第3回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。
ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」リプレイです。
主人公ミナは、エルフ7姉妹の末妹。奴隷商人に売られた姉たちを探す旅を始めました。
旅の供は、禁断の、時を操る魔法の時計。
闇神オスクリードに見初められ、闇色の肌になってなお、目的を見失わない。
そんなミナの旅が、今、はじまります。
リプレイの文中では、「プレイヤー視点」と「キャラクター視点」をあまり区別せず、わざと混在させて書くのがいつものスタイルです。
あるときにはキャラクターの心情になりながら、あるときにはメタ視点から眺めつつ進めていきます。
【ミナ 体力点4/4 悪夢袋7/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>超スピードで限界突破。
<時もどしの回復時計>時間を戻してダメージをなかったことに。
●アタック01-6 堕落都市の闇エルフたち
チャマイから北に移動しながら、ボクは魔法の研究を続けた。
時の魔法には、悪夢を消費する。悪夢は、悪夢袋に貯めておくことができる。
原理はよくわからないけれど、悪夢をエネルギーとして貯蔵できる袋を、ボクは持っている。
悪夢には困らなかった。
小さい頃にトレントに押しつぶされた家。ならず者たちに襲撃された記憶。還らぬ父。無惨に殺された母。
自分が師事していた教授から禁断の秘術をかすめ取り、闇の神様を信仰し、そして今、あてもなくさまよっているこの落ち着かない状況。
あんまり覚えていないけれど、悪夢袋がすぐに貯まるから、きっと悪夢を見ているんだろう。
悪夢袋のそばで寝ると、朝には袋はいっぱいになっている。
悪夢に困らないおかげで、実際に魔法を使いながら、効果を確かめることができた。
ボクが今、拠点にしているのは「堕落都市」ネルド。
魔法学園で数年を過ごした、からくり都市チャマイの北方にある都市だ。
チャマイからは数日程度の距離だけど、交流は少ない。
ネルドには闇エルフが多い。肌が闇色になったボクが身を隠すには、もってこいの場所だった。
今のところは、闇エルフとして生活できている。ボクが本当は闇エルフではない、ただのエルフということを疑われたことは、一度もない。
モータス教授は、10年の研究の成果を横取りされて、恨んでいるだろうか。
でも、ボクが盗んだとは知られていないはずだ。この魔法の時計を見られでもしない限り、教授にはどうしようもないだろう。
ボクは、魔法の時計の使い方を少しずつ試しながら路銀を稼いでいた。
魔法の時計の力はチート級で、こっそり使うことで、かなり楽に生活費を稼ぐことができた。
ネルドでの生活が安定してきた頃、ボクは次にどうするか、迷っていた。
そろそろ一度、ニナ姉のところに戻るべきじゃないだろうか。
ニナ姉に、今のボクの姿を見られるのは、すごく抵抗がある。
けど、あれから何年も経つ。もしかしたら、姉たちの情報をつかんでいるかもしれない。
路銀は十分に稼げた。なんならすぐにでも旅立てる。
ボクは、ニナ姉のもとへ向かう決意を固めた。
そうして、その日の晩に、ボクの予定をひっくり返す出来事が起きた。
宿の食堂で食事をしている時、闇エルフの一団の自慢話が耳に飛び込んできたのだ。
それは、複数のエルフの女を、依頼主の元に届けた、という話だった。
ボクは、その一団に混ざって話を聞くことにした。
こういう時は、若い女性ってだけで、たいていの男連中は疑いもせずに受け入れてくれる。
とある都市で、エルフ奴隷を抱えていた貴族が破産した。
貴族は財産整理のためにそのエルフたちを手放し、エルフ女たちは奴隷商人の手に渡った。
この闇エルフの一団は、奴隷商人の護衛としていくつかの地方を巡っていった。
そしてエルフ奴隷たちは、買い手がつくたびに順番に手放されていったという。
初めて耳にした、姉たちかもしれないエルフの行方だった。
最後のふたりは双子のエルフで、ここネルド付近の森で買われていった。
そこは「還らずの森」と呼ばれている。買われた先は、ローズ家と呼ばれる吸血鬼の館。
彼らの話す特徴は、聞けば聞くほど姉たちとしか思えなかった。
間違いない。エナ姉とティナ姉だ。
これまでずっとわからなかった消息の手がかりを、はじめてつかんだ。
しかも、その場所は近い。
ボクは、このめぐり合わせは偶然とは思えなかった。
なんらかの運命の歯車が回り始めている。
ボクがもう1日早くネルドを出ていたら、この話は永遠にボクのところに来なかったのだから。
ボクは、手放されたほかのエルフ奴隷たちの行き先についても、順番に確認していった。
双子のエルフがエナ姉とティナ姉なら、他のエルフもきっと姉たちだ。
