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2025年12月4日木曜日

齊藤飛鳥・小説リプレイvol.37『汝、獣となれ人となれ』その1 FT新聞 No.4698

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.37
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今回は、『汝、獣となれ人となれ』リプレイの導入篇です! 
『常闇の伴侶』で初めてローグライクハーフをプレイして以来、ゲームブックにして一人用TRPGでもあるこのゲームにすっかりハマってしまいました。
そこで、来たるべき新たな冒険に向け、自分の冒険者であるクワニャウマの経験点を上げておこうと、ルールに一緒にあった『黄昏の騎士』と、運よくFT新聞様を見た日に出会った『幽霊屋敷の果実酒』を冒険しました。
同時に、前回『名付けられるべきではないもの』で苦戦したので、次回はそうならないよう、ルールを読み直したり、FT新聞様に掲載されていたローグライクハーフの遊び方を読んで勉強したりしました。
このおかげで、クワニャウマの従者点にだいぶ余裕があることに気づけました。
そこへ、うまい具合にFT新聞様にフーウェイの都市オプションなるものが掲載されておりましたので、そちらで初めて冒険開始前に猟犬(戦う従者)を購入しました。
従者に猟犬を選んだのは、「ワンコなら台詞や個性を考えなくてもいいから」という、かなりしょうもない理由でしたが、その分、犬種は自分の好み全開に設定しました。
選んだ動機は不純でしたが、今回の冒険で猟犬達を従者に選んだのは大当たりで、とても助けられました。どのように助けられたのかはまた別の機会に譲るとして、まずは『汝、獣となれ人となれ』について語らせていただきます。
『常闇の伴侶』でマイノリティと宗教問題、『名付けられるべきではないもの』で尊厳死とアイデンティティと、骨太なテーマを扱ってきた〈太古の森〉の冒険ですが、今回は前二作のテーマすべてを網羅してきております。まさに、重量級で鉄骨クラスの骨太っぷりです。それでも重苦しい物語にならないのは、今回の仲間キャラであるクリスティのおかげでしょう。
陽気な関西弁コビット娘で、この物語における光を一身に背負っていると言っても過言ではない名キャラクターの彼女は、ともすれば重厚なテーマの物語を明るく軽やかに彩ってくれます^^
そして、今回旅の仲間がクリスティのおかげで、女の子達とワンコと小鳥という、私の冒険の中で過去最高にかわいいパーティー編成となりました。
きっと、今回はほのぼのとした冒険になるんだろうな☆
……そう思っていた冒険開始直後の自分が、懐かしいです。


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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ローグライクハーフ
『汝、獣となれ人となれ』リプレイ
その1

齊藤(羽生)飛鳥
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0:プロローグ
わたしの名は、クワニャウマ。
趣味は節約、特技は損得勘定。漆黒の髪とイエベ肌に金褐色の瞳が特徴の、強欲冒険家乙女だ。そのせいか、模範的な魔術師なのに、よく盗賊に間違えられる。
髪はまた切って三つ編みの二つ結びに戻し、いくつかの冒険を経て革鎧と斧を買って装備している。
旅の相棒は、エルフの少女・イェシカ。魔犬獣の毛皮の犬耳付きローブを装備していて、かわいさに磨きがかかっているランタン持ちだ。強欲で損得勘定命の邪悪なわたしに無償で心を開いてくれているし、受け入れてもくれている生ける奇跡だ。ようするに、わたしの宝だ。
ところで、わたしが今もこうしてイェシカと充実した冒険家生活を送れているのは、あるエルフの青年のおかげでもある。
その名は、ファラサール。
自分の命をぶん投げ、無料でわたしの命を救ってくれた彼への恩返しのため、その勇敢な人生を一人でも多くの人間に知ってもらおうと、吟遊詩人を雇って彼を讃える歌を作ってもらうための資金集めが、目下の冒険の目標だ。
そこで、〈太古の森〉の冒険を終えた後、初秋には自治都市トーンへ行って幽霊屋敷へ果実酒の原材料を取りに行く冒険を、晩冬には聖フランチェスコ市へ行って黄昏の騎士退治と、がんばって荒稼ぎをしてきた。
でも、吟遊詩人に歌を作ってもらう料金には、まだまだ届かない。
それに最近、ちょっとイェシカの元気がない。トーンで友達になったミッチという少女と別れたせいかも。
でも、あそこではミッチの祖母を2回も瀕死にしかけたから、正直戻りづらい。
そこで、イェシカの顔なじみがいる蛮族都市フーウェイへ顔を出すことにした。

