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『スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本』 vol.4
(田林洋一)
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FT新聞の読者のあなた、こんにちは、田林洋一です。
全13回を予定しております東京創元社から出版されたゲームブックの解説「SAGBがよくわかる本」、4回目の記事を配信いたします。今回は「レジェンド」という世界観を共有する「ゴールデン・ドラゴン・ファンタジイ・ゲームブック・シリーズ」を主に扱います。
本連載は「名作」と呼ばれるものを最初に集中的に扱っている関係上、連載の後半になるに従って厳しい批評が多くなりますこと、ご寛恕ください。作品そのものを全否定する意図は全くないことをご理解いただければと思います。「私はそうは思わない」という感想がございましたら、ぜひともお寄せいただければ嬉しく思います。
最後に、毎回の私事ではありますが、アマゾンにてファンタジー小説『セイバーズ・クロニクル』とそのスピンオフのゲームブック『クレージュ・サーガ』を上梓しておりますので、そちらもご覧いただければ嬉しく思います。なお、『クレージュ・サーガ』はこの記事の連載開始後に品切れになりました。ご購入くださった方には、この場を借りてお礼申し上げます。
『セイバーズ・クロニクル』https://x.gd/ScbC7
『クレージュ・サーガ』https://x.gd/qfsa0
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4.レジェンド世界 -ゴールデン・ドラゴン・ファンタジイ・ゲームブック
主な言及作品:『吸血鬼の洞窟』(1986)『シャドー砦の魔王』(1986)
『炎の神殿』(1986)『失われた魂の城』(1986)『ドラゴンの目』(1986)
『ファラオの呪い』(1986)
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第3回では『ネバーランドのリンゴ』がゲームブックのボリュームアップの端緒を開いたと述べたが、ここで紹介する「ゴールデン・ドラゴン・ファンタジイ・ゲームブック」(以下「ゴールデン・ドラゴン・シリーズ」)はややもすると容量過多の傾向にあったゲームブックに警鐘を鳴らす作品群と言える。
本シリーズは他のSAGBよりも薄めで、一番短いデイヴ・モーリスの『吸血鬼の洞窟』が二九〇パラグラフ、もっとも長い同じくデイヴ・モーリスの『ドラゴンの目』が三一〇パラグラフと多少のばらつきはあるものの、おおよそ三〇〇パラグラフで構成されている。『ファラオの呪い』の最後の解説で田中克己が述べている「このシリーズは、やたら長いだけがゲームをおもしろくする要素ではない、ということを如実に示してくれたと思う」という評は極めて的を射ている(余談だが、FT書房は「一〇〇パラグラフ・ゲームブック」シリーズを現在でも精力的に刊行しており、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」を証明してくれている)。
このシリーズの六作品はストーリー面では完全に独立しており、プレイヤーが扮するのは、ある時は最強との呼び声高いパラドスの《竜騎士》に、またある時は富と冒険を求めるさすらいの剣士に、別の時には前途有望な魔法使いにと、舞台やストーリー、主人公の属性までもががらりと変わる。「レジェンド」と呼ばれる世界観を部分的に共有しているが、「ドルアーガの塔」や「ソーサリー」とは違って、一人の主人公を操っていく壮大なキャンペーン・ゲームにはなっていない。つまり、この六作品は、どれをどの順番でプレイしようともゲームに全く影響はない。ルール面では『ドラゴンの目』が十二種類の魔法を使用できる以外は共通しており、だからこその「シリーズ」なのだろうが、仔細に見ていくと、やはり他の国産のゲームブックとの違いが浮き彫りになる。
