第1回【ハンテッドガーデンハート〜盗賊剣士外伝〜】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【ハンテッドガーデンハート〜盗賊剣士外伝〜】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。
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私はニナ・ガーデンハート。
追っ手から逃れるため、森の中に入る。
相手はプロのハンター。怪物狩猟者で弓使い。
スタミナと敵との距離。2つの要素に気を配りながら、状況に対応せよ!
あきらめず、好機をつかむことができるか?
(「ハンテッドガーデンハート〜盗賊剣士外伝〜」冒頭四コマから文章のみ抜粋)
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●アタック01-1 逃げるエルフと追うハンター
ザク……ザク……。
歩を進めるたびに、雪を踏みしめる音が響く。
一歩。一歩。
ギュッ。ギュッ。
雪が私の足の形に圧し固められてゆく。
つかず離れずの距離を保ったまま、私のあとを追ってくるひとりの男がいる。
この雪の中では、たとえ距離をとったとしても、簡単に足跡を辿られてしまう。
いまいましい。
追っ手は、プロのハンター、ダムリス。
怪物狩猟者。小さな形跡からもヒントを見つけられる追跡のプロ。
追われる私は、ニナ・ガーデンハート。エルフの女性。
治安の悪さで有名なネグラレーナの、盗賊ギルドの一員。
手先の器用さや俊敏さは私が勝るかもしれない。
しかし、森は怪物狩猟者にとっては庭のようなもの。
しかも、ここは私にとってはアウェイ。地の利も向こうにある。
対抗できるとしたら、狩られる怪物と違い、知恵が回ることか。
これから、知略の限りを尽くして、あの男から逃げ切らねばならない。
ここは、北方の都市サン・サレンからそれほど離れていない森だ。
高地にあるため、雪をかぶった針葉樹林。ここのように雪原になっている場所も多い。
私に追っ手がかけられているのには、理由がある。
私には多くの妹たちがいたが、借金のカタに非合法な組織の手に落ち、女郎屋に売られてしまった。
私もあやうく売られるところだったけれど、どうにか逃げのびることができた。
それで、妹たちを買い戻すために、ネグラレーナで盗賊稼業をして稼いでいた。
そこに、大きく稼げる情報が舞い込んできた。
それは、サン・サレンの付近で新たな迷宮が発見されたというもの。
サン・サレンは私たち姉妹が一時期生活していたこともある地だ。
父もサン・サレンの迷宮で命を落としている。
危険はある。けれど、チャンスは逃したくない。
そこで、私は久しぶりにサン・サレンの地に戻ることにしたのだ。
あれから長い年月が経つ。まさか、組織がまだ私に目をつけているとは、露ほども思わずに。
サン・サレンに戻ったところを組織の追っ手ダムリスに見つかり、私は森へと逃げ込んだ。
そうして、このとおり逃亡を余儀なくされているというわけ。
武器もない。食料もない。味方もいない。
おまけに雪で足場も悪い。相手は追跡のプロ。
この状況で、私は逃げのびなければならないのだ。
●作品紹介とシステム確認
ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」のリプレイを書き上げた後に、この作品をプレイしました。
「ゴルジュ」の主人公ミナの姉、ニナ・ガーデンハートが登場する短編だからです。
ガーデンハート姉妹のほかの物語に触れてみたくなったためです。
読み始めて感じたのは、細かい部分での初期設定の違いですね。
私の知るミナの物語では、ニナとミナが奴隷商人の襲撃から逃れ、さらわれた他の姉妹の行方を探す展開が描かれていました。
本作では、ニナの妹たちは全員女郎屋に売られたことになっており、ニナにも追っ手がかけられているという状態です。
長年温め続けていれば、設定が少しずつ変遷していくことは普通にあることです。
