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2021年5月23日日曜日

T&T読者参加企画『カザン帝国辺境開拓記』 エピローグ FT新聞 No.3042

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T&T読者参加企画『カザン帝国辺境開拓記』 エピローグ

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from 水波流
トンネルズ&トロールズを使った読者参加企画をやってみよう。
なぜそう思ったかは、今となっては覚えていません。
しかしこの2年半で、参加者の皆さんのキャラクターは、GMである僕自身にもとても愛着のあるものになりました。
このキャンペーンでは本家T&Tの設定と、それと同じくらい多くのオリジナルの設定を使いました。
T&Tに詳しい方にはおやこれは、と思ってもらえていれば嬉しいですが、
どれが正史でどれがオリジナルかは気にせずに、どうか我々だけのカザン帝国を楽しんで貰えたなら幸いです。

また今回のエピローグには、これまで以上に各プレイヤーの皆さんからご投稿頂いたエピソードを多く採用させて頂きました。
文章を私がアレンジしたものもありますが、ほとんどそのまま採用させて頂いたものもあります。(特にエミリアのエピソードなどはご本人ともやり取りしつつ仕上げさせて頂きました)
最後まで本当に皆さんと一緒につくりあげた読者参加ゲームだったと実感しております。
ありがとうございました。

せっかくですので、最後に我々のカザン帝国年表を掲載いたします。
T&T完全版BOOK3に掲載されている年表から主要な出来事を抜粋したものに、『カザン帝国辺境開拓記』のオリジナル要素を記載したものになります。
なおこちらの年表については、ヴェルサリウス27世さんに寄稿頂いたものを大いに参考にさせて頂きました。この場を借りて御礼を申し上げます。
願わくば、皆さんがT&Tを遊ぶ際にお使い頂ければ、GMとしてこの上なく嬉しく思います。

