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2025年12月8日月曜日

新しい記事群のお知らせ! FT新聞 No.4702

おはようございます、自宅の書斎から杉本です。

──創作は生きものであり、生きものは常に少しずつその姿を変える。

いま創った言葉です。
なんとなく、ありそうな感じがしませんか。
FT新聞も、さまざまな局面で変化しながら続いています☆


◆創ったら、遊んでほしい。よね?
先日、名古屋で開催されたFTコンベンションで、ビックリしました。
FT書房が展開する「30分で遊ぶ1人用TRPG」の関連作品が、公式非公式を合わせると92作品にもなる、というのです。
その時から2ヶ月近くが経過した今では、100作品に届いているかもしれません。
……これはどうも、楽しいことが起こっているぞ?
私はすぐに、そう思いました。
それだけの作品が登場しているということは、作る以上にたくさんの人が遊んでいるはずです。
そして、そこに集まる熱量が、小さなものであるはずがない!
いったい、どんな作品が集まっているんだろう?

そこまで来たときに、私は思いました。
「作品が増えてるぶん、探すのが大変だぞ……?」
どんな作品があるのか、簡単な要約をまず読みたいナァ〜☆

そこで私は、FT新聞の編集部員である天狗ろむさんに連絡をしました。
Discordで作品制作のサーバ管理人をしていらっしゃるため、私以上に、ローグライクハーフの個人制作作品と、その作者の方々に近い位置にいらっしゃると、感じたからです。


◆新しい情報を!
そういうわけで、現在、「ローグライクハーフのサプリメント」を紹介する記事の準備が、進められております!
これを機にラインナップを確認させていただきましたが……すごい熱量ですよ、これらは。
共通世界アランツァに関しては、「よく研究されている……!」とうなるものばかりでしたし、オリジナルの世界観であれば、意欲的な作品性にいやがおうにも情熱が伝わってきます。
これは、紹介したい……!
はじめは、これらの記事を私が紹介していくことを考えていたのですが、今はまあまあ多忙です。
新作を書きながら、編集もやっています……もちろん、社長としての業務も。
だから、ここは、作者ご自身に書いていただいて、その魅力を存分に語っていただくのが吉、と考えました☆
そういうわけで、編集部員である天狗ろむさんを通じて、自己紹介をご希望の作者さんに、声をかけさせていただいている、というわけです。
読者の皆さまにおかれましては、今しばらくお待ちください……!


◆先行でチェックするならこちら!
紹介には及ばない、片っぱしから遊んでやるぜ!
そんなあなたには、私たちが運営する「ローグライクハーフwiki」のページアドレスのひとつを、置いておきます。
個人制作作品の一覧と、そのアドレスが置いてあります!

https://x.gd/FjYnY


◆余談。
いま、田林洋一氏によるFT新聞上の連載記事「SAGBがよくわかる本」の監修作業を行っております。
もっと面白くなるポテンシャルのある文章だと感じて、主張内容の伝わりやすさや分かりやすさなど、読みやすさと納得感に重点を置いて、文章を精査しています。
ただ、文章を磨いてはいますが、こちらの連載記事が書籍化するかどうかは、決まっていません。
応援の声がありましたら、おたよりに届けていただけると、ありがたいです☆



それではまた!



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2025年12月7日日曜日

『ベテルギウスの残光』ローグライクハーフd66シナリオ FT新聞 No.4701

おはようございます、FT新聞編集長の水波流です。

第1日曜日は、ローグライクハーフのシナリオ配信日!
本日お送りするのは、作:紫隠ねこ、原案:ロア=スペイダーというコンビによる新作d66シナリオ。
以前の告知で『龍脈温泉(仮)』という名前でお伝えしていたシナリオの完成版です!

++++++++++++++++++
おはようございます。紫隠ねこです。

今回は、ローグライクハーフの新作d66シナリオ『ベテルギウスの残光』をお送りいたします。
冒険の舞台は、ラドリド大陸の南西部に位置する町モフージャ。もふもふの毛に覆われた生物〈もふもふ獣〉と楽器の音色にあふれる町です。
この町で作られた公衆浴場〈ベテルギウス〉は、新しい観光名所になることを期待されていましたが、拡張工事中に【アンデッド】と呼ばれる不死のクリーチャーが出現。
同時に原因不明の地震が発生したことで、建設中だった別館は深刻なダメージを受け、多くの人が施設内に取り残された状態になっています。
モフージャの商業組合の依頼を受けた主人公は、この事態を解決するために、崩れかけたベテルギウスを探索します……。

今回の冒険では、事件の真相を突き止めるではなく、取り残された人たちを救助するという要素もあります。
ダンジョンを探索するのは、ローグライクハーフでは珍しくはありませんが、ガタガタの状態になった〈ベテルギウス〉そのものがトラップとなっています。
至る所がガレキだらけの施設内では、探索を進めるのも一筋縄ではいきません。自分の足元や、周りの状態には要注意!
たとえ戦闘が起きなかったとしても、思わぬ油断からパーティが危険に晒されることもあるでしょう。

いったい何が原因で、温泉施設の地下からアンデッドがわきだしてきたのか?
身動きのとれなくなった人たちを助けながら、主人公は事件の謎を追っていくことになります。その真相にたどり着けるかどうかは、主人公の活躍次第……。
動物たちと触れ合うだけではない、アランツァ世界の一部として描いたモフージャの冒険を楽しんで頂ければ幸いです。

ローグライクハーフd66シナリオ『ベテルギウスの残光』
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2025年12月6日土曜日

FT新聞1ウィーク! 第669号 FT新聞 No.4700

From:水波流
先週は、日本を訪れたゲームデザイナー、スティーブ・クロンプトンを囲む会に参加。
多くの日本人ファンとともに、トンネルズ&トロールズやモンスター!モンスター!の話を語り合った。
「The 7 Samurai !」と彼に言わしめた我ら日本の狂信的ファンは、移動する地下鉄の中でも完全版ルールブックを広げ、アフリカ投げナイフについて話をしていた。
彼は偉大なるケン・セント・アンドレからの手紙を我々に持ってきてくれた。
「私は小学生の頃にT&Tに出会い、その後中学生でストームブリンガーに熱中した。どちらもケンがデザインしたTRPGだと後から知った。彼に育てられたようなものだ」と彼に伝えたところ、
後にケンからFBで「Thanks, son!」とコメントが届いたのは嬉しかったなぁ。
ありがとうスティーブ!

