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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.1
(東洋 夏)
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FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
東洋 夏(とうよう なつ)と申します。
このたび木曜日の枠をしばし頂戴し、僭越ながらローグライクハーフのリプレイ小説を連載させていただきます。
いちファンの拙い作ではございますが、最後まで楽しんでいただけましたら幸いです。
まず「お前は何者だ!」と思われる方も多いかと存じますので、少しだけ自己紹介とローグライクハーフへの想いを挟ませていただきます。
私はローグライクハーフで初めてTRPGに触れました。
ダイス目によって、主人公の人となりが垣間見える瞬間。
ランダムであるからこそ、思わぬ主人公の「主張」がプレイヤーに伝わってくる感覚。
コントロールできない要素があるために、ひとりで遊んでいるのに主人公が横にいてくれるような、一緒に戦ってくれているような息遣いがする。
そんな不思議な遊びがあるなんて、驚きでした。
リプレイを小説仕立てにしたのは、そうやって綺羅星のように命を輝かせた誰かがラドリド大陸に確かにいたことを書き留めたかったからです。
また、リプレイを皆様に共有して楽しんでもらえるというのも、個人的には斬新な経験でした。d66システムのランダム性ゆえに、同じシナリオでもプレイヤー毎に全く違う物語が描かれていく構造であること。これが、シナリオのネタバレ前提であったとしてもリプレイを楽しめる、ローグライクハーフ全体の大きな強みだと認識しています。
今まではX(旧Twitter)で11作ほど発表してまいりましたが、折角FT新聞さんが読者にも門戸を開いてくださっているなら、胸をお借りするつもりで挑戦してみようと思った次第です。
さあ、本題に入りましょう。
今回はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』に挑戦します。
製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
私のプレイスタイルは、プレイヤーひとりで主人公ふたりを操る冒険。
これまではX(旧Twitter)でシリーズ物のリプレイを発表してきましたが、FT新聞では初めての掲載となりますので、新たに主人公を準備しました。
折角なので、これまでにFT新聞で掲載された諸先輩方のリプレイには登場しない組み合わせにしてみます。
ひとりはロング・ナリクの従騎士シグナス。
立派な聖騎士を目指して修行中の十二歳の少年です。
まだ半人前ですので、いっぱしの冒険者と肩を並べることはできません。
そこで横紙破りではありますが、「レベル7=初期経験点7」からのスタートとします。
もうひとりはサプリメント:ヒーローズオブダークネス(HoD)で紹介された種族〈おどる剣〉を採用します。
〈おどる剣〉というのは意思を持つゴーレムの一種で、種族名の通り剣の姿をしています。
空中を飛んで相手を斬りつけるなんて芸当もできる、攻撃に特化した魔法の剣なのです。
名前はクロ。シグナスの体格に合わせて、小ぶりな剣の姿をしています。
心根の真っすぐな少年と、少年を導く不思議な剣。
これぞファンタジーという組み合わせだと思います。
さて、どんな冒険を見せてくれますでしょうか。
※ヒーローズオブダークネス(HoD)についてはこちらをご参照ください。
https://ftbooks.xyz:443/ftwiki/index.php?%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%8D%E3%82%B9
ふたりのステータスは後にご覧いただくとして、まず今回はプロローグをお届けします。
なお、リプレイの性質上シナリオの根幹に触れます。
ネタバレとなりますので、避けたい方はそっと閉じていただけましたら幸いです。
前口上はこれでおしまい。
さあ、スォードヘイル山脈を見晴るかすサン・サレンへ旅立つと致しましょう!
◇
[プロローグ/従騎士、おねしょする]
シグナスは、ショックを受けていた。
十二歳にもなって寝小便をしてしまったからである。ランタンを掲げて眺めれば、藁を詰めたシーツの上に、しっとりとしたラドリド大陸の地図が出来ていた。
「クロ、どうしよう。サー・ノックスに愛想を尽かされてしまうかも」
顔面蒼白、今にも泣き出しそうなシグナスの、腰の辺りから返事が聞こえる。
「さあなあ。ま、最善策はとっとと洗濯係をつかまえて、誠心誠意、お願いすることだ。朝一で洗ってください、とな。もう夜は明けているぞ」
「うん」
「あ、いかん。その前に着替えだ、着替え! オレが腰に下がってることを忘れるなよ。びしょ濡れのズボンすれすれで揺られて行くのは、ごめんだからな」
慌ててシグナス少年はズボンを脱ぎ捨て、道具袋の中から替えを引っ張り出した。幸いにもお仕えしたサー・ノックスはお金持ちで、しかも服や布地を商っている家の長男だから、装束に関しては従騎士にも気前よく分け与えてくれる。あんまり汚いものを着ていると、家の名に傷がつくから。
(でも本当は、僕が粗相するかもって思われてたのかな)
