第1回【最期の日に彼女は(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【最期の日に彼女は(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】のネタバレを含んでいます。また、喪失体験にまつわるエピソードが登場します。苦手な方はご注意ください。
●作品紹介
私はこの作品をプレイしたことを、一生忘れないでしょう。
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狂気とは何か、目に、耳に肌に心に。
日常ならざるそれは観察され思索され絵に文字に綴られてきた。
感覚の外に人の外にあり、人の手で語られるもの。
深淵のふちを散策する、クトゥルーゲームブック短編集 第2弾
——「クトゥルー短編集2 暗黒詩篇」裏表紙より
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永遠のクトゥルフ初心者ぜろです。
今回はFT書房のゲームブック「クトゥルー短編集2 暗黒詩篇」の中から、杉本=ヨハネ著「最期の日に彼女は」に挑戦します。
「クトゥルー短編集」はそのタイトルのとおり、クトゥルフ神話を題材にしたゲームブックの短編をまとめたもの。「暗黒詩篇はその2巻になります。
この短編集には本作「最期の日に彼女は」を含め、6本の短編が収録されています。
「最期の日に彼女は」は、この作品集の6作目、つまり最後を飾る作品です。
・ヨグ=ソトースの飛沫
・白い小屋、赤い絶望
・忌まわしきグラファリアンの蛹
・クトゥルフ深話
・いあいあキャバクラ
・最期の日に彼女は
「クトゥルー」「クトゥルフ」の表記のゆれは、気にしないでください。どっちも意味は同じです。そういうものです。
私はなんとなく「クトゥルフ」表記がしっくりくるので、そちらを使うことが多いですが、作中の呼び方に合わせて臨機応変に表記は変わります。
さて、FT書房の短編集では、本の冒頭に作品紹介の四コマ漫画がついておりまして、そこで各作品の簡単なあらすじが紹介されているのが常です。
この作品にも、中山将平氏による四コマ漫画がついています。
まずはこの四コマ漫画の文章を拾って、作品の雰囲気をつかみましょう。
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研究所に勤務している双子の姉が失踪した
必死で捜索するうち浮かび上がる手がかり
だが、その失踪の裏側には……
恐るべき真相が隠されていた
焦りで汗がしたたり、ページをめくる指が震える怪作!
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やはりクトゥルフものには、怪しげな研究所がよく似合います。
何かよからぬものが関わっている雰囲気がプンプンします。
しかも自身の身内がそこに絡んでいるとなると、主人公もその事態から逃れられない予感がしますね。
そして、最初に言っておきます。
この作品をプレイして私が感じたこと。
私にとって非常に重要な意味を持つ作品でした。
もっと早くにプレイするべきでした。
ただ、同時に、この作品をプレイするために、私は自分自身と正面から向き合う必要がありました。
それは、とても重く辛く、そして幸せな記憶。
私のプレイには、それは欠かすことができませんでした。
この作品は、自分自身と向き合うだけでなく、そのことを語る機会を与えてくれました。
私は、この作品をプレイしたことを、一生忘れないでしょう。
なーんて意味深なことを書いていますけど、リプレイのノリは変えられないので、いつものぜろ節から始まるんですけどね。
パラグラフ数は61。
短編とはいえ、61パラグラフもあれば、いろいろなことができそうです。
冒頭のルール確認。
ステイタスがあるとかサイコロを使うとかいった、特別なルールはありません。
ゲームブックの読み方にのっとり、指定されたパラグラフを読み進めることで物語は進行します。
ただひとつ覚えておくこととして、今が何日目なのかは記憶しておくよう指示がありました。
あとは、指のマークがついているパラグラフでは、そのパラグラフ番号を覚えておいて進み、後ほど戻ってくるという形を取るようです。
昔からのゲームブックプレイヤーには通常「指セーブ」と言われているものを、ルール上説明したみたいな感じ。
ま、別に指示のないところでもやるときはやっちゃうんですけどね、指セーブ。
次いで、登場人物紹介があります。
ここで紹介されているのは2名。
双子の姉妹です。
西宮ハナ(にしみや はな):本編の主人公。双子の妹。無職。
西宮レナ(にしみや れな):主人公の双子の姉。感染症および寄生虫の研究者。
研究所に勤務している双子の姉。
双子の姉の研究所って、感染症とか寄生虫とかを取り扱ってるんですね。
クトゥルフ的にはヤバすぎるくらいにヤバい。
クトゥルフもの……というよりゾンビもので研究所とか製薬会社とかが出てきたら、ほぼ確実に事件と関係があります。
当然ですよね。事件と関係があるからこそ、登場させているとも言えますから。
世の研究所職員は、いつも黒幕的組織にさせられてしまうことに、複雑な思いを抱いているかもしれません。
実は、義姉が製薬関係の会社で働いているんですよね。
先日久しぶりに会ったときに義姉、「ぜろの仕事ってホント大変よね」みたいなこと言ってました。
私は「義姉の職場こそ、作品に登場するときにはだいたいゾンビウィルスとか開発してるから複雑よね」と返しておきました。
て、それよりも双子ですよ双子!