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スラムグリオン魔法学校所蔵
『カザン帝国暦』より抜粋

 *BK=Before Khazan
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【100000BK】 トロール、唯一の知的生命体として大いに栄える。
【99000BK】 ドラゴンに追われたエルフがトロールワールドに入ってくる。竜の大魔術師シャンインシン=シンインシャンがドラゴン大陸ルールフを創造する。
【97000BK】 《トロール=ドラゴン戦争》勃発。
【92000BK】 《エルフ=トロール戦争》勃発。
【57000BK】 エルフ最古の大魔術師ニン=ドゥルジエル=ニンにより、最後のトロール都市が壊滅する。
【50000BK】 《魔術師戦争》始まる。
【46020BK】 古代帝国ティグリアの覇王ガイウス、麾下にそれぞれ特異な力を持つ近衛騎士を5人従え、太古の街道《グレート・ロード》一帯の近隣諸国を平定し、《虎の王》と称される。
【46010BK】 覇王ガイウス、宮廷魔術師ルーポの進言に従い、天まで届かせるために自らの国の中央に巨大な塔を建造する。王と宮廷魔術師を含めた《七英雄》が国を挙げて天に向けて派遣される。民衆は心待ちにするもついに王たちは帰還せず。
【46000BK】 国は乱れ、人々が王の存在を忘れかけた頃、塔から不気味な悪鬼の軍勢が現れる。《狂える魔法使い》ルーポがエルフを魔法で変異させた、歪んだ存在ウルクである。
【45900BK】 白の大魔術師ニン=ドゥルジエル=ニンがミラードールの大軍を率い、激しい戦いの末に悪鬼の軍勢を打ち負かし、この世界から追放する。古代帝国の塔、封印される。
【35000BK】 魔術師グリッスルグリムがドワーフをトロールワールドに呼び寄せる。
【15000BK】 魔術師カルバン・アダムトが人間をトロールワールドに呼び寄せる。
【12000BK】 竜の大魔術師シャンインシン=シンインシャンがドラゴン大陸の東方に逃れ《魔術師戦争》から撤退する。
【8500BK】 グリッスルグリムがニン=ドゥルジエル=ニンをトロールワールドから追放する。
【5244BK】 《魔術師戦争》が遂に終結する。この時、世界に残った《神の如き力を持つ魔術師》は829人と言われる。
【3000BK】 邪悪なる不死者《不死身のコシチェイ》が暴虐の限りを尽くす。シャンキナルの森を治めるエルフの長老たちでさえ、コシチェイの前には為す術もなかった。
【2500BK】 時のエルフ王、偉大なる英雄ベリエンベールが西方エルフの従者とともに、大冒険の末についにコシチェイの秘密を突き止める。ベリエンベール王は不死者の魂をシャンキナルの森の守り神、《聖なる鳥》七頭神セマルグルに捧げる。セマルグルはその魂を7つに分けて森に封印し、自らも眠りにつく。
【1233BK】 《ドワーフ=エルフ戦争》勃発。
【1104BK】 太古の故郷《ホーラ・ルー・ヤー》よりこの地に降り立った《古き森》の主たちの子孫として、エルフの魔術師カザン=オータリエル=カザン生まれる。
【500BK】 へローム王国時代。《神の如き力を持つ魔術師》の1人、ダルゴンが《大断崖》付近に大図書館を設立する。更に《四つの闇の道》と呼ばれる迷宮をも作り上げ、数多くの遺跡荒らしがその迷宮に挑む。
【313BK】 炎の大地と称されるイーグル大陸ゾルで、もっとも偉大な人間の魔術師カーラ・カーンが生まれる。
【150BK】 エルフ王ベリエンベールと、人間の王《ウルク殺し》ソールの連合軍がナーガ連邦に攻め入って敗退する。
【114BK】 カザンとカーラ・カーンの魔術師対決。カザンは彼を弟子にする。
【 0 】 魔術師カザンが都市国家へロームの帝位に就任し、カザン帝国とカザン暦が始まる。
【200】 ユランタウと呼ばれる丘に蛇たちの王である邪悪な黒竜が巣食う。黒竜はたびたび《大断崖》を越えて北の大都市タリーマークを襲い、人々をさらっては貪り食らう。その圧倒的な力にはカザン帝国の騎士団でさえ歯が立たず、人々は黒竜を《カザンの悪夢》と呼び恐れた。
【250】 大魔術師カザン、《カザンの悪夢》の討伐に向かうも数度となく失敗し、親友であるシャンキナルの森の偉大なるエルフ王、ベリエンベールに助力を請う。
【255】 エルフ王ベリエンベール、《聖地シャンス》に伝わる三種の聖遺物を手に、配下の西方エルフの精鋭を率い、カザン帝国の魔術師たちともに黒竜討伐に遠征する。黒竜はベリエンベール王と一騎打ちとなり、三日三晩にわたる戦いの末に6つの肉片にされ退治される。黒竜の死骸は、丘の麓に建立された修道院に祀られ、以後この地は《竜塚》と呼ばれるようになる。
【595】 ウルクの呪術師ロトラー、北方の偉大な魔術師ハル=エニオン=ハルの娘、ラ=フリンジャ=ラ王女を誘拐する。
【597】 ロトラーの娘として後に《死の女神》と称されるレロトラーが生まれる。
【640】 レロトラー、エルフに宣戦布告。ドラゴン大陸の最果てで力を蓄え、仲間を増やす。
【654】 人とモンスターが共に暮らす世界を望んだカーラ・カーンはカザンと袂を分かち、レロトラーと手を結ぶ。
【661】 エルフの女戦士エレーラ、その身を大山猫の姿に変え、レロトラーに反旗を翻す。
【664】 レロトラーとカーラ・カーンによる《猫狩り》により、捕らえられたエレーラは服従を強いられ、獣の姿から二度と戻れぬ呪いをかけられる。
【666】 大魔術師カザンが降伏し、レロトラーとカーラ・カーンがカザン帝国の統治を開始する。カザンは1年に1日しか現れない島の墓所に追放される。
【780】 正気を失ったエレーラが獣人のための新たな宗教を広め始める。以後、エレーラは神の如き力を自在に操る存在《神獣》として獣人たちに崇められる。ドラゴン大陸全土から数々の獣人が馳せ参じ、《大断崖》山間の《精霊の祭壇》は獣人たちの聖地として大いに栄える。
【1049】 死の女神レロトラーに対抗する反乱勢力として《偉大なる熊神の教団》ことベアカルトが誕生する。
【1066】 《カザンの戦士たち》がカザンを目覚めさせる。
【1085】 レロトラーがカザンを侍祭テレヴォールの小迷宮に封印する。
【1100】 《神の如き力を持つ魔術師》の1人、黒のモンゴーが太古の街道《グレート・ロード》付近に研究室を設け、活発に活動する。《黒の使徒》として、漆黒の手のイーゼルヴァン、黒檀のメメコレオウスをはじめ優秀な弟子を多数排出する。
【1101】 第3代オーバーキル城城主、屍人使いマリオナルシスがオーバーキル城の戦いでカザン帝国の《死の軍団》の暗殺部隊に敗北し、西方エルフの手によって封印される。
【1195】 黒のモンゴー、赤の魔術師より塔を購入し移り住む。塔の地下調査のため《傭兵剣士》を雇う。
【1199】 女冒険者フレイミング・チェリーがストームガルドのローズの力を借りてテレヴォールを殺し、カザンを解放する。