From:葉山海月
今、ゲームブック書いてるんですが、パラグラフナンバー一つ重複ミスしただけで地獄を見ております!

From:天狗ろむ
早いものでもう12月!光陰矢の如しを噛み締めつつ、大事に過ごしていきたいものです。
寒さが日に日に増してきましたので、皆様どうぞ温かくしてお過ごし下さいね。

From:中山将平
僕今日と明日、大阪なんばOCAT1階正面広場で開催の「蛙びとの集い」という「かえる作家による手づくり市」に、個人として出店しています。
扱うのはフロッグファンタジー作品「カエルの勇者ケロナイツ」。本はまだですが、新作はできました。ぜひ遊びにお越しいただけましたら。


さて土曜日は一週間を振り返るまとめの日なので、今週の記事をご紹介します。
紹介文の執筆者は、以下の通りです。
(く)=くろやなぎ
(明)=明日槇悠
(葉)=葉山海月
(天)=天狗ろむ
(水)=水波流

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■11/30(日)~12/5(金)の記事一覧
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2025年11月30日(日)ロア・スペイダー FT新聞 No.4694

Re:ローグライクハーフ・町オプション【モフージャの町】&新職業【吟遊詩人】
・12月の新シナリオの舞台となる【モフージャの町】の「町オプション」と、その地で活躍する職業【吟遊詩人】のデータを再配信しました。
この、もふもふと楽器の音色があふれる素敵な町のルーツは、FT新聞で昨年行われた企画『みんなで作ろう! 融合冒険譚!』です。読者投稿から選ばれた3つのキーワード「龍脈」「もふもふ」「竪琴」を題材として、d33シナリオ『もふもふ龍に竪琴の調べは響くか』(2024/10/06配信、No.4274)とその舞台としてのモフージャの町が、ロア・スペイダー氏によって生み出されました。
モフージャがお久しぶりの方も、初めましての方も、もふもふとした装備品や従者たちのデータを眺めながら、新シナリオの配信を楽しみにお待ちください!
(く)


2025年12月1日(月)杉本=ヨハネ FT新聞 No.4695

☆新刊告知☆「ローグライクハーフ」サプリメント最新作!
・先週の金曜日、大阪港を訪れたスティーブ・クロンプトンをFT書房のメンバー4人を含む11人のファンが迎え、最高に楽しい1日となりました! そのレポートは、後日配信予定です。
話は変わりますが、キリスト教徒だからなのか、はじめはクトゥルフに関わる作品づくりが苦手だったという杉本氏。
ある知り合いの漫画家さんに相談したところ、「クトゥルフはもはや巨大ジャンル。好きに書いていい」とアドバイスを貰い、これをきっかけに克服できたそうです。
それで今年は入稿したばかりの『ズィムララのモンスターラリー モンスター編』の他にもう1冊、冒涜的なプレゼントがあるんです……!
中山将平著、「ローグライクハーフ」の最新サプリメント『クトゥウルウの聖なる邪神殿』が、この冬、あなたの正気をむしばみに参ります!
冬のコミックマーケットでは1日目、12月30日に「火曜日 東ソ01ab FT書房」として出展します! 楽しみにしていただけましたら、さいわいです☆
(明)


2025年12月2日(火)かなでひびき FT新聞 No.4696

これはゲームブックなのですか!? vol.126 
・バーチャル図書館委員長かなでひびき氏がゲームブックに関係ありそうでなさそうな周辺のよもやま話をしていきます。
今回紹介する作品は、『ないもの、あります』(クラフト・エヴィング商會:著 筑摩書房)
「左うちわ」に、「転ばぬ先の杖」ってホントにあったら欲しくありません?
かのクラフト・エヴィング商會が、その想像力を持って、そのような「慣用句的」商品を全力で商品化!? すべく当たりました。
アイディアのびっくり箱のような商品の数々は、きっとあなたのイマジネーションを刺激してやまないはず!
まさに大人の「遊び心」満載な逸品! どうぞお試しあれ!
(葉)


2025年12月3日(水)ぜろ FT新聞 No.4697

第16回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
・精緻な原作を深く豊かな解釈で描き直す、ぜろ氏のリプレイ第468回です。
〈跳兎の懐中時計〉の魔法で時を遡ったミナは、大切な仲間であるボラミーの弟・ビバイアの命を繋ぎ、自らの姉・ティナを救い出すことにも成功しました。あとは吸血鬼の館から脱出し、再びゴルジュへと辿り着き、吸血鬼化されてしまったもうひとりの姉・エナを元に戻さなければなりません。
エナが腕の中で崩れていく、あの絶望的な未来を変えるため、残された最後の悪夢袋とともに、ミナはゴルジュへの道を急ぎます。
(く)


2025年12月4日(木) 齊藤飛鳥 FT新聞 No.4698

齊藤飛鳥・小説リプレイvol.37『汝、獣となれ人となれ』 その1 
・児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによるTRPG小説リプレイをお届けしました。
『常闇の伴侶』『名付けられるべきではないもの』に続いて、冒険家乙女のクワニャウマとその相棒のエルフの少女イェシカの新たな冒険が始まります!
今回の依頼人は、〈蛮族都市フーウェイ〉の先に広がる〈太古の森〉に隠れ住む賢人、黒檀のメメコレオウス。
話を聞いた銀狼のまじない師ヴィドが言うには、夜の間に来い、と。
言いつけ通りに向かった先で、クワニャウマたちを待っていたのは……。
新たなもふもふ仲間も増えつつの導入篇、お見逃しなきよう!
(天)


2025年12月5日(金)休刊日 FT新聞 No.4699

休刊日のお知らせ 
・毎週金曜日は、読者から投稿された記事がここに入れるように、空けてある曜日です。
あなたの記事を、お待ちしております!
(葉)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■今週の読者様の声のご紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ひとことアンケートへのご意見をご紹介します。
紙面の都合で、一部省略させていただくかも知れませんが何とぞご了承くださいませ。
すべてのお便りは編集部が目を通し、執筆者に転送しておりますので、いろんなご意見やご感想をぜひお送り下さい。

↓↓

(忍者福島さん)
僕も、ヨグ・ソトースというはヨーグルトっす!って語感に似てるなあと思ってました。
名前だけ見ると美味そうな感じがしますね(笑)

(お返事:葉山海月)
ありがとうございます。
そうなんですよ。一度聞いたら耳にこびりついちゃって!
なんか「ヨグ・ソトース」と聞くと、口の中に甘酸っぱい感じがしてなりません(笑)


(ジャラル アフサラールさん)
NHKで間もなく最終回が放送される『雲霧仁左衛門ファイナル』でキーアイテムになっている名刀「数珠丸恒次」、刀剣乱舞のファンならご存じのこの名刀は日蓮聖人が登山中に杖代わりにすると不思議と転ばなかったという逸話があり、そのことから商売に「ころばない」という事で豪商達が縁起物として入手したがる設定で、それを盗賊である雲霧仁左衛門が狙い…という話で、この「縁起物」設定はドラマオリジナルだと思いますが(数珠丸恒次は江戸時代に行方不明になっている)『ないもの、あります』に入っていても不思議ではないです。

(お返事:かなでひびき)
おたよりありがとうございます。
なるほどねー。リアルでそんなエピソードがあるとは!
ここら辺の「現実は小説より奇なり」というか「現実に虚構が混じりこむ」感じがいたします。
かなで、そういうエピソード大好きです。
勉強になりましたぁ!


