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2025年7月20日日曜日

Re:アランツァワールドガイドVol.12 蛮族都市フーウェイ FT新聞 No.4561

おはようございます、編集長の水波流です。
今日配信するのは「アランツァワールドガイド」。
来月第一日曜に配信の、私のd33シナリオの舞台となる「蛮族都市フーウェイ」の再配信です。

ラドリド大陸北端のこの地方を書く時、私は北欧やヴァイキングなどをイメージしています。
また文化としてはケルトやスラヴ、ネイティブアメリカンなど、自然と共に暮らす人々が頭に浮かぶのです。
アランツァの他の街との大きな違いは、西洋文明的ではないところとでも言いましょうか。ひとことでは言い表せない精神性や土俗的な奥深さを描ければと思っています。
特に次のd33シナリオでは、自然と信仰が融和している底が知れない雰囲気を感じて頂ければ嬉しいです。

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日差しは決して弱くはないが、雪が深く、しばしば吹雪になる。
ラクダ人であるカメル教授が蛮族都市フーウェイにたどり着いたのは、冬のはじまりの頃だった。
カメル・グラント教授はいま、この大陸を旅してまわっている。
混沌都市ゴーブの城塞めいた堅牢な街壁を見た後であったため、木材でできたこの街の壁はいささか頼りないもののように見えた。


◆街門にて。
狼にも似た〈魔犬獣〉の毛皮をまとった衛兵たちが、カメル・グラントの都市通行証をいぶかしげに眺めている。
外の世界から人が来るのは珍しいことではない。
北の端にあるとはいえ、フーウェイは街である。
しかし、文字が読めない兵士たちには、通行証が本物かどうか、このラクダの獣人を通していいかどうかを、確信をもって判断できないのだ。

結局、兵士たちのリーダーがカメルを通すことに決める。
紳士的なカメルの態度は彼らの価値観にそぐう「立派な大人」ではないが、危険を感じる存在という結論には至らなかったらしい。


◆トレント材の街壁。
門をくぐりながら、珍しい街壁の素材をまじまじと眺める。
衛兵の1人が「トレント材だ」と、いささか誇らしげにつぶやく。
この街の主な外敵のひとつは、動きまわる大きな樹木、〈トレント〉と呼ばれるクリーチャーである。
このクリーチャーから採れたもの(特にトレント樫)を使っているのであれば、石にも似た堅さと燃えづらさを持った街壁といえよう。
しかし……と、カメルは街壁を見渡しながら思う。
街をぐるりと囲む、高い城壁。
そのすべてがトレント樫を素材としているのなら……この街はどれだけの歳月を〈トレント〉たちとの対決に費やし、彼らを狩ってきたのだろう?


◆毛皮でつながった家々。
街といっても大きくはない。
家々は何軒かごとにまとまっており、壁の一部を共有している。
氏族ごとにまとまって生活しているのだ。
壁がつながっているのは、こうすることで暖房の熱が壁づたいに伝わりあい、冬の寒さを軽減する工夫である。
屋根の部分には、木材の上に毛皮が使われている。
つながった家々と毛皮の屋根……火事に弱そうだなと、カメルは思った。


◆想像と異なる人々。
そうはいっても、フーウェイは街である。小さな蛮族の集落とは違う。
「外の人間」との交流はあるし、店屋も開いている。
カメルはメイン通りを歩き、開いている何軒かの店のひとつに入ってみる。
店とはいっても丸太を切って造った小さな家で、床はなくむき出しの地面だが……店屋は店屋である。
汚れた毛皮をはおった店主が、切株を引っこ抜いただけの椅子に座っている。
暗い店内には食料と毛皮などの生活必需品が並んでいる。

別の店に入ってみる。
店がまえに大きな違いはないが、店内には木の枠でピンと張った状態の脱脂した皮や、緑のにおいが残った樹木の幹が転がっている。
〈魔犬獣〉の皮だと、ひと目で分かる。
魔獣皮革だ。


◆魔獣皮革。
〈魔犬獣〉の外見は狼に似ている。大きさもそう変わらない。
発達した犬歯をもち、知能が高い。
{ルビ:よつあし}四足の生きものだが、文化を持つひとつの「種族」である。
掟に従って行動し、契約を守る。
堕落都市ネルドでは、いち市民として街を歩いていたのを覚えている。
それが、皮だけになって、地面がむき出しの店の片隅に転がっているのである。
形容しがたい感情が心を駆けめぐって、カメルはしばしその場にたたずむ。