【1200】(現在)
・レックス砦にて辺境開拓軍が編成され、各地から傭兵が集まる。
・《大沼地》のゴブリン山賊団によって、ナルン村の青カブトムシ寺院より祭器が盗まれる。
・《偉大なる熊神の教団》の活動が活発化する。
・《不死身のコシチェイ》こと屍人使いマリオナルシスの封印が解かれ、弟子である屍人使いエレファバ、エルファニ、エリファスたちが屍者の帝国を再興させるべく暗躍を始める。
・《カザンの悪夢》ことユランタウの黒竜の封印が解かれる。
・古代帝国ティグリアの塔が発見され、《七英雄》が復活を遂げる。
・《大断崖》風の峡谷にて、魔術師ダルゴンの大図書館が発見される。


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エピローグ

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『今回ばかりは本当に死ぬかと思った』
 私はレックス砦の机の引出しから日記帳を取り出すと、数日前の冒険を振り返りながらそう書き加えた。
 砦の窓から中庭を眺めると、慌ただしく行き来する砦の傭兵たちの姿が見受けられた。カザン市へ帰還するための撤収作業が行われているのだ。私もそろそろ荷物をまとめなくてはならない。
 私はため息を付くと日記帳を取り上げ、背負い袋に仕舞い込んだ。
 そしてそっと目を閉じ、既にこの砦から離れていった仲間たちの事を思い浮かべた。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

 レックス砦の城門前に旅支度の一団が立ち尽くし、名残惜しそうに砦を振り返っていた。
 東洋風の修行着を身に纏った青年が、棍棒を2本腰から下げた男と話している。
「へーざぶろーさんは、本当にカザン市へは行かれないんですか」
「ああ、故郷に戻るにはちょうど潮時かなと思ってな」
 へーざぶろーはそう答えながら、腰のトゲ棍棒をジャラジャラと弄んだ。
「……お前こそ、カンダック師に弟子入り志願したんだって?」
「押忍。古代帝国の塔でカンダック師が使われた《魔法破り》、あれこそ強大な魔を滅す空手の道への光明と感じたのです……山に籠らずとも、修行の道はどこにでも転がっている。いい世界です、ここは!」
 その横では新人の男女が退屈そうな様子で荷物を直していた。
「アァ〜、ふかふかなベッドで寝たいぜ。火蜥蜴にはこってり焼かれそうになるしワイバーンには掻き乱されるしで、とんだ冒険だったなァ……」
「やれやれ、あたしゃ引退して玉の輿に乗るつもりだったんだがねぇ。金持ちのいい男はいまだ現れず……か」
 ガーランドとジェニファーは互いに不景気そうな顔を見合わせた。しばらくはまた傭兵か遺跡探索でもして稼ぐのも悪くない。
「ヘルト殿! 貴殿からお預かりしたシュバイツァーサーベル、確かにお返しもうした! 拙者を守ってくれたこの剣と貴殿に、感謝申し上げますぞ!」
 最後に城門から姿を表した禿頭の男は、大きな声とともに礼をしてから、一行の方に向き直った。
「ふぉふぉふぉ。皆様も素晴らしい御活躍でしたぞ。いざ、さらば。しかしまたいつの日かお会いしましょうぞ!」

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
へーざぶろー(緒方直人)
 故郷のオーシオ村に帰った彼を、弟たちが手荒い歓迎で出迎える。
 へーしろー「おっ、英雄さまのご帰還だぞ!」
 へーごろー「よく生きて帰ってきやがったなコノヤロー!」
 へーろくろー「いつくたばるかとずっと待ってたんだぞ!」
 へーしちろー「チクショー、第二部こそは!」
 へーはちろー「絶対活躍してやるからなー!」
 ボコッ! バキッ! ドカボカベシャン! ………(終劇)

ナカダンジョウ・ケン(シュウ友生)
 強大な魔と対する為には、魔力を破ると同時に魔獣の反射神経を超える速度を身につけねばならない。
 魔力を感じ、それを破る事に特化しての魔法習得を決意し、カンダックに師事を乞う。魔法破りと空手の融合という、前代未聞の荒業を目指して。
 それらを会得した暁には、彼は自らの空手をこう名付けるだろう。<魔破(マッハ)空手>と!

