第2回【白い小屋、赤い絶望(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【白い小屋、赤い絶望(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】のネタバレを含んでいます。ご注意ください。
ぜろです。
「白い小屋、赤い絶望」(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)をプレイしています。
主人公、サクタロウは登山中に吹雪に見舞われ、山小屋へ避難します。
しかしその山小屋は異様な状況になっていました。
火の入ったままの暖炉。壁一面の赤い文字。床一面の赤い紋様。そして生臭さ。
何が起きたのか、あるいはさらに何か起きようとしているのか。
命をつなぐ薪の補充を探しつつ、事態の謎に迫ります。
【現在の時間:午後9時】
●アタック02-2 山小屋の宇宙的存在
俺は小屋の中にいる。今調べられるのはこんなところだ。
・暖炉
・棚
・荷物(時間経過)
・物置(時間経過)
・便所
・上げ板
このうち棚は調べた。ラジオを発見したが使い物にならず、中の乾電池だけ失敬した。
次は、荷物を調べようと思っていたが、時間経過を伴う。
なので先に暖炉を軽く調べておいた。
といっても特筆すべきことはなかった。薪の補充をするかと確認されたくらいだ。
まだ持っていないから補充できなかった。
さて、改めて荷物を調べよう。
まず、荷物は1か所に固められているという状況からして不自然だ。
普通5人パーティで山小屋に立ち寄ったとしたら、ほかに客がいなければ、荷物はめいめい好きなところに置くだろう。
固めて置くだけでも、小屋の中でなにかを行う目的があったことを想像させる。
そう、たとえば床に赤い塗料で図形を描くため。
これは、リュックの5人が、バラバラに来た人たちではなく、1つの集団という可能性を示唆している。
荷物の中には、登山に必要な道具がそろえられていた。
少なくとも登山は目的のひとつに入っていたようだ。その目的地がこの山小屋だったのかもしれない。
そんなことはいいんだ。それよりほかにないのか。何か金目のもの……じゃなかった、彼らの身元や目的がわかる物品が。
すると妙なものを見つけた。
……護符?
壁面の赤い文字と同じ文字で書かれている。
それから、これはなんだ。星図?
山岳地図ではなく、星図?
あとはナイフだ。
登山用のナイフならあって当然だが、これは明らかに登山用には適さないと思われる。
それが鞘に入った状態で見つかる。
ひとつひとつ見ていこう。
まず護符だ。
これは複数の荷物から同じものが見つかった。
少なくとも道中の安全を祈願するようなものではなさそうに思う。
なんだか得体の知れない文字の護符を共有しているくらいだから、このメンバーは目的を共有していたと見ていいだろう。
護符には図像が描かれている。
触手と牙と目を持っている、ように見える。
しかし、そんな生物的な特徴を示しながら、なぜか俺にはそれが、機械めいて見えた。
生物にして機械。自分で言っといてなんだが、よくわからない。
そして星図。
山で天体観測でもしようとしていたのか?
まあねー。「クトゥルフもの」「儀式」「星図」と揃っちゃうと、なんらかの宇宙的存在を呼び寄せようとしてたのか、とか勘繰っちゃうよねー。
なんてことを思いながら星図を眺めると、奇妙なことに気がついた。
俺の知っている星座がない。冬の大三角も夏の大三角もない。
これではまるで、地球以外のどこかの場所から描かれたもののようだ。
もちろん北斗七星もない。死兆星も見えない。俺は死なずにすみそうだ。
星図の裏側には、俺の予測を裏づけるような書き込みがあった。
「星の巡りが正しければ、儀式はうまくいくはずだ」
やっぱり、あの壁面や床は儀式に使用するものだったみたいだ。
「はるかかなたの異星と地球を結ぶことには危険が伴う」
なんらかの宇宙的存在を呼び寄せようとしていた、というのも正解くさい。
「門を開けば、かの星の凍てつく大気が空から流れ込んでくるだろう」
えええそれって、今のこの吹雪の状況にぴったり合致していないかい?