(ぜろさん)
飛鳥さんのリプレイ、お待ちしてました。
待ちくたびれて、「シニカル探偵安土真」を6巻まで読了し、続刊読みたさから「へなちょこ探偵24じ」に手をのばし、安土くんと同じ舞台で地図までついてることに狂喜乱舞し、2作品の登場人物が語られていないところでニアミスしているだろうことに心ときめかせていました。
私は私で、前に感想で触れさせていただいた、闇エルフ中心のゲームブックリプレイを掲載させていただきました。未プレイ作品だと読めていないかもしれませんが。
さて、今回のリプレイですが、鉄板主人公のクワニャウマさん、間隙の冒険も経て、猟犬チャウチャウまで加わり、かなりお強くなっているのでしょうね。それにしても猟犬の名前が独特です。一匹解説好きそうなお方がいますが、それっぽい描写は今後出てくるのでしょうか。私だったらどう名づけるかと思った瞬間に思い浮かんだのは「ミザール」「イワザール」「キカザール」で、犬なのに猿か!とセルフツッコミを入れてしまいました。この先の展開も含め、楽しみにしております。

(お返事:齊藤飛鳥)
拙リプレイをお待ちして下さっていたばかりか、拙作をお読み下さり、なおかつ感想も下さって、まことにありがとうございますm(_ _)m♪
ぜろさんのリプレイ作品は、未プレイ作品でしたので、ネタバレを踏まないよう、一話だけを拝読しました。主人公をボクっ娘エルフにアレンジされているとの一文で、主人公があらかじめ設定されているゲームブックのリプレイの書き方の勉強になりました^^
前回の『名付けられるべきではないもの』で、たくさん苦戦したので、クワニャウマの技量点と魔術点を中心に上げて、今回の冒険に挑みました。
ぜろさんが考えられた名前を見て、「そう言えば、雷電は三猿を連れていたような……」と、またも男塾脳になりました^^b
『汝、獣となれ人となれ』リプレイも、一筋縄ではいかない展開になりましたので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。


(忍者福島さん)
イェシカが3匹の猟犬に、雷電・飛燕・月光と名付けたとは、なんでもいろいろ知ってたり針を飛びしてきそうな名前ですなあ(笑)
あとクワニャウマは見切り品とか名付けたりしない分、まだ少しはネーミングセンスあるのかと(思ったけど、やっぱ無い気がする・笑)

(お返事:齊藤飛鳥)
御感想下さり、嬉しいです。ありがとうございますm(_ _)m
中には、生来目が見えなさそうな名前のワンコもおります(笑)
クワニャウマなりの愛情表現が発露したネーミングセンス……なわけないですね(笑)


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2025年12月4日木曜日

齊藤飛鳥・小説リプレイvol.37『汝、獣となれ人となれ』その1 FT新聞 No.4698

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.37
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今回は、『汝、獣となれ人となれ』リプレイの導入篇です! 
『常闇の伴侶』で初めてローグライクハーフをプレイして以来、ゲームブックにして一人用TRPGでもあるこのゲームにすっかりハマってしまいました。
そこで、来たるべき新たな冒険に向け、自分の冒険者であるクワニャウマの経験点を上げておこうと、ルールに一緒にあった『黄昏の騎士』と、運よくFT新聞様を見た日に出会った『幽霊屋敷の果実酒』を冒険しました。
同時に、前回『名付けられるべきではないもの』で苦戦したので、次回はそうならないよう、ルールを読み直したり、FT新聞様に掲載されていたローグライクハーフの遊び方を読んで勉強したりしました。
このおかげで、クワニャウマの従者点にだいぶ余裕があることに気づけました。
そこへ、うまい具合にFT新聞様にフーウェイの都市オプションなるものが掲載されておりましたので、そちらで初めて冒険開始前に猟犬(戦う従者)を購入しました。
従者に猟犬を選んだのは、「ワンコなら台詞や個性を考えなくてもいいから」という、かなりしょうもない理由でしたが、その分、犬種は自分の好み全開に設定しました。
選んだ動機は不純でしたが、今回の冒険で猟犬達を従者に選んだのは大当たりで、とても助けられました。どのように助けられたのかはまた別の機会に譲るとして、まずは『汝、獣となれ人となれ』について語らせていただきます。
『常闇の伴侶』でマイノリティと宗教問題、『名付けられるべきではないもの』で尊厳死とアイデンティティと、骨太なテーマを扱ってきた〈太古の森〉の冒険ですが、今回は前二作のテーマすべてを網羅してきております。まさに、重量級で鉄骨クラスの骨太っぷりです。それでも重苦しい物語にならないのは、今回の仲間キャラであるクリスティのおかげでしょう。
陽気な関西弁コビット娘で、この物語における光を一身に背負っていると言っても過言ではない名キャラクターの彼女は、ともすれば重厚なテーマの物語を明るく軽やかに彩ってくれます^^
そして、今回旅の仲間がクリスティのおかげで、女の子達とワンコと小鳥という、私の冒険の中で過去最高にかわいいパーティー編成となりました。
きっと、今回はほのぼのとした冒険になるんだろうな☆
……そう思っていた冒険開始直後の自分が、懐かしいです。


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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ローグライクハーフ
『汝、獣となれ人となれ』リプレイ
その1

