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2026年1月13日火曜日

ゲームブックにおける死と物語 第3回:『フィンガーセイバーの冒険』における予知能力と死の教訓 FT新聞 No.4738

みなさん、こんにちは。編集部員のくろやなぎです。本日は、連作記事『ゲームブックにおける死と物語』の第3回をお届けします。
第1回(2025/11/18、No.4682)では、主人公が「輪廻」の中で死を繰り返すゲームブック『護国記』(著:波刀風賢治、2018年、幻想迷宮書店刊)をご紹介し、第2回(2025/12/16、No.4711)では、「時の魔法」の使い手を主人公とするゲームブック『狂える魔女のゴルジュ』(著:杉本=ヨハネ、2023年、FT書房刊)について、『護国記』と対比させる形でご紹介しました。
今回は、予知能力者を主人公とするゲームブック『フィンガーセイバーの冒険』(著:杉本=ヨハネ、2015/2022年、詳細は後述)のご紹介を通じて、ゲームブックにおける死と物語について考えていきたいと思います。

『フィンガーセイバーの冒険』は、全部で25パラグラフの短編作品で、当初は『フィンガーセイバーの憂うつ』というタイトルでFT新聞に掲載されました(2015/02/01、No.752)。そして『恋は盲目〜ゲームブック短編集5〜』(2015年、Kindle電子書籍、FT書房刊)に収録された後、さらに改題および一部改稿された形で『ゲームブック短編集 ハンテッド・ガーデンハート』(2022年、FT書房刊)に収録されています。
冒険記録紙やサイコロなどは使用せず、およそ15分〜30分ほどでエンディングに辿り着けますので、未読の方は、ぜひいちどお気軽に(よろしければ、記事本体を読まれる前に)プレイしてみていただければと思います。
以下は、各バージョンを収録した書籍へのリンクです。Kindleで読みたい方は1か2、紙の本で読みたい方は3をどうぞ!
 1.『FT新聞 2015年版』(Amazonの商品ページへ)https://www.amazon.co.jp/dp/B0B87J4NPV
 2.『恋は盲目〜ゲームブック短編集5〜』(Amazonの商品ページへ)https://www.amazon.co.jp/dp/B00TEWCTA4
 3.『ゲームブック短編集 ハンテッド・ガーデンハート』(FT書房公式HPの作品紹介ページへ)https://ftbooks.xyz/shinkanjyoho/huntedgardenheart

なお、記事の中では、『フィンガーセイバーの冒険』のほか、『狂える魔女のゴルジュ』の内容についても言及していますので、未読の方はご注意ください。

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ゲームブックにおける死と物語
第3回:『フィンガーセイバーの冒険』における予知能力と死の教訓

 (くろやなぎ)
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■『フィンガーセイバーの冒険』における「君」の予知能力

『フィンガーセイバーの冒険』(以下、『FSの冒険』と略記します)は、『狂える魔女のゴルジュ』(以下、『ゴルジュ』と略記します)と同じく、FT書房の共通世界アランツァを舞台とするゲームブックです。
主人公である「君」は、サン・サレンの名門「ココフ家」の一族で、成人となる15歳を迎えたばかりの青年です。
君は、基本的には「人並みの腕力と人並みの知能を持った、ごくふつうの人間」なのですが、ココフ家にときどき出現する「予言者」のひとりとして、「未来予知」という特別な能力を持っています。

この予知能力がどのようなものかについて、物語の導入となるパラグラフ1には、以下のような描写があります。
「居間の扉を開こうと思った瞬間、部屋のなかに兄と召使いがいること、そのポーズやしゃべっている内容まで、先に読み取ったのだ。」
つまり、君の予知能力は、君が未来に知覚するはずの光景や音を、今ここであらかじめ鮮明に読み取る、という形で発動するようです。
これは、ゲーム的には、これから飛ぼうとする先のパラグラフを「先読み」できるという形でルール化されています。「先読み」した結果は、あくまで予知されたビジョンにすぎないため、その未来を現実として確定させるかどうか(つまり、そのパラグラフへ「実際に」進むかどうか)は、君である読者の意思で自由に決めることができるのです。
ただし、君が先読みできるパラグラフは、「いまいる」パラグラフ1つにつき1つだけです。2つの選択肢があれば、先読みできるのは片方だけで、もう一方の選択肢に進む場合は、先読みなしでその未来を選ばなければなりません。また、先読みしているパラグラフから、さらに先のパラグラフを先読みすることはできないので、2つ先のパラグラフの様子を知りたい場合は、必ずその手前のパラグラフを「現実」として確定させる必要があります。

『FSの冒険』の「予知能力」は、いわゆる「指セーブ」を使いながらパラグラフを行き来するという点で、『ゴルジュ』における「遡行」系の魔法とよく似ていますが、『ゴルジュ』における「悪夢」のような何かを消費する必要はなく、パラグラフを進むたびに毎回使用することも可能です。その一方で、行き来できる範囲は狭く限定されており、『ゴルジュ』の遡行の魔法のようにいくつものパラグラフを同時に先読みしたり、枝分かれするパラグラフ構造の中を何度も行き来するようなことはできません。
『FSの冒険』の予知能力は、確かにとても特別な能力ではあるのですが、『ゴルジュ』の遡行の魔法と比べてみると、多少なりとも「日常」感があるというか、比較的カジュアルな能力だと言ってもよいかもしれません。

■物語としての『フィンガーセイバーの冒険』のテーマ

つぎに、『FSの冒険』の物語の概要について見ていきましょう。

ココフ家には、これまで「数世代に1人の割合」で予言者、すなわち予知能力をもつ者が出現していました。その予知能力は、どうやら特段の前触れなく、成人する頃に突然発現するもののようです。
物語の最初に予言者となったのは、君ではなく、君の兄でした。兄が予言者として成功を収める様子を見て、君は「成人したら家を出よう」と決めます。「兄と比べられながらこの家に残るのは、苦痛でしかない」と考えた君は、「世界を旅して、財宝を求める冒険稼業をやろう」と思ったのでした。
結局、成人を迎えた君にも予知能力が発現するのですが、ココフ家には「2人以上の予言者は不幸を招く」という言い伝えがあったので、君は能力のことを家族に秘密にしたまま、故郷を離れて旅に出ます(そうしなかった場合、君は家族に殺されてしまいます!)。

貿易の街ビストフに辿り着いた君には、大きく分けて3通りの選択肢が提示されます。海で冒険するか、陸で冒険するか、それとも賭博で一儲けするか。
ここで海での冒険や賭博を選ぶと、君はまもなく死んでしまいます。これらの死の選択肢を回避して、陸での冒険を選んだ場合のみ、君は相棒となるサウルとともに、本作品の後半部分となる地下迷宮での冒険パートに入ることができます。
迷宮の中にも、死に至る選択肢が多く待ち受けていますが、予知能力をうまく使えば、君は唯一となる生還エンディングを迎えることができます。そこで財宝を手にした相棒サウルは、「冒険者の宿」をつくるという夢、「冒険者を支援して、交流の場をつくる」というビジョンを語り、君はそれを陰で支えようと決めます。
『FSの冒険』の短い物語はそこで終わりとなりますが、その夢が実現するかどうかは、FT書房作品の読者の方なら、よく知っているかもしれません。

さて、この物語のテーマのひとつは「能力の使いみち」、あるいは「目的の定めかた」だと言えるでしょう。
物語の最初の段階で、君には「冒険者になりたい」という漠然とした希望はありますが、その先に具体的なビジョンはありません。旅先のビストフの酒場では、君は船乗りの話に心を躍らせつつ、鉱山のそばの秘密の洞窟にも興味を示し、サイコロ賭博に手を出すことも考えます。
君は予知能力で死を回避することもできますが、先ほど述べたとおり、予知能力の及ぶ範囲には限界があって、万能ではありません。物語の簡素な描写の中に垣間見える君の心は、予知能力があっても決して確かなものではなく、いくつもの選択肢の前で若者らしく揺れ動く、行先の定まらない不安定なもののように読み取れます。
物語の最後の場面で、夢を語る相棒サウルの言葉を聞きながら、君は以下のような心境に至ります。
「先のことがわかるこの能力は、簡単に堕落へとつながってしまう。それを防ぐには、目的が必要だ。やりがいがあって、他者と心を通わせられる喜びのある目的。結果が分かっていたとしても、実現すれば心がおどるような、そんな目的が。」
おそらく冒険の過程で、短いゲームブックの中では描写しきれないところでも、君は予知能力を使いながら色々なことを学び、そこで得た教訓がサウルの夢とうまく結びついたのでしょう(地下迷宮での君の様子を見る限り、君には冒険者としての適性はあまりないようにも思われます)。これは一種のジュブナイル的な成長譚でもあり、特別な能力を突然与えられた青年が、自らの能力と折り合いをつけ、その目的や使いみちを見つけるまでの物語でもあるのです。

このような『FSの冒険』の物語の構造は、ゲームとしては似たようなギミックをもつ『ゴルジュ』の物語とは、むしろ鮮やかな対照をなしていると言えるかもしれません。
『ゴルジュ』の主人公である少女ミナは、姉たちを取り戻すという、この上なく明確な目的意識をもって冒険者となり、禁忌となる「時の魔法」の力を得ます。そして、『ゴルジュ』におけるミナの物語は、もし志半ばで失敗することがなければ、実際に姉たちを救い、当初の目的を貫徹する形で終わります。
『ゴルジュ』の「あとがき」に書かれているように、ミナは自分の心の弱さをよく知っているからこそ、目的のために「ブレることがない」主人公です。ミナの弱さや動揺は、物語が始まる前の「背景」の中に封じ込められており、「時の魔法」とともに物語を進めるミナは、常に当初の目的だけを見据え続けます。たとえ「時の魔法」の不適切な使用が冒険の失敗を招くときでも、ミナが後悔するのはその技術的な「使いかた」(使う魔法の種類やタイミング)であって、それを何のために使うのか、という意味での「使いかた」に思い悩むことはないでしょう。

『ゴルジュ』の長い物語の終わりが、目的を完遂したという安堵や達成感をもたらすのに対して、『FSの冒険』の短い物語の終わりは、新たな目的を発見したことの驚きや高揚感をもたらすもののように思います。
ゲームとしての側面から見ると、『FSの冒険』の「予知能力」は、「指セーブ」というメタ的行為のルール化という意欲的な試みであり、『ゴルジュ』の「時の魔法」のプロトタイプとして位置づけられるかもしれません。その一方で、物語としての『FSの冒険』は、『ゴルジュ』の物語とはまた異なる指向性をもつ、簡素ながら独特の魅力を備えたものだと言えるでしょう。

■「君」の死と教訓のゆくえ

ここで、『FSの冒険』の最後の場面(生きて迎えることができる、唯一のエンディング)における「君」の言葉を、もういちど見てみましょう。
「先のことがわかるこの能力は、簡単に堕落へとつながってしまう。それを防ぐには、目的が必要だ。やりがいがあって、他者と心を通わせられる喜びのある目的。結果が分かっていたとしても、実現すれば心がおどるような、そんな目的が。」

『FSの冒険』の物語の中で、この言葉と最もわかりやすく関係しているのは、「君」がビストフの酒場で賭博に手を出したときの結末でしょう。
賭博に手を出した君は、予知能力のおかげで大金を稼ぎますが、すぐに「スリルのないギャンブル」に飽きてしまいます。また、君は予知のおかげで先を見通せるため、周囲の人間が愚かに見えてしまい、友人ができることもありません。結局君は、麻薬に溺れて身体を壊し、孤独な中で短い一生を終えることになります。
もし君が、この「堕落と孤独の中での死」という場面を「予知」した上で、別の選択肢を選び直して生還することができたなら。
きっと、「やりがいがあって、他者と心を通わせられる」目的や、「結果が分かっていたとしても、実現すれば心がおどるような」目的をもつことの大切さに、自然と思い至るのではないでしょうか。

ところが、ゲームのルールの中では、「君」が上記のような教訓を得てエンディングに辿り着くことはできません。
君が賭博をするときの選択肢は、
 「ギャンブルに手を出す」ことを選ぶ
 →「1人で賭博をする」か「2人でする」かを選ぶ
 →「1人で賭博をする」を選んだ場合は孤独に死ぬ(前述のパターン)、「2人でする」を選んだ場合は相棒に刺されて死ぬ
という構造になっているのですが、最初に述べたとおