第8回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。
ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」リプレイです。
主人公ミナは、エルフ7姉妹の末妹。奴隷商人に売られた姉たちを探す旅を始めました。
旅の供は、禁断の、時を操る魔法の時計。
闇神オスクリードに見初められ、闇色の肌になってなお、目的を見失わない。
目的地は、「還らずの森」深くの吸血鬼の館。そこに双子の姉たちがいるはずです。
森の中、幾度もの危機に見舞われながらも、いよいよローズ家の館にたどり着きました。
裏口から中へ入りますが、人の気配がありません。
ミナはいよいよ、地下へと潜ります。拷問部屋があると噂される、地下へ。
【ミナ 体力点3/4 悪夢袋1/7】
金貨 6枚
銀貨 0枚
歯車 1枚
・ニンニク
・銀のナイフ
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>超スピードで限界突破。
<時もどしの回復時計>時間を戻してダメージをなかったことに。
●アタック01-21 地下に待つ絶望
1階のホールのすみに、目立たない地下への階段があった。
ひんやりとした空気を感じる。
ボクは一段一段、慎重に階段を降りる。
地下は、加工されていない岩の部屋だ。
そこは、ワイン蔵になっていた。
でもボクは、ここがただのワイン蔵でないことを知っている。
ここに、地下の秘密の拷問部屋があるはずなのだ。
壁を叩いてまわる。
音が違う場所を見つけた。
向こうに、空洞がある。
ややあって、ボクは巧妙に隠された扉を発見した。
開ける。
拷問部屋だ。
あちこちに血がこびりついている。
闇エルフの長ネフェルロックが、バラの花にたとえていた。
こんなものが美しいものか。
なんておぞましい。
ボクは、悪い予感を必死にこらえて、中を物色する。
部屋は、最近まで使用されていた痕跡があった。
食事を提供されていたであろう皿には、汚れた食べかすがついたままだ。
それに臭いも。誰かがここにいたであろう、生活臭。
誰かが?
誰がここにいた?
エナ姉とティナ姉に決まっている。
でもボクには、どうにも解せない。
普通奴隷は、働かせるために入手するものだろう。
最初から拷問するために、買ったというのか?
だとしたら、なんのための拷問なんだ?
普通、拷問は、秘密を吐かない相手に対して自白を強要するために行うものだろう。
痛めつけることだけが目的、なんてことがあり得るのか?
いずれにせよ、この部屋で今ボクにできることは、なさそうだった。
ボクはワイン蔵に戻る。
そうして、これからどうしようかと思案した。
この建物には、人の気配がない。
館の主は吸血鬼というから、まだ睡眠中なだけかもしれない。
けれど、それ以外の人の気配が皆無などということがあり得るのか?
ボクは何気なく、ワイン樽につけられたコックをひねる。
樽から、赤黒い液体が流れ出る。
ボクは違和感を感じ取った。
これはワインじゃない。……血だ!!
不吉な予感が止まらなくなる。
このワイン樽の中を、確認しなければ。
ボクは汗だくになりながら、樽を立てた。
剣の柄で蓋を叩いて開ける。
樽の中には、折りたたまれた姿勢で、何かが……いや、誰かが入っている。
中にあるものを見て、ボクの呼吸は止まった。心臓が音を立てているのが聞こえる。世界が遠ざかる。
「姉……さん……」
ティナ姉が、血まみれで、そこに入っていた。
この状態で、生きていないことは、明らかだった。
あまりに凄惨な光景。間に合わなかった。間に合わなかった!
ボクのせいだ。ボクが遅すぎたから!
きっと生きている、きっと助けられる。
そう念じてきたものが、残酷な現実に、一瞬で打ち砕かれる。
なにか。なにか方法はない?
ボクは震える手で魔法の時計を取り出す。
<跳兎の懐中時計>、姉が殺される前までさかのぼって、お願い!
けれど時計は反応しない。悪夢が足りないんだ。
<時もどしの回復時計>を握りしめる。姉さんの傷を癒して!
けれど時計は無反応だ。
すでに死んでいる者には、作用しないのか。
<うたかたの齢時計>に念じる。姉を若返らせて!
生きている時まで。お願いだ。
けれど、時計はぴくりとも動かない。
じゃあ、じゃあ、<枝分かれの未来時計>よ、姉さんが生きている時まで、時間を遡って!
<枝分かれの未来時計>が動き出し、ゆっくり時を巻き戻し始める。
しかし、ボクが戻ったのは、地下へ降りる階段の入口だった。いくばくも戻れていない。
もっと。もっと前に戻れないの?