こうやって、エナ姉とティナ姉を助けた後の行き先も、だいたい目星をつけた。
ニナ姉のところに戻っている暇なんてない。エナ姉とティナ姉を取り戻しに行くのは、今しかない。
奴隷として買い戻すお金はない。多少強引な手段を用いても、救い出すんだ。
次の日、ボクはネルドを出発した。
目的地は当然、吸血鬼の館があるという「還らずの森」だ。
家が襲撃された時の、守られるだけだったボクは、もういない。
今度は、ボクが助けるんだ。姉たちを。
●アタック01-7 外縁の村にて
それから数日かけて、「還らずの森」の周辺まで到達した。
ボクはすぐに森へは入らず、その外周をたどっている。
急いでいても、焦ってはいけない。それは、ボクの決して長くない人生経験の中で得た、数少ない教訓のひとつだ。
魔法の時計を手に入れる時は焦りのあまり、自分の身を危険にさらしすぎた。
この森についての生の情報を得たい。
そのためには、森の近くで生活している者から話を聞けるのが一番良い。
そもそも、闇エルフたちが言っていた「ローズ家という吸血鬼の館」というフレーズも気になる。
ローズ家というのは、吸血鬼の貴族なのだろうか。
貴族といったら、国王から爵位を与えられた特権階級だろう。
爵位を吸血鬼が持っているというシチュエーションがまず、よくわからない。
「吸血鬼ハンターD」では、吸血鬼そのものを「貴族」と呼ぶ。
すべての吸血鬼ネタの祖ともいえるドラキュラは、伯爵だ。
おそらく、吸血鬼が貴族というイメージの元は、そこからきているのだろうけど。
そんなプレイヤーの考察は、ここでは無意味だ。
そうして森の外縁を回り、1回の野営を挟んで、やがてボクは、森の近くの小さな村を見つけた。
この村ならきっと、森の恩恵を受けながら暮らしているはず。
森に関する生の情報が、手に入るに違いない。
ボクはその村に向かう。
ふと思った。村に入る前に、魔法の時計を使ってみるという手もある。
使うとしたら、<うたかたの齢時計>だ。
これを使うと、自分の年齢を変えられる。正体を隠したいときなどに役に立つ。
が、ボクは使うのをやめておいた。
時の魔法は無限に使えるわけではない。悪夢を消費するのだ。
今、年齢を変えて正体を隠す必要性を、ボクは感じていない。
それが理由だ。
そんなふうに思っていたのだけれど、村に行ったら石投げられた。
な、なんでぇ!?
しかも、1個目の石を皮切りに、そこにいる村人が、次々に石を投げてくる!
・自力で石を避ける
・<速撃の戦時計>か<刻々の狭間時計>を使う
これまでに人生の選択はあまたあれど、これが、このゲームブックの初選択肢だ。
さあ、どうしよう。
自力で避けるのと、魔法で避けるのが並んでいるのなら、自力回避ではダメージを負ってしまう可能性が高いのではないか。
であれば、魔法を使うのが最適解ということになる。
<速撃の戦時計>は、針がひとつのストップウォッチみたいな時計。
ボクは、<速撃の戦時計>のボタンをカチッと押した。
出口のないはずの闇色の悪夢袋がひとつ、ぽしゅっとしぼむ。同時に<速撃の戦時計>の針が、ぐるぐるとすごい勢いで回り出した。
ボクの身体に力がみなぎる。軽快なビートを刻みながら、すべての石を避けてゆく。
スピードスターとなったボクには、決して誰も石を当てることはできない。
ところが、あれれ?
村人の投げる石の勢いが強くなってきたよ?
もしかして、ムキになってる? ボクの動き、挑発してるって思われちゃってる?
・このまま村を逃げ出す
・村人の1人を人質に取る
・石を避けながら、村人と話し合う
そこに出たのはこんな選択肢。
そうだよ。ボクは石を投げられに来たんじゃない。
お話しようよ、おはなし。
ねっ。ねっ?
右に左に、石を避けつつ必死に説得。
手を広げて、害意のないことをアピール。
飛んでくる石にも無抵抗の意思を示しつつ石を避ける。
どんどんヒートアップする村人たち。もう意味わかんない。そろそろ疲れてこない?
「やめろ!」
その時、女性の鋭い声が、村人たちを制した。
投石が止む。そこに村人を割って、金髪の女性が進み出た。
●アタック01-8 ボラミーとの決闘
女性は、冒険者風のいでたちをしていた。
力強く、そして美しい。
「卑怯なふるまいはよせ。たとえ相手が闇エルフであっても」
そうか。ボクの肌は闇エルフに見えるから。
村人たちは、闇エルフを恐れていたのか。
ボクは、自分の肌の色が変わってから、闇エルフが多いネルドで生活していた。
だから、闇エルフが外ではいかに忌み嫌われているかということを、このとき初めて知ったんだ。
ボクは、助けてくれたその女性に感謝の言葉を告げようとした。
しかし、次の女性の言葉に凍りついた。
「慈悲のある死を遂げさせるべきだ。村人の代表として、私が戦う」
ボクを助けようとしてくれたんじゃなかった!