まずは戦闘だが、初期値はなくただサイコロ二個を延々と振って結果を出す。大きな目の方がプレイヤーに有利になっており、サイコロの目が大きければそれだけ敵にダメージを与える確率が上がり、時にクリティカルヒットが出る。一方でサイコロの目が低ければ、敵の攻撃によってダメージを受ける可能性がある(時にプレイヤーが即死する)仕様になっている。また、一度に戦う敵の数が多いほど、主人公の命中率が悪くなる(攻撃が当たりづらい)という現実に即した工夫もなされている。ファイティング・ファンタジー・シリーズのゲームブックや「ドルアーガの塔」のように、最初に設定する技術点や戦力ポイントなどで差別化を図っているわけではないのだ。
似たようなルールに『ネバーランドのリンゴ』の戦力ポイントがあり、初期値は共通で〇点だが、与えるダメージが異なる武器だけは旅立ちの最初にサイコロを振ってランダムに決定(剣二種類と戦斧の三つのうち一つを選択)するようになっている。
このシリーズでは体力ポイントとPSI(直観力)ポイント、そして敏捷ポイントという値を設定する必要があり、後者二つはサイコロ一つに三を加えたものを初期値とする。最大で九、最低で四というわけだ。冒険の最中では、「サイコロ二個を振って出た目と現時点のPSIポイント(ないしは敏捷ポイント)を比較せよ」という指示が頻出するが、ファイティング・ファンタジー・シリーズなどの他の技術点や運点などの比較方法(技術点(運点)チェック)と違って、かなり失敗の確率が高い(ファイティング・ファンタジー・シリーズでは、サイコロ一個に六を加えた値が初期値のため)。また、全ての「ゴールデン・ドラゴン・シリーズ」の冒険において体力を回復する機会も非常に少なく、難易度は極めて高い。たかが三〇〇パラグラフの冒険だと思って舐めてかかると、プレイヤーは痛い目を見るだろう。
SAGBの一環として翻訳出版されたゴールデン・ドラゴン・シリーズは、著者がデイヴ・モーリスとオリバー・ジョンソン(『失われた魂の城』だけは、デイヴ・モーリスの(恐らく当時の)フィアンセであるイヴォンヌ・ニューナムが共著者としてかかわっている)というイギリス人二人である。恐らく先行作品であるスティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストンが執筆・監修しているファイティング・ファンタジー・シリーズの影響を受けているためか、移動は全て単方向である。更に、全体の雰囲気やテイストも日本人作家の作風とは違い、ファイティング・ファンタジー・シリーズの諸作品と近い。
もっとも、ジャクソンやリビングストンのようにノーヒントの致命的な選択肢(道を一本間違えただけで即死する類の罠など)は、例えば『吸血鬼の洞窟』や『失われた魂の城』などにはあまり見当たらないので、プレイヤーは気持ちよく冒険に参加できるはずだ。その一方で、例えば『炎の神殿』などはクリア達成のための正解ルートが限られていて難易度は比較的高く、軽々しく行動を選択することはできない。また、『ドラゴンの目』ではクライマックスにヒントなしの三択(これはリビングストン著『盗賊都市』のフィナーレを想起させる)がプレイヤーに突きつけられるのだが、デイヴ・モーリスは自身のブログでこの箇所を「重大な欠陥」と回想している。
また、日本人作家によるゲームブックの特徴は主人公キャラクターの際立ちにあると第1回で述べたが、このシリーズでは言わば「無色透明の君」が主人公である。ルール欄にある「あなたの名前」という項目では「自由に名前をつけてください」という指示(提案)があり、実際にアドベンチャーシートの冒頭には「あなたの名前」を書く欄が用意されているが、名前によって冒険が変化することは一切ない。
