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2024年12月22日日曜日

Re:アランツァワールドガイド Vol.10 商業都市ナゴール(前編・後編) FT新聞 No.4351

おはようございます。
FT新聞編集長の水波です。

1月第1日曜に配信予定のローグライクハーフd66シナリオは商業都市ナゴールが舞台になります。
それに伴って、以前配信しましたアランツァワールドガイド『商業都市ナゴール』を再配信いたします。
初出では前編・後編に分かれていましたが今回はまとめて、更にイラストURLも再掲載いたします。

ぜひ冒険の舞台を想像して、楽しみにお待ちください!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■

カメル・グラント教授が商業都市ナゴールにたどり着くころ、季節は夏を迎えようとしていた。
春には桜の花が咲き乱れることで知られる桜森も、この季節には力づよい、緑の葉をつけた木々が茂っている。これが桜だと知らない者には、春の光景は想像もつかないだろう。
森を抜けた先に、大きな街が見える。
なだらかな丘陵に沿って、緩やかに広がる街。
港には大小さまざまな船が停泊している。
商業都市ナゴールへと、やってきたのだ。


◆登場人物。
カメル・グラント教授……オレニアックス剣術学校で生物学を教える。心優しく誠実なラクダ人。
ソーニャ・ドルチ……アランツァ世界唯一の「全国展開する宿屋」〈剣竜亭〉の総支配人。
「骨董品王」ダビデ……骨董品の売買で成り上がった古物商。


◆活気に満ちた商業都市。
ナゴールがこのアランツァ世界で最も盛んな経済地域である理由は、ふたつある。
ひとつはこの場所が広くなだらかで、他の都市と比べると安全な地域に属しているからである。
もうひとつは陸路と水路の交差点に位置しており、世界中からさまざまな交易品が集まること。
他の土地と比べると、人の顔もやや穏やかに感じられる。

商店街は品揃えも豊富で、活気に満ちている。
背の低いコビット(小人)たちが快活に走りまわって、商品を運び込んだり出ていったり。
街の中心部はかなり密な空間であるため、彼らのような小柄な種族は商売に有利なのだ。
小柄で、素早く、商売熱心。
ナゴールの経済の{ルビ:いしずえ}礎{/ルビ}となっている「みっつめの理由」を、カメルは見た気がした。


◆裏路地と骨董品街。
人が健全に流れる表通りから離れたカメルは、古い建物が目立つ「旧市街」へと足を踏み入れる。
さまざまな骨董品を扱う店が立ち並ぶ、骨董品街である。
新市街で取引される商品は新しいが、ここにあるものは古く、そしてしばしば珍しい。
黒エルフや豚耳トロルのような種族が取り仕切っていることが多いが、もっとも有名なのは「骨董品王」ダビデであろう。
どうやって造るのか、骨でできた馬〈骨馬〉を扱うことで有名だ。
このクリーチャーは【アンデッド】だが従順な【騎乗生物】で、持ち主に逆らうことがない。

骨董品街を堪能した後に、カメルは表通りに戻る。
今晩の宿である〈剣竜亭〉で、人と会うためである。

 【イラスト】
 ダビデと骨馬 - 『かえる沼を抜けて』より by 中山将平
 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/BoneHorse.jpg

 古物商の黒エルフ・マルガ - 『かえる沼を抜けて』より by 中山将平
 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/BlackElf.jpg

 古物商の豚耳トロル・ボーバ - 『かえる沼を抜けて』より by 中山将平
 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/PigEarTroll.jpg


