(編註:この記事は、過去の人気記事を再配信するReシリーズです。文中のコメント等は全て当時のものとなっております) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ オレニアックス生物学 Vol.8 『サウロプシーダ』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ 生物学の授業は非常に重要な科目だった。 アランツァの地での戦いは、戦争となるとまた話は別だが、人間以外の生き物と交戦することも少なくなかった。 聖オレニアックス剣術学校のカメル・グラントは生物学の権威。 そんな彼の授業は生き物の外見、性質、そして対処方法を教えてくれる。 生徒たちを生き残る道へと導く、確かな灯火だ。 今日もカメルの授業が始まる……。 「さて、諸君らはこれがなんだかわかるかな?」 そういってカメルは教壇の上に陶器の像を取り出した。その像はライオンに黒ヤギの頭、尾は蛇がついている。色も塗られてかなり精巧にできていた。 「はい! これはキマイラです」 レムレスが真っ先に手を上げて答える。他の生徒達も知っているようでうなづいた。これは当然だろう。 キマイラといえばドラゴンと並ぶくらい有名だ。詳しい生態はわからなくても姿と名前なら知っていてもおかしくはない。 「ライオンの凶暴さに加え、黒ヤギによる黒魔術、尻尾の蛇による毒を駆使する強力な生物です」 「うむ。さすがだ。キマイラの特徴を実に的確に答えている。確かにこの像はキマイラの姿を表している」 カメルに褒められて、レムレスは誇らしそうだ。 「では、この像はどうだろう?」 そういってカメルは別の陶器の像を取り出した。先ほどのキマイラの像には似ているが微妙に違う。 尻尾は蛇だが、他のパーツが違う。ライオンの部分には四本足の生物だ。口は平べったく細長い。 黒ヤギがあった部分にいたっては大きなギョロ目の見たこともないトカゲだ。そして真っ赤な舌をたらしている。 「だれか? 答えられるものは?」 カメルの問いに誰も答えられない。目の前にある像はキマイラを間違えて作った。 もしくは子供が遊んで作ったかのような構成の生物で見たことも聞いたこともない。 「ふふふ……。誰もいないか……。まあ、知っている者がいればどうして知っているか詳しく調べないといけない所だがな。今回の講義の題材はこれだ。この生物の名前は『サウロプシーダ』。兵器生物だ」 「兵器生物……?」 聞き慣れない言葉に生徒達がざわめく。 「そうだ。兵器生物だ。この生物は兵器として運用されるために作られた混合生物なのだ」 カメルは教鞭を取り出し、キマイラの陶器をさす。 「元来キマイラは魔術師が自身の護衛や守護者として生み出されたのだ。それぞれの生物の特性と合わせた兵器としてな。その有効性は有名さが物語っている。有名になるほど多く作られたのは優れていたからだね」 今度はサウロプシーダといわれた陶器に教鞭を向ける。 「このサウロプシーダはそのキマイラをさらに発展させるためにある魔術師が開発したのだ。キマイラの亜種というか別バージョンだな。尻尾は蛇だが他のパーツは違う。さて諸君。他のパーツとなった生物が何かわかるかね?」 「ええ……と。ライオンの部分にいるのは『ワニ』だと思います。水辺に住むトカゲの仲間で噛む力が凄く強く、水中でも活動できる生物だと……自分も本で知っただけですが……」 レムレスが自身なさそうに答える。 「さすがだな。レムレス。正解だ。これは『ワニ』だ。噛む力はかなり強い。大きさもさまざまだ。革も固い。性格も肉食で凶暴。ただし一部の貴婦人はこのワニの皮をなめした物を原料にしたバックを好む場合もある。高級品だ。これもちょっと覚えておくといい。将来、女性という生物と対峙したときに役に立つかもしれない。……話がそれたな」 セキをして間を整えるとカメルは再び話し始める。 「それでは授業を続けよう。残りのパーツは?」 今度は誰も答えない。しかし、ある者がゆっくり手を上げる。アヴィオンだ。 「それはたぶん『カメレオン』だと思います」 「お! 知っていたんだね。アヴィオン。かなり珍しいから誰も知らないと思ったのだが。それでは『カメレオン』の特徴は?」 「はい。その大きな目からわかるように高性能の目を持っています。そして伸縮する長い舌で餌となる虫を捕らえます。しかし、一番の特徴は擬態能力です。皮膚の色を変えて周囲の風景と同化することができます。子供の頃、森で見て父に教えてもらいました。最も大きさは手のひらに乗るくらいでしたが……」 カメルはうなづき拍手をする。 