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2025年10月9日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.7 FT新聞 No.4642

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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.7
 
 (東洋 夏)
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 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第七回にあたります。
 いよいよ最終イベントに突入しますが、今日が初めての方にもお楽しみいただけるよう、少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは、聖騎士見習いの少年シグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまいました。
 犯人を捕まえるべく捜査に乗り出したふたり。前回のリプレイでは、情報を聞くと言えば酒場でしょうということで、どう見ても未成年ですが頑張って乗り込んでみました。が、まだまだ話術は鍛錬不足というところか、店主に叱られ、用心棒にはボコボコにされてしまいます。辛くも用心棒に反撃を食らわせ、その隙に逃げ出したのですが、肝心の連続殺人犯に繋がる手がかりを得ることはできませんでした。
 そんな空回りしてしまった状況から今回の冒険は始まります。殺人犯の尻尾はおろか影すら見えていない気もしますが、果たして最終イベントに向かって大丈夫なんでしょうか? アランツァ世界は厳しいぞ!

 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは最終イベントの模様をご覧あれ。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[探索記録8]最終イベント:写身の殺人者

 何とか酒場から抜け出したシグナスとクロは、用心棒が外まで追いかけて来た場合に備え、出てすぐの角を曲がって姿をくらませる。今のところシグナスの唯一の長所は足が速いことであり、この時はそれが功を奏した。
「あらかためぼしい所は探したな。領主館に戻るか、シグナス」
「クロ」
「ん」
「僕、結局何も出来なかったね」
 確かに失敗続きではある。手がかりは未だ掴めず、殺人事件の解決に向けて前進したとはお世辞にも言えない。しかし、と騎士の先輩としてクロは思うのだ。
「一度に全部が出来るようになるものではない」
「今回も慰めてくれてるの?」
「きっとお前の主人も、最初は沢山の間違いを犯したはずだ」
「そんなこと想像できないけどね」
「大人は誰だって、間違いの山の上に立って涼しい顔をしているだけだ」
 シグナスは両手で頬を挟んでからかうように、
「クロったら、大人っぽい発言!」
と言う。
「あのなあ、俺は騎士だって言ってるだろ。お前より人生経験豊富なの! ……っと、いかんいかん」
 前から歩いてくるサン・サレンの住人が、宙を飛びながら喋る剣の存在に気づいて、ぎょっと立ちすくんだ。シグナスは慌ててクロの柄を握ると鞘に突っ込み、無害であることをアピールしつつ、そそくさと通りを抜けていく。
「やっぱり領主館に帰った方がいいね」
 シグナスが言うと、
「ああ。いらん疑いを招きかねん。すまない、シグナス」
 珍しく殊勝な態度で謝ったクロの言葉で、シグナスは酒場での一幕に思い至った。誰もが疑心暗鬼になっているサン・サレンでは、異分子の存在は殺人犯に結びつけられやすい……こじつけられやすいかもしれない、と。もう少し慎重に動くべきだったかもしれない。
 市場に辿り着いたので、今朝と同じ道を逆さに通って戻っていく。薬局の前に差し掛かった時、アグピレオ薬局の紋をつけた前掛けの、下働きらしき男が猛然と駆け寄ってきた。
「今朝うちに来た、聖騎士の遣いの方ですよね。今から領主様のところへお戻りですか? 出来れば薬局に寄っていただけないでしょうか」
 下働き曰く、シグナスたちが出かけた後、ナリクの聖騎士たちの幾人かが例の悪夢を見てしまったのだと言う。宮廷医アグピレオは大至急ハーブを調合しており、出来た分だけでも届けてほしいということである。
 シグナスに否やはなかった。もし主人や、優しいサー・ベルールガが悪夢に苛まれていたらと思うと、居ても立っても居られない。
 アグピレオは薬局奥の工房にいると言う。下働きに連れられて薬種の詰まった瓶や、丸薬を乾かす温室や、不可思議な器具を抱えた人々の間をすり抜けて歩く。それはいたく、シグナスの好奇心を刺激するものであった。
 夢中で眺めていたので、下働きが工房の扉をノックする音を聞きそびれたらしい。
「どうぞ」
と言われた時には、既に扉は開け放たれている。扉を押さえる下働きにお礼を言って入ると、そこに宮廷医の姿はなかった。もっと奥にいらっしゃるのだろうか? 続きの間がありそうな気配は無いのだが。
「アグピレオ先生、失礼します」
 シグナスが声をかけるも、返事はない。首を傾げつつ工房に入っていくと、微かに奇妙な音が聞こえた気がした。
「先生?」
 シグナスは弾かれたように顔を上げる。間違いない、人の唸り声だ。大きな机の裏側から聞こえる。急いで回り込むと、猿轡を噛まされたアグピレオが床に倒れていた。アグピレオはすがるような目でシグナスを見る。シグナスはクロを抜いて、宮廷医を助け起こすと猿轡の結び目に刃を当てた。
「何でこんなことに!? 今、お助けしま……」
 すると何故だろうか。扉の鍵をかける音が聞こえる。
「え……?」
 次の瞬間、机を乗り越えて、拳を振り上げた人影が襲いかかってきた!