〈魔犬獣〉や、魔獣と呼ばれる強力な獣たちの皮をはがしてなめすと、魔獣皮革と呼ばれる素材になる。
これが使われている製品は、いわゆる「上モノ」である。
高級品の部類として扱われる、頑丈で長持ちする優秀な製品である。


◆街を歩く人々。
街を歩きながら、目に入る人々をそれとなく観察する。
武器を持った人々が、他の街よりもずっと多い。
皮を使った簡素な衣服をまとい、上半身は裸である。
その上半身には、いろいろな{ルビ:タトゥー}刺青が彫られている。

フーウェイの戦士は、あまり鎧を着ない。
その主な理由は、彼らが持つ「鉄」の力があまり強くないからだと言われている。
領土からはあまり鉄が採れないため、鉄は主に泥炭を燃やすことで獲得される。
ウイスキーの香りつけにも使われるこの泥炭だが、そこから作られる武器は端的に言ってもろく、いい武器とは言えない。

そこで、鎧の代わりに発達したのが刺青文化である。
力のある彫り師が入れた刺青には、彼らが信仰する「獅子顔のセリオン」こと獣神セリオンの力が宿ると考えられている。
しかし、その力を発現するには、自らの肌を露出し、外気にさらさなければならない。
だから、彼らは鎧を脱ぎ捨てて戦うのだ。

そのさまを見た「外の人間」は、彼らを蛮勇の持ち主であるとみなした。
彼らのほうも、それを強く否定をすることはなかった。
そんな風に、カメルは推察した。


◆集団での営み。
街の中央に大きな広場があり、外から来た人々が泊まる宿の他に、石造りの大きな建物がそこに面している。
石の建造物には大きなアーチ型の扉がある……そこは開いていて、中を覗くことができる。
そこでは女性たちが、{ルビ:はたお}機織りをし、動物の皮を縫っている。

男性が集団で狩りを行うように、女性はひとつの大きな建物にまとまって、仕事をする。
それがフーウェイの流儀なのだと、聞いたことがある。
カメルは集団をつぶさに観察する。
女性のなかに男性が少し、混じっている。
これもフーウェイの特徴である。

フーウェイの民は成人するときに、「男」になるか「女」になるかを自分の意思で選ぶ。
「男」「女」という訳がそのまま当てはまるかは言語学的に難しいところだが、勇敢さに自信を持てない男性は、女性とともに手仕事をする人生を選ぶのだ。
「女」の仕事には、他の街であれば男仕事と呼ばれるようなものも含まれる。武器づくりのような鍛治や、荷物の上げ下ろし。
「男」の仕事と呼ばれるものは、命の危険があるものを指しているように見える。狩り。戦い。護衛。冒険者。
「女」であることを選んだ男性は伴侶を見つける上で不利になりそうなものだが、実際にはそこまでの差はない。
女性たちに混じって仕事をするぶん、仲良くなりやすいのだろうか。


◆フーウェイの収穫人。
広場に目を戻すと、狩りから帰ってきたであろう集団が目に入る。
街の衛兵たちの格好と少し異なる、自然に似た服を着た集団だ。
森のなかに溶け込むための服装というのか……上半身は濃い緑色、下半身は茶色の服を着ている。
木の棒を組んで造ったそりに、大きな樹の幹を載せている。
そりで引かれている樹が、うめくような低い声をあげる。
〈トレント〉だ!
地鳴りのようなその声を聞いても、フーウェイの人々は振り返りもしない。

彼らは〈フーウェイの収穫人〉と呼ばれる集団だ。
太古の森から押し寄せてくる「動く植物」と戦い、トレントの身体を生活の糧とする。
〈魔犬獣〉や、ときどき出現する〈巨人〉のような【巨大生物】と戦うための戦士集団とは別に形成された、対植物の専門家である。
フードを目深にかぶり、彼らは他者と目を合わさない。
誰も口をきかず、2人で使う大型のノコギリで、〈トレント〉の身体を寸断していく。
カメルはその手ぎわをしばらく眺めた後に、広場から離れることにした。


◆家畜厩舎。
朝のうちに門をくぐったカメルは、広場で少し時間を費やした後に、反対側の街壁まで歩く。
フーウェイはそれほど大きな街ではない。
街の東の端にたどり着いたのは昼すぎで、厩舎めいた建物がいくつか見える。
馬を飼っている厩舎の横に、奇妙なものが見えた。
鎖でつながれた「切株」が、牧草地に放置されているのだ。
足を止めてよく見ると、切株は少しずつ動いている。
なんだこれは?
ピッチフォークで馬のエサを持ち上げている男を呼び止めて、カメルは尋ねる。

