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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.2
(東洋 夏)
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FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
東洋 夏(とうよう なつ)と申します。
本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。
さて、前回は冒険のはじまりをお届けいたしました。
サン・サレンの街を悩ませる飛び切りの悪夢。自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件が連続しているところに居合わせた十二歳の見習い聖騎士のシグナスは、昨夜ついに同じ悪夢を見てしまいました(そして、おねしょをしました)。自分の身に迫る危機を前に、主人ノックスの助けを借りず、自ら捜査に乗り出すことにしたシグナス。不思議な喋る剣・クロを相棒に、果たして悪夢殺人事件を解決することはできるのでしょうか?
なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは主人公紹介、そして捜査の記録をお読みいただきましょう!
[主人公紹介]
(1)シグナス(12歳、人間、男性、レベル7、聖騎士)
・技量点:0
・生命点:6
・筋力点:3
・従者点:9
・技能:【高潔な魂】【全力攻撃】【癒しの光】
・持ち物=見習いの片手剣(片手武器、斬撃)、丸盾、板金鎧、金貨10枚、食料2個
◆作成コンセプト:従騎士(見習いの騎士)であることを念頭に、半人前の冒険者ということで初期レベルを7に設定しています。初期経験点は7で計算。未熟なので技量点も0スタートにしてみました。しかし聖騎士について鍛錬を積んでいるので、聖騎士としてのスキルは一応発揮できるよという設定です。ちなみにレベル7スタートは、基本ルールにはない、オリジナルの処理となります。
(2)クロ(?歳、おどる剣、男性、レベル10、炎属性)
・技量点:1
・生命点:6
・器用点:6
・従者点:7
・技能:【装備化】【凶器乱舞】【精密攻撃】【鋼の意志】
・持ち物=金貨10枚 (※〈おどる剣〉は食料を消費できず、初期の持ち物は金貨のみ。また装備品を所持も装備もできない)
◆作成コンセプト:ヒーローズオブダークネスの種族が紹介された折、「半人前の少年を導く喋る剣」というファンタジーの王道のようなことが出来るなあと思って温めていたコンビです。本来はチャマイ製のゴーレムなのですが、少し捻らせていただいて「元は人間だったと主張している」という設定を付与しました。
※ヒーローズオブダークネス(HoD)についてはこちらをご参照ください。
https://ftbooks.xyz:443/ftwiki/index.php?%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%8D%E3%82%B9
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[探索記録1]21:薬局
洗濯係は金貨を見せるなり笑顔になったので、シグナスの不安はひとつ消えた。急ぎ足で部屋に取って返し、鎧と分厚い毛皮のマントで、危険な外出にふさわしい装いを整える。
「これでいいかな、クロ。変じゃない?」
「子熊としては立派な仕上がりだぞ」
「褒めてないじゃんか!」
シグナスは口を尖らせながら、〈おどる剣〉クロとは別の剣を一振り持って、部屋を出た。こちらは喋りも動きもしない金属製の、平凡な剣である。
屋敷の廊下も寒かったが、街なかは輪をかけて冷え込んでいる。春先なのに小雪がちらついており、街路の左右には掻き上げられた雪がシグナスの背丈よりも高く積み上がっていた。遠景には万年雪をいただくスォードヘイル山脈が見え、剣先の如き峰々は真っ白に輝いている。
サン・サレンの街並みは、シグナスが慣れ親しんだナリクの景色とは全く違って、全てがもの珍しかった。従騎士には雑務が多く、街をじっくり眺めるのは初めてである。
「ドルツ石の線路も見てみたいね、クロ」
「物見遊山じゃないんだぞ」
「社会勉強って言うんだよ」
「ふん、口だけは達者に育ちよって」
さてどこから調査すべきか、と周りを見渡したシグナスの目にとまったのは『アグピレオ薬局』の看板だった。アグピレオと言えば領主様お抱えのお医者さんで、今朝方も屋敷で見かけている。領主の悲鳴を聞いてシグナスが駆けつけた時、騎士の先輩たちと話し込んでいたのはアグピレオ先生だった。悪夢についての詳しいことが聞けるかもしれない。
「クロ、ここから行ってみるね。〈お静かに〉の姿でお願い」
「分かっている」
ゴーレムの〈おどる剣〉は誰もが知っている種族だけれど、本人たち──本剣たちの数はと言うと、極めて少ない。なのでいきなり剣が口を開くと、びっくりされてしまう事があるのだ。ナリクなんかでは、悪魔みたいだって悪口も言われる。だからシグナスとクロの間では、喋ってはいけないときの合図を決めてあるのだった。
薬局に入ってみると、折りよく客はいなかった。
出て来た下働きと思しき人に、
「すみません、アグピレオ先生はいらっしゃいますか? あの、ナリクの聖騎士の遣いで来たシグナスと申します」
と告げた。主人の行方も聞いてみようと思っているから、嘘をついた訳では無い。
奥に通されたシグナスは、宮廷医アグピレオの穏やかな顔にほっとした。お医者さんというのは怖いものだと思っているので、怒られたり尻を叩かれたりするのでは、と戦々恐々だったのである。
「夢を見てしまいましたか。それは困りましたね」
アグピレオ先生はシグナスにもハーブティーを淹れてくれた。陽だまりの草原のような香りがして、草原の多いナリクで育ったシグナスは心から安らいだ。
「これ、ご領主様がお飲みのものと同じですか?」
「少し変えてあります。大人と子供では、体も心も働き方が異なりますからね。決して馬鹿にしている訳では無いのですよ。シグナス殿のお年頃は大人よりも感受性が高いので、同じものだと作用が強すぎる恐れがあるんです」
シグナスは、アグピレオが子供だからと手を抜かずに説明してくれる態度に感激した。領主様からも街の人からも信頼されて、ハーブティーが良く売れているという話も納得である。
「ところで、聖騎士の方からご用命とか?」
あっ、とシグナスは声に出してしまった。ハーブティーに癒されて、本来の目的を見失いかかっている。
「えっと、サー・ノックスをお見かけしていないでしょうか。黒髪で、前髪が右側だけこう長くて」
「ああ、こう……」
アグピレオ先生が、目が隠れるほど前髪を伸ばした主人の髪型を真似したものだから、思わずシグナスはハーブティーを噴き出してしまうところだった。
「いやはや、今のは黙っておきますよ。しかし残念だが、君のご主人の事はお見かけしていないな」
悪夢のことを調べるなら、まず宮廷医には声をかけるだろうとシグナスは読んでいたが、空振りのようである。がっかりした様子があからさまだったのだろう。アグピレオ先生は、
「見かけたら、君が探していたと声をかけておくよ」
と気遣ってくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回のリプレイは、ここまでです。
記念すべき最初のイベント「薬局」は【休憩】して生命点と副能力値を回復出来るイベントですが、何の消耗も無い初手で来てしまいました。ちょっと勿体ないと思いつつ、シグナス君がリラックスできたので良い事としましょうか。初めてのお仕事って緊張しますもんね。しかも命懸けですからね。
ただ、肝心の事件の概要について情報が聞き出せなかった(フレーバーテキストに記述がない)のが少々引っかかるところ。捜査協力者とはいえ、他国の騎士にほいほい内部情報を渡したくはないというお気持ちでしょうか。地道に足で稼いでいくしかなさそうです。
それではまた木曜日にお目にかかりましょう。
良きローグライクハーフを!
◇
(登場人物)
・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
・アグピレオ…領主付きの医師。心が落ち着くハーブティーの売り上げが好調。
■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録
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