「我々の縄張りに入ったのだ。逃げるなよ」
女性は銀色に輝く剣を、すらりと抜き放った。
「我が名はボラミー。決闘の作法だ。そちらも名乗るが良い」
あ! ボラミー。
ボラミーという名前を聞いた瞬間に、ボクは未来の記憶をおぼろげに「思い出した」。
未来を思い出すっていうのは変に聞こえるかもしれない。けど、この感覚はそうとしか言いようがない。
未来でボクは、ボラミーと一緒に旅をしていた。そんな気がする。
けど、この状況。いったいどうすれば。
そこに選択肢があらわれる。
・自分は闇エルフではないと主張する
・剣でボラミーと戦う。
・<速撃の戦時計>を使う
・逃げる
ボクは闇エルフではない。普通のエルフだ。
と、ボクは思っている。けど、ボクはホントに闇エルフじゃないの?
闇の神様の力を得られたってことは、その時点で闇エルフになっちゃったんじゃないかって思うんだけど。
そのへんは選択肢の中のボクと、考察しているボクとの考え方の違いかな。
だから、闇エルフじゃないって主張するのは、アリだ。聞く耳を持ってくれそうにないけれど。
戦うしか、ないのかな。
強さを示せば、仲間になってくれるかな。
ボラミーは、きっと強いだろう。
普通に戦っても、勝ち目はないだろう。
<速撃の戦時計>の針は、すでにその動きを止めている。あのまま投石が続かなくてよかった。
なら、もう一度<速撃の戦時計>に頼らせてもらおう。
「どうした。名乗れと言っている。それとも闇エルフは、名乗る名すら持ち合わせていないと?」
「ボ、ボクはミナ。戦うつもりはないけど……」
「それはそちらの都合だ。覚悟するが良い」
ボラミーの突進。迅い!
<速撃の戦時計>を発動する。
闇色の悪夢袋がまたひとつしぼみ、戦時計がすごい勢いで時を刻み始める。
その瞬間、ボクは風を裂くように動いた。
あっさり空を切った剣に、ボラミーの目が驚愕に見開かれる。
村人たちのどよめきが聞こえる。ボラミーの初撃を避けたのは、それほどすごいことらしい。
けれど、そこまでだった。
「ふ。はは……やるじゃないか。本気の出し甲斐があるというものだ」
ボラミーの次の剣撃が繰り出される。応戦する剣で必死に受け止めたけれど、それだけで全身の骨がばらばらになりそうな衝撃だ。
こんなの、二度も三度も受けられるものじゃない。
ボクは、回避に専念するしかなくなった。<速撃>でいかに素早く動こうとも、これで精いっぱい。
たちまち、防戦一方に追い込まれてしまった。素早さだけで、対人での戦いの経験のなさが完全に露呈した形だ。
明確な技量の差は覆せなかった。
かくなるうえは……逃げる!
ボクは、<速撃の戦時計>がまだ動いているうちに、逃げに転じた。
実際のところ、情報を得られないのなら、これ以上村に留まる理由はないんだよ。
こんな一方的に押しつけられた決闘に、命をかける必要はない。そこに固執するプライドもない。
「な。卑怯な闇エルフが……!」
声が後ろから降ってくるが、まったく心を動かされなかった。
ボクは、村から離れ、完全に逃げ切ったと確信が持てるまで、走り続けた。
やがて戦時計がその時を止める。身体ががくんと重くなった。呼吸を整えながら、ゆっくりと歩く。
あのボラミーという女剣士がボクの仲間になる未来は、たしかに、かすかに垣間見えていた。
でも彼女は、ほかの村人同様、闇エルフに憎しみを抱いているみたいだ。いったいどうすれば、彼女を味方に引き入れることができるのだろう。
皆目見当がつかなかった。
とうとうボクは、森の入口までやってきた。
全力疾走と徒歩を続けてきたボクは、正直かなり疲れている。
森のことも吸血鬼の館のことも、何も情報を拾えないままここまで来てしまった。
そのまま森に足を踏み入れる前に、せめて小休止を入れたい気分だ。
森の入口の空き地で、少し休憩しよう。
だが、そこには先客がいた。
旅人装束に身を包んだ人物が、腰を下ろし焚火をしながら、串に刺した肉や野菜を焼いていた。
その顔は、普通の人間ではなかった。
ねこだ。
それも、黒ねこだ。
ねこ人? ボクは初めて見る種族だった。
次回、ねこ人に対し、ボクはどういう態度で接したらいいのだろう。
【ミナ 体力点4/4 悪夢袋7→5/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>超スピードで限界突破。
<時もどしの回復時計>時間を戻してダメージをなかったことに。
■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
ボラミー 森の外縁の村にいた女剣士。確かな腕前を持つ。闇エルフ絶対殺すウーマン。
ねこ人 黒ねこ人。宅急便かな?
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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