっ!」  シスターは唇に指を当て、シグナスの言葉を制する。 「あの……」 「いけません。語らないからこそ保たれているのです。語れば、気づかれてしまう」  不意に〈怨霊列車〉の甲高い汽笛が鳴って、列車を震わせた。  シスターは目を伏せる。いったい何に気づかれるというのだろうか? しかしそれも問うことは出来ないらしい。今のは〈怨霊列車〉からの警告だ。シグナスは仕方なく、全ての質問を心の奥に押し戻す。  シスターは聞き分けの良い子供を見るような笑顔になって、こう続けた。 「もしよろしければ、神の恵みなどいかがでしょう? お布施をいただけるなら、ですけども♪」  (※ここでは、以下のふたつをシスターにお願いすることが出来ます。   ・【休憩】して生命点と副能力値の回復ができる   ・金貨5枚で食料を1食分売ってくれる シグナスくんはヨンたちを助けるためにすべての食料を使ってしまいましたから、ここでシスターから買わせていただきましょう) ◇  今回のリプレイは、ここまでです。    ちなみにシスターから買わせていただいた食料は「篭に入ったワインとバケット」だそうです。未成年飲酒はどうなんだと思いましたが、実際に中世では未成年でもお酒を飲んでいたそうなので、このままの描写で進めたいと思います。孤児院時代はさておき、聖騎士に仕えるようになってからは飲んでそうですね。  赤なんだろうか、白なんだろうか、ブドウの産地は何処なんだろうか、とか考え出すとこのひとつの描写から無数に物語が広がりそうですし、もっと大人な冒険者ならここでシスターとワイン談義が盛り上がるのかもしれません。  ローグライクハーフ経験者の方は、是非うちの主人公ならどういう反応をするかと考えてみてください。きっと面白いですから。  それではまた、次の車両でお目にかかりましょう。  良きローグライクハーフを!   ◇    (登場人物)  ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。しばらくマカロニが食べられない。  ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。  ・ヨン…身長1メートルほどの陽気な種族「コビット」の兵士。  ・アルゴット…土を掘り、金属を加工する技術に優れた種族「ドワーフ」の兵士。  ・謎のシスター…怨霊列車に乗り込んだシスター。正気を保っているが、存在のすべてが謎。そのワインとバケットは何処から!? ■作品情報 作品名:『怨霊列車は夜笛を鳴らす』 著者:ロア・スペイダー イラスト:海底キメラ 監修:杉本=ヨハネ 発行所・発行元:FT書房 購入はこちら https://booth.pm/ja/items/6820046 『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 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