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2025年11月6日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.9 FT新聞 No.4670

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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.9
 
 (東洋 夏)
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 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第九回にあたります。
 冒険は最終イベントに突入しておりますが、今日が初めての方にもお楽しみいただけるよう、少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは、聖騎士見習いの少年シグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまいました。
 犯人を捕まえるべく捜査に乗り出したふたり。前々回のリプレイでは、宮廷医アグピレオの下働きにして連続殺人事件の犯人〈写身の殺人者〉と対決。これを仕留めました。しかし前回のリプレイにて我らがシグナスくんは驚くべきことを言い出します。
 「下働きは本当の犯人ではない」
と。それでは真犯人は誰なのか。調査を続けるべく動き出したふたりの前に現れたのは……。
 信じられた大人に裏切られたシグナス。最悪の対決を乗り切ることはできるのでしょうか。というところで、今回のリプレイは開幕します。

 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは真なる犯人との対峙をご覧あれ。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[真・最終イベント/写身の殺人者アグピレオ]

(※真犯人、真なる〈写身の殺人者〉として立ちはだかるのは、シグナスくんが信用しきっていた宮廷医アグピレオ先生でした。先生のレベルは5、生命点4、攻撃数2。こちらが呆気に取られている間に不意打ちを仕掛けようとしてきます。こんな時もアグレッシブ・アグピレオ先生、健在ですね。嫌な意味で。しかしこれは「手がかり」をひとつ消費することで回避できますので、ここでなけなしの「手がかり」を使うことにします。手番はこちらから。0ラウンドはクロの【凶器乱舞】から始まり、無難に成功を収めました)

 呆然としているシグナスの横を、クロが風を切って飛んでいく。アグピレオが凄まじい速さで肩口に突き刺さった〈おどる剣〉を見て、悲鳴を上げた。
「大人しく降参しろ! もう逃げられないぞ」

(※0ラウンドのアグピレオ先生は幻覚剤をまき散らすという蛮行に走ります。アグレッシブが過ぎる! 「手がかり」をふたつ使用すればこれも事前に予測できるとのことですが、あいにく「手がかり」はひとつしか持っていません。素直に判定に進みます。対象は主人公ですが【ゴーレム】のタグを持つ〈おどる剣〉には効きませんので、シグナスくんのみ判定をします。目標値は……おっと驚異の「7」です。シグナスの出目は「3」で失敗。恐ろしいことに全ての【判定ロール】に-1の修正が入ってしまいます!)

 クロが降伏勧告をしている間に、アグピレオは机の上にあった硝子製のフラスコを掴むと、その封をさり気ない動作で破った。しゅうと音を立てて何かがフラスコから飛び出して拡散する。
「吸うな!」
 クロが叫んだが、遅かった。激しい目眩に襲われたシグナスはよろよろと後退し、壁に背中を預けて力無く座り込む。クロはシグナスから注意を引き剥がすように、反対側で蜂のように素早く飛び回った。
「くそ、もう少し早く気づければ」
 血の通う生命ではない〈おどる剣〉に毒は効かない。しかしシグナスを連れて退却しようにも、手足のないクロだけでは扉を開くことが出来なかった。これほど我が身を恨んだことは無かっただろう。独りでも戦うしかない。
「厄介な」
「それは私の台詞ですよ。よりにもよって邪魔者が毒の届かないゴーレムとはね。……いえ、考えようによっては最高のチャンスかもしれないな。お前には目がついているのですから」
「貴様、何を考えている」

(※1ラウンド。シグナス、クロともに失敗。防御もふたりとも失敗と、かなりの動揺が見受けられます)

 そこに回復したシグナスが飛びかかった。良い一撃のように見えたが、しかし際どくかわされる。そして、
「ぐっ」
 シグナスの上腕が切り裂かれた。いつの間にかアグピレオの両手には不気味な色に光るメスが現れている。
「シグナ……っ!?」
 カバーに入ろうとしたクロの刀身に、何とアグピレオはメスを突き立て叩き落とした。尋常の反射神経ではない。鍛えられた騎士ならともかく、宮廷医の身のこなしとは、とても信じられなかった。
「アグピレオ先生」
 肩を弾ませて息をしながら、シグナスは祈るような思いで言う。
「嘘でしょう、こんなの! 先生は街の人や御領主様を助けるために、ハーブティーを調合してたんじゃないんですか!?」
「ああ。それは効率的に幻覚を見せるためですよ。ナリクの聖騎士には一切お出ししていない。しかし香りを嗅いだだけでも、君には効果が出始めたようだね。それで実験的に、次の段階に進むための特別製のものを飲んでもらった訳だよ。明晰さを発揮されては困る。わかりますか?」
 幼子を諭すような穏やかな口調に、シグナスは悲しみを覚えた。何としてでも止めなくてはならない。そして真実を語ってもらわねば。
「先生、ごめんなさい。僕は騎士としてあなたと戦わなくちゃいけないです」
「職業意識とは、悲しいものですね」