フーウェイには、何度か来たことがある。
市場のある通りを歩いていると、イェシカが急に立ち止まった。
「どうしたの、イェシカ。何かいいものを見つけたの?」
見れば、イェシカは新しくできた犬舎の前に立ち止まり、食い入るように柵の向こうで思い思いに動き回っている猟犬達を見ていた。
イェシカは耳こそ聞こえないけど、目はいい。
今もきれいな瞳をキラキラと輝かせ、猟犬達を見つめるその横顔は、いくら大金を積んでも見られそうにないほど天使だった。
「最近荒稼ぎして従者を雇う余裕があるから、次の冒険に備えてここの猟犬達を買っていこうか。どの子がいいか、イェシカが選んでくれる?」
猟犬の値段は、一頭につき金貨7枚。
現在の所持金は、金貨153枚。余裕よゆー。

「……で、イェシカが3頭も猟犬を選んだから、いきなり大所帯になったのか」
日暮れ前の蛮族都市の広場で骰子賭博の胴元をしていた、顔なじみの銀狼のまじない師ヴィドが、笑いをこらえながらわたし達を見る。
カリウキ氏族の集落まで行く手間が省けたのでいいけど、意外な副業を持っているものだ。
「チャウチャウっていうの? 異国の珍しい犬種ですごくかわいいんで、イェシカがすっかりメロメロになっちゃってね。名前も付けたんだよね、イェシカ」
わたしが話しかけると、イェシカは慣れた手つきで首から下げていた石板にチョークで言葉を書いていく。
読唇術を習得していて、わたしたちの言語を理解できるイェシカだけど、話せるのは古代語のみ。それだと、下手したら彼女の真の素性がばれる危険があるので、外では用心のため、石板とチョークによる筆談でコミュニケーションを取るようにしてもらっている。
〈向かって左から、雷電。飛燕。月光〉
「……本当にイェシカがつけた名前なのか?」
ヴィドが疑うように私を見る。
「もちろんよ、ヴィド。わたしなら、特売、割引、半額って名付けるわ」
「それもそうか」
「イェシカはその点、おしゃれなネーミングセンスよ。この前の冒険で手に入れたウォー・ドールには、ニコライ・ボルコフって名前をつけていたからね」
「起動した暁には、スクリュードライバーを繰り出しそうなネーミングだな……」
ヴィドは、若干遠い目をしてから、ふと何か思い出したように急に真顔になった。
「そういや、〈太古の森〉に隠れ住む名高い賢人にして闇の魔獣の黒檀のメメコレオウスが、どういう訳だかお前さんをご指名だとよ」
「は? なに? 黒檀のメメコレオウスって誰?」
「ちょっと待ってろ。今、骰子賭博を開く時刻になったから」
そう言ってヴィドは焚火の傍らで獣骨の賽を振る。たちまち歓声が上がり、今日も一仕事を終えた〈男〉たちが賭博の客として集まり、彼の出目に一喜一憂し始める。
「黒檀のメメコレオウスは、お前さんがイェシカと出会った冒険をしていた時から、目をつけていたんだとよ」
骰子を振りながら、ヴィドが言う。
「何それ? イェシカ狙いだったら、灰にしなきゃ……」
「そうドン引くなよ。偉大な賢人なんだから」
「本当?」
うさんくさい賢人に、わたしが警戒していると、イェシカがわたしの背中をツンツンとつつき、石板を見せてきた。
石板には、こう書かれていた。
〈こくたんのメメコレオウス様は、おなやみ相談にのってくれる賢人。会えるのは、とても幸運。声をかけてもらうのは、もっと幸運〉
「〈太古の森〉育ちのイェシカが言うなら、間違いないわね。それで、どんな人なの?」
「俺よりイェシカを信用するのかよ……別にいいがな。話は戻るが、黒檀のメメコレオウスは、醜い老人の顔に獅子の身体と蝙蝠の翼、尾には猛毒の針を持つ魔獣だ」
「賢人なのか魔獣なのかはっきりせいと思ったけど、その両方の外見だから、あの説明だったってわけね」
「とにかく、行って来いよ。俺は御呼びじゃないようだしな」
用事はそれまでと言った風情で、骰子賭博に集中し始めたヴィドにため息をつくと、わたしたちは輪をそっと離れた。
偉大な賢人が、強欲を美徳とする偉大な俗物であるわたしに何の用があるというのだろう?
あわよくば、一攫千金なもうけ話につながればよいのだが。
「ああ、1つ忘れてた」
背中から声が掛けられる。振り返るとヴィドは不可解な表情でわたしをじっと見つめている。
「奴さん、"必ず夜の間に来い"とさ」

金もうけで最も大事なことは、約束を守ること。
よって、遅刻なんてもってのほか。
わたしは、イェシカと一緒に深夜の〈太古の森〉を苦労して横断し、なんとか夜明け前にヴィドから教わった洞窟の前に辿り着いた。
「ようやくのお出ましかね」
冥府の闇から語りかけてくるようなぞっとする声が響き渡る。
やがてのそりと姿を現したのは、醜い老人の顔に獅子の身体と蝙蝠の翼、尾には猛毒の針を持つ魔獣の姿だ。
間違いない。彼こそが、賢人にして闇の魔獣の黒檀のメメコレオウスだ。
「初めまして。あなたのご指名を受けたクワニャウマよ。ヴィドからの伝言、しっかり受け取ったわ」
「ならば、話が早い」
闇の賢人は鷹揚に頷き奥の闇に呼び掛けた。
「こやつの口から直接語らせる方が良かろう」
おずおずと踏み出してきたのはコビットの女だ。
「ウチはクリスティ。冒険家や」
「遺跡荒らしとも言うがな」
「余計なお世話や」
漫才のようなトークをできるとは、闇の賢人はお高くとまった人柄ではないようだ。
含み笑いをする魔獣を睨み終えた後、クリスティはわたしへ話しかけてくる。
「〈太古の森〉には、旧い神々を祀る遺跡が沢山あるのはアンタも知ってるやろ」
「ヴィンドランダ遺跡群……だよね? この地に蛮族が住まい、フーウェイの街を開くよりもはるか昔からこの森にあるといわれる遺跡でしょ? 知っているわ。その区域では、今でも手つかずの財宝が見つかる事があって、冒険家の間ではよく名前が知られているからね」
強欲なわたしが今の今まで手を出していないのは、案内人なしの遺跡発掘には危険が多いのと、案内人を雇う料金が高額だからだ。
得るもの少なく出費がかさむ見込みが高い冒険ほど、わたしの美学に反するものはない。
「そのうちの1つを探索中に、呪いにやられたんよ」
「呪い……?」
あきらかに、やばい予感しかしない。
クリスティは少し俯くと陰りを帯びた表情で語り始めた。
要約すると、彼女は相棒と遺跡を冒険中、獣神セリオンを祀る古ぼけた祠に隠された隧道を発見。その先にあった気味の悪い獣の神像の口に手を突っこんだら、呪いにかかってしまったという。
さらには、相棒とはぐれるは、怪物と遭遇してしまうは、さんざんな目に遭い、必死に助けを求めて無我夢中に逃げ回るうちにメメコレオウスと出会ったそうだ。
なんて過酷な話だ。
でも、クリスティのジェスチャを交えた軽妙な語り口が面白くて、悲壮感がまったく感じられん。
そこまで話した時、丁度、朝の光が洞窟に差し込む。
クリスティは呻き声を上げると、その場に崩れ落ちた。慌てて駆け寄ったわたしの前で、彼女の姿はみるみると変化してゆく。
小さなミソサザイが、悲しそうな目で君を見つめていた。
「……なるほど、これが呪いという訳ね」
イェシカが驚いて、猟犬たちにくっついてプルプルと震えている。今まで驚いたらわたしにくっついてくれたのに、ちょっぴり寂しいが、これも彼女が成長した証と思おう。
わたしがしみじみしていると、メメコレオウスがわたしへ話しかけてきた。
「その遺跡へ赴き、旧き神の神像を調べてきてほしいのだ。そのついでにこやつの連れとやらも探してやればよかろう」
「どうして、あんたがそんな依頼をするの? クリスティの話によると初対面ぽいよね?」
闇の賢人はふんと鼻を鳴らして呟いた。
「ヴィンドランダに眠る旧き神の信仰には以前から興味があったのだ。だが儂自らがわざわざ出向くほどの事でもない。諸君らのような射倖心に溢れる輩には丁度良い稼ぎになろう」
「メメコレオウス様、愛してます」
「間に合っておる。まったく、戯言を言っておらんで早く旅立ってやらんか」
見れば、いつの間にかわたしの肩に留まったミソサザイが、後押しするかのようにか細い声でさえずる。
「そうだった。一刻も早く宝を見つけて、あんたとその相棒と遺跡の宝を山分けしないとね。わたしが8で、あんたと相棒が1ずつでいいよね?」
ミソサザイが、器用に羽を「なんでやねん!」と言いたげに動いた。器用だな。
わたしたちは、夜明けの洞窟を後にし、朝靄にけぶる遺跡探索へ向かった。


(続く)

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。最近は、そこにローグライクハーフが加わった。
2025年現在、『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を6巻まで刊行中。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2024年6月に『歌人探偵定家』(東京創元社)を、同年11月29日に『賊徒、暁に千里を奔る』(KADOKAWA)を刊行。2025年5月16日刊行の「小説すばる」6月号(集英社)に、読切『白拍子微妙 鎌倉にて曲水の宴に立ち会うこと』が掲載。同年8月1日に『女人太平記』(PHP研究所)が刊行。

初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『汝、獣となれ人となれ』
著 水波流
2025年9月7日FT新聞配信


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