そんな異星と繋がって、凍てつく大気が流れ込んできてて、呼吸ができるのは不思議だけれど、そんなツッコミしてる場合じゃない。
だって今の猛吹雪ってつまり「門が開きっぱなし」ってことでしょ?
クトゥルフものだとわかっているプレイヤー的には次から次へと考えが巡るけれど、俺サクタロウにはこの程度の記述でここまでたどり着くのは、無理かもしれないな。
いや、無理じゃないかもしれないが、この時点では空想として片づけてしまいそうだ。
よくある設定の創作ノートかなにかかと思ってしまうかもしれない。
そしてその続きには、「かの怪物」を呼び寄せる呪文と、送り返す呪文が書かれていた。これは覚えておこう。
最後に「儀式は速やかに終わらせること」とあるが……終わらせられたのか? この儀式。
●アタック02-3 血濡れのナイフの使いみち
リュックの中身を確認中。あとはナイフだ。
ナイフはかなり大きな刃渡りのものだ。日用品ではない。狩猟用とでもいったところか。
普通に銃刀法違反で捕まるやつ。
このナイフも儀式用だろうか。
使い道はわからないけれど、儀式といえば生贄。
さっき護符が出て来たリュックは、「全員」ではなく「複数」という表現だった。
もしかしたら護符が入っていないリュックは、今回の生贄、被害者になる予定の人物だったのかもしれない。
そんなことを思いながら、ナイフを鞘から取り出す。
そこにはべっとりと赤いものがついていた。
錆びた鉄のような臭い。
壁面や床にある赤い塗料ではない。これは……血だ。固まりきっていない。
本当に、生贄の儀式が行われたのか?
それにしてもわからない。
ナイフを鞘に戻して、リュックの中にしまうだけの時間的余裕がありながら、どうして血を拭き取らなかったんだ?
どう考えても、血を拭き取ってから鞘に戻すよな。
そして、少なくとも、ナイフをしまった人物は生き残っていたはずだ。
その人物は、どこに行ってしまったんだ?
さあ、リュックの中身の確認は終わった。
これだけで、いろいろと推測できることはあった。
そして時間は経過している。現在は【午後10時】だ。
次はどこを調べるか。残っているのはこれだけだ。
・物置(時間経過)
・便所
・上げ板
物置だな。
普通に考えれば、薪が置いてある可能性がもっとも高いだろう。
この小屋の謎を解き明かす前に、薪の補充をしなければならないというミッション、俺は忘れちゃいない。
物置には雑然と、山小屋に必要なものが押し込まれていた。
斧やロープ、釘、補修用の板など。
補修用の板は、薪のかわりにしても良さそうに思うが、代用できるとは書かれていない。残念。
あとは懐中電灯がある。しかし、乾電池が切れてしまっているようだ。
お。乾電池なら持っているぞ。さっきラジオから抜いたやつだ。
サイズもぴったり。懐中電灯が使えるようになった。
これはまた少し調査が前進したと考えて良さそうだ。
物置の中はものが多かったので、これだけでまた時間が経過している。
今は【午後11時】だ。
薪切れの制限時間まで、あと1時間。
●アタック02-4 召喚の儀
まだ調べていないのは、便所と上げ板だ。
薪があるとしたら上げ板の方だな。
まさに今手に入れた懐中電灯を使うならこっちだろう。
それに、物置に薪がなかったのなら、地下室にあると考えるのが自然だ。
これで単なる床下収納だったらお笑いだけど。
単なる床下収納で、しかも死体が納められていたりしたら、お笑いにもならないけれど。
でも、地下室になっているとしたら、やっぱり安全を確保したうえで向かいたい。
安全を確保。つまり、便所の中に何者かが潜んでいないかということだ。
誰かがいるなら、閉じ込められないとも限らないからな。
便所は、部屋から遮断されているだけに冷気がすごい。
ここに誰かが長時間隠れているとは考えにくい。
壁面も床面も、何もない。ここは儀式の範囲外と見てよさそうだ。
だが、便器の奥に何か白いものが見える。
拭いた後の便所紙かもしれない。
手を伸ばせば届きそう。
汚いが、ここは思い切りが肝心だ。
俺はそれに手を伸ばした。
本から破り取られた1ページらしい。
ところどころ、赤黒いシミがあって読むことができない。
なんとか解読してみよう。
そこには、外宇宙の生命体を示唆する、その生態の説明が書かれていた。
その生命体の名称は、ああ、肝心なところがシミで読めない。
「■の精」とある。
理由の部分が読み取れないが、普段は肉眼では見えないらしい。
だが、生き血を好む。
人間ひとり分の血を吸い尽くす頃には、目に見えるようになる。
ルドウィグ・プリンなる人物が、魔導書の儀式を用いてこの生命体を使役していたとされる。
その魔導書に、主人となる人間ひとりの氏名と、シミで読めないが、おそらく「生贄」となる人間の名前を複数、記すとある。
すると生贄たちは異星へ捧げられ、■の精が門を通じて召喚され、主人に従う、と。
だんだんと読み取れる情報が多くなってきた。
つまりだ。
主人となるべき人物はひとりだけ。
先客5人のうち、あとの4人は生贄ということだろう。
護符が複数のリュックから見つかっているのは、首謀者が何かうまいこと言いくるめたのかもしれない。
たとえば超常現象研究会のメンバーだったりとか。
今の吹雪の天候から察するに、異界への門は開かれており、そして開きっぱなしだ。
つまり、生贄たちはすでに異界送りになっているものと考えられる。
もちろん、異界から召喚された「■の精」はここにいる。
しかし、「肉眼では見えない」。
これって、俺がこの小屋に入った気配の正体なのではないか。
人間ひとり分の生き血を吸う機会をうかがっているのではないか。
そして、ここまででもまだ読み解けない謎は残る。
じゃあ、その■の精の主人となるべき人間ひとりはここに残っているはず。
その人物は、どこに消えたのだ? 使役できなかったのか?
■の精に生き血を吸われていれば、■の精は実体化しているはず。
それもないというのは……どういうこと?
今、いちばん間抜けなひとつの解が思い浮んだ。
彼らは、儀式の正しい手順を知らなかった。
それで、5人の名前を全部、魔導書の生贄の欄に書き込んでしまった。
5人は全員異界送りとなり、■の精は召喚された。
しかし■の精は、主がいないまま、この小屋の中に留まっている。
しかも、門は開きっぱなし。
なんてことだ。辻褄は合ってしまうぞ。
あれ、けど、血濡れのナイフの謎は残ったままだな。
少なくとも誰かが誰かを傷つけているはずなのだ。
先客の5人のメンバーの中で、儀式の前後でなんらかのトラブルが起こっているはず。
それが事態をややこしくしているに違いないのだが……。
ええい。わからん。
一旦思考から離れよう。便所からも離れよう。
そして残った上げ板を調べよう。
そう思い、便所に背を向け、小屋の探索に戻ろうとした。
そのとき、背後から小さな物音が聞こえた。
振り返るか、無視するかの選択。
こんなときに、無視するだけの度胸はない。
俺は振り返った。
便所の扉が閉まっていた。
なお、俺は閉めていない。
勝手に閉まった?
いや。これはきっと、目に見えない■の精が、ここに存在していることを示しているのだ。
目に見えないだけで手を出してこない理由はわからない。わからないだけに恐ろしい。
きっと俺は、何か「襲われないための条件」を満たしているに過ぎないだろうから。
次回、そんなことより薪がないと死ぬ。
【現在の時間:午後11時】
■登場人物
丸井サクタロウ 主人公。登山中に吹雪に見舞われ、山小屋に避難する。しかしその山小屋は異様な状況だった。
5人の先客 ここで異星から、■の精を召喚するための儀式を行ったとみられる。しかし誰もいなくなった。
■作品情報
作品名:ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇 「白い小屋、赤い絶望」
著者:丹野 佑
発行所・発行元:FT書房
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