この「単方向移動」と「無色透明の主人公」という特徴は、SAGBにおいては珍しい(『ベルゼブルの竜』などの例外はある)。この特徴は、もちろん著者が日本人でないということに起因しているが、その一方で似たようなシリーズのファイティング・ファンタジーとの差別化もあり、各種能力値ポイントや戦闘の扱いが異なっていることは既に述べた。因みに、ファイティング・ファンタジー・シリーズでは項目数がほとんどの場合四〇〇と決まっていて、ゴールデン・ドラゴン・シリーズでは項目数が前述したようにほぼ三〇〇と、これまた容量が定まっている。それに比べて、日本人作家のSAGBのボリュームは得てしてばらばらで、どちらかというと分厚いものが多い傾向にある。
このシリーズの最大の特徴は、その濃密な物語性と、重厚な雰囲気にある。考えてみれば、今までのSAGBのほとんどはアーケードゲームやファミコンソフトが原作であったり、キャラクターが突出して際立っていたりといった特徴を備えていたが、どちらかというとライトなイメージがあった。「ドルアーガの塔」にいたっては、(アーケードゲームやファミコンソフトの原作がそうであったからなのだが)最初から剣や黄金の鎧兜に盾など、完全装備での出立である。また、完全武装とは程遠いが『ネバーランドのリンゴ』などは、第3回で述べたように童話的・牧歌的でいかにもファンタジーという雰囲気を醸し出しており、旅の途中で悲壮感を感じさせることはあまりない。
ところが、このシリーズで経験する冒険は国産品と比べても様相がかなり異なる。例えばシリーズの一作『シャドー砦の魔王』では、プレイヤーはララッサの王、ヴァラフォールに仕える近衛兵になって、王を亡き者にしようとする魔王ダークローブ卿を倒すためにシャドー砦に侵入するのだが、夜の道で遭遇する骸骨の使者をはじめ、陰惨な雰囲気が冒険の行程全てに立ち込めている。グールとの会食に参加して人肉を食するイベントがあったり、プレイヤーを罠にはめようとする不気味な女亡霊の発狂ぶりがあったりと、陰惨な世界観に満ちている。『ネバーランドのリンゴ』や「ドルアーガの塔」のように、「ちょっと一息できる場所」がないのだ。
シリーズ最終巻の『ファラオの呪い』では、砂漠とピラミッドの冒険が描かれるが、まさに地獄の使者とも言うべき悪魔「イポ」や「ボス」が登場したり、随行する正体不明の老人との絡みがあったりと、まるで悪夢の世界を行脚しているような雰囲気にさせられる。
また、『炎の神殿』では、パラドスの竜騎士である「あなた」が「カタク黄金の偶像」を探しに行くのだが、前半はジャングル、後半は宿敵の魔術師ダモンティールの待つ迷宮内を冒険する。ジャングルの冒険では木々の匂いがむせ返るような熱帯雨林を踏破していき、それに呼応するように奇怪な呪術師との遭遇などがイベントとして立ちふさがる。後半は罠だらけの迷宮に踏み込んでいくのだが、現れるだけで不気味な暗殺者・悪夢兵との戦いや、死んだはずのかつての旧友サルサ・ドゥームとの邂逅など、始終陰湿で恐ろしいイベントが目白押しなのである。既に延べたように体力回復の手段なども極めて少なく、徐々に削り取られていく体力ポイントに加えて、次から次へと襲い掛かってくる凶悪なイベントに恐ろしい敵の攻撃をかいくぐっていく冒険は、読者に多大な重圧を与えるだろう。
それに比例するように、ゴールデン・ドラゴン・シリーズはファイティング・ファンタジー・シリーズなどと比較して1つのパラグラフの文章が多く、夢幻的・悪魔的な雰囲気を醸し出すのに一役買っている。つまり、ゲーム的な『ゼビウス』や『ネバーランドのリンゴ』とは異なり、かなり小説的なのだ。ルールは極めてシンプルで、いわゆる「ズル」を許さないパラグラフ・ジャンプなどはこのシリーズには全くない。また、林友彦の諸作品で見られた(時に可愛らしい)謎解きも、ほとんどないと言っていいだろう。例外は、『失われた魂の城』に登場するゴブリンのドランとカバグーの会話ぐらいである。これとても、いかにも謎解きという提示の仕方は取っておらず、要所でヒントを得て、そのヒントを元に推測すると危機を回避できるような、さりげないパズル、言うなればストーリーの中に組み込まれた謎解きという設定になっている。