(※2ラウンド。シグナス、クロともに再び失敗。クロに到ってはファンブル(大失敗)です。防御は幻覚剤のペナルティが痛く、シグナスくん失敗)

 シグナスは斬りかかった。しかしまだ視覚が正常ではないのか、剣はアグピレオに届かない。たたらを踏んだところにまたメスが一閃。先程とは反対の腕を刃がえぐって行った。
 クロは、シグナスのもたついた動きの予測が付かず、飛び込む事が出来ない。迂闊に飛び込めば同士討ちをしてしまいそうなのだ。
 
 (※3ラウンド。シグナス、クロともに三度失敗。クロが再びのファンブルです。どうしても相棒を案じて近づけない様子。防御はシグナス、クロともに何と何とファンブルを出してしまいまいました! ここでまた恐ろしいことに、アグピレオ先生のメスには毒が塗ってあるとのこと。防御ファンブルの場合は毒が強く作用するのか、錯乱して他のキャラクターに襲い掛かってしまいます(※【毒】属性なので【ゴーレム】には無効)。襲い掛かられたキャラクター、この場合はクロが目標値4の【幸運ロール】に挑戦して、避けられたかを判定します。クロの出目は3、技量点を加算してギリギリセーフ……)
 
 そうこうしている間に、まるで簡単な日常の治療行為だとでもいうような平静さで、アグピレオはシグナスの太ももにメスを突き立てた。
「ああああああっ!」
 相棒の悲鳴を聞いて反射的に飛びかかったクロの剣身にも、冷静な手つきで振られたメスが垂直に突き立つ。みしりと刀身が軋む嫌な音がして、クロはそれ以上抵抗できずに床に落ちた。損傷が酷い。再起動しなくてはシグナスを守れないが、まだばらばらにならずに動けるだろうか。
 そう思ったところに、何故か喚きながらシグナスが襲いかかってくる。あの時と同じだ、シグナスが水溜まりからニセモノが出てきたと言ったあの時と。クロは錯乱した相棒の一撃を、間一髪で避けた。
「シグナス!」
 こちらの声も聞こえていないのか、若き従騎士はクロを通り過ぎたところでへたり込む。
アグピレオがつかつかと歩いて来て、シグナスの顔に手を添えた。
「さあシグナス君。見せてください、そう、その顔です、恐怖を味わっていますね! ああっ、素晴らしい! 新しい私が見える!」
「何を、仰って……せん、せ……」
「そのままですよ、シグナス君。毒が回ってきましたね。怖いでしょう? 怖いですよね?」
アグピレオは恍惚とした目でシグナスを眺めている。
「少し解説をしてあげましょう。私は特殊な持病を持っています。自分の顔を認識できない、というね。恐ろしいことです。自分が居ないのです。世界のどこにも存在できない幽霊のように思えます。幼い頃は誰にも理解されませんでした。しかし長じて実験を重ねるうちに判明したのです。ある薬を服用させた上で死んだ者の目と、同じく薬により恐怖した者の目に映る自分の顔だけは判別できるのだと」
「それで、こんな……誰かを殺すなんてことを……」
「ええ。いつか私も病が癒えることを願っています。ですが医者としてはただ待つばかりではなく、治療法を探すべきです。その為には試行回数を重ねなければなりません。故に私は大規模な実験を行うことにしました」
 それがハーブティーである。ハーブには幻覚剤が染み込ませてあるが、元来の香りに紛れて誰も気づかない。悪夢による恐怖が強まれば話題になり、話題になれば宮廷医自らが往診しても不自然ではない。ハーブティーなのであれば、その人の症状に合わせたと称して様々な濃度や配合を試すことが出来る。
 自然、アグピレオには住民思いの熱心な医者だという評判も立ち、ますます薬局は栄え、誰一人疑わずにハーブティーを買っていったのだろう。そして最後は、アグピレオが手を下すまでもなく錯乱して自傷を起こし、死んでいくのだ。
 その死体はもちろんアグピレオの検死に回されて、死後の瞳に関する実験第二弾の役に立つわけである。下働きは、聖騎士たちを退去させるための隠蔽。全てが繋がっていく。全てが。
「種族、年齢、性別、体格、血統、出身地、病歴。そういったもののサンプルは幾つあってもよろしい。偶然を必然とするのは、愚かな事ですからね。そういう訳で君たちは最高のサンプルになります。ナリク民と〈おどる剣〉、そんな貴重なサンプルをね、私は手放しませんよ。いい顔です、シグナスくん、シーグナースくーーーん、あは、あはははははは!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 今回のリプレイは以上となります。
 ええ、最悪に最悪を重ねてお送りいたしました。
 シグナスくんには自分に襲われる悪夢よりも悪夢のような展開にはまりこみ抵抗できず、クロの方も生命点1まで追い込まれてしまいました。対するアグピレオ先生は余裕綽々の生命点3。
 満身創痍のふたりに勝ち目はあるのか、それとも冷たい死に飛び込んで行くのか。

 再来週の木曜日、決着の時をどうぞお待ちください。
 良きローグライクハーフを!
 
 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。その真の姿は〈写身の殺人者〉。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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