(※突然の襲撃です。この奇襲をかわし、アグピレオ先生を救出できるか目標値4の【防御ロール】で判定します。ここはシグナスくんに挑戦してもらいましょう。出目は……5! 文句なしの成功、火事場の馬鹿力というやつでしょうか)

 戸惑うシグナスだったが、未熟ながらも開花しつつある騎士の本能が咄嗟に身体を動かす。アグピレオを抱えたまま飛び退き、拳をかわした。
「あなたは!」
 襲撃者の目が、微かな光を受けてギラギラと光っている。それは下働きだった。シグナスをここまで案内した男。
「……ったくよぉ……」
 しかし口調も先程までとは異なる。最もシグナスを戦慄させたのは、その目だ。焦点が合っておらず、白目が真っ赤に充血している。どうやら正気では無い。
「せっかく、ここの薬に頭がおかしくなる幻覚剤を混ぜて、町中が盛り上がってたのによぉー……」
 下働きは無造作に懐へ手を突っ込んで瓶を取り出した。慣れた様子で蓋を開けると、シグナスたちと対峙していることを気にする様子もなく口をつける。ごくごくと喉の音が響く。
「んぐっ……。はぁー……。傑作だったなぁ……。殺しにきた俺を、薬の効果で自分だと間違えてよぉ……」
「なっ、お前が犯人、写身の殺人者だって言うのか!?」
 精一杯に声を張ったつもりで語尾が震えたシグナスの言葉に、下働きは大笑いした。空になった瓶が手から滑り落ちて鋭い音を立てる。
「ひゃひゃひゃ……。俺はぁ、ナリクの騎士も怯えるくらいのぉ……殺人鬼だぞぉ……!」
 下働き、いや写身の殺人者の筋肉が目に見えて盛り上がっていく。瓶に入っていたのは薬物だったに違いない。錯乱しているのは薬のせいだけではないのか、それとも飲んだのは別種の強化薬だったのか。いずれにせよ強敵に違いない。剣を抜いて構える。
 
(※いよいよ〈写身の殺人者〉と対決です。レベル4、生命点4、反応表はもちろん常に【死ぬまで戦う】ですね。さて0ラウンド。何と救出に成功している場合、アグピレオ先生が薬草をすりつぶす鉢(乳鉢でしょうか)を投げて〈写身の殺人者〉の生命点を2減らしてくれます。何というアグレッシブ・アグピレオ先生。乳鉢でクラーケンを倒せる可能性を秘めているのではないでしょうか、先生)
 
 その時、シグナスの背後から重そうな鉢が吹っ飛んできて、写身の殺人者の顔面にぶち当たった。
「あがっ……!」
 下働きはよろりと動いて薬種棚に寄りかかったと見えたが、次の瞬間、その棚を引き抜いて投げ飛ばしてくる。
 
(※アグレッシブ先生に一撃を食らった〈写身の殺人者〉、こちらも恐ろしいことにそこら辺の棚を引き抜いて投げてきます。薬種や薬が入った重い容器なんかが満載された棚だと思うのですが……。主人公と従者をひとりずつ選び、回避できるか目標値4の【防御ロール】で判定します。従者がいないので、主人公ふたりともで判定することにします。シグナスが失敗、クロは成功。シグナスの生命点に1ダメージです)

 シグナスは避けられない。背後にアグピレオ先生がいるのだ。騎士は人を護る者。当然である。唯一の抵抗として掲げた剣が、宙を舞う棚と激突した。肩がみしみしと悲鳴を上げる。
 しかし、シグナス自身は奥歯を食いしばり、決して泣き言がその口から漏れぬようにと死力を尽くした。そして押し返す。
 
(※アグレッシブ薬局勢に負けてはいられません。こちらの0ラウンドはクロの【凶器乱舞】。出目は6(クリティカル)→5で一挙に2ダメージ。先の乳鉢ぶん投げ2ダメージと加えて、これで決着です)
 
「よくやったぞ、シグナス!」
 クロが燕のような速度で宙を切り裂いた。写身の殺人者は叩き落とそうとしたが、とても間に合わない。おどる剣の刃はまず首を斬り付け、それでも薬で常人離れした殺人者は倒れなかったので、ひらりと空中でターンして胸に突き刺さった。
 容赦のない攻め手の前に写身の殺人者は何も抵抗できぬまま、傷口から血を大量に噴き出して崩れ落ちる。
「ああ、私の……人を見る目が無かったために。何ということだ」
 シグナスの背後で呆然と立ち尽くしたアグピレオが、別の薬鉢を片手に力無く呟いた。
「先生! ご無事ですか、お怪我は無いですか、さっき鉢を投げてくださったのは先生だったんですね」
 捲し立てるシグナスの前で、アグピレオは涙を拭う。殺人鬼が自分の薬局にいたことは、宮廷医としての不祥事となるに違いない。このまま任を解かれるか、下手をしたら処刑されることもありうるのだろうか。シグナスは、先生の力にならねばと思うのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
 今回のリプレイは以上となります。
 ついに〈写し身の殺人者〉との対決となりました。
 乳鉢投擲アグピレオ先生、ちょっとその技は冒険者にも教えてあげて欲しいですね。新たな飛び道具として需要がある気がします。
 というのは置いておいて、これでめでたしめでたし──と思いきや実はまだ一波乱、いえ〈大波乱〉と言うべき真実が待ち構えています。
 再来週の更新で驚いていただけましたら幸いです。ふっふっふ!

 それでは皆様、良きローグライクハーフを!
 
 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。心が落ち着くハーブティーの売り上げが好調。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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