地下に降りていくと、ワインの貯蔵庫に出た。
ボクはそこで、もう一度、折りたたまれた姉の無惨な遺体と対面する羽目になった。
<枝分かれの未来時計>は、決まった時間の間しか動けない。
今戻れるところがそれでは、何度やっても同じ結果にしかならない。
それでもボクはやめられない。
何度も時を巻き戻し……そしてボクは、何度も樽の中で死んでいるティナ姉を発見した。
やがて最後の悪夢袋がしぼみ……<枝分かれの未来時計>は、その動きを止めた。
「う…うう……」
嗚咽が漏れる。
ボクにはもう、どうすることもできない。
でも、そうだ。ここにはもうひとり、姉がいるはずだ。
エナ姉、エナ姉はどこに? もしかして、ほかのワイン樽の中に?
しゃがみこむボクに、揺らめく暗い影が差す。地下の空気が冷たくなる。
ボクはパニックになっていて、近づいてくる気配にまったく気づかなかった。
ボクは急に、すごい力で後ろから締め上げられた。
必死に抵抗しようともがくけど、力ではまるでかなわない。
もがくうちに、背後にいるのが背の高い男であるのがわかった。
この館の当主たる吸血鬼に違いない。
男は無言で、ボクの首筋に鋭い牙を突き刺した。
刺すような痛みと、命を吸われるような感覚がした。
「姉……さん……」
ボクはその痛みよりも、姉を助けられなかった無力感でいっぱいだった。
そのままボクの意識は、闇に呑まれた。
●アタック02-1 外縁の村にて
闇。
冷たく、深い闇に沈んでいる。
ボクは、死んだのか。
姉を、助けられなかった。
遠く、かすかな声が聞こえる。
「いましばし……楽しませ……」
それは、深淵から響いてくるような、昏くねばついた声。
ボクの心がざわめく。この声、どこかで……。
意識が闇から浮かび上がる。身体が、目覚める……。
目を開ける。
最悪な目覚めだった。
頭に残るのは、ぼんやりした悪夢。血まみれの何か。
どうしようもない絶望感に、胸が潰れそうだ。
ものすごく悪い夢を見ていたようだ。
悪夢袋は、すべていっぱいになっていた。
朝の光が森の外縁を照らす。
そうだ。ボクは還らずの森の外縁に沿って歩いてきたのだ。
エナ姉とティナ姉は、この森の吸血鬼の館にいるはず。
暗い予感を振り払いながら、身支度を整える。
魔法の時計を確認する。
ボクが今使えるのは3つ。
少しの時間をやり直せる<枝分かれの未来時計>。
一時的に年齢を変えられる<うたかたの齢時計>。
一時的に過去に遡れる<跳兎の懐中時計>。
あと、歯車が3枚あるから、残る時計のどれかを修理できる。
<速撃の戦時計>なら、素早さでボクの弱点、身体能力の低さを補えるかもしれない。
<時もどしの回復時計>なら、深刻な怪我をしても、危機を脱することができるかもしれない。
吟味しながら、修理する時計を決める。
<刻々の狭間時計>だ。キミに決めた。
この時計は、わずかだが、時間を止めることができる。
時を止めるというのは、絶大だ。どんな場面でも、時を止めれば切り抜けられることも多いだろう。
その代わり、使いどころは慎重に選ばなければならない。
この時計は、修理に歯車3枚すべてを使ううえ、使う時にも悪夢袋を3個消費するのだ。
ひとつ隠し大技を持っていれば、何かの時に役立つに違いない。
ボクは<刻々の狭間時計>を修理した。
やがて、外縁の村が見えてきた。あの村で情報を集めよう。
そう思ったが、嫌な予感がした。村の中で辛い目にあったような未来を、ぼんやりと思い出す。
「未来を思い出す」ってヘンな感じだけど、そうとしか言いようがない。
そうだ。村に入る前に、姿を変えてみてはどうかな。
ボクは<うたかたの齢時計>を取り出した。
太く大きな矢印のような針がついた時計。ボク自身の年齢を、上げたり下げたりできる。
今のボクも大きいとはいいがたいけど、もっと小さな女の子になれば、ひどい目には合わないかもしれない。
<うたかたの齢時計>を動かすと、針が振り子のように左右に揺れはじめた。
若返る方向に針を回す。
ボクの身体はみるみる若返っていく。
するとそれに合わせて、ボクの闇色の肌が、すうっと薄くなっていった。
手を見る。普通のエルフの手だ。
これは、ボクが若返って、魔法を得る前の状態になったということなのか。
いいかも。この姿なら、相手に余計な警戒心を与えないで済む。
ただ、この姿ってことは、闇の神様の力を得られていないのかもしれない。
元の姿に戻るまで、魔法の時計の力は使えないかも。
ボクは村に入ったけれど、特に誰からも不審な目で見られることはなかった。
通りの人に道を教えてもらい、宿屋に行く。別にここで泊まるわけじゃない。話が聞きたかった。
「いらっしゃい。おひとり様?」
そう問うてくる宿の主人に、宿泊ではないことを告げる。
そうして、尋ねる。
闇エルフの一団が、この村を通らなかったか、と。
空気が、少し張りつめた。
わけあり、と思われたな。
「ああ、確かに来たな。行儀の良い客じゃなかった。けど、客は客だ」
宿の主人の態度に、ボクは察した。
この先は無料というわけにはいかない、ということか。
たしかに、宿泊もしない、客でもないボクに、タダでなんでも教える義理はないね。
