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トンネルズ&トロールズ戦闘考〜膠着状態に込められた理想〜
(シュウ友生)
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どうも、初めまして。シュウ友生と申します。
この度トンネルズ&トロールズに関する考察を載せていただける事になりました。稚拙な論考ですが、お楽しみいただけたら幸いです。
※本寄稿は、主に社会思想社版の「トンネルズ&トロールズ第5版」に関して言及しています。
トンネルズ&トロールズは、極めて抽象的な戦闘ルールのTRPGだ。当マガジンの読者には説明するまでもない事だが、敵味方それぞれの攻撃力を比べ合い、差分をダメージにするだけというのは、恐らくTRPG全体で見ても随一の簡便さだろう。
よく欠点として挙げられるのが、実力差がある場合、普通に戦っているだけではほぼ逆転する事が不可能である事だが、これに対する対抗策として存在するのが、戦士の防具ボーナスと魔法である。
まず、戦士の防具ボーナスだが、これは防具の防御点を二倍にできるという非常に強力なもので、安価な革鎧であっても多少の実力差があろうとほぼダメージを受けずに済む。
ただし、このボーナスが生み出すのは、延々と続く膠着状態だ。これは、トンネルズ&トロールズの戦闘をダレさせる要素と思われがちだが、筆者はこここそが本システムのミソだったのではないかと推測するのだ。
トンネルズ&トロールズの奇妙な点は、基本戦闘ルールにおいて、根幹の判定ルールであるセービングロールが全く使われない点だ。わずかに飛び道具の命中判定に使われるくらいなのだ。これは最初期のゲームであるからこそのアンバランスさともとれるが、版を重ねてもそこは大きく改編される事はなかった。
筆者が考えるのは、トンネルズ&トロールズは、膠着状態を"起こる様に"わざとデザインされているのではないか、という事だ。
冒頭にも述べたが、トンネルズ&トロールズは、非常に簡素なシステムだ。初めて日本語訳された社会思想社版(第5版)ではルールは少なく、世界設定も披露されず、骨組みだけのシステムといっても良い。
だが、"トロールの言葉"にこうある。「『トンネルズ&トロールズ』ではみんなが積極的に想像力をはたらかせる必要があります。決して自分が作ったものでもない世界で、ルールに奴隷のようになってはいけません」
全ては、君達が自由に作って良いのだ。想像力を存分に働かせて欲しい…。トンネルズ&トロールズにTRPGのイロハを教わったに等しい筆者は、この思想こそがTRPGの醍醐味だと信じたものだった。
話を戻すが、そういう考えの元に、トンネルズ&トロールズの戦闘が敢えて膠着状態が頻発する様にデザインされているのは、プレイヤーの自由な発想を促す為なのではと思うのだ。だから敢えて戦闘中のセービングロールの使い方もルールで規定はせず、プレイヤーの想像力に任せたのではないか。
そういう観点で見ると、他の要素も"その為"に機能している様に見えてくる。
例えば、魔法。
本システムの基本にして代名詞ともいえる〈これでもくらえ!〉 他の攻撃魔法もあるにはあるが、基本これだけで事足りる程強力だ。戦士の防具が通用せず、使えばほぼ一撃必殺、レベルが上がればコストもどんどん軽くなっていく。そして、防御手段はほとんどない。
はっきりいって強力過ぎるのだが、これはある意味、膠着状態に何も思い付かなかった時の、救済措置なのではないか。誰もがそういつも妙案が思い浮かぶ訳でもあるまい。誰も何も思い付かなかった時の為の、ダレ防止の役目を担っているのではないか。
そう考えれば、第五版で魔法の使用コストが体力度だったのも、意図がある様に思えてくる。普通は、体力度が高いキャラクターは戦士を選ぶだろう。魔術師の体力度は、そこそこの値に収まる筈だ。初期作成のキャラクターには、〈これでもくらえ!〉のコストはそう安くない。一戦闘に大体二回、多くて三回が限度なのだ。救済措置である以上、そう何度も使わせないぞという意図なのではないか。
つまり、強力な〈これでもくらえ!〉で敵を吹き飛ばして勝利しても、あまり威張れた話ではないというのが、デザイナーの気持ちなのかもしれない。
トンネルズ&トロールズの特徴的なシステムに、モンスターレートというものもある。
極めて簡易な敵NPCの管理法ではあるが、これも「一度負け始めると、どんどん弱って逆転の目はなくなる」という側面がある。
人間型種族であるPCが負傷の影響を受けないのに、モンスターだけがどんどん弱っていくというのは、ある意味リアリティーに欠けるともいえるが、ここにも膠着状態を活かす意図があると考えるのは、勘繰りすぎだろうか。
先にも述べたが、妙案はそうポンポン思い付くものでもない。たとえ何も思い付かなくとも、少しずつでもダメージを与えられれば、時間さえかければいずれ勝てるという訳である。
また、MRは所謂雑魚敵の管理に適しているが、雑魚相手の戦闘なら、一度妙案で大ダメージを与えれば大体勝敗は決するという事になる。プレイヤーの脳の負担も減らせるという訳だ。
トンネルズ&トロールズの戦闘ターンは2分と、他のTRPGに類を見ない程長い。牽制や間合い取り、細かい攻防などは全てここで抽象的に処理されている事になっている。システムを細かくすれば、人の作るものの事、必ず定石の様なものが生まれる。所謂マンチキンプレイというものも可能になってくる。だが、ここまで抽象化すると、そういう余地もなくなる。
トンネルズ&トロールズは徹底的に戦闘システムを抽象化する事で、プレイヤーの様々なアイデアを受け容れられる様に設定されているのではないか。「プレイヤーは、システムを悪用せずアイデアを自由に出してくれる」という善意を信じて。
ここに通底するのは、「TRPGは、ルールに縛られず想像力で遊ぶゲームである」という、PCの熱意と努力を信じる、熱い理想だったのではないか。
ただ、残念ながら日本ではそういった方向性はあまり受け入れられず、TRPGのシステムは手軽にシチュエーションを再現するプレイアビリティを重視するスタイルへと向かった様に思う。
それを否定する訳ではないが、版を重ねて悪意ダメージやタレントの導入、バーサーカー戦闘のリスク軽減など、膠着状態の救済措置は増えても、決して根幹の戦闘ルールは変えなかったトンネルズ&トロールズの中に、未だその熱い理想が息づいていると信じたいのである。
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