一般的に言って、ゲームブックはストーリーを味わう側面とゲーム的・パズル的な楽しさを追及する側面の二つのアプローチがあるかと思われるが、このシリーズは前者に特化したゲームブックと言えるだろう。スティーブ・ジャクソンは1986年に"Creature of Havoc"(邦題『モンスター誕生』(社会思想社版 1988年)をPenguin Booksから発表した後にゲームブックの休筆宣言を行ったが、それはストーリーとゲーム面の両方を内包するゲームブックという形式から一時離れたかったからだろう。
その一方で、彼は1985年にOxford University Pressから "The Task of Tantalon"(邦題『魔術師タンタロンの12の難題』(社会思想社版1987年)を発表しているが、この作品はストーリーよりもゲーム的、パズル的な楽しさを味わうという側面が強い。また、日本ではSAGBの一環として出版されているTRPG『スティーブ・ジャクソンのファイティング・ファンタジー』(原書は "Steve Jackson's Fighting Fantasy"で、1984年にPenguin Booksから出版)も、多人数で遊ぶロール・プレイング・ゲームのルールブックという性質上、やはりゲーム的な要素が際立っているように思われる。
このルールブックに付随している二つのシナリオ(短編「願いの井戸」と中編「シャグラッドの危険な迷路」)はいずれも突出した出来栄えで、ストーリー的にも文句のない佳作である。実際にTRPGをプレイすると、細かいルールよりもゲームマスターの作り上げたストーリー(あるいはジャクソンが用意したような既存のシナリオ)を楽しむことが多いだろうが、これはあくまでTRPGの「ルールブック」である。ストーリーにルールは要らないかもしれないが、ゲームには必ず何らかのルールを必要とする。その意味で、恐らくジャクソンは「ゲーム」に重きを置いて『スティーブ・ジャクソンのファイティング・ファンタジー』を執筆したような気がするのである。
他方、ストーリーを純粋に楽しむために、ジャクソンは「ゲームブック」から「ゲーム」を除いた「ブック=小説」を手がけ、『トロール牙峠戦争』(新紀元社)という小説を出版するに至った。なお、『トロール牙峠戦争』の原書"The Trolltooth Wars"は1989年にPenguin Booksより出版されており、社会思想社から翻訳が出版予定であったが、同社は消滅し、実際の翻訳出版が叶ったのは32年後の2021年である。こうして見ると、彼は1984年から1989年にかけて、ゲームのルールブック(『スティーブ・ジャクソンのファイティング・ファンタジー』)、パズル的ブック(『魔術師タンタロンの12の難題』)、ストーリーとゲームを融合させたゲームブック(『モンスター誕生』)、そしてストーリーのみの小説(『トロール牙峠戦争』)という順に発表しており、徐々にゲーム性からストーリー性へとシフトしている様子が伺える。
余談だが、ジャクソンはあくまで「ゲームブック作家」の申し子であり、本格的な小説という分野はゲームブック界で見せた「冴え」が見えないように管見では思われる。この感覚を裏づけるかのように、ジャクソンの小説は先の『トロール牙峠戦争』のみが発表されているだけである。一方で、後に「ゲームブック休筆宣言」から33年もの長い空白期間を経て2022年にジョナサン・グリーンとの共著で『サラモニスの秘密』などの新作ゲームブックを執筆しており、両者を比べると、構成の巧みさやゲーム的な側面のブラッシュアップという点で、やはり完成度という点では『サラモニスの秘密』に軍配が上がるように感じられる。
もちろん、両者は小説とゲームブックという全く異質のジャンルであり、単純に比較はできない。だが、ブルネル大学でゲームデザイン理論の教授を務めていることから見ても、彼が「ゲームブック作家」であり、純文学をはじめとした「小説家」ではないことが見て取れよう。