私ね、以前別作品のリプレイで、自身の萌え属性を暴露したことがあるんです。
それはね、メガネ! そう、メガネ属性です! メガネ大好きです! メガネスキーです!
身体的特徴とか性格的傾向とかじゃなくてメガネかよ! 付属物かよ!
それはそうなんですけど、好きなものは好きなんだからしょうがない。
諸君、私はメガネ女子が好きだ!! 大好きだ!
と、引かれるくらいに力説したんですよ。
で、それと並んで好きなんですよ双子! 双子属性! 双子キャラ大好き!
これまたキャラクター性じゃなくて設定的要素かよ!
それはそうなんですけど、好きなものは好きなんだからしょうがない。
諸君、私は双子キャラが好きだ!! 大好きだ!
なんとなく思い出すに、中学生の頃に同級生女子に双子さんがいて、「双子って、いいよね」と思ってしまったのが発端なんじゃないかな多分。思っただけで別になんもなかった。
それが高じて萌え属性に昇華してしまったみたいです。
ちなみにネットで萌え属性の一覧を検索したら、ちゃんとありましたよ、双子属性。
少数派かもしれませんが、私以外にもちゃんと存在しているのですね。
というわけで、もう双子ってだけで私の意気込みは違ってくるってものです。
しかも双子の妹が主人公とか。自分自身として行動できるキャラクターが双子の妹とか。
……で、ふっふーん。
どうやらこの作品、挿絵はないし、顔の特徴の詳細な説明もないみたい。
なら、主人公ハナさんも、双子の姉レナさんも、メガネキャラってことにしてしまいましょう。
双子で、しかもメガネ。ああもう私好みの属性てんこ盛りで、始まる前から幸せすぎます。
とはいえ、作品紹介の時点で双子の姉が失踪したことが語られていますので、今後の展開には早くも暗雲がたちこめているのですけれども。
さあ、引くほどに狂おしい私の煩悩を吐露したところで、挑戦をはじめましょう。
リプレイの文中は、「プレイヤー視点」と「キャラクター視点」をあまり区別せず、わざと混在させて書くのがいつものスタイルです。
あるときにはキャラクターの心情になりながら、あるときにはメタ視点から眺めつつ進めていきます。
●アタック01-1 レナとハナ
私は、西宮ハナ。
双子の姉、レナと2人で暮らしている。
それは、1月の終わりのことだった。
朝、目を覚ますと、レナがいなかった。
どうやら、帰宅していないっぽい。
無断外泊なんて、これまでに一度もない。
これは、おかしい。
なにか、よからぬことが起きている。
私は、そう確信した。
たったの1日帰ってきていないだけで、なぜこうまで言い切れるのか。
双子だからこその共振とか予感めいたものとかか。
創作の世界では、そういった双子ならではの特別さ、みたいなものはときおり見られる。
そういうのは創作の中だけのこととは言え、私の背後のプレイヤーのような双子スキーにはまたとない萌え要素にもなりうる。
……だから、実は双子が入れ替わっていて、加害者と犠牲者を偽装するなんてトリックはいらないんだよ!(最近なんか見たらしい)
双子にはなかよしでいてもらいたいんだッ!
背後のプレイヤーは、そんなキモくてメタい願望を垂れ流しているが、ハナである私の知ったことではない。
むしろ全国の双子さんに失礼にもほどがある。
双子が仲良いのはね。常に一緒にいて、常に比較される中で、自分と違うもう一人に劣等感や優越感を抱きながら獲得していくものなの。
それを簡単に「双子だからなかよしさん」みたいに決めつけてほしくない。
背後はしょせんは設定だけの浅い双子好きってことね。
それを否定はしないけれど。
……困った。
あろうことか、この時点でプレイヤーたる私は、「この人には操作してほしくない」というキャラクター西宮ハナの意思を感じ取ってしまった。
だってキモいしウザい。
いちいち双子願望垂れ流しとかいらない。
キャラクターはプレイヤーの分身として操作するものだ。
ゲームブックの場合、選んだ選択肢の先の展開が思い描いていたのと違っていて、プレイヤーとキャラクターの間の思考に齟齬が生じることはよくある。
けれど、こんなケースは初めてだ。自分でキャラクターに語りをさせておいて、プレイヤーを拒否ってくるなんて。
さて、メタい話はこのくらいにしておいて、強引に話を戻そう。
萌え語りはここまでだ。ストーリーに全集中しよう。
私が、双子の姉レナが帰ってきていないことを、なぜこうも即断で異常事態だと言い切れるのか。
双子だから感知できる予感みたいなものは、多少あると言えばあるかもしれない。
でも、そんなことよりも決定的なことがある。
それはね。
レナは、私ハナのことが好きで好きで、好きすぎてたまらないのだ。
私、ちょっとどうかってくらいにレナに愛されちゃってるのだ。
今じゃスマホなんていう、便利な連絡手段もあるのよ。
だから私に告げずに無断外泊なんて、ぜったいにするはずがない。
私にとっては、これ以上ない確信だ。
なにかが、起きている。