齊藤(羽生)飛鳥
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0:プロローグ
わたしの名は、クワニャウマ。
趣味は節約、特技は損得勘定。漆黒の髪とイエベ肌に金褐色の瞳が特徴の、強欲冒険家乙女だ。そのせいか、模範的な魔術師なのに、よく盗賊に間違えられる。
髪はまた切って三つ編みの二つ結びに戻し、いくつかの冒険を経て革鎧と斧を買って装備している。
旅の相棒は、エルフの少女・イェシカ。魔犬獣の毛皮の犬耳付きローブを装備していて、かわいさに磨きがかかっているランタン持ちだ。強欲で損得勘定命の邪悪なわたしに無償で心を開いてくれているし、受け入れてもくれている生ける奇跡だ。ようするに、わたしの宝だ。
ところで、わたしが今もこうしてイェシカと充実した冒険家生活を送れているのは、あるエルフの青年のおかげでもある。
その名は、ファラサール。
自分の命をぶん投げ、無料でわたしの命を救ってくれた彼への恩返しのため、その勇敢な人生を一人でも多くの人間に知ってもらおうと、吟遊詩人を雇って彼を讃える歌を作ってもらうための資金集めが、目下の冒険の目標だ。
そこで、〈太古の森〉の冒険を終えた後、初秋には自治都市トーンへ行って幽霊屋敷へ果実酒の原材料を取りに行く冒険を、晩冬には聖フランチェスコ市へ行って黄昏の騎士退治と、がんばって荒稼ぎをしてきた。
でも、吟遊詩人に歌を作ってもらう料金には、まだまだ届かない。
それに最近、ちょっとイェシカの元気がない。トーンで友達になったミッチという少女と別れたせいかも。
でも、あそこではミッチの祖母を2回も瀕死にしかけたから、正直戻りづらい。
そこで、イェシカの顔なじみがいる蛮族都市フーウェイへ顔を出すことにした。

フーウェイには、何度か来たことがある。
市場のある通りを歩いていると、イェシカが急に立ち止まった。
「どうしたの、イェシカ。何かいいものを見つけたの?」
見れば、イェシカは新しくできた犬舎の前に立ち止まり、食い入るように柵の向こうで思い思いに動き回っている猟犬達を見ていた。
イェシカは耳こそ聞こえないけど、目はいい。
今もきれいな瞳をキラキラと輝かせ、猟犬達を見つめるその横顔は、いくら大金を積んでも見られそうにないほど天使だった。
「最近荒稼ぎして従者を雇う余裕があるから、次の冒険に備えてここの猟犬達を買っていこうか。どの子がいいか、イェシカが選んでくれる?」
猟犬の値段は、一頭につき金貨7枚。
現在の所持金は、金貨153枚。余裕よゆー。

「……で、イェシカが3頭も猟犬を選んだから、いきなり大所帯になったのか」
日暮れ前の蛮族都市の広場で骰子賭博の胴元をしていた、顔なじみの銀狼のまじない師ヴィドが、笑いをこらえながらわたし達を見る。
カリウキ氏族の集落まで行く手間が省けたのでいいけど、意外な副業を持っているものだ。
「チャウチャウっていうの? 異国の珍しい犬種ですごくかわいいんで、イェシカがすっかりメロメロになっちゃってね。名前も付けたんだよね、イェシカ」
わたしが話しかけると、イェシカは慣れた手つきで首から下げていた石板にチョークで言葉を書いていく。
読唇術を習得していて、わたしたちの言語を理解できるイェシカだけど、話せるのは古代語のみ。それだと、下手したら彼女の真の素性がばれる危険があるので、外では用心のため、石板とチョークによる筆談でコミュニケーションを取るようにしてもらっている。
〈向かって左から、雷電。飛燕。月光〉
「……本当にイェシカがつけた名前なのか?」
ヴィドが疑うように私を見る。
「もちろんよ、ヴィド。わたしなら、特売、割引、半額って名付けるわ」
「それもそうか」
「イェシカはその点、おしゃれなネーミングセンスよ。この前の冒険で手に入れたウォー・ドールには、ニコライ・ボルコフって名前をつけていたからね」
「起動した暁には、スクリュードライバーを繰り出しそうなネーミングだな……」
ヴィドは、若干遠い目をしてから、ふと何か思い出したように急に真顔になった。
「そういや、〈太古の森〉に隠れ住む名高い賢人にして闇の魔獣の黒檀のメメコレオウスが、どういう訳だかお前さんをご指名だとよ」
「は? なに? 黒檀のメメコレオウスって誰?」
「ちょっと待ってろ。今、骰子賭博を開く時刻になったから」
そう言ってヴィドは焚火の傍らで獣骨の賽を振る。たちまち歓声が上がり、今日も一仕事を終えた〈男〉たちが賭博の客として集まり、彼の出目に一喜一憂し始める。
「黒檀のメメコレオウスは、お前さんがイェシカと出会った冒険をしていた時から、目をつけていたんだとよ」
骰子を振りながら、ヴィドが言う。
「何それ? イェシカ狙いだったら、灰にしなきゃ……」
「そうドン引くなよ。偉大な賢人なんだから」
「本当?」
うさんくさい賢人に、わたしが警戒していると、イェシカがわたしの背中をツンツンとつつき、石板を見せてきた。
石板には、こう書かれていた。
〈こくたんのメメコレオウス様は、おなやみ相談にのってくれる賢人。会えるのは、とても幸運。声をかけてもらうのは、もっと幸運〉
「〈太古の森〉育ちのイェシカが言うなら、間違いないわね。それで、どんな人なの?」
「俺よりイェシカを信用するのかよ……別にいいがな。話は戻るが、黒檀のメメコレオウスは、醜い老人の顔に獅子の身体と蝙蝠の翼、尾には猛毒の針を持つ魔獣だ」
「賢人なのか魔獣なのかはっきりせいと思ったけど、その両方の外見だから、あの説明だったってわけね」
「とにかく、行って来いよ。俺は御呼びじゃないようだしな」
用事はそれまでと言った風情で、骰子賭博に集中し始めたヴィドにため息をつくと、わたしたちは輪をそっと離れた。
偉大な賢人が、強欲を美徳とする偉大な俗物であるわたしに何の用があるというのだろう?
あわよくば、一攫千金なもうけ話につながればよいのだが。
「ああ、1つ忘れてた」
背中から声が掛けられる。振り返るとヴィドは不可解な表情でわたしをじっと見つめている。
「奴さん、"必ず夜の間に来い"とさ」