ガーランド
 離ればなれになってしまった弟ケインを探すため、また旅を続ける事に。
 いつか一緒に冒険する事を夢見て、彼は弟を探し続けている。

ジェニファー
 商家の娘として地元に戻ることもできたが、結局遺跡探索を続けている。
 後に、念願の玉の輿にのったとかのらなかったとか。

バルベル
 ヘルトから譲り受けた「シュバイツァーサーベル」を返却し、勝利に沸く峡谷の山猫亭の仲間たちに微笑んで、静かに立ち去る。
 故郷の剣竜亭へ帰還し、そこでまた別な冒険を繰り広げたと言われている。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

 森の外れに位置する小さな村は、ちょうど昼どきを過ぎ、畑仕事から戻ってくる男たちの喧騒と、女たちが煮炊きをする生活音に包まれていた。
 村で唯一の雑貨店の店頭で、暇そうにあくびをしながら、若い店員が手紙に目を通していた。
「しっかし、アイツがまさかガガック兵長の元に残るとはねえ」
 若者は小さく笑いながら、かつての仲間である赤毛の盗賊の事を思い出していた。
 そこへ大きな物音を立てながら扉を押し開け、青年が駆け込んできた。
「あ、兄貴、大変だ!」
 青年は血相を変えて言葉を続ける。
「西方エルフの森林警備隊から苦情が来てる!」
「ガキどもめ。また丸々獣に夢中で境界を踏み越えやがったな」
 ニンツはカウンター越しにカーモネーギーに答えると、エプロンを外して釘にかけながら独りごちた。
「仕方ねえ。ギルサリオンの野郎に頭を下げに行くとするか……」
 畳んだ手紙を懐に入れ、すれ違いざまにカーモネーギーの肩を軽く叩いた。
「行くぞ、カーモネーギー」
「はい、兄貴!」

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
指導者のニンツ(忍者福島)
 村の復興に尽力した事で村長に推されるが、柄でもないと断る。
 カーモネーギーの雑貨屋を手伝いつつ、自警団の団長を務めている。
 西方エルフのギルサリオン隊長とは何かとやり合いつつも、仲はまんざら悪くもなさそうである。

カーモネーギー(鏡 有規)
 村で雑貨屋を営み、平和に暮らしている。
 ニンツに言われると断りきれず、自警団の人手が足りないときには駆り出されるらしい。
 最近子供が生まれたようだ。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

『……マロウズ、元気にしているか。生まれ故郷の森へ帰ったと聞いていたのに、またどこかに旅に出たそうじゃないか。ギルサリオン隊長が遺跡の浄化が一人で大変だとこぼしていたぞ』
 手紙を読みながら、エルフの青年は小さく苦笑する。そんな彼の後ろから、物静かなエルフの女性が覗き込んだ。古傷の覗く右耳に長い髪が触れる。どうしたの、楽しそうじゃないとでも言うような表情で彼女は優しく微笑んでいた。
「ああ、古い友人からの手紙なんだ」
 マロウズはイアヴァスリルにそう声をかけると、手紙の続きに目を通した。
『……それとヘルトの姿を最近見かけないとニンツたちが心配していた。もし顔を合わせることがあれば、よろしく伝えてくれ』
「おい、マロウズ。どうする」
 暗い口を開ける遺跡を見据えながら、女剣士ゲルダが尋ねかけた。
「ああ、準備はできてる。行こう」
 マロウズは腰を上げると、手紙を畳んで懐に入れた。
 と、その時、一行の背後から繁みをかき分ける音と足音が聞こえた。ゲルダは素早く振り返ると、剣に手をかけ音もなく引き抜いた。イアヴァスリルはマロウズの傍に寄り添うと、そっと魔法の杖を構える。マロウズも低く構えたまま、油断のない目つきで藪を見据えた。
 足音が近づいてくる。やがて藪から人影が姿を表した。すると、腰の短剣を握る手がふっと緩み、マロウズの顔に笑みが浮かんだ。
「へえ、まさかこんな異郷の地で会うとはな」
「……」
「久々に共同戦線と行こうか、ヘルト」
 マロウズの言葉に、寡黙な戦士はにこりと微笑した。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
"片耳の"マロウズ(うぐい)
 生まれ故郷であるシャンキナルの都に帰郷するも、復興が落ち着いた頃に誰にも告げず旅に出る。
 はるか遠い炎の大地ゾルで、褐色の肌の女剣士と物静かなエルフの女術士を伴って、遺跡を探索する彼の姿を見たと言われている。

ヘルト(英霧生)
 かつての仲間リディアとともに各地で冒険を続けており、たまにニンツたちの村に顔を出すらしい。
 多くは語らない彼の話を聞くために、村の若者で酒場は満席になる。
 ある日、屍者の帝国との戦いで失った剣の新たな刀身を求め、炎の大地ゾルに渡ると言い残して姿を消した。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