それも、ぜったいによくないことが。
探さなければならない。
姉を、レナを、探さなければ。
ここで、物語前半の目的が提示された。
「双子の姉レナを見つけること」
物語前半の目的、か。後半にはまた違う展開が用意されているのだろう。
こうして、私の物語は幕を開けた。
●アタック01-2 レナと勤務先
レナは、ヤマト感染研究所という、隣の町にある会社に通っている。
別にゾンビウィルスを研究していることなんてない、いたって普通の研究所のはずだ。
土日休みの職場だ。昨日は金曜日だった。
つまり、土曜日の今日、姉は休みということだ。
1月の寒い中とはいえ、休み前の金曜日の夜なのだから、多少の寄り道くらいはするのかもしれない。
双子でも、普段の行動はまるで違う。
レナはこうして会社勤めをしているし、私は今はハウスキーパー状態だ。
レナのすべての行動を把握できているわけでは、全然ない。
そう。幸いと言っていいのかどうか、私は今は無職。探す時間はたっぷりとある。
ここで選択肢とともに、私が自分なりに検討した内容が並ぶ。
・姉の部屋を調査する
・警察に連絡する
・探偵を雇う
・姉の職場に連絡する
最優先で行うべきは警察への連絡だろう。しかし、いろいろ聞かれて時間を取られることは確実だ。
それに成人女性が一晩帰らなかっただけで、どのくらい動いてくれるものだろうか。
私の焦燥感と同じだけの思いを、警察官が持ってくれるとは思えない。
探偵を雇って探してもらうというのも方法だろうか。
しかし先立つものがない。レナに成りすまして銀行から出金すれば、あるいは。
事情を知れば、レナは怒らないかもしれないが、やはりあまり取りたい手段ではない。
そもそも、レナは職場に行き、それきり帰ってきていないのだから、まず真っ先には職場に連絡を取って確認してみるところからだろう。
土曜日で休みだけれど、繋がるだろうか。
感染研究所というくらいだから、貴重なサンプルの維持管理のために当番対応の職員がいてもおかしくはないかもしれない。
レナの部屋の調査も気になるが、まずはアクションを起こそう。
私は、姉の職場、ヤマト感染研究所に電話した。
ここで問われる。今はいつかと。
1、2日目と3日目で反応が変わるようだ。
1日目の結果を確認する。
留守番電話が流れた。土日は営業していないという。
仕方ない。その可能性も十分にあった。
あ、それで週明けの3日目には反応が変わるのか。
というか、土曜日が休みでもきっと誰かいるはず、なんて思考になってしまっている時点で、プレイヤーたる私の社畜っぷりはお察しというものだ。
留守番電話に流れる自動音声は、やけにザラザラした低い声だった。
わざわざ印象深くなるように描写されているように感じる。
こういう気になるポイントは、覚えておいた方が良いだろう。
プレイヤーたる私は、感染研究所というだけで、この会社そのものに何かあると踏んでいる。
ハナである私には、まったく思いもよらないことだけれど。
わざわざこの自動音声を印象づけているのだ。作中で、この印象的な声の人物は、必ず登場するはずだ。
それも、印象からしてあまり良くない方の人物な気がする。警戒しておいて損はないな。
さあ、次はレナの部屋を確認してみよう。
実はさっきの選択肢には、もう少し続きがあって、これがまた気になるのだ。
・姉の投稿情報を見つけているなら
・姉の携帯電話を見つけているなら
と、こんな具合だ。
実はさりげなく、この選択肢の順番にも意味がある。
投稿情報を見つけているなら、という選択肢が、携帯電話を見つけているなら、の先にきている。
「投稿情報」と「携帯電話」という情報があれば、普通は「携帯電話」で「投稿情報」を確認する、という順番を連想するだろう。
それが、そうではなく、投稿情報が先にきている。
これはつまり、携帯電話より先に投稿情報を確認できる可能性がある。
それはどこか。
そう、部屋のパソコンだ。
そして私はレナの質素な部屋で、デスクトップ型のパソコンを見つけた。
これを調べるには時間がかかりそうだが、調べるか、と問われる。
貴重な手がかりが得られるかもしれない。投稿情報とか。
私の行動は決まっていた。私は、パソコンを起動させた。
次回、パソコンから姉レナの投稿情報は閲覧できるのか。
■登場人物
西宮ハナ 主人公。双子の妹。無職。
西宮レナ 主人公の双子の姉。ヤマト感染研究所勤務。金曜日の夜から帰宅していない。
ザラザラした低い声の男 ヤマト感染研究所の留守番電話の音声。研究所員と思われる。
■作品情報
作品名:ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇 「最期の日に彼女は」
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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