━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ 『これはゲームブックなのですか!?』vol.137 かなでひびき ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ 唐突ですが、あなたは飛行機に載っています。 「キのフレタ」ような大学生風の男が、「この飛行機を東大向けて突っ込ませます」と拳銃片手に宣言してます。 さて、横の席に座っていた男がささやきかけます。 「安楽死用の薬、買いませんか? あなたの全財産で」 今だったら、この設定、出版社側でストップがかかるんじゃないの? と、余計な心配をしつつ、バーチャル図書委員長、かなでひびき登場! 今回は、そのまんまズバリ『落ちる飛行機の中で』(著:乙一/集英社文庫 短編集『ZOO2』に収録)よ! 話戻すね。 で、見回してみると、いかにも「イジられまくる人生の落伍者」みたいな学生が、「すいませんすいません」言いながらスッチーさん射殺! それを諌めようとした東大出の紳士も射殺! 「東大に落ち続けて五年。もはや東大に受かることこそ人生で、あとは余生!」と信じる彼の今の人生の目的は、この飛行機の頭を東大校舎に向け、突っ込むことだった! 危機迫る中、主人公の隣の席の男が言う。 「このまま行ったら、地獄のような阿鼻叫喚な苦しみを味わって死ぬことになります。それよりはいかかでしょう? これを打って安楽死する、ってのは?」 彼の手には液体の入った一本の注射器があった。 「買いませんか?」と聞いてくる彼。 しかし、まずはじめの問題って、「この飛行機が落ちるか否か?」ってことよね。 犯人が取り押さえられ、捕まってしまったり、犯人が突然心臓発作を起こしたりして、危機がのぞかれれば、死ぬ必要はないじゃない? 見ると、犯人は本当に頼りない吹けば飛ぶよなヒヨっ子。 だから、取り押さえようとする人が続出するけど、そのたびに何かが起こってかかっていった人全員が銃口の餌食になっているのよね。 恐ろしいほどの運に守られているのは明白。 しかし、運命の女神って、ほんとに些細なことで逃げ去るよね。 つまり「落ちる」とは確定していないのよね。 「落ちるか、落ちないか?」 これが第一の分岐。 そして、隣席の男はセールスマンだから、当然のように高く売りつけようとしてくるわけ。 この場合、主人公は、3万円の現金とキャッシュカードしか持っていない。 キャッシュカードは3百万ほどある。 そして、サラリーマンは全額で売りつけようとする。 けど、ちょっと考えてちょうだい。 「もしこの飛行機が落ちなかったら、私=主人公だけが死んで、生き残った彼にちょっとした宝くじが当たったような恩恵を与えてしまう」という丸損に終わる。 つまり「やつからどれだけただ当然でこの薬を奪えるか?」が分岐のメインテーマになってしまう。 「どうせ死ぬんだから」と迫るセールスマンは、丁々発止のやり取りのあと、ふと気づく。 「まさか、あなたのキャッシュカードの暗証番号、あなたの誕生日ではありませんよね」……。 そう、こいつは、主人公が運転免許証を持っているのを見逃さなかった! 彼は「このセールスは自分にとって賭けだ」とうそぶく。 そして、自分を捨ててでも、自分の人生をメチャクチャにした奴に復讐しようとしている主人公にとってもまた、「ゲーム」だったのよ! そして、意外な人物が絡んできて、物語は実に奇想天外な方向に動く。 この、「ささいなこと=分岐」で後がガラリと変わる! というのが、本短編集『ZOO』シリーズの特色の一つなんだけど、特に本作はその度合いが激しい! これに分岐が出てきたら、即ゲームブックになる! かなで確信しております! 出てくる主要キャストが「全員命を捨てている」中、本当に誰が生き残るかわからないし、乙一先生は、ウマウマ食ってるマフィンにピンを入れることもためらわない(褒め言葉です)劇薬なエンディングもアリな人。 独特としか言いようがない軽妙なギャグも相まって、まるで名作のゲームプックのリプレイを文字通り「紐解いていく」ような感覚は、本作の妙! あなたの予想は、きっと裏切られるっ! で、この言葉、別に本作に限ったものではなく、『ZOO』シリーズ作品は、本当に「アイディアのびっくり箱」と言う感じで、とにかく予想が裏切られるっ! ホラー界を牽引する作家先生の一人なので、「手に入りづらい」ということもないと思うわ! サーチ&デストロイならぬサーチ&リードで一つ! 読まないとコウカイすることうけあい! ∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴ 『落ちる飛行機の中で』(短編集『ZOO2』収録) 著:乙一 出版社:集英社 2006/5/19 文庫 605円(税別) Kindle版 385円 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84 ■FT新聞をお友達にご紹介ください! https://ftbooks.xyz/ftshinbun ---------------------------------------------------------------- メールマガジン【FT新聞】 編集: 水波流、葉山海月、中山将平、明日槇悠、天狗ろむ、くろやなぎ 発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房) ホームページ: https://ftbooks.xyz/ メールアドレス: sugimotojohn■■hotmail.com(■■を@に置き換えてください) ---------------------------------------------------------------- メルマガ解除はこちら https://ftbooks.xyz/acmailer/reg.cgi?reg=del&email=ryu00minami.2026ft0409news@blogger.com ※飛び先でワンクリックで解除されます。