「……こうしてワシらは見事、竜を倒し、屍者どもを滅ぼした英雄となったんじゃ」
 街道の宿場の片隅で、枯れ枝のような老人が槍を杖代わりに身振り手振りで大げさな語りをしていた。
「じゃが、引退してゆっくりすごそうと村に帰ったワシを待っておったのは、焼け落ちて離散した故郷の姿じゃった。さすがのワシもすっかり気落ちして、あとはお迎えを待つばかり……」
 聴衆の輪がぐっと話に引き込まれる。
「……そんなときに出会ったのが、本日紹介するこちら、緑皇ミドリ汁! 厳選された天然野草と有機薬草と脱法ハーブを秘伝のバランスで調合、毎日一包を水に溶かして飲めば、たちまちあふれる神秘の力! 通常価格で1月分金貨500枚のところ、今なら5日分の特別お試しセットを金貨10枚でお届け! ……っておーいみなの衆、どこへ行くんじゃ! 話はまだ終わっとらんぞー!」
 呆れ顔で離れていく人々を尻目に、ポル・ポタリアは含み笑いを隠そうともせずにメックリンガーの肩を叩いていた。
「やれやれ、また失敗か。うまくいかんのう」
 やがて気を取り直した老人は、先ほどまで二人で目を通していた戦友からの手紙に目をやった。
「にしてもあやつめ、意外に筆まめなところがあったんじゃのう……で。お主はこれからどうするんじゃ?」
「僕ぁね……これまで色々な【お仕事】やってきたけど、教師は未経験なんだよね。教え子たちに囲まれて河原を走るなんてすてきじゃなーい? それに昔から人を見る目には自信があったんだ」
 ポルはそういうと遠い目で遥か彼方を眺めやった。その目に不思議な、それでいて怪しげな光が宿っていた事にメックリンガーは最後まで気づくことはなかった。
 二人はカザン市への返事の手紙を宿場に預けると、軽く握手をして別れた。
 メックリンガーはポルの飄々とした後ろ姿を見送ると、背中の凝った装飾の魔法の杖を小突いて話しかけながら、歩き出した。
「こりゃダーヴィドよ、ちったぁ路銀稼ぎに協力せんか。早々にダルゴン師のもとに返されたくはなかろうて。老い先短いワシの亡き後、お主を託せる勇士を探しておるんじゃからの」
 後にエミリアの元へ届いた手紙にはこう記されていた。
『まぁそんなわけで、ワシの旅も、もうちっとだけ続くんじゃ』

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
ポル・ポタリア
 人知れず彼は姿を消した。その後彼の姿を見たものは誰もいない。
 十数年後「教室」という名の犯罪組織が確認される。構成員は「生徒」と呼ばれ、それぞれの素質に応じた活動を行い、各地に混乱をまき散らした。
 ……不思議なことに殺人はタブーとされていたようだ。

メックリンガー老(めくり たまえ)
 ポルと別れ、一人で放浪の旅に出た。きっと各地で槍を振り回しては、大騒ぎを巻き起こしているのだろう。
 後に、背中に魔法の杖を背負った口の減らない老人がドラゴン大陸の東の果てからユニコーン大陸に渡って大冒険を繰り広げているとの噂が流れた。

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 コースト市、スラムグリオン魔法学校の近くにある酒場で二人の男が酒を酌み交わしていた。テーブルの上には一通の手紙が広げてある。
「……噂には聞いていましたが、恐怖の街から戻っているとは思いませんでしたよ。それで、最近どうしていたんです?」
 穏やかな笑みを絶やさぬまま、片方の男が傍らに大剣を置いた男に語りかけた。
「ああ。戻ったはいいが、レックス砦ももう引き払われているし、また迷宮探索にでも出かけようかと思ってるんだ。万太郎たちと一緒に行くことも考えたんだけどな……お前さんの方はどうなんだ?」
 男は話を区切ると相手に水を向けた。
「私は宝石の街バモラ、フルロスガールの小屋、城塞都市ノールゲートを巡っていました。各地で手に入れた宝石や芸術の知識をまとめ、新たな本としてダルゴンの大図書館に寄贈する事ができればと思っているんです。今はちょうど、路銀を稼ぐため……そして素晴らしい宝飾品、財宝に触れるため、大図書館で手に入れた写本に書かれた情報をもとに遺跡探索に向かおうかと思っていたところです」
 ソーグの目に鋭い眼光が輝いた。
「詳しく話をしようじゃないか」
「ええ。いい話がありますよ」

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
ソーグ(ふろふき大根)
 故郷フォロン島のガル市に戻り、蔓延していたイカサマ賭博を一掃する。
 健全な賭博場を楽しむ傍ら、本人はまたカザン帝国に舞い戻っているらしい。
 いつか凶悪と名高い〈熊の迷宮〉に挑むため、仲間を探しているそうだ。

アンドレア
 芸術家(宝飾細工師)となるために、技術と審美眼を鍛える旅に出た。「魂の籠った本物」の作品を作ることを目的に過ごしているそうだ。
 ダルゴンの大図書館にも足繁く通い、知識を探求しており、いずれは図書館長の座を譲られるのではないかとも言われている。
 後年、或る魔術師と共作し「魂を込められる(封じる)」作品を作ったと噂される。