◆〈剣竜亭〉とソーニャ。
{斜体}
店員は女性が8割。酒の出ない宿屋。ここより健康的な雰囲気の宿屋など、見たことがない。
若干18歳の女性主人、ソーニャ・ドルチは、初めての客である君に挨拶に来た。
人に距離を感じさせない、独特の笑顔。細くてすらりとした、筋肉質の腕。黒の衣装とかわいらしい金のピアス。赤いビロードのスカーフが、笑うたびにひらひらと動く。
ソーニャ・ドルチ。
英雄サウルの娘。
大陸中央にある商業都市ナゴールで、その名を知らぬ者はない。
明るく物怖じしない性格。非常に社交的。記憶力がよく、人間を愛している。
誰でも気分よく使える宿を演出した、現在の剣竜亭の考案者。
清潔な雰囲気。暴力の匂いのしない店員。冒険者どうしが気軽に交流できる間取りや、掲示板システム。それらすべてをたった1人で考案し、ナゴールでもっとも活気ある宿屋を作り出した。
ここは剣竜亭。酒も賭博も麻薬もなく、色を売る男女もいない、世界でたった一つの宿屋。
剣竜亭の一夜がはじまる……。
{/斜体}
  ──『ガリィ・ザ・ダークの冒険』より

カメルは教え子が書いた冒険小説の一節を思い出しながら、〈剣竜亭〉の扉を開く。
「いらっしゃいませ!」
小説の冒頭と同じように、はつらつとした声で店員が迎えてくれる。
カメルは店員の1人に近づいて、用件を告げる。
「ソーニャさんと待ち合わせている、カメル・グラントです」
店員はにこやかにうなずくと、カメルを2階へと案内する。


◆ソーニャとカメル。
「おじさま! また会えましたわね!」
ソーニャ・ドルチは満面の笑みを浮かべながら、ほっそりとした長い腕を広げて歓迎の意を示す。
ほがらかな笑い声に心が安らぐ思いをしながら、カメルはハグと{ルビ:ほほ}頬{/ルビ}へのキスを交わす。
「大きくなったね。お父さんは元気にしているかな」
ソーニャはうなずいて、子どものように笑う。
「ええ、もうそれはそれは。猟に釣りにと繰り出して、毎日のように何か奪ってくるわ」
ソーニャの父親であるサウル・ドルチは冒険者で、一時期はカメルの教え子だったのだ。
カメルはソーニャに促されるままに、ビロードの敷かれた赤いソファに腰かける。
「君が作った〈剣竜亭〉は、素晴らしいね。カラメール市でも泊まったが……安心して眠れるというのは旅人にとって、何よりの財産だと感じたよ」
ソーニャはくすぐったそうにほほ笑む。
「うまくいっているのは、店員たちのおかげです。若いうちから〈剣竜亭〉で働いてくれているから、とても呼吸が合うの。なにより大切な、私の仲間だわ」
ソーニャは定期的に孤児院を訪れる。そして、身寄りのない子どもから、見込みのある者を引き取って「店員」として雇い入れる。
子どもたちは〈剣竜亭〉で働くか、そのまま修道院で大人になるかを、自分の意思で決める。
たった10歳でも大人扱いなのだ……世界は待ってくれない。
慈善事業ではない……「店員」になればいい暮らしはできるが、この店を保つための労働は過酷である。
いいことかどうかは分からない。

ただ、子どもたちの多くが、この環境を受け入れて育ち、一人前になった後も〈剣竜亭〉に残り、店長として各都市に散っていく。
〈剣竜亭〉の土台となっているのはソーニャがもつ、子どもが将来どう育つかを見極める力。
そして、愛情なのだ。
最初の子どもたちが大人になり、色々な街に散っていって以来、ソーニャは1年の半分近くを旅に費やし、世界中にある〈剣竜亭〉で働く養子たちのケアをするようになった。

ソーニャとカメルの歓談は続き、カメルはナゴール周辺の知識を仕入れていく。

 【イラスト】
 剣竜亭 - 『かえる沼を抜けて』より by 中山将平
 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/Swords&Dragons.jpg


◆桜森と桜谷。
商業都市ナゴールの周辺には桜森があり、春には美しい桜が咲き乱れる。
この森には樹の精〈ドライアド〉をはじめ、超自然的なクリーチャーが住んでいると言われる。
そのため、街のそばだからといって、街道をうかつに離れるのは危険だ。
その昔、ディラットの名で知られる魔法使いが造った大きな地下迷宮があって、冒険者たちが訪れていたという(※)。