そう考えると、じんわりと涙がにじんできた。厳格なサー・ノックスは、いかにシグナスが子供であっても、躾には妥協がない。失望されたら孤児院に逆戻りかもしれないと、身震いする。金牛の丘の孤児院は良い人ばっかりだったけれど、サー・ノックスが仰るには「将来の見通し」に関しては悪いところなのだそうだ。
清潔な生成りのスボンに履き替えて剣を吊り下げると、
「なあ、まさか相棒。お前、例の悪夢を見たんじゃないだろうな。オレは〈剣〉になって以来、とんと夢なぞ見ないからわからないが」
シグナスは腰の辺りを見下ろした。そこに佩いた剣の柄に、まん丸い一つ目が開いている。ぱちぱちと瞬きする様子が人間くさい。
「どうなんだ」
先程からシグナスに話しかけているのは、その剣である。剣と言っても、短剣に毛が生えたような中途半端な長さのもので、十二歳の腕には丁度いいが、大人に持たせたら忌々しい顔をされるだろうな、と想像出来るような剣である。
彼は──剣のことだが──その名も〈おどる剣〉という種族に分類される存在だ。一般的にチャマイ製のゴーレムだが、シグナスに「クロ」と呼ばれるこの彼は、〈元・人間で現・おどる剣〉だと主張している。何でも人間だった頃の記憶があるとかなんとか。シグナスはちょっぴり疑わしいと思っている。
「速やかな返答は義務のひとつだ、シグナス」
サー・ノックスの真似をして、剣のクロが偉そうに言った。
「見たよ」
シグナスは口を尖らせる。強がっていないと怖いのだ。ほかの感情を詰め込んで追い出しておかないと、たちまち悪夢を思い出してしまう。自分に殺される夢を。
「一大事じゃないか! おねしょより深刻な!」
「言わないでったら」
「どっちをだ」
「どっちも!」
シグナスは鼻をすすった。
今、このサン・サレンの街では、奇妙な連続殺人事件が起こっている。被害者はまず自分に殺される夢を見、その後、本当に殺されてしまうのだ。正夢というやつだろうか。
ついに領主ラドス・フォン・ハルトまでもが自分に襲われる夢を見たため、たまたま滞在中だったナリクの聖騎士たちに護衛の依頼が舞い込んだ。シグナスの主人サー・ノックスも聖騎士のひとりである。
「ねえ、こんな面倒なこと言ったらさ、絶対サー・ノックスに嫌がられてしまうよね……」
「馬鹿者。従騎士の生命を護るのは主人の役割だ。遠慮なく報告しろ。あれが不機嫌なのは毎日毎時毎秒変わらないから諦めるしかない!」
「やだなあ」
「横で寝ていてくれれば解決が早かったんだが」
シグナスは部屋のもうひとつの寝台をちらりと見て、
「それじゃ緊張して寝られないよ」
と言った。主人の寝台には皺ひとつない。いったい、サー・ノックスはいつ寝ているんだろう。
シグナスは洗濯係に〈特別料金〉を支払うべく、金貨の詰まった巾着を袖元に押し込んで部屋を出た。廊下は暗く、雪国とあって春でも寒い。マントの前をぎゅっとかき合わせた。
そこで、シグナスは閃く。
「ねえクロ。僕が自分で解決するってプランはどうだろう。サー・ノックスに訴えて護ってもらうんじゃなく」
「ふむ、よく言った。それでこそ騎士だ」
「やってみる。僕の命だって、かかってるんだからね」
聖騎士たちに割り当てられた部屋の並びは静かだが、そこここで人々が動き出している気配がある。洗濯は大変な仕事だから、領主様の御屋敷ともなれば、夜明けから働き始めるに違いないとクロは言った。シグナスはサー・ノックスが誕生祝いにくださった、大切なランタンを提げて歩いていく。
その時、階上から大きな悲鳴が聞こえた。聖騎士たちが慌ただしく駆けていく足音が続く。また御領主様が悪夢を見てしまったのだ。シグナスは悩んだが、寝小便の恥より騎士の義務感が勝って方向を変え、階段を駆け上がる。
領主の私室の前には純白のローブを着た聖騎士たちが三名ほど、領主お付の医者だという人と話し合っていた。シグナスが近づいていくと、その内のひとりが振り向いて手招きをしてくれる。サー・ベルールガは主人の後輩で、シグナスにも優しい。
「また悪夢ですか? サー・ベルールガ」
「そうなんだ。しかも」
締め切られた領主の部屋の分厚い扉に目をやってから、
「首を絞められた」
「えっ」
「幸いにもご存命だよ。ただし、窓も扉も全部閉まってたそうだ」
「じゃあ、どうやって。犯人は魔法使いとかでしょうか」
「さて」
騎士は無精ひげの伸びて来た顎を撫でながら、面白そうな顔でシグナスをしげしげと見ている。
「領主殿の仰せでは、姿見から下手人が出てきたそうだが。……何か言いたげだな?」
「あのう、サー・ベルールガ。大変お手数をお掛けしますが、仕事を申し付けてはいただけませんか」
「ははあ」
訳知り顔で微笑んだ騎士は、
「分かった。じゃあ、お前の主人を探してくれ。多分、街にいる」
「ありがとうございます」
シグナスは深々と一礼して、踵を返した。その背中に先輩騎士は言い添える。
「気をつけろよ。街でも新たな被害者が出たらしいからな!」
◇
今回のリプレイは、ここまでです。
シナリオのプロローグと比べていただきますと、たっぷりアレンジを利かせて遊んでいることが一目瞭然かと思います。
こんなに自由に物語っても許容範囲内なのがローグライクハーフの器の広さ。
次回からは本題から脱線しないように手綱を握りつつ、ふたりによる不思議な殺人事件の捜査を開始していきます。
自分も捜査してみたいぞと燃えてきた方は、是非FT書房様のBOOTHをチェックしてみてくださいませ。
それではまた再来週お目にかかりましょう。
良きローグライクハーフを!
◇
(登場人物)
・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録
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