金もうけで最も大事なことは、約束を守ること。
よって、遅刻なんてもってのほか。
わたしは、イェシカと一緒に深夜の〈太古の森〉を苦労して横断し、なんとか夜明け前にヴィドから教わった洞窟の前に辿り着いた。
「ようやくのお出ましかね」
冥府の闇から語りかけてくるようなぞっとする声が響き渡る。
やがてのそりと姿を現したのは、醜い老人の顔に獅子の身体と蝙蝠の翼、尾には猛毒の針を持つ魔獣の姿だ。
間違いない。彼こそが、賢人にして闇の魔獣の黒檀のメメコレオウスだ。
「初めまして。あなたのご指名を受けたクワニャウマよ。ヴィドからの伝言、しっかり受け取ったわ」
「ならば、話が早い」
闇の賢人は鷹揚に頷き奥の闇に呼び掛けた。
「こやつの口から直接語らせる方が良かろう」
おずおずと踏み出してきたのはコビットの女だ。
「ウチはクリスティ。冒険家や」
「遺跡荒らしとも言うがな」
「余計なお世話や」
漫才のようなトークをできるとは、闇の賢人はお高くとまった人柄ではないようだ。
含み笑いをする魔獣を睨み終えた後、クリスティはわたしへ話しかけてくる。
「〈太古の森〉には、旧い神々を祀る遺跡が沢山あるのはアンタも知ってるやろ」
「ヴィンドランダ遺跡群……だよね? この地に蛮族が住まい、フーウェイの街を開くよりもはるか昔からこの森にあるといわれる遺跡でしょ? 知っているわ。その区域では、今でも手つかずの財宝が見つかる事があって、冒険家の間ではよく名前が知られているからね」
強欲なわたしが今の今まで手を出していないのは、案内人なしの遺跡発掘には危険が多いのと、案内人を雇う料金が高額だからだ。
得るもの少なく出費がかさむ見込みが高い冒険ほど、わたしの美学に反するものはない。
「そのうちの1つを探索中に、呪いにやられたんよ」
「呪い……?」
あきらかに、やばい予感しかしない。
クリスティは少し俯くと陰りを帯びた表情で語り始めた。
要約すると、彼女は相棒と遺跡を冒険中、獣神セリオンを祀る古ぼけた祠に隠された隧道を発見。その先にあった気味の悪い獣の神像の口に手を突っこんだら、呪いにかかってしまったという。
さらには、相棒とはぐれるは、怪物と遭遇してしまうは、さんざんな目に遭い、必死に助けを求めて無我夢中に逃げ回るうちにメメコレオウスと出会ったそうだ。
なんて過酷な話だ。
でも、クリスティのジェスチャを交えた軽妙な語り口が面白くて、悲壮感がまったく感じられん。
そこまで話した時、丁度、朝の光が洞窟に差し込む。
クリスティは呻き声を上げると、その場に崩れ落ちた。慌てて駆け寄ったわたしの前で、彼女の姿はみるみると変化してゆく。
小さなミソサザイが、悲しそうな目で君を見つめていた。
「……なるほど、これが呪いという訳ね」
イェシカが驚いて、猟犬たちにくっついてプルプルと震えている。今まで驚いたらわたしにくっついてくれたのに、ちょっぴり寂しいが、これも彼女が成長した証と思おう。
わたしがしみじみしていると、メメコレオウスがわたしへ話しかけてきた。
「その遺跡へ赴き、旧き神の神像を調べてきてほしいのだ。そのついでにこやつの連れとやらも探してやればよかろう」
「どうして、あんたがそんな依頼をするの? クリスティの話によると初対面ぽいよね?」
闇の賢人はふんと鼻を鳴らして呟いた。
「ヴィンドランダに眠る旧き神の信仰には以前から興味があったのだ。だが儂自らがわざわざ出向くほどの事でもない。諸君らのような射倖心に溢れる輩には丁度良い稼ぎになろう」
「メメコレオウス様、愛してます」
「間に合っておる。まったく、戯言を言っておらんで早く旅立ってやらんか」
見れば、いつの間にかわたしの肩に留まったミソサザイが、後押しするかのようにか細い声でさえずる。
「そうだった。一刻も早く宝を見つけて、あんたとその相棒と遺跡の宝を山分けしないとね。わたしが8で、あんたと相棒が1ずつでいいよね?」
ミソサザイが、器用に羽を「なんでやねん!」と言いたげに動いた。器用だな。
わたしたちは、夜明けの洞窟を後にし、朝靄にけぶる遺跡探索へ向かった。


(続く)

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。最近は、そこにローグライクハーフが加わった。
2025年現在、『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を6巻まで刊行中。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2024年6月に『歌人探偵定家』(東京創元社)を、同年11月29日に『賊徒、暁に千里を奔る』(KADOKAWA)を刊行。2025年5月16日刊行の「小説すばる」6月号(集英社)に、読切『白拍子微妙 鎌倉にて曲水の宴に立ち会うこと』が掲載。同年8月1日に『女人太平記』(PHP研究所)が刊行。

初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『汝、獣となれ人となれ』
著 水波流
2025年9月7日FT新聞配信


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2025年12月3日水曜日

第16回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ FT新聞 No.4697

第16回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ

※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。


ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」リプレイです。
主人公ミナは、エルフ7姉妹の末妹。奴隷商人に売られた姉たちを探す旅を始めました。
闇神オスクリードの加護を得た魔法の時計を駆使し、「還らずの森」深くの吸血鬼の館に赴きます。
闇神の戯れによる時の繰り返しに気づき一度は絶望しますが、ボラミーという随伴者を得て、脆く壊れそうな心を奮い立たせます。
ボラミーとの関係を深めながら旅は続き、いよいよ目的のローズ家の館へ。
ボラミーの弟ビバイアの救出。そしてティナ姉との再会。<跳兎の懐中時計>が大活躍です。
そして今回は、マルティンとの対決、そしてエナ姉を救うためミナがゴルジュへ向かうパート。
いよいよクライマックスです。


【ミナ 体力点4/4 悪夢袋2/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<沙羅双樹の予知時計>いつでも選択肢の先の未来を予知できる。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。


●アタック03-12 マルティン・ローズとこどもたち

<跳兎の懐中時計>で時を遡り、亡くなる前のビバイアに聖水を与えて命を繋いだ。
そしてまた<跳兎の懐中時計>で時を遡り、拷問部屋に囚われていた、命を落とす前のティナ姉を救出した。

今、ボクは現在に戻り、地下のワイン蔵で、階段を降りてきた甲高い靴音の主、ローズ家の当主たる吸血鬼マルティン・ローズと対峙したところだ。
青白い顔をした背の高い男が、ボクの前に立っている。唇の端に見える鋭い牙が、その男が吸血鬼だと主張している。