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 〈大断崖〉を越えた北の大都市タリーマークの宿屋。様々な国々の旅人たちがごった返す中でも、ひときわ奇妙な風体の三人組がテーブルについていた。東洋風の装束の目付きの鋭い男に、左腕がねじれたグレムリンの腕のドワーフ、そして最後の一人はカエル人の戦士ときている。人々は関わり合いはごめんとばかりに遠巻きにしつつも、目立つ三人組にちらちらと視線を送っていた。
「……で、まだアンタの左腕を治せる癒し手は見つからないってわけか」
 東洋風の装束の男が酒の小瓶を片手に口を開いた。問われたドワーフは不機嫌そうに頷く。その横ではカエル人がゲロゲロと面白そうに喉を鳴らしていた。
「オレは傭兵として稼げれば文句は無いゾ」
「わかっとるわ。じゃから相応の報酬を払っとるじゃろが」
 クリフは憮然とした表情でサマにやり返すと、デュラルの方に目をやり、話題を変えた。
「お前さんの方はどうしとるんじゃ。確かガガック兵長と共に、カザン市に向かったと聞いておったが……」
 クリフはデュラルの胸元に鈍く光る、見慣れぬ記章に目をやりながら尋ねかけた。
「ああ、兵長の口利きで宰相カーラ・カーン殿に謁見が叶ってね。レックス砦での功績を認めて頂き、レロトラー陛下直属の密偵に召し抱えてもらったというわけさ」
 〈エージェント・オブ・デス〉……泣く子も黙るカザン帝国の親衛隊である。クリフはその悪名を思い出し、背筋を震わせた。そう言えば、テーブルの上に広げられている手紙の差出し主である赤毛の盗賊も、いまはガガック兵長の元で密偵を務めているというが……。
「意外ダナ。お前が宮仕えを選ぶとはネ」
 サマが訝しげな様子を隠そうともせずに口にした。
「なぁに、熊野郎どもや屍人使いの連中とケリをつけるには、これまで以上の力が必要になるしな。それにカザン帝国は寛大だ。力さえあれば、誰でも平等に道は開ける」
 デュラルの明快な答えに、クリフとサマは顔を見合わせた。
「それでだ。旧交を温めるついでに、ひとつお前らに仕事の依頼があるんだがね……」
 デュラルはテーブルの上に身を乗り出して話し始めた。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
デュラル・アフサラール(ジャラル・アフサラール)
 マリオナルシスの隠し財宝から、強い魔力を持つ『ロキのブーツ』を入手したのを天命として、カザン帝国〈エージェント・オブ・デス〉に名乗りを上げる。
 レロトラー陛下より勅命を受け、カザン帝国のために数々のミッションを成し遂げ、後に"魔眼"と呼ばれる帝国の密偵になったとか、ならなかったとか。

クリフ(中山将平)
 グレムリンの左手を治せる癒し手を求めて、北の大都市タリーマークを拠点に探索を続けている。
 噂では《荒れ野》に向かって帰ってこなかったとも、両腕ともグレムリンの腕になった姿を見たとも言われている。

サマ
 傭兵として、クリフと共にタリーマークを拠点に探索を続けている。
 長い時を経て、カエル人の中でも名の通った戦士として、後々まで語り継がれたという。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

 念願の我が家に帰って来て、はや3年。スパイディは妻と二人の子どもと共に平和な日々を過ごしていた。
 彼の妻エレインは意識を取り戻したものの、〈偉大なる熊神の教団〉で過ごした記憶は全て失っていた。
 今も教団の脅威は存在する。それは友人としてときおり家に尋ねてくる密偵がもたらす断片的な情報からも明らかであった。
「そらよ。赤毛の嬢ちゃんからの定期連絡だ」
 イェスタフがエミリアからの手紙を手渡してくれる。
「ありがとうございます。……ナミ、ハル。食後のお茶をお出ししなさい」
「はーい、おとうさん」
 家族との時間を何よりも大事に思う彼は、復讐などは愚かなことと考えているのだった。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

スパイディ
 妻を取り戻し、すっぱりと冒険から足を洗い、家族で平和に暮らしている。
 しかし教団の影をまた感じる事が多くなり、遠くの自身の故郷に移り住むことも考えている。
 果たして彼らに安住の地は見つかるのであろうか。