「〈切株トレント〉だよ。〈トレント〉を倒した後で完全に死んでいなかったら、俺らはその身体の根っこを残して、上の部分を切り落とす」

男が言うには、数分の1のサイズになった〈トレント〉は知能が下がり、従順になるのだという。

「すると、根だけになっても、すぐには死なないで何年か生きる。だんだん枯れて、しまいには死んじまうが、それまでは役に立つってわけよ」

男に礼を言って、カメルはもう少し奥まで歩く。
そこにも厩舎がある。
【騎乗生物】を飼っているのだろう……そう思ったカメルは、確認のつもりでその屋根の下を確認した。


◆奴隷厩舎。
それが何なのかを理解するのに、少し時間がかかった。
屋根の下の暗い部分で、何かが動いている。
黒い肌の人間型生物。エルフのように耳が尖っていて、エルフよりもずっと目つきが悪い。
闇エルフだ!
ここは奴隷厩舎なのだ。
ここフーウェイの北西部には「太古の森」と呼ばれる、古い時代から続く森がある。
そこには「動く植物」トレントの他に、邪神を信仰するエルフである闇エルフたちが生息している。
生きたまま捕まった闇エルフは【捕虜】として生かされ、奴隷として飼われるのだ。

カメルは来た道を急ぎ戻る。
先ほどの男が、しかめ面で立っている。
カメルからすると、彼が何も言わないので奥へと進んだのだが……男のほうは単に自分の馬のほうに気がいっていただけだったらしい。
あまりいい行動ではなかったようだ……カメルは軽率な行動を謝ると、足早に「牧場」をあとにする。


◆仕事の後に。
引き返して宿に着くまでに、少しずつあたりが暗くなる。
夜空に星が見える頃、先ほどの石造りの建物の前にやってくる。
カメルの宿に面した広場である。
女性たちの集団が、建物の前の広場に出ている。
広場の中心で焚き火をたき、1人が月に似た楽器(ムーンハープというらしい)を弾いている。
静かな声で残りの女性たちが歌いながら、空へと昇っていく煙を眺めている。

広場に続く道から、男たちの太い歌声が呼応するように返ってくる。
日暮れとともに、狩りから戻ってきたのだろう。
枝にくくりつけられた数匹の〈魔犬獣〉を、皆でかついでいる。
今日の狩り──あるいは戦いと言ったほうがいいのだろうか──は、上々の首尾だったらしい。

宿に入り、2階の個室に上がっても、その心地よい音楽は鳴り続けていた。
カメルはその旋律と歌声を、焚き火の前で笑い合う人々を、部屋の窓からずっと眺めていた。


◆その他の話。
毛皮などの動物素材と石材を中心とした独自の文化は、より南方の都市民に「野蛮」との印象を与え、未開の部族のように思われることもある。
しかしながら、実際の彼らは(我々の基準とは違うものの)おしゃれ好きで、戦闘や鍛冶のみならず、航海術や占星術に発達した洗練された部族である。

彼らは集団で行動するが、それはひとつには厳しい寒冷地方に住んでいるためである。
日中の燃料消費を抑えるための最適な方法は、個別に暮らさないことだ。
街にはいくつかの部族がまとまって暮らしている。
とはいえ、そのすべてが集団行動を行うわけではない点にも注意が必要だ。
店を営む者や、少人数で行う仕事をなりわいとする者たちもいるのである。


◆北方の2つの街。
エドワルド・フォン・ハルト3世は「ドラゴンごろし」の異名を持つエドワルド・フォン・ハルト1世の孫である。
しかしながら、フーウェイの統治は世襲ではない。
1世が実力でこの街のリーダー(「長」と呼ばれる)の地位を勝ち取ったように、3世もまた戦いのなかで周囲に認められ、長となった。
フーウェイのなかでも彼らハルトの一族は代々、特に武勇に秀でていた。
エドワルド1世がこの街の長となるずっと前に、彼の先祖の一部はフーウェイの街を出て、危険なスォードヘイルの雪山を越え、新たな街をつくった。
街は北方都市サン・サレンと呼ばれた。
サン・サレンは「聖なるサレン」という意味であり、サレンという名称は彼らが信仰する獅子の顔を持つ神、獣神セリオンを由来とすると言われている。


◆旅は続く。
翌朝早くにカメルは街を出る。
西の端にあるハルト川に面した港から、船旅をはじめるのだ。
盗賊都市ネグラレーナへと向けて。


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↓「アランツァ:ラドリド大陸地図」by 中山将平
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