「侵入者が闇エルフとはな。ネフェルロックの手の者とは思えぬが」
「そんな奴関係ない。ボクは姉さんを取り戻しに来たんだ」

それを聞くと、吸血鬼はボクをあざ笑った。

「そうか。貴様はエルフだった者か。姉を救うため闇落ちするとは哀れなものよ」
「だからなんだ。エナ姉を返してもらう」
「それは無理だ。なぜなら貴様はここで死ぬからだ」

マルティン・ローズはその太い腕でボクを殴りつけてくる。
ダメージを負いながらも、すかさず<速撃の戦時計>を起動したボクは、吸血鬼の脇を抜けて階段をかけ上がった。
これで悪夢袋はあとひとつになってしまった。できればエナ姉を助けるために温存したかった。けど、一瞬の判断の遅れが死を招くタイミングだった。
マルティンは激しい足音を立てながら追ってくる。ボクはそのまま1階の廊下を走る。

ビバイアの部屋のドアが開いて、ボラミーが飛び出してきた。

「ミナ! 急にいなくなって……おまえはマルティン!」

ボラミーは父を名前で呼んだ。

「まさか……ボラミーか?」
「吸血鬼の父親を持った覚えはない!」

ボラミーは容赦なくマルティンに剣を振るった。
その剣は吸血鬼の胸元を傷つけ、赤黒い血が飛び散った。

「悪い子だ。……罰が必要なようだな」

マルティンの傷はもう治り始めている。吸血鬼の脅威の再生力を目の当たりにした。
ボクたちは吸血鬼の弱点を持っていない。どうしたら勝てるのか。

ボクはボラミーに目くばせすると、ビバイアの部屋に飛び込んだ。
廊下より少し広くなった空間で、ボクは剣を振るう。
それはマルティンの腕を浅く傷つけるが、すぐに回復されてしまう。
<速撃の戦時計>で素早くなっているボクは、マルティンの攻撃を避け続ける。

戦いは、こう着状態に陥った。しかしそれは長くは続かない。
すぐに、すごい勢いで回転していた<速撃の戦時計>の針がその動きを止めた。

不意にボクの動きが重く、遅くなる。時間切れだ。
マルティンはボクの胸ぐらをつかみ上げ、首を締め上げた。苦しい……!

そのとき、ボクの合図を受けて部屋の奥へと動いていたボラミーが、部屋の戸板を剣で派手に壊した。
激しい音とともに戸板が砕け、薄暗かった部屋に光が差し込む。太陽の光だ。マルティンは、その光をもろに浴びてしまった。

「光を……たわけ……!」

腕の力がゆるみ、ボクは解放された。床に膝をつき、ぜいぜいと息を吐くボクの隣で、吸血鬼は塵と化してゆく。
ベッドの陰に隠れていたビバイアも姿を見せた。複雑そうな視線で父、マルティンの最期を見つめる。

「父は、手段はどうあれ、私の病気を治そうとしていた。それに、私の意向を汲んで吸血鬼にしようとはしなかった……」
「そうか。マルティンは、ビバイアにとっての父であろうとしていたのだな」

吸血鬼になったとはいえ、ビバイアにとっては何年もともに過ごした肉親には違いなかった。
愛された記憶がなく、早くに父を見限って家を出た姉ボラミーとは根本的なところが違うのだろう。

不死であるはずのマルティンの命は、今まさに尽きようとしていた。

「父さん……」

しかしマルティンは、ビバイアを一瞥することもなく、ボクの方をにらみつけていた。

「闇エルフの女よ。貴様の姉は『ゴルジュ』にいる。貴様はそこで絶望を知ることになる」

マルティンは呪詛の言葉を言い残し、完全に崩れ去った。
『ゴルジュ』という単語とともに、脳裏に崖から飛び降りるエナ姉の姿がフラッシュバックした。
あの場所が……ゴルジュ……。

「最後の最後にビバイアの方を見ようともしないとはな」

ビバイアの頭をそっと抱き寄せながら、ボラミーはつぶやいた。

「あの男は妻……つまり、私たちの母を亡くして変わってしまった。不死を求める研究に没頭するようになったんだ。最初は、母を蘇らせようとしていたんだと思う。しかしいつしか死を恐れるあまり、自身の不死を求めるようになっていった。弱い男だったのさ……」

その言葉とは裏腹に、ボラミーの複雑な表情からは、一抹の寂しさが感じられた。


●アタック03-13 狂える魔女のゴルジュ

「もう大丈夫だよ。出ておいで」

ビバイアが声をかけると、カーテンの陰から一人の女性が出てきた。

「ミナ! 無事だったのね」

それは、ティナ姉だった。

「父のところから逃げてきたというから、ここでかくまっていたんだ。ミナの名前を出したからピンときた。君のお姉さんでしょう?」
「ミナ、私の目の前から突然消えてしまったけれど、10日後に会いに来るって、約束してくれたものね」

ボクはティナ姉と再会を喜びあった。

「ところでミナ、こんなことを言ったら変に思うかもしれないが。私はまた、ミナに助けられたんじゃないかと思っていることがある」

ボラミーがそんなことを言い出した。

「ビバイアが言うには、しばらく前にミナが現れて、私が用意した聖水を与えてくれたというんだ。ビバイアが見せてくれた聖水の瓶は、たしかに私が持っていたものだ。そして今の私は、持っていたはずの聖水を持っていない。ミナの持つ不思議な魔法の力で、過去のビバイアに聖水を与えて病気を癒してくれたのではないかと思ってね」
「私のところにも10日前にミナが現れて、拘束を解いてくれたんです」

「……宝物は大切にしないとね」

ボクはあいまいな笑みで返しておいた。
いくらなかったことになったとはいえ、ビバイアが死んでいたなんて話、ボラミーには聞かせたくない。

それよりも、ボクはエナ姉を助けるため、ゴルジュへ行きたい。
するとビバイアが、ゴルジュについて教えてくれた。

森の中の渓谷。陽の当たらない場所。父マルティンがよく行っていた。
ただ、わざわざそちらに連れて行った理由がわからないという。
ゴルジュでエナ姉を助けられなかった未来を鮮明に覚えているボクには、その理由に思い当たるところがあった。

マルティンは、ビバイアの治療のために効果があると信じ、エルフの血を欲していた。
エルフの血と、吸血鬼化したエルフの血。しかしエナ姉を館で吸血鬼にしてしまうと、強烈な吸血衝動に負けて、ビバイアが血を吸われてしまうかもしれない。
それでマルティンは、エナ姉をゴルジュに連れて行ったんだ。そこで吸血鬼にするために。