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

「またこの塔を登るのか」
 万太郎とヴェルサリウス27世は、かつて冒険を繰り広げた古代帝国ティグリアの塔を見上げていた。
 あれから数年。ようやくドワーフの職人たちによって、第五階層へ向かう崩れた大階段の修復が終わったという報告が入ったのだ。
「万太郎隊長。準備は整ってますよ」
 塔の入口から姿を表したドワーフの青年は、数年で随分精悍な風貌になった様子だ。
「兄さん、忘れ物よ」
 ヤスヒロンの後ろから、幼さの残るエルフの娘がそっと声をかけた。
「お、おう。すまん、ディニエル」
 その様子を見守りながら、万太郎は顔をほころばせた。
「それじゃあ会えたんだな、ヤスヒロン」
 足早に二人に近づくと、万太郎はヤスヒロンの肩を叩いた。彼は照れたように頬を緩ませ、生き別れていた義理の妹を紹介した。
 と、そこに咳払いの音が聞こえた。
「私に声をかけないとは水くさいではないかね、万太郎くん」
 聞き覚えのある声を耳にして振り返ると、いつの間にかヴェルサリウスの横に二人の男女が控えていた。
「カンダック師、クリスティも」
「ヴェルサリウスくんが呼んでくれなければ、せっかくの上階を見損ねるところだったよ」
「あーあ。ウチは正直、もう怖い目には会いとうないんやけどなぁ」
 どうやらヴェルサリウスが探索の仲間として雇ってくれたらしい。当の本人は淡々と荷物をまとめると、ひょいと立ち上がった。
「さて、行くゾ」
《はい、我があるじ》
 そして彼らの後ろには二体のドールが付き従っている。
「我々はようやく登り始めたばかりだからナ。このはてしなく遠い塔の階段を……」

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無敵の万太郎(岡和田晃)
 ドラゴン大陸の各地で冒険を続けながら、古代帝国の塔への挑戦を続けている。
 いつしか転移装置や時間操作、転生魔法などの強大な力を得て、生涯を賭してこの塔に関わり続けることを誓ったとされる。
 彼の挑戦がその後どうなったか、知るものはいない。

ヴェルサリウス27世(ヴェルサリウス27世)
 ドワーフ職人の一団により階段が修復された後、ハンター・ドールと雇い人のカンダック、クリスティを連れて再び塔に戻ったとされる。
 その後、幾度となく探索に向かう彼の姿が目撃されるが、晩年にはその消息はようとして知られぬままであったという。

ヤスヒロン(Miriam@orc_lord)
 旅路の果てに生き別れの義妹ディニエルと再開する。
 やがて冒険で貯めた資金を元手に、探索に挑む探検家向けの店をカザン市で開き、腰を落ち着けたらしい。新米に厳しい頑固親父として引退後も後進の指導に当たっている。
 冒険家仲間の居場所として、元レックス砦の戦士たちもよく訪れるようだ。

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 伝書鳩が旧友の消息を知らせる手紙を私の部屋に届けてくれる。
 私はかつての仲間たちの事に思いを馳せた。
 最近ではすっかり返事がなくなってしまった連中だが、どこでどうしているのだろうか……。

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《冬の嶺の炎》バラク=ヘルムハート
 流行り病の後遺症でしばらく静養していたが、また戦いを求めてどこかへ姿を消した。
 つい先日カザンの闘技場で異例の10人抜きをした赤毛の戦士のサーガを吟遊詩人が歌っているのを耳にしたが、それが彼のことかはわからずじまいだった。

