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2025年10月2日木曜日

膠着状態とブレイクスルー FT新聞 No.4635

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膠着状態とブレイクスルー、シミュレーションと抽象化の位相について

 (岡和田晃)
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「FT新聞」No.4622のシュウ友生「トンネルズ&トロールズ戦闘考〜膠着状態に込められた理想〜」(以下、シュウ友生論文)は、T&T第5版の戦闘において、しばしば戦局を停滞させ、進行に「ダレ」をもたらす主たる原因とみなされがちな膠着状態を、むしろ意図してデザインされたものと解釈する、コロンブスの卵のような論考でした。
 つまり、杓子定規にルールを状況に当てはめていくようでは、膠着状態が必然的に発生し、やがてはジリ貧に陥る。だからこそ、ルールテキストとして明文化できないようなプレイヤーの創造性が生じる「隙間」が生まれる。こうした"逆転の発想"を生ぜしめるデザインは、T&Tの画期的な所以でしょう。

 そもそも、オリジナルのD&Dが発売された1974年からの80年代前半頃まで、多くのTRPGはD&Dの影響から逃れられませんでした。そうした状況において、T&Tや『モンスター!モンスター!TRPG』 の独創性は際立っていたというほかありません(以降、両者は基幹するゲームエンジンを採用していることから、便宜的にT&Tと呼びます)。
 もともとのD&Dには20面体ダイスをアーマークラスに対比させ、一定の出目以上ならば攻撃が命中するという基本システムが存在します。こうした基幹部分は現行のD&D第5版まで踏襲されたコアとなるルールですが、では「なぜ」そうしたデザインを採用したのでしょうか。
 D&D史家のジョン・ピーターソンに代表される近年の研究では、ウォーゲームの戦闘結果表(=CRT、戦力比とダイス目が交わるところを参照し、相手側のユニットを除去するか撤退させるかなどを決定する表)の影響が大きいのではないかということなのですが……。T&Tは他の最初期のRPG(例えばT&Tと同じ1975年に発売された『エンパイア・オブ・ザ・ペタル・スローン』)とは違い、D&D式の命中判定がなく、アーマークラスではなく防御点ルールを採用しています。そもそも、ミニチュアを用いたタクティカル・コンバットを旨とする『チェインメイル』のファンタジー版という成立の経緯からして、D&Dは(初期の版はそれほど厳密ではないとはいえ)、戦局での位置取りを厳密に可視化しやすいデザインをとっています。
 ファンタジーRPGのなかでは、命中判定と防御点を並行して導入するシステムは少なくなく、さらには貫通判定や防御側の回避判定を別途に盛り込むシステムすら存在するわけですが、T&Tの割り切りと大胆な抽象化は尋常ではない、というほかありません。シュウ友生論文は、戦士の防具ボーナス(防御点2倍)やモンスター・レートに意図したデザイン・コンセプトを読み込み、そのうえでブレイクスルーとして魔術師の《これでもくらえ!》について論じておいでです。
 確かに、戦闘ルールと並ぶほど特徴的なT&Tの基幹システムで、無限上方ロールのはしりともいうべきセービング・ロールは、特殊攻撃からの回避を別個に判定する手段にすぎないD&Dのセーヴィング・スローとは異なる応用性があり(もっとも、技能システムが未実装だった初期のD&Dでは、一般行為判定としてセーヴィング・スローを振らせることも、ままありましたが)、戦闘でのヒット算出とセービング・ロールを組み合わせることでユーザーの創造性を発揮させるというのは、デザイナーの狙い通りだったとみなすべきでしょう。ケン・セント・アンドレの際立った作家性が、こういうところにもよく見えるわけです。