ボラミーは、ボクに同行を申し出た。けれどボクは断った。
それより、ティナ姉を守ってほしいとお願いした。
その結果、ボラミーはビバイアとティナ姉を連れて外縁の村へと向かうことになった。

「ミナのお姉さんのことは任せておいて。ミナも必ず戻って、私の家へ来るんだよ」
「うん。約束する」

ボクはボラミーと約束を交わした。

「ミナ……気をつけて」
「ティナ姉は待ってて。きっと、エナ姉も連れて戻るから」

ボクは急ぎゴルジュへ向かう。
最後の死のいまわしい記憶は、鮮明に覚えている。
あのとき、エナ姉がゴルジュで川べりに立っていたのは、絶望し、まさにこれから身を投げるところだったと思う。
ボクの到着が少しでも遅かったなら、顔を合わせることもできなかったかもしれない。

だから、急がなければ。
到着が少しでも遅れたら、間に合わないかもしれない。
悪夢袋はあとひとつ。ひとつしかない。
けれど、記憶にあるボクには、魔法はひとつも残っていなかった。
ひとつあれば、できることもある。
それを信じて進むだけだ。

ボクは夜通し歩き続けた。ゴルジュに到着したのは夜明け前だ。

岩肌が削り取られてできたその渓谷は深くえぐれており、異様な空気を漂わせている。
それはまるで、森にできた裂け目だ。底からは川が流れている音がする。この川が、長い年月をかけ、岩肌を浸食し続けたのだ。

渓谷の底は、太陽光がほとんど射し込まない。
吸血鬼が屋内ではなく、外で活動するにはもってこいの場所だ。

ボクは谷底へと至る狭い道を見つけると、慎重に谷底まで降りていく。
川音が激しい。聞き覚えのある激流の音だ。

谷底には広めの空間が広がっている。さらに一段下には、川がしぶきを上げてごうごうと流れている。
ボクはエナ姉を探した。記憶にある、立っていたあの場所にいるのか、それともまだ、付近のどこかにいるのか。

お願い。間に合っていてくれ。

エナ姉は、ボクの記憶にあるとおりの場所に、ボクに背を向け立っていた。
視線の先は、激流に向いている。

急がないと。

近づいてから声をかけた方が、飛び降りる前に止められる可能性は高い。
けど、近づく前に飛び降りられたら、おしまいだ。

ボクはエナ姉に駆け寄りながら、声の限りに呼びかけた。

「エナ姉! 助けに来たよ!!」

エナ姉は、ボクの声に気がつき、振り向いた。
その瞳は深紅に染まっており、口の端からは、鋭い牙がのぞいていた。

「ミナ?!」
「エナ姉! 待ってて。今そこに行く」

エナ姉はすぐに驚愕から立ち直り、ボクにそっと笑みを向けた。

「助けに来てくれたのね。ありがとう。でも、いいの。私は吸血鬼になってしまった。もう、一緒には生きられない」
「きっと、なんとかする。だから、待っていて!」

エナ姉は、ゆっくりとかぶりを振った。

「ありがとう。あなたが来てくれたことが、私の宝物。それだけで十分」

ボクは駆け寄りながら、力の限り叫んだ。

「誓ったんだ。どれだけ罪を重ねても、愛を裏切らないって。だから……!」

エナ姉は答えた。

「愛を裏切らない。私がどんな運命をたどろうとも」

そしてエナ姉は、自ら激流に身を投げた。


●アタック03-14 最後の魔法

間に合わなかった。止められなかった!

吸血鬼は、知性を保ったまま不死性を得るのと引き換えに、多くの弱点を抱えている。
流れる水を渡れない。これも弱点のひとつだ。
清らかな水によって、洗い清められてしまうためだといわれている。

ボクの腕の中で崩れていくエナ姉。その記憶が鮮明に浮かび上がる。
あきらめない!

ボクはエナ姉を追って川へと飛び込む。
激流の中、必死にエナ姉に近づく。エナ姉の身体は、もう崩れ始めている。

間に合え!

ボクは、エナ姉のもとまで、どうにか泳ぎ切った。
ボクの手が、エナ姉に触れる。エナ姉の意識は、まだあった。

「ミナ……。こんなところまで来るなんて……ばかな子……」

エナ姉は、愛おしそうにそう言った。
ボクはかまわず、激流に飲まれそうになりながら、魔法の時計を取り出した。
ボクが出したのは、<時もどしの回復時計>だ。柔らかな緑色の時計。
悪夢袋は最後のひとつ。これが今使える最後の魔法になる。

時計を動かすと、針がゆるやかに逆回りに動き始める。
秒針がちりん、ちりんと風鈴のような心地よい音色を奏でる。不思議なことに、川の流れの轟音の中にあっても、その音色は心に響いた。
ボクはその盤面を、エナ姉の方に向ける。

この時計は、明け方にのみ働く特殊な時計だ。まさに、今の時間がそれにあたる。
そして、身体に受けた悪い効果を、すべて回復するのだ。

エナ姉の身体がほのかに緑色に光る。崩れていく身体がもとの形を取り戻していく。
それだけではない。
深紅に染まっていた瞳の色が、鋭く尖った牙が、もとのエルフの姿を取り戻してゆく。
<時もどしの回復時計>は、エナ姉の身体を「もとどおりにした」。

それは、吸血鬼化をも無効にする、絶大な効果だった。
エナ姉は、崩れない身体に、柔らかな回復に、なにが起きたかわからないという顔をしている。
だから、ボクははっきりと宣言した。

「エナ姉はもう吸血鬼じゃない」

激流の中、流れに身を任せながら、ボクとエナ姉はかたく抱擁した。

次はどうやって、この流れから抜け出すか、知恵を絞らなければ。
両側は崖。せめて手がかりや、つかめそうな枝でもあればいいけれど、深い渓谷のためか、そんな都合の良い植生はない。
冷たい水は、容赦なくボクたちの体温を奪ってゆく。
悪夢袋は使い切った。魔法にはもう、頼れない。

そんな時、エナ姉がなにかに気がついた。

「あれは……スノウシャーク」

それは助けではない。新たな危機だった。
普段は豪雪地帯の雪の中にひそみ、雪の中を水中を泳ぐように移動することからその名がついた。
外見も、サメに似ている。
雪解けの時期には、雪解け水に乗って川に出ることもある。
何匹かの群れで行動する。

