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子どもと遊ぶ『甲竜伝説ヴィルガストRPG』(3)
岡和田晃
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『甲竜伝説ヴィルガストRPG』に限った話でもないのですが、オールドスクールなRPGをプレイしていると、しばしば直面するのが、「ルール面での不備や、言葉足らずな記述をどのように補っていけばいいか」という問題です。
「FT新聞」No.4525においても、本連載第1回への反響として、ポール・ブリッツさんから、「『ヴィルガストRPG』、ルール通りにキャラクターを作成してプレイしようとすると完全にルールが破綻しているとしか思えないのですが、どうやってバランスを取ってプレイしているのですか?! 自分も再トライしたいのでぜひ、そのコツなりハウスルールなりをお教えください。真剣にいってます。」
とのおたよりをいただきました。
そうなのです。子どもと遊ぶときも最初にキャラクターメイキングを行うわけですが、その段階で、この作品には、ルール面の根幹部分に疑問符がつくところがあるんです。
本作はクラス制で、戦士、勇者、狩人、盗賊、魔術師の5つの職業に、異次元界からの旅人、ねこまた、ワーウルフといった種族が用意されています。
僧侶や司祭に相当するクラスがありませんね。また異次元界からの旅人は異世界往復ファンタジーならではの現実世界からやってきた人間という設定で、戦士のヴァリアントのような感じですので、基本は5つの職業のどれかから選択する、という形になります。
選んだ職業には、戦士だと「同じ消費体力で2体のモンスターを連続攻撃できる」、「攻撃に成功したとき、一回の戦闘で、一度だけダメージを倍にできる」などといった「特殊能力」があり、これを1つ選ばねばなりません。これは特に引っかかるところはありませんよね。
「特殊能力」はキャラクターの長所ですが、「くせ」という短所も1つ選ぶ必要があります。勇者だと「モンスター・味方問わず、血を見ると戦意喪失(1ターン休み)」、「影が薄い」などから、1つ選ぶ必要があります。前者を選ぶと、通常のファンタジーRPGの冒険だと、ひたすら戦意喪失して使い物にならなさそうですが、子どもと遊ぶときは流血がらみの演出が避けられていると考えれば、まあ納得もいきましょう。
厄介なのは、「基本体力」と「基本HP」、2つのデータが与えられていること。
これが何度読んでも、よくわからないんです! ポール・ブリッツさんのご指摘も、おそらくはこの箇所のことでしょう。
私は小中学生の頃は、ほぼゲームマスター専業に近い形でRPGをプレイしていました。当然、ピアニストが初見で演奏するように、ルールブックを卒読し、プレイヤーと一緒にキャラメイクをしながらルールを習得する、ということも多々やってきました。
不特定多数を相手にするイベントGMであれば顰蹙ものですが、友人同士での気楽なプレイならば、それも充分「アリ」でしょう。『ヴィルガストRPG』も、それくらいのノリが想定されていると思うのですが……。そうしていると、まず躓くのがこの点なのです。
あらかじめフォローをしておくと、これは『ヴィルガストRPG』がディヴェロップメント不足だと非難したいわけではありません。同作は四六判ながら160ページもの厚さがあって、データブックとして充実しており、読み物としてケイブンシャの大百科シリーズならではの満足感があります。子どもが、暇さえあればルールブックを眺めたくなる気持も、よくわかるんですね。まずはそこを優先した作りになっているのではないでしょうか。
それに対し、現代のゲームデザインは、データブックとしての厚みを求めるよりも、デザインとしての洗練、誰がプレイしても同じ満足感を与えられるようなシステム的な矛盾を解消したうえで、スリムなダウンサイジングを追究していく方向性を目指すものとなっています。それこそ、基本ルールブックがB5判48pとソロプレイや少人数プレイでのバランス確保に特化した『ローグライクハーフ』なんかが好例だろうと思います。
『ヴィルガストRPG』 で、キャラクターの数値管理は基本的にHPがらみしか存在しません。装備は固有のアクションポイント(AP)やディフェンスポイント(DP)こそ設定されてはいるものの、基本的にはHPがベース。
それだけなら簡単で、基本HPに、職業ごとに推奨されている装備を組み合わせた合計のHPを足せばいいというわけです。
戦士の基本HPは3。装備は男性向けと女性向けに分かれており、ひとまず男性向けを選ぶと、鉄のかぶと(加算HP4)、鉄のよろい(加算HP4)、戦士のこて(加算HP2)、鉄の腰アーマー(加算HP2)、戦士の足アーマー(加算HP2)になります。
あとは盾と武器も選べますが、これは別枠であるため、ひとまず省略。
HPを合計すると、3+4+4+2+2+2で合計17。これは基本体力の「17」と一致します。どうも、「基本体力」というのは、アーキタイプがわりに、あらかじめ計算値を出してくれているもののようです。
アーキタイプとは、1からキャラメイクをする代わりに、完成されたサンプルキャラクターのデータを提供し、そこから選ぶだけでゲームができるようにするというものですね。最近のRPGでは珍しくありませんが、『ヴィルガストRPG』が出た1992年時点では、さほどメジャーなものではなかったのです。
ただ、これまで書いたこととは別の解釈もできなくはありません。
基本体力に基本HPと装備の合計加算HPを加えていく——というもの。そうすると、初期のHPは34ということになります。これなら強そう! ただし、モンスターデータを見ると、このくらいHPがあると、中ボス級になってしまいます。原作ではお馴染み、ルードクレック(紫)という魔法を使える強力な幽霊のHPが35ですから。
また、本作にはリプレイが付属しており、そこには……。
>ムロボ:オレは基本HPが5で、装備の合計が19だ。だから体力は24だな。
という台詞があり、これを運用の参考にするとしたら、基本HPに基本体力をさらに足す、という解釈は、どうもやりすぎであるようです。
ただ、ここで悩ましいのが、基本体力と装備の傾向に、大きな落差があることです。以下、それをリストアップしてみます。
戦士:基本体力17、男性用装備と基本HPの合計17、女性用装備と基本HPの合計16
勇者:基本体力15、男性用装備と基本HPの合計10、女性用装備と基本HPの合計12
狩人:基本体力15、男性用装備と基本HPの合計13、女性用装備と基本HPの合計11
盗賊:基本体力19、男性用装備と基本HPの合計14、女性用装備と基本HPの合計12
魔術師:基本体力21、男性用装備と基本HPの合計12、女性用装備と基本HPの合計7
——特に盗賊と魔術師の落差が激しいですね。このゲームはHPを消費してベットし(賭ける形で相手と比べ)、勝ったらダメージが入るというシステムなので、女性魔術師の合計HP7というのは、かなり絶望的な数値です。
さて読者の皆さんに質問です。皆さんがGMだったら、どのように運用を行いますか? 公式へのお伺いは立てず(現実的にも不可能です)、必要とあれば、ルールを曲げてもかまいません。
ただしセッションは、小学3年生の引っ込み思案な女の子との1 on 1での短時間のプレイングを想定するものとします。お子様がいらっしゃらない方は、友人や親戚の子どもや、学童保育でのボランティアなんかで遊ぶシーンを想定してみてください。
■書誌情報
ケイブンシャの大百科別冊
『甲竜伝説ヴィルガストRPG』
ゲームデザイン:佐藤俊之(怪兵隊)
出版社:勁文社
1992年5月15日・絶版
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