ゲームブックのストーリー面の広がりを徹底的に推し進めた結果、国産のゲームブックが「ゲーム」を楽しみの主眼として射程に捉えたのに対し、このシリーズは異界的、悪魔的、夢幻的な「レジェンド」という架空世界の中で、様々なキャラクターが様々な舞台で、様々な冒険を繰り広げる小説的な面白さを追及した。蛇足だが、ファンタジー世界「レジェンド」は、ファイティング・ファンタジー・シリーズにおける「タイタン」よりも設定が緩やかなようである。
とは言え、この世界観はオリバー・ジョンソンとデイヴ・モーリスの諸作品に色濃く反映されている。例えば富士見文庫から訳が出ている「ブラッド・ソード」シリーズは、ゲーム的、RPG的なルールをふんだんに利用しつつ、世界観として「レジェンド」を採用し、結果としてゲームと硬派なストーリーの融合に見事に成功している。また、同著者の同じ背景世界を用いたTRPG「ドラゴン・ウォーリアーズ」については、第12回で別途検討する予定である。
この「小説的なストーリー展開の面白さ」という傾向は挿絵にも表れていて、例えば『吸血鬼の洞窟』では、見開き二ページに渡ってラスボスである吸血鬼テネブロン卿のイラストが迫力満点に描かれており、アート集のように楽しむこともできる。つまり、体裁は当然のことながら選択肢を選んで進めたり、サイコロを振って戦闘の勝者を決めたりする「ゲームブック」になっているが、実際は装丁も含めてストーリーの世界にどっぷりとはまり込み、ゲームブックとしてはかなり長めの文章を堪能しながら冒険を進めていくという基本コンセプトが、ゴールデン・ドラゴン・シリーズの中で確立されていると思われる。
本シリーズの中で、卓越したストーリーに更にゲーム的な要素が付け加えられているのが『ドラゴンの目』だろう。この作品の物語性の高さは、M・A・R・バーカー制作のTRPG「エンパイア・オブ・ザ・ペタル・スローン」のシナリオの一つとしてデイヴ・モーリスが本作を執筆したことにも起因する。例えば、冒頭に雰囲気抜群の遺跡の地図が掲載されているが、それは元となったシナリオ執筆時に著者がキャンペーンとして地図を細かく用意していたからである。また、メインの敵役である珊瑚の怪物の名前をギリシャ文字「ミュー」から採用するなど、やはりメッセージ性やストーリー性の濃密さが際立っている。それを表すように、この作品でも圧巻の文章の描写やおぞましい敵の遭遇、それにおどろおどろしいイベントなどが目白押しである。
そしてそれらの解決策として、本作では十二種類の魔法が用意されている。これらの魔法は一度唱えると忘れてしまう(唱えられなくなる)というゲーム的な特徴を有しており、TRPG「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」や、ジャクソンの傑作ゲームブック『バルサスの要塞』、アメリカ人ゲームデザイナーで同姓同名のスティーブ・ジャクソン作の『サソリ沼の迷路』などの方式が取られている。魔法の使い方という点では、非常にゲーム的なのだ(後年、デイヴ・モーリスはこの魔法システムを「オール・オア・ナッシング」方式と呼び、疲労や瞑想による回復といったシステムを取り入れた方が良かったのではないかと述懐している)。
但し、使える魔法が炎のトラや怒れるスズメバチの召喚、死者を蘇らせてヒントを語らせることのできる「死人返し」など、「ウィザードリィ」や「ドラゴンクエスト」などのコンピューターゲームRPGに見られるような「ゲーム的な魔法」だけではないところが、やはりこのシリーズの特徴を見事に表していると言ってよい。「ファイアーボール」や「ライトニングボルト」のような、ただ攻撃して敵の体力を削るだけの安直な「超能力」は出てこないのだ。
安田均による『バルサスの要塞』の魔法についての評ではないが(『ファイティング・ファンタジー・ゲームブックの楽しみ方』p. 45-46)、『ドラゴンの目』の魔法は、超自然的な「何が起こるか分からない」「かけた際の神秘性」といういかにも魔法ならではの特性、不可思議性を豊穣に備えているのである。そして、文章が多く描写が凝っているのは『ドラゴンの目』でも同じで、圧倒的な描写力によって魔法を使用した後の劇的な効果のほどを知ることができる。