ボクは金貨1枚を支払った。
「奴らは、奴隷商人の使い走りみたいなことをやってた。あんたみたいな女エルフを2人連れて、森へ入って行った。あんたの知りたいことは、これでよかったかい?」
うん。それが確認できれば十分だ。
エナ姉とティナ姉がここを通って、森へ入って行ったことがわかった。
「あんた、森へ行くんだな。情報料のおまけにもう少し教えてやろう」
宿の主人は、森に住む吸血鬼対策について教えてくれた。
吸血鬼には普通の武器は通用しない。銀の武器が必要だ。
ニンニクは役に立つ。吸血鬼をひるませることができる。
そして店主は、一本のナイフを持ち出してきた。銀のナイフだ。
「うちにあるこのナイフでよかったら、金貨5枚で譲ってやるよ」
ボクは迷う。銀のナイフは間違いなく必要だ。
でも今、情報料に加えてそれだけのお金を払ったら、ほぼ全財産を失うことになる。
それで、いいのかな。
ボクには予感があった。森の中の別の場所で、銀のナイフが手に入る予感。
ボクは店主にお礼を言って、銀のナイフは買わずに宿を出た。
これだけのことがつかめれば十分だ。森へ向かおう。
ボクは村の通りを進み、村から十分離れたところで集中を解いた。
たちまち、肌の色がさあっと黒く変色していく。
「なあ、あんた」
その時、後ろから声がかけられた。
振り向くと、小柄な男がいた。ボクより背が低い。ノームという種族だ。
これまで何度か会ったことがある。研究好きで、からくりに長けている。
そのノームは、矢がつがえられた石弓をボクに向けていた。
●アタック02-2 森の案内人
「エルフだったかと思ったら、闇エルフになった。何の目的で化けてるんだ?」
見られていた! ボクが姿を変えるところを。
ノームの石弓は、まっすぐボクに向けられている。
さすがにすぐに射るとは考えにくいけれど、危機的な状況には変わりはない。
・闇エルフではないと主張する
・ノームと戦う
・逃げる
ボクは、自分は闇エルフじゃない、と主張した。
「そう言われてもなあ。見てたんだよ」
魔法で姿を変えるところを見られていたんなら、もう、なりふり構ってはいられない。
ボクは必死に言い訳をした。
森を目指しているのは、奴隷として売られた姉たちを助けるためだと。
そのために、強力な魔法を手に入れ、その代償に肌の色が闇色に染まってしまったと。
ひととおり聞き終えたノームは言った。
「まあ、なんていうか。つくり話にしては説得力がありすぎるんだよな」
意外と、ちゃんと話を聞いてくれていた。
「森へと連れてかれる2人のエルフは、オレも見た。あれがキミの姉ちゃんたちなんだな」
そう。ボクがずっと探し続けていた、双子の姉たち。
ノームはそれからもボクにいくつか質問をしてきたが、やがて言った。
「ほかの話はともかく、姉ちゃんたちのことに嘘はないな。オレはこれでも人を見る目はあるんだよ。姉ちゃんが普通のエルフなのにあんたが闇エルフってのはヘンだからな。信じてやることにする」
ノームはようやく石弓を下ろした。
「で、だ」
ノームはにやりと笑う。
「オレを雇わないか。森の案内人として、だ。キミが姉ちゃんたちに会えるとこまで、案内してやるよ」
聞けばこのノームは、普段から森の案内人として、危険な森に入ろうという物好きにつきあっているという。
雇い賃は金貨3枚。これから訪れる危険を思えば、安いくらいだ。
所持金は……ある。村で銀のナイフを購入していたら、雇えないところだった。
ボクはノームを雇うことに決めた。金貨は前払いで渡す。
「契約成立だな。オレはフェルナンド・ウティリヌス。言いにくいだろうから、フェルでいい」
フェルはもう、旅支度をしている。村に戻ることなく、このまま出発できるとのことだ。
ボクは、森に詳しいというこれ以上ない心強い同行者を得て、張りつめていた気持ちが、ほんの少しゆるむのを感じた。
次回、ローズ家の館を目指すフェルとの旅路。
【ミナ 体力点4/4 悪夢袋7→6/7】
金貨 7→6→3枚
歯車 3枚→0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。
■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
ボラミー 森の外縁の村にいた女剣士。確かな腕前を持つ。
ねこ人 黒ねこ人の旅人。希少種族。
ネフェルロック 闇エルフの隠れ里の長。ミナの力の源を欲している。
キーウ 初老のノーム。「還らずの森」の研究家。
ビバイア・ローズ ローズ家の病気の息子。5日前を最後に日記は途切れている。
フェルナンド・ウティリヌス 通称フェル。森の案内人をしているノーム。
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
テクア からくりの神。ノームにからくりの知識を授けたとも言われる。
■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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