また、ニナが主人公のこの短編は「ゴルジュ」よりだいぶ前の作品。ミナだけの特別な物語に言及する必要がないのもうなずけます。
とにかく、細かい違いは気にしないで、この作品はこの作品として楽しみましょう。
全37パラグラフの短編です。
最初から、主人公ニナが「追っ手から逃げる」ことを、作品の主眼に置いています。
全編通して、逃走劇が描かれることでしょう。
本作をプレイするうえで必要なパラメータは、「スタミナ」と「距離」です。
スタミナの初期値は5。距離の初期値は2。どちらも0になると深刻な事態が発生するとのこと。
【ニナ スタミナ:5 距離:2】
スタミナを切らさないよう、距離を詰められないよう気をつけて、逃走を続けなければなりません。
これだけ確認すれば十分です。それでは本編に戻りましょう。
リプレイの文中では、「プレイヤー視点」と「キャラクター視点」をあまり区別せず、わざと混在させて書くのがいつものスタイルです。
あるときにはキャラクターの心情になりながら、あるときにはメタ視点から眺めつつ進めていきます。
●アタック01-2 ニナとポルナレフ
ダムリスはあいかわらず距離を詰めるでもなく、一定の間隔をあけてついてくる。
その余裕の態度が気にくわない。
雪が降っていれば足跡は消えるかもしれない。しかしよりスタミナを消耗することになる。
少ない雪で中途半端に消えるくらいなら、降っていない今の方がマシだ。
・もう少し距離を取る
・状況を受け入れる
無策で距離を取ることに、意味はあるのかな。
視認できているのは、こちらの焦りを誘うためだろう。
ここで距離を取るためにスタミナを消耗するのは、相手の思うツボだ。
私はこの状況を受け入れたまま、歩みを進める。
ダムリスは、ほんのわずかずつ距離を詰めている。
私が歩き続け、スタミナを2点消費する頃には、距離が1点縮まっていた。
【ニナ スタミナ:5→3 距離:2→1】
後ろを振り返ると、徐々に大きくなってくるダムリスの姿。しかし焦ってはいけない。
歩いているうちに、木の実がなっているのを見つける。メーラの実だ。
この季節に残っているなんて珍しい。
食べられる。そして私は空腹だ。食料も持っていない。
・まったく食べない
・1個だけ食べる
・3個とも食べる
時間と距離とスタミナ、これらのバランスを考えて答えを出そう。
食べればスタミナは改善する。
木の実を取るのには時間を取られる。距離はあと1だ。
でも、食べないという選択はないだろう。スタミナが尽きればおしまいだ。
私は、1個だけ食べることにした。
時間をかけずに1個をもぎとり、かじる。
そのジューシーさときたら!
極限状態で口の中に入った食物の美味さは果てしない。
体内をかけめぐり、脳に栄養が行き渡るような感覚を味わう。
スタミナが1、回復した。
【ニナ スタミナ:3→4 距離:1】
すかさずもう1個をもいで半分に割ってポケットに詰める。
これは後に食べる分だ。
時間をかけずにできる行動はここまでだ。歩き続けよう。
やがて、事態に変化が訪れた。
雪の中、林の影から顔をのぞかせている生き物が見える。
それはポルルポルルだ。
騎乗生物として使われることも多い、ダチョウっぽい外見の生き物。性質はおとなしめ。
ポルルポルルレースなんていう趣向がある町もあるという。人間と共生関係にあると言っていいだろう。
もし、このポルルポルルを慣らすことができたら、一気に距離を稼げるかもしれない。
そしてラッキーなことに、私は今、夜食用にと思って取っておいた、新鮮なメーラの実を持っているではないか。
これで餌付けできないだろうか。
・ポルルポルルを捕まえてみたい
・先を急ぐ
よし、捕まえよう。
ポルルポルルは警戒心なく私に近づき……こっちが餌付けする間もなく、自分から鼻面をポケットに突っ込んできた!
よっぽど空腹だったみたいだ。
でも、チャンスだ。私はすかさず、ポルルポルルの背に飛び乗った。
ポルルポルルは少しだけ暴れたけれど、すぐにおとなしくなった。
たてがみを引っ張り指示を出すと、走り出した。やった!
名前をつけよう。命名、ポルナレフ。
きっと後ろではダムリスが悔しそうな表情をしていることだろう。
このまま一気に森を走り抜けて……!