日本人作家がキャラクター性と双方向移動という特徴を大いに生かし、ゲームブックの「ゲーム」の部分にスポットを当てたのに対して、ゴールデン・ドラゴン・シリーズは、むしろファイティング・ファンタジー・シリーズのようにストーリーを重視した作品群となった。しかし、だからと言って本シリーズがジャクソンやリビングストンの後追いに終わっているわけではなく、重厚かつおどろおどろしいストーリー展開と「読ませる」文章によって、しっかりとした佳作に仕上がっている。このシリーズのパラグラフ数が少ないというのは、小説的な描写力を大事にして、作品の完成度を向上させていることにも起因するだろう。
※第5回は、「デュマレスト・ゲームブック」シリーズを中心に扱います。
◆書誌情報
『吸血鬼の洞窟』
デイヴ・モーリス(著) 鎌田三平(訳)
東京創元社(1986/3/14)絶版
『シャドー砦の魔王』
オリバー・ジョンソン(著) マジカル・ゲーマー(訳)
東京創元社(1986/4/26)絶版
『炎の神殿』
モーリス&ジョンソン(著) 山本圭一(訳)
東京創元社(1986/5/31)絶版
『失われた魂の城』
D・モーリス&Y・ニューナム(著) マジカル・ゲーマー(訳)
東京創元社(1986/8/13)絶版
『ドラゴンの目』
デイヴ・モーリス(著) 大森望(訳)
東京創元社(1986/9/10)絶版
『ファラオの呪い』
オリバー・ジョンソン(著) マジカル・ゲーマー(訳)
東京創元社(1986/10/31)絶版
■参考文献
『FABLED LANDS』Dave Morris
https://fabledlands.blogspot.com/
『盗賊都市』
イアン・リビングストン(著)喜多元子(訳)
社会思想社(1985/10/20)絶版
SBクリエイティブ(再生産版)こあらだまり(訳)(2024/3/28)
『モンスター誕生』
スティーブ・ジャクソン(著)安田均(訳)
社会思想社(1988/3/30)絶版
SBクリエイティブ(再生産版)(2024/3/28)
『魔術師タンタロンの12の難題』
スティーブ・ジャクソン(著)柿沼瑛子(訳)
社会思想社(1987/2/28)絶版
『スティーブ・ジャクソンのファイティング・ファンタジー』
スティーブ・ジャクソン(著)本田成二(訳)
東京創元社(1985/12/13)絶版
『トロール牙峠戦争』
スティーブ・ジャクソン(著)安田均(訳)
新紀元社(2021/3/26)絶版
FrogGames(電子書籍版)(2024/7/1)
『サラモニスの秘密』
スティーブ・ジャクソン(著)
SBクリエイティブ(2024/2/16)
「ブラッド・ソード」シリーズ
『シナリオ♯1 勝利の紋章を奪え!』
デイブ・モーリス&オリバー・ジョンソン(著)大出健(訳)
富士見文庫(1988/3/30)絶版
『シナリオ#2 魔術王をたおせ!』
デイブ・モーリス&オリバー・ジョンソン(著)大出健(訳)
富士見文庫(1988/7/20)絶版
『シナリオ#3 悪魔の爪を折れ!』
デイブ・モーリス&オリバー・ジョンソン(著)大出健(訳)
富士見文庫(1989/2/28)絶版
『シナリオ#4 死者の国から還れ!』
デイブ・モーリス&オリバー・ジョンソン(著)大出健(訳)
富士見文庫(1989/9/20)絶版
『バルサスの要塞』
スティーブ・ジャクソン(著)浅羽莢子(訳)
社会思想社(1985/4/25)絶版
SBクリエイティブ(再生産版)(2024/3/28)
『サソリ沼の迷路』
スティーブ・ジャクソン(著)大村美根子(訳)
社会思想社(1986/2/21)絶版
SBクリエイティブ(2025/2/19)
『ファイティング・ファンタジー・ゲームブックの楽しみ方』
安田均(著)
社会思想社(1990/8/30)絶版
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