「正解だ。君の父上はいい教師にもなれそうだ。アヴィオンが答えたとおり。カメレオンはそのような能力を持っている。そして、カメレオンをパーツにもつサウロプシーダも同じ能力を持っているというわけだ」 カメルはキマイラの像をしまってサウロプシーダの像を前に出す。 「このサウロプシーダはキマイラを超える兵器として生み出された。キマイラは優れた兵器だがいくつか欠点がある。まず、目立つ上に有名すぎて警戒されやすい。その点サウロプシーダはカメレオンの能力を持っているからな。相手は何もない場所で襲われたと混乱も起こせる」 カメレオンにさしていた教鞭を、今度はワニに向ける。 「次に、開発された土地柄だな。その土地は川に面して水辺が多い。そこでワニの出番だ。ライオンが草原の王者ならワニは水辺の王者だ。ライオンでは機動力が鈍る水辺でも活動できるというのは大きな利点だからな」 そういってカメルは教鞭をしまう。 「さて、このサウロプシーダ。なぜ今日の講義の題材をこれにしたかを少し説明しよう。実はこの生物を開発した魔術師が亡くなってな。その研究資料が外部に流出したようなのだ」 その言葉に生徒達が動揺しだす。 「知り合いの調達業者や冒険者、ここでは詳しくいえないが裏のルートでは商品として最近でてきているそうだ。この陶器の像はサンプル見本だったらしい。つまりだ。本来、一地方の軍しか運用し無かったサウロプシーダが君たちにいつ襲い掛かるかもしれないのだ。そのために講義の題材としたのだ」 カメルはサウロプシーダの像を持ち上げ生徒達を見回す。 「本来このサウロプシーダは3メートルほどある。そんな大きさの生物で姿を見えなくできるモノがこの世にいる。それだけ知っているだけでも生き残る可能性は大きいだろう。なおサウロプシーダはある程度の大きさがある閉鎖空間での運用を目的としている。城の中とか地下通路や水路だな。洞窟も問題ない。しかもこいつは天井や壁に貼りついての移動もできる。そういう場所に行ったとき、注意が必要な物かもしれんな」 「あ……あの……注意するのはわかりましたが、対策は? 弱点は?」 マグスが恐る恐る手を上げる。サウロプシーダが恐ろしいのは十分理解できた。なら、その対策や弱点はぜひ知っておきたいだろう。 「ははは! マグス君。最初に言っただろう? サウロプシーダは兵器生物だと。弱点がある兵器は不良品じゃないか。ワニの凶暴性と攻撃力。カメレオンの擬態と舌によるリーチの長さ。蛇の毒とこいつはなかなか優秀な兵器だ。対策としては不意打ちを喰らうなと勝てるだけの実力をもてということかな?」 カメルの言葉に生徒達は思わず体を崩す。 「まあ、しいて言えば太陽に弱いということかな。体の構成上、太陽の光が有害な体となってしまったそうだ。しかし、運用場所からその弱点をつくのは難しい。まあ……太陽の光を持ち運んだり、武器に込めれたら有効になるだろうな。そんな物があればの話だが。おっと時間だ。今日の講義はここまで!」 博士はピンと背すじを伸ばしたまま、教室の扉を開ける。ありがとうございました!と声が響く。 若い生徒たちに教えることのうち、どれが役立ち、どれが無駄になるかは分からない。 だが、いくつかはきっと、彼らの命を永らえさせてくれるだろう。そう信じて博士は今日も教鞭をとる。 (From:ロア・スペイダー) ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84 ■FT新聞をお友達にご紹介ください! https://ftbooks.xyz/ftshinbun ---------------------------------------------------------------- メールマガジン【FT新聞】 編集: 水波流、葉山海月、中山将平、明日槇悠、天狗ろむ、くろやなぎ 発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房) ホームページ: https://ftbooks.xyz/ メールアドレス: sugimotojohn■■hotmail.com(■■を@に置き換えてください) ---------------------------------------------------------------- メルマガ解除はこちら https://ftbooks.xyz/acmailer/reg.cgi?reg=del&email=ryu00minami.2026ft0409news@blogger.com ※飛び先でワンクリックで解除されます。