期待していたが、ポルナレフがへばるのは、思いのほか早かった。
そうか。かなりの空腹だったんだね。
メーラの実を食べた分の働きはしてくれたと思う。ありがとう。
おかげで距離を2点ほど稼ぐことができたよ。
【ニナ スタミナ:4 距離:1→3】
●アタック01-3 ニナと自然派トラップ
日没だ。
本当に大変なのはここからだ。
追っ手が迫る中では、野営もままならない。
足跡を辿られている今、足を止められない。歩き続けるしかない。
そんなとき、進行方向に、焚火の明かりが見えた。
焚火のゆらめきに人影。誰かがいる。野営しているのだろう。
それは中年の男性だった。護衛を2人ほど連れている。
行商人かな。
・焚火の方に行く
・焚火を避ける
これは悩ましい。
第三者の登場で、追っ手ダムリスが警戒して近寄ってこない可能性はある。
追っ手の脅威からは一旦解放されるだろう。
そうなれば、小休止を取ることも不可能ではないかもしれない。
しかし、ここで野営する商人を信用して良い根拠はどこにもない。
徒手空拳の私には、無防備な状態で身近な悪意にさらされたとき、対抗するすべがない。
そう考えると、これが最適な選択と言い切ることもまた、できない。
私は悩みつつ、焚火を迂回して進むことにしたのだった。
焚火を避けた以上、足を止めることはできない。
私は夜通し歩き続けた。
そのため、スタミナを2点消費し、距離を3点、稼ぐことができた。
【ニナ スタミナ:4→2 距離:3→6】
さすがにダムリスの姿は視認できなくなっている。
しかしそれでも、休むわけにはいかない。
見えないなら見えないで、不安が募る。
私がしたのと同様、騎乗生物か何か別の手段を用いて先回りされているのではないか。
どこかから不意打ちが来るのではないか。
そんな思いにも駆られてしまう。心が弱くなっている。
今歩いているのは、森の端のほうだ。雪はだいぶ、深くなってきた。歩くたびに、膝くらいまで沈んでしまう。
右手は、崖まで10メートルもない。
その崖寄りの雪の中に、何かが落ちているのが見えた。
木の板……? いや、あれはスキー板だ。しかも一対、両足分の。
競技やスポーツとしてのスキーがあるわけではない。
しかし、生活の足としてスキー板を用いる文化は、こうした北方の地には根付いている。
けれど、どうしてこんな場所にスキー板だけ?
その謎は、すぐに解けた。スキー板に、ちぎれた足の残骸が残っていたからだ。
猛獣に襲われたというところだろうか。
ここは高地にある傾斜地だ。
スキー板があれば、移動速度が上がる。それは逃走に有利にはたらく。
・スキー板を拾う
・無視して先を急ぐ
私は、目先の利益にとびついて、スキー板を拾いに行くことにした。
そう。私は完全に忘れていたのだ。このような立地の降雪地にひそむ危険性を。
雪庇という現象がある。
雪が、地面よりもせり出している状態のことだ。
豪雪地帯の建物の屋根で、雪が屋根よりもはみ出している状態というのを見たことがないだろうか。
あれと同じだ。
つまり、崖にほど近い雪地には、地面がない可能性がある。
私の体重すら支えきれないほどに。
今の状況は、まさにそれだった。
スキー板に目がくらんだ私は、雪庇に踏み込み……崩れる雪に巻き込まれた。
そのまま雪と一緒に地面を転がる。
崖とはいえそこまでの断崖ではないのが救いといえば救いだった。
雪のおかげでダメージも少ない。
あちこちに身体をぶつけながら、それでもようやく止まる頃には、スタミナを2、消費していた。
そのかわり、距離は1、稼げた。
【ニナ スタミナ:2→0 距離:6→7】
距離は申し分ないほどに稼げた。
しかし、今の滑落で、体力は完全に限界だった。
崖の上にダムリスの姿が見える。
時間をかけてゆっくりと回り込んでくるダムリスを、私はただ、待つことしかできなかった。
こうして私は、ダムリスの手に落ちた。
ハンターは、その依頼をまっとうしたのだ。
ゲームオーバー。
■登場人物
ニナ・ガーデンハート ガーデンハート姉妹の長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
ダムリス 非合法な組織の追っ手。ニナを狙っている。
ポルナレフ 森でニナが餌付けしたポルルポルル。空腹。
■作品情報
作品名:ハンテッドガーデンハート
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
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ゲームブック短編集「ハンテッドガーデンハート」に収録されています
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