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2026年6月4日木曜日

ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』リプレイvol.4 FT新聞 No.4880

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』リプレイ vol.4  (東洋 夏) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■    FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!  本日の担当は東洋 夏(とうよう なつ)。  ローグライクハーフ『怨霊列車は夜笛を鳴らす』のリプレイ小説をお届けいたします。  夜を駆け、人をさらう謎の怪物〈怨霊列車〉の調査を依頼されたのは、十二歳の見習い聖騎士シグナスと、その相棒〈おどる剣〉のクロ。陽気なコビットのヨン、それから貫禄あるドワーフのアルゴットという頼もしい兵士二名を味方に加えて、未だ帰還者ゼロの危険な調査に挑みます。  前回vol.3では、亡霊たちの晩餐会で危うくシグナスくんが生きたムカデを食べさせられそうになり、かと思えば万神殿めいた車両で謎のシスターから食料を分け与えてもらうという、〈怨霊列車〉の予測不能な空間設計に翻弄されました。  さあ、今回は何が彼らを待ち受けているのでしょうか。    また、リプレイの性質上シナリオの根幹に触れます。  ネタバレとなりますので、避けたい方はそっと閉じていただけましたら幸いです。    前口上はこれでおしまい。  さあ、冒険の始まりです!  ◇ 〈シグナス(レベル8、聖騎士)〉 ・技量点:0 ・生命点:8 ・筋力点:4 ・従者点:9 ・技能:【高潔な魂】【全力攻撃】【癒しの光】 ・持ち物:見習いの片手剣(片手武器、斬撃)、丸盾、板金鎧(防御ロールに+1)、金貨11枚、スノーレパードアイ(金貨30枚相当の宝石)、ランタン、食料2食分 〈クロ(レベル11、おどる剣、炎属性)〉 ・技量点:1 ・生命点:7 ・器用点:6 ・従者点:7 ・技能:【装備化】【凶器乱舞】【精密攻撃】【鋼の意志】 ・持ち物:なし    ◇ [4号車]中間イベント  シスターから買った──生臭め、とドワーフのアルゴットはぼやいたが──バケットと赤ワインの入ったバスケットを荷物袋に押し込んで、シグナスたちは次の車両に向かうことにした。  最前列の椅子では幼子が丸くなって寝ている。その子が何者なのか尋ねる勇気はシグナスにも無く、コビットのヨンですら軽口を叩かなかった。〈怨霊列車〉の中で暮らす子供が正常な存在であるかどうかなど、知ってしまえばより重い荷を負うことにもなりかねない。 (サー・ノックスだったら、サー・スノウスノウなら、あるいはブラーク様……)  尊敬する聖騎士の諸先輩なら、果たして尋ねただろうか? 子供を救うために、あるいはシスターを救うために。シグナスは今の自分には処理しきれないと判断する冷静さと、己の気概のなさを嘆く心の間で、板挟みになってしまった。  連結部に出ると、やはり夜空は冴え渡り、数え切れぬ星がシグナスに瞬きかけてくる。先頭車両にあたる龍の頭骨が見えた。列車はゆっくりと空中で曲がっているらしい。何処へ向かっているのだろう?  頭骨から数えると、次の車両は〈怨霊列車〉の中間地点になるようだ。 「さて、お次は何かな。開けてびっくり」 「せんことを願う。口を閉じておれ」  乗り込むなり、三人はこれまでの車両と様相が違うことに気づく。内側の扉が壊されているのだ。そして、鼻をつく異臭が漂っている。腐ったものの臭い。悪夢の晩餐会で嗅いだそれより、遥かに強烈だ。晩餐会と違って隠すつもりもないらしい。 「こっちの扉を開けとこうよ」 とヨン。 「いつでも逃げられるでしょ」 「それがいいと思います」 シグナスは賛成した。そして腰に手を伸ばすと、鞘から〈おどる剣〉のクロを抜く。 