 それでは、シュウ友生論文の問題提起を受け、当該論文では深入りされていなかった要素についても、考えてみたいと思います。まずはバーサーク戦闘。条件付きながら、戦闘時の攻撃ヒット算出のためのダイスを無限に振り足していけるというこのルールは、近年ではむしろ、リスク軽減とともに野放図だった強さも制約される傾向にありますが、それでも確率論的な期待を綺麗に裏切ってくれる面白さがあります。とりわけハイパーT&Tのハイパー・バーサークのルールはよく出来ていて、ゾロ目からさらに振り足していくというと、期待値の2倍から3倍はお茶の子さいさい。支援魔法なども乗れば、10倍を超えることもザラではありません。ハイパーT&Tのキャンペーンをやっていた際には、パーティ全員がバーサークすることもザラで(慰撫する要員も足りず、敵を倒せても)、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられたものでした。
 あるいは、同じハイパーT&Tで戦闘オプションとして正式採用された「攻撃をかいくぐっての攻撃」。受けるはずだったヒットをそのまま「無かったこと」にしたうえで、敵単体に直接ダメージを与えるという意味で、ブレイクスルーとしてのデザインは、いっそう明確になっています。なにせ、《これでもくらえ!》のような呪文をも、敵の攻撃をかいくぐって使うことができてしまうルールも、きちんと実装されているのですから。
 こうした「ブレイクスルー」の重要性は、オンラインセッションの時代には、いっそうはっきりしてきたように思えてなりません。伝統的なオフラインのセッションでは、卓上で振ることのできるダイスの数には限度がありました。20個、30個くらいまではなんとかロールできても、200個、300個となると容易ではありません。ですから私の場合は、一定個数を越えたダイスの算出は、デッドリーT&T方式(1d6をして、20倍なり30倍なり、200倍なり300倍なりすることで、多数のダイスを振ったものとみなす)を採用することが多くありました。
 しかし、オンラインセッションでダイスボットを使ってしまえば、200個でも300個でも、一瞬で振ることができますし、事前に設定をしておけば悪意ダメージやバーサーク戦闘の値をも、きちんと算出してくれます。そのうえで、それらを見越したうえで、なおのこと、どの程度戦局が膠着するのかも見定めやすくなりました——なにせ、サイコロは振れば振るほど、合計値は期待値へと近づいていくわけですから。このため、膠着状態をどう演出し、ブレイクスルーをどこに設けるのかをイメージしておくことの重要性は、いや増しているということができます。ゲームマスターは、いったんプレイヤーが創造的な行動をとったのであれば、すでにチャットボットにロールさせた攻撃ヒットの総計そのものを無視させてしまうくらいの潔さが、求められているように思えてなりません。
 T&Tのタクティカルな運用で名高い芝村裕吏氏が、「ノーダイスT&T」というプレイスタイルを提唱し、戦闘時にはダイスを振らず(セービング・ロールでは振りますが)、攻撃ヒットは期待値を採用し、多人数戦闘を前提としたシステムを生かしたパーティ分割のあり方と戦略性に特化した形でセッションをしているのは、こうしたデザイン発想をふまえたうえで、D&Dがスポットを当てたのとは、別個の形でのシミュレーションゲームへの創造的な回帰を模索した試みとして位置づけることも可能でしょう。

 それでは、T&Tの直系たる最新版の『モンスター!モンスター!TRPG』では、どのような戦闘演出が可能になるのか。私としては、このような課題が浮上してきているように思えます。バーサークの戦闘バランスこそいっそう抑えめになりましたが、各キャラクター同士の格差については、キャラクターメイキング時のTARO(3d6をしてすべてゾロ目ならば振り足し)や種族ごとの得意・不得意のはっきりした導入で、いっそう広がりました。
 T&Tの戦闘運用でいちばん頭を悩ませる毒のルールは健在ですが、カオス・ファクターのような大胆なルールも導入され、魔法は昔からのものもあれば、まったく新しいものも導入されている。予測もつかない変数が、さらに増えているのです。
 となれば、ゲームマスターは膠着状態をどのように設計し、それをどう打破させるのか? ソロアドベンチャーを書く際にも、多人数用のシナリオを書く際にも、重要になってくるポイントだと思うのです。このためには、ひとまず『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー 【ワールド編】』のような資料を読み込み、自然な解決策(「最適解」ではない)を引き出せるようにしておくことが大事なのではないかと思われます。


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