桜森の片隅には、桜谷と呼ばれる小さな谷がある。
そこに住む〈ジグリ・ザグリ〉と呼ばれる種族は、〈悪魔の実〉と呼ばれる危険な動く植物の子孫である。
にも関わらず、彼らは人間ら【善の種族】を愛し、機会を求めては友だちになろうとするのだという(※※)。

 【イラスト】
 〈ジグリ・ザグリ〉 by Huargo
 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/Zigli-Zagli.jpg


◆かえる沼。
桜森の北側にはかえる沼の名前で知られる、湿地帯が広がっている。
ここにはかつて、かえる人と呼ばれる【少数種族】が住み着いていた。
そこに〈ドラゴン〉が飛来して、彼らは散り散りにされてしまった。
ナゴールから桜森を経てかえる沼を抜ける交易ルートは、〈ドラゴン〉がこの湿地帯を占拠して以来、長らく閉ざされていた。
最近になってこのルートが再び開拓されて、がっぽり稼いだ交易商人が現れたらしい。
冒険者でもあるこの人物はかえる人の王から「フロッグ卿」の名前をもらい、叙爵までしたという(※※※)。
この地の冒険は危険だが、見返りを求めて挑む者も多い(※※※※)。


◆まとめ、あるいは補足。
 ナゴールはこの大陸で最も重要な流通の中心地である。治安は「ややいい」程度で、街の中でトラブルが起こることはあまりない。東西の流通のみならず、海運業も盛ん。商業に関わる冒険を見つけることは容易だろう。商人や船乗りにはコビット(小人)と呼ばれる、人間の半分ほどの身長の種族が多い。
 ナゴールには冒険者の宿として最も有名な「剣竜亭」の本店が存在。この宿を設立したのが本編に登場するドルチ家。ドルチ親子(冒険者サウル・ドルチとその娘ソーニャ)には人を惹きつける風貌と家柄があると言われている。
 サウルは中年期にあり、若い頃の社交性を失い、1人でいることを好むようになった(本編でカメルと会う約束をしていないのはそのため)。一方で娘のソーニャは人脈を広げて続けており、冒険者が有望であれば仲良くなろうとする。
 商業に関する話なら、この街ではダビデ家の存在が頭ひとつ抜けている。ナゴールで最も盛んな商売のひとつが骨董品売買で、これは古い時代の魔法の装備品を取り扱っている(その多くは「希少な装備品」と呼ばれる)。ダビデ家はナゴールにおけるこの商売の第一人者であり、今の時代では珍しい魔法の装備品をどこからか見つけては、市場で売り抜ける。
 この街は豊かで、スタンダードな冒険の舞台に向いている。東にはスウォードヘイル山脈の南端が、西には平原がある。北には桜森とかえる沼、南にはトルトゥガ湾があり、さまざまなタイプの冒険の舞台に適している。


※……『ディラットの危険な地下迷宮』は読者参加型のゲームブックで、それぞれの部屋を読者が作り、謎の「ルームマスター」(杉本=ヨハネ)が全体をまとめた作品。現在は絶版。

※※……〈ジグリ・ザグリ〉は桜谷に生息するクリーチャー。人間に特別な友情を感じる{ルビ:トレント}動く植物{/ルビ}で、カボチャ状の大きな頭部とギザギザの牙、たくさんの触手を持つ。

※※※……交易商人がかえる沼を探索するゲームブックは『かえる沼を抜けて』。

※※※※……かえる沼を舞台とした冒険は『かえる沼を抜けて』の他に、『ゲームブック短編集 ハンテッド・ガーデンハート』内に収録の「かえる沼の龍神」がある。


↓「アランツァ:ラドリド大陸地図」by 中山将平
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/MAPofARANCIA.png


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