「俺は出番無しでいたかったんだがな」 「協力して」 「分かってる。荒事になったら、お前だけではどうにも頼りない」 「クロ!」  〈おどる剣〉はからかうように、空中で一回転した。  壊れて歪になった内扉を潜り抜ける。 その先には、人がいた。シグナスは息を飲む。何という僥倖か。鎧を見れば分かる。サン・サレンの騎士だ!  女性騎士は紋章入りのマントを翻し、こちらを振り向く。凛とした眼差しがシグナスを射抜いた。 「少年、何者か。見慣れぬ紋章だが」 「ナリクから参りました、従騎士身分のシグナスと申します。ご領主様よりこの列車の調査を拝命しました、サー」  挨拶をしながら、シグナスは必死に紋章学の授業で教わったはずの、サン・サレンの紋章一覧を記憶の中でひっくり返している。しかし、残念ながらその回の授業にはあまり身が入っていなかったのだろう。どれだけ考えても、騎士のマントに掲げられた紋章が誰のものか思い出せない。 「私はグロリアだ。シグナス、君の主はいないのか」 「サー・グロリア、残念ながら乗車できませんでした。あの、あなた様も列車の調査に?」  騎士はその言葉にたちまち顔を曇らせた。何か深い理由があるようだと察して、シグナスは無理に問いかけずに沈黙を守る。これは気難しい主人サー・ノックスと付き合う上で会得した、叱られないための大切な処世方法であった。 「私は……」  騎士は、短い金髪に指を突っ込んでぐしゃぐしゃに掻き回す。 「私は……」  それでも女騎士グロリアの激しく苦悶する様子が心配になって、シグナスが歩み寄ろうとした。それを待ち構えていたように、耳障りな金属音を立てて、床から何かが起き上がる。  朽ちかかった体に鎧を纏い、半ばまでちぎれかかった首に頭を乗せた、死せる兵士たちだ。囲まれている。〈おどる剣〉のクロが飛来して、シグナスの背後についた。 「お前ら、シグだけじゃなくておいら達も見ろよ!」 「シグナス、そこで待っておれ。すぐに行く!」  ヨンとアルゴットの声が聞こえ、それを心強く思いながら、シグナスは女騎士の方を窺う。この死せる兵士たちが彼女にも襲いかかるのではないかと心配したのだ。しかし無用であったらしい。女騎士が剣を抜き高々と頭上に突き上げると、その切っ先に炎の渦が生じた。 「魔法を操る騎士!」  シグナスは目を輝かせる。ナリクの聖騎士が得意とするのは退魔の技で、聖遺物などの触媒を介さず魔法を操るのは残念ながら不得意な領域だ。女騎士が生じさせた炎は離れているシグナスの頬すらちりちりと熱くなるほどで、これなら死せる兵士たちを一網打尽に出来るかもしれない。乾燥した骸に抗するための火は定石だ。シグナスはむしろ巻き込まれないようにすべきだろうと、回避する場所を求めて目線をさまよわせる。  そして、騎士は剣を振り下ろした。 「……え?」 だが、その切っ先が示したのは、死せる兵士たちではない。  (※主人公が「戦う従者」を連れている場合、第0ラウンドに女騎士グロリアは一度だけ、その集団のひとつに向けて【炎球】を行使します。サン・サレンの騎士なのに、何故……!? 判定は【対魔法ロール】(目標値4)を集団として行い、失敗した場合は1点のダメージを受けるとのこと。まず振ってみましょう。……うっ、出目3。失敗です。出目3の場合は1体の従者がダメージを受けてしまいます。もとより生命点1なので、ヨンかアルゴットのどちらか1人が犠牲になるということですね。選べない、選びたくない。しかしプレイヤーは決断しなければなりません。ということでダイスに語ってもらいましょう。偶数ならヨン、奇数ならアルゴットが死せるものの国に参ります。出目……5。アルゴットです) 「避けて! ふたりとも!」  女騎士グロリアが狙ったのはヨンとアルゴット。炎球が炸裂した。赤々と燃え上がる炎の内に、人影が見える。シグナスは絶叫した。 「何で! 何でこんなことをするんですか! サー・グロリア!!!」  そこに折り重なるように死せる兵士たちが襲いかかってくる。 「サン・サレンの兵士ですよ、味方に、そんなの騎士がやる事じゃない!」 「シグナス、冷静になれ!」  (※騎士グロリア自体は0ラウンド以降静観の構えを取ります。ここで襲い掛かってくるのは〈騎士グロリアの部下たち〉。出現数7、レベル3。アルゴットの弔い合戦と参りましょう。まず0ラウンドにクロの技能【凶器乱舞】で斬り込みます。ダイスロールの結果は、何とクリティカル→クリティカル→成功で3体を蹴散らしました。クロ先輩がむしろ激怒なさっているのでは!?)  〈おどる剣〉のクロが宙を舞い、シグナスに最も近づいた3体の首をたちまちの内に刈り取った。死せる兵士たちはその鋭さに一歩退く。驚いたことに、統制が取れていた。 「シグナス」 「分かってる。僕は卑怯者になんか負けない」  シグナスの口ぶりに、〈おどる剣〉クロは斜めにかしいで懸念を表明する。この大勢の死せる兵士たちに囲まれていても、シグナスの覚えるべき恐怖は怒りによって封じられていた。無謀と紙一重の勇気に突き動かされて、シグナスは仕掛ける。 (許せない……!)  狙うは一点。鎧に覆われず、死者であるためにアンバランスになった首だ。    (※1ラウンド。シグナスの攻撃はクリティカルからのファンブル。精神的な乱高下が現れております。クロは手堅く成功。忘れてはならないヨン、こちらは残念ながら失敗。死せる兵士たちはあっという間に残り2体となりました。防御はシグナスとクロで1回ずつ挑戦し、共に成功)  死せる兵士たちの剣をいなし、シグナスは骨が剥き出しになった兵士の喉元に向かって切っ先を突き上げる。がつんという手応えと共に、死せる兵士の頭が吹っ飛んで行った。 「次!」  返す刃でもう1体。意気込んで踏み込んだ剣は、しかし今回は肋骨と鎖帷子に挟み込まれて止まった。一気に興奮が醒め、シグナスは己の窮地を悟る。剣が引き抜けなければ、このまま四方八方から刺されて終わりだ。  そこに〈おどる剣〉のクロが飛び込んで来て、シグナスが悪戦苦闘していたその肋骨を砕き、兵士の半身をばっさりと切り落とす。 「阿呆!」 「ごめん、クロ」 「冷静なれと言っただろう!」  先だっての悪夢連続殺人事件に遭遇して以来、シグナスは主人ノックスから、敏捷性と正確性を重点的に叩き込まれてきた。聖騎士のうちでも頭抜けた剣速を誇る主人にはまだ足元にも及ばないが、それでも確実に技量は向上している。    (※2ラウンド。シグナスの攻撃成功、クロはまたもクリティカル→成功でオーバーキルな感じで最後の1体を粉砕しました。クロ先輩がキレッキレです)  落ち着きを取り戻したシグナスは、攻めに転じた兵士たちの剣をことごとく避け、また1体の首を刎ねた。その様子に安堵したか〈おどる剣〉クロの刃もますます冴え渡り、唸りを上げて宙を舞うと兵士たちのど真ん中に切り込んで行く。  形勢不利と見たのだろう。死せる兵士たちの長と思しき骸が、くるりと頭を回して騎士を向く。そして予想外にも明瞭な言葉を発したのであった。 「グロリア様! ここは我らに! 貴方様はあの怨霊の主を!」 「うむ」  女騎士が踵を返し、次の車両目掛けて連結部の扉を開く。そこに〈おどる剣〉のクロが浮かび上がった。 「騎士たるもの、背中を見せるは不名誉と思わんのか!」  烈火のごとき気迫で踊りかかろうとするところに、兵士隊長が主人の盾となるべく飛びかかる。 「止まれ、剣めぇっ!」  生前は巨体であっただろう兵士隊長に、クロは包み込まれるように抑え込まれた。──かと思われたが、全身を錐のように回転させた〈おどる剣〉は、兵士隊長の骸をずたずたに割いて、骨粉を散らしながら背面へと突き抜ける。しかしその一瞬のもみ合いのうちに、女騎士グロリアは次の車両へと姿を消していた。  兵士隊長の敗北を契機に、死せる兵士たちは次々と力を無くして床に倒れていく。その内の小柄な骸が、シグナスに向けて精一杯手を伸ばしながら言った。その手のひらに、腐れた死者には不釣り合いな、水晶の指輪が差し出されている。 「……この時代の騎士よ……。このふざけた遊戯からグロリア様を……」  最後の言葉は聞き取れなかった。骨が次々と砕けて、歯は抜け落ち、音を出す事が出来なくなったからである。シグナスは骨の間に落ちた指輪を摘まみ上げた。