シャオリン
 思うところがあったのかソナン・イエに帰ったようだ。
 木製人形の「睡蓮」が、レックス砦の跡地に残されていたらしい。

ゲディス
 ガガック兵長の元で、傭兵として力を奮っている。
 最近では後輩たちが増え、頼もしい先輩として雄叫びを上げているらしい。 

イールギット
 祖父母と両親を食わせるため、ガガック兵長の元で傭兵として出稼ぎを続ける。
 一攫千金が成った暁には除隊したいと思いつつ、機会を伺っている。

アクロス
 スラムグリオン魔法学校で司書として働き始める。
 カンダック師から無理難題を言い付かっては苦労を重ねているようだ。

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 木漏れ日が差し込む森の広場で、赤毛の娘は手に持ったシャベルを使って懸命に穴を掘り続けていた。
「そもそも、知り合いじゃないし……」
 エミリアは少し息を切らしながら喘ぐように口にする。
「それに、私を殺そうとした相手を弔う義理なんて、本当はないんだけどさ……」
 やがて穴を掘り終えた彼女はシャベルを脇に置くと、額の汗を拭い、軽く息をついた。
「レックス砦を後にした時、たぶん私は戦いの中で死ぬんだろうなと思ってた。実際にそうなったとしても、そんなに悔いはなかったんじゃないかな。最初からその覚悟はできていたから」
 誰に言うともなしにそこまで呟くと、彼女はまるで興味がないかのように小首を傾げながら少しの間だけ自分の髪をいじり、それから再び墓穴の方を見て言葉を続ける。
「でもあんたの《死の九番》の魔法を喰らった時、ほんの一瞬だけど、自分の全てが消えて無くなるような感じがして凄く怖かった。私がこの世界にいたって痕跡は、砦の中に残してきたはずなのに、それなのに怖くて仕方がなかった。あの戦いで、皆の中で本当に死にかけたのは私一人だけだったから、ちょっぴりだけ分かるんだ。自分自身がいなくなってしまう事が怖かった、あんたの気持ちがさ」
 森は陽の光に照らされ、静寂を守っている。
 エミリアは再び髪をいじると、ふぅと息をついた。そしてバックパックの中から真紅のローブの残骸と一冊の書物を取り出すとボロボロの布地で丁寧に包み込んでから、それを静かに穴の底に置く。
「この世に一冊だけの、替えがきかない私だけの宝物だ。栞を挟んだ所から、私の子供の頃の夢とか、結構時間かけて書いた詩とか、お菓子の作り方とか、他人が見たらつまらない事がいろいろ書いてある。それを読んだら、あんたも一つぐらいはやってみたい事が見つかるんじゃないかと思ったんだ。他人に迷惑かけたりしない自分なりの人生の楽しみ方がさ。ただ誰にも見せたりはするんじゃないぞ」
 そこで一旦言葉を切ると、エミリアは左手の指にはめた煌く指輪を外し、それから穴の中に片手を伸ばして、折り畳んだ包みの中に指輪を無理矢理ねじ込んだ。
「この指輪は返しておくよ」
 エミリアは側に置いたシャベルを手に取ると、自分が掘った穴を埋め直す作業を始める。
 やがて遺品の埋葬を済ませると、墓標代わりに近くに転がっていた大きな石を置き、その表面に習い立てのエルフのルーン文字を刻む。エミリア自身は『私はあなたの事を決して忘れたりはしない』と書いたつもりだったが、その文法はことごとく間違っており、実際には『覚えた、そっちは私』としか読みようがない稚拙な一節だった。
 しかし、たとえ意味がつながらない言葉でも、自分が何をしようとしたのか、その誠意ぐらいは相手に伝わるだろうと彼女は思った。
 次に持ってきた小袋から花の種を取り出し、それを墓標の手前に埋めると、水筒に入れた水を半分だけ地面に撒く。
「こんな辺鄙な所まで、定期的に墓参りに来れるほど私は暇じゃないからな。上手い具合に花が咲いたら、自分で管理しろよ。それから弔ってやったんだから、私の夢の中に出てきたりはするな。……それじゃあな」
 立ち上がったエミリアは、片手を上げて別れの言葉を述べると森の空き地を後にした。
 彼女がその場所を振り返る事はなかった。

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エミリア
 屍者の帝国との戦いが終結した後、その功績にふさわしい報酬を手にして新たな人生を送るかと思いきや、今でもカザン帝国辺境開拓軍に身を置いている。
 正式に斥候の訓練を受けた彼女は、任務に赴いた仲間たちが無事に帰還を果たせるように、敵地の偵察や潜入などといった過酷な役目を進んで引き受けているようだ。

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カザン暦1200年ストームライトの月22日
カザン帝国辺境開拓軍
レックス砦所属傭兵
エミリア・イアハートここに記す


 本を閉じた。

 ここは当時、レックス砦と言われていた遺跡の近くの森の広場である。
 数百年が過ぎた今となってはそこに砦があった事など誰も信じぬような、穏やかな色とりどりの花が咲き乱れる場所になっていた。
 魔術師風のローブの男は小さな紅い実をつける背の高い巨木のうろから見出した、古びた書物の閉じた表紙を改めて眺めた。
 そこには『カザン帝国辺境開拓記 第一部』と飾り文字で記されていた。
「さて、この旅もようやく終わる……」
 森を見回しながら一息をついた。野鳥が数羽、紅い実をついばみに枝に止まる。
 静かな光景を眺めるともなく目をやっていた男の脳裏に、不意に衝撃が走った。
「いや待て……第一部?……第一部だと。つまり……」
 彼は苦虫を噛み潰したような顔を取らざるを得なかった。
 それはつまり、第二部以降も存在する可能性があるという事。
「ええい、忌々しい。……ダルゴン師にご報告せねば。ダルゴンの大図書館には完璧な蔵書が必要なのだ」
 男は苛立ちを隠せず、書物を背嚢に放り込むと荒々しく立ち上がった。
 せっかく自由の身を取り戻したというのに、もう愚か者呼ばわりは御免こうむる。小さく舌打ちをすると彼は足を踏み出した。

 そうして、私の探索の旅は再びはじまったのである。


『カザン帝国辺境開拓記』第一部
〜完〜



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