それらの基礎知識は、今のボクには思い出す余裕もない。
知ったとしても対処のしようもない。

エナ姉はまだ動ける状態ではなく、ボクに身体を預けている。
スノウシャークは今にもボクらに襲いかかろうとしている。

攻撃をかわす。どうやって?
左右に避ける? 流れに身を任せる? それとも……。

「潜るよ」

ボクはエナ姉に言うと、一気に川底へと潜った。
今までボクたちがいたところを、スノウシャークの魚影が通り過ぎていく。
息の続く限り潜り続ける。川底の流れは水面とは違う。
変な流れや渦に呑まれれば、水面に上がることさえできなくなってしまう危険な賭けだ。
特に水底の深さが違う場所などでは、水流が深みで滞留している場合がある。
川遊びでの水難事故は、こうした予備知識なしに深みに潜った場合などに起きがちだ。

ギリギリまで息を止め、一気に水面まで上がった。
水の流れはボクたちに味方してくれたみたいで、特に抵抗なく水面に上がることができた。
しかし、今度は流れがゆるやかになってきた。

これでは、スノウシャークたちの格好の的になってしまう。
いよいよなす術がなくなった。水の流れの中では、できることなどたかが知れている。

ところが、スノウシャークたちはその身をひるがえし、すうっと去っていくではないか。
理由はわからないけれど、ボクたちは助かったらしい。
スノウシャークたちが引き返した理由は、後で知った。
湖口には漁師たちが捕獲用の網を設置している時期があり、警戒心が強いスノウシャークは湖までは入り込まないのだそうだ。

そう。ここは、川が湖に繋がる湖口だった。
ボクたちはいつの間にか、川の終点まで流されていたんだ。
もう、ゴルジュのような断崖はない。ボクたちは湖の岸辺にどうにか泳ぎつき、その身を横たえた。

体が重い。

エナ姉もボクも、すぐには動けそうにないほどに、疲れ切っていた。
けれど、それでも、ボクの心は喜びに満ちあふれていた。

エナ姉を、救うことができたのだから。


次回、この物語は幕を閉じる。しかし姉たちを探す旅は終わらない。


【ミナ 体力点4→2/4 悪夢袋2→0/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
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<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。


■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
ボラミー 森の外縁の村にいた女剣士。ミナとともに森へと赴く。
ねこ人 黒ねこ人の旅人。希少種族。
ネフェルロック 闇エルフの隠れ里の長。ミナの力の源を欲している。
キーウ 初老のノーム。「還らずの森」の研究家。
ビバイア・ローズ ローズ家の病気の息子。
フェルナンド・ウティリヌス 通称フェル。森の案内人をしているノーム。
マルティン・ローズ ローズ家の当主。吸血鬼。
マイトレーヤ 時計塔を守るゴーレム。
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
テクア からくりの神。ノームにからくりの知識を授けたとも言われる。


■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/4897513


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2025年12月2日火曜日

これはゲームブックなのですか!? vol.126 FT新聞 No.4696

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『これはゲームブックなのですか!?』vol.126

 かなでひびき
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 ドラえもんの道具じゃございませんが、「左うちわ」に、「転ばぬ先の杖」ってホントにあったら欲しくありません?
 だけど、いざ実現すると、なかなか解決すべき課題が出てくるようで……。
 というわけで、今回紹介する本は『ないもの、あります』(クラフト・エヴィング商會:著 筑摩書房)だよ!

 この本には、慣用句を実際の「商品」として扱っているカタログ。
「堪忍袋の緒」「自分を上げる棚」のように、「お?これってお役立ちかな?」と思うものから、「一筋縄」「冥途の土産」など「なんじゃそれは?」と首をかしげたくなるものまで26アイテムがずらりそろってる!
 で、それが実際に使われるとなると、どういったメリットがあるのか、それで引き起こされるデメリットは何なのか、ユーモアたっぷりに紹介している。
 例えば、「転ばぬ先の杖」は、一生手放すことができなくなる。
 なぜなら、逆に言えば、それを手放すことは転倒につながるから。
「捕らぬ狸のジャンパー」は、はだかの王様の服ライクに、そもそも「存在しない」ものを商品として売っている。
 だって、ジャンパーの材料である「狸」は、まだ捕まっていないから!
 まさに、この本のタイトル通り「ないものを売る」っていうコンセプト。
 ついでに、料金はフリーってことなので、そもそも「売り物かどうか?」もわからない。
「鬼に金棒」の金棒に付属する鬼は、どうもただの鬼の面をつけた普通のおっさんにしか見えない。
 そして、商品についてのガセトリビア。
 例えば「目からうろこが落ちる」のうろこ。
 本書によると、実際に生成されるんだけども、無限に再生されるわけではないし、落ちたうろこは、二度と再生されないそうよ。
 だから本書でも、こう書いてあるわ。

『「目から鱗が落ちる」ような何事かを見知ることは、その代償として、あなたの中から、このように貴重ではかないものが「はらり」と落ちることでもあるのです。』
(本文より)

 そう。この本の中には、こんな含蓄のある言葉がたくさん含まれているわ。
 例えば、「地獄耳」の効用。
 自分にとっていいことも悪いことも聞こえてくるけど、それをこんな風にまとめている。

『もちろん、そこには「愛」もあれば「憎」もあり、耐えられないほどの辛い評価が聞こえてくることもしばしばあります。
 それに、しっかりと耳を傾けること。
 すなわち、すべてを聞き入れること。
 これを称して「地獄耳」というのであります。』
(本文より)


 劇作家の別役実先生の、フェイクソースを巧みに仕込んだエッセイ、あるいは現代語版、「悪魔の辞典」の慣用句バージョンみたいな逸品!

 中には「どさくさ」「一筋縄」みたいな「これどんなふうに実現するんだ?」とか、「腹時計」のように「もう持っているよ」ってものもあるけど、それがどう料理されているのかは、本編読んでのお楽しみ。

 ネタとして読んでも面白い。
 そもそも、こんな風に「慣用句を実際に出してみたら?」と考えるのも、一つの頭の体操=ゲームブックだと思うの。
 創作の中で、奇天烈なアイテムを出そうとアイディアを練っている方にもおすすめ!
 まさに、アイディアの玉手箱!

 見逃せば人生後悔することウケアイ!


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『ないもの、あります』
 著 クラフト・エヴィング商會
 出版社:筑摩書房
 単行本 2001/12/1 絶版
 文庫 2009/2/10 900円+税


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