指輪は持ち主のようには砕けず、検分すると女騎士グロリアの紋章によく似た意匠が彫り込まれている。  だが、持ち主は「どうせよ」と託したかったのだろう。 (助けてとか言いたかったのかな。でもあなたの主人は、僕の仲間を奪ったんだ。それはあなたの主人と、同じ領主に仕える仲間でもあったはずなのに)  シグナスは冷ややかに、崩れていく兵士たちの骸を見ていた。しかしその耳にヨンの泣き声が届いた時、若き従騎士は己を恥じたのである。敵を憎むより先に寄り添うべき味方がいたというのに、それにすら思いが至らない。 (情けない。未熟過ぎる。こんな風だから、いつもサー・ノックスに呆れられちゃうんだ、僕は)  せめて子供っぽく泣いたりはせずにいよう。歯を食いしばり、ぎゅっと拳を握り締めたシグナスの横で、クロは珍しく忠告もしなければ茶々も入れずに、黙って浮いていた。 ◇  今回のリプレイは、ここまでです。  早くも、アルゴットさんとお別れの時が来てしまいました。  聖騎士の技能に【神の加護】というものがあり、これを用いると、自分以外も含めて【対魔法ロール】に失敗した味方をカバーすることができます。もしかしたらアルゴットさんも護れたのかもしれません。シグナスくんは残念ながらこの技能を取っておらず……。きっと「もっと鍛錬をして、先輩たちのように技能が使いこなせていれば」と悔しさで一杯でしょう。  これもローグライクハーフの心揺さぶるポイントだと思うんですが、生命点1で技量点0の従者たちは本当にあっけなく倒れて行きます。恐らくは、微かに手が滑ったとか、一歩先に出過ぎたとか、ほんのわずかなボタンの掛け違いのような瞬間に命を落としてしまう。厳しい世界です。だからこそ忘れずにいたい。数字ではなく血肉の通った「誰か」として想いたい。そういう気持ちを抱かせてくれます。心はめちゃくちゃ痛むのですけどもね!  さあ涙を拭って、次の車両でお目にかかりましょう。  良きローグライクハーフを!   ◇    (登場人物)  ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。泣かないように踏ん張っている。  ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。  ・ヨン…身長1メートルほどの陽気な種族「コビット」の兵士。  ・アルゴット…土を掘り、金属を加工する技術に優れた種族「ドワーフ」の兵士。グロリアの火球により落命。  ・グロリア…サン・サレンの女騎士。アンデッドの部下を引き連れ、様子がおかしい。 ■作品情報 作品名:『怨霊列車は夜笛を鳴らす』 著者:ロア・スペイダー イラスト:海底キメラ 監修:杉本=ヨハネ 発行所・発行元:FT書房 購入はこちら https://booth.pm/ja/items/6820046 『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84 ■FT新聞をお友達にご紹介ください! https://ftbooks.xyz/ftshinbun ---------------------------------------------------------------- メールマガジン【FT新聞】 編集: 水波流、葉山海月、中山将平、明日槇悠、天狗ろむ、くろやなぎ 発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房) ホームページ: https://ftbooks.xyz/ メールアドレス: sugimotojohn■■hotmail.com(■■を@に置き換えてください) ---------------------------------------------------------------- メルマガ解除はこちら https://ftbooks.xyz/acmailer/reg.cgi?reg=del&email=ryu00minami.2026ft0409news@blogger.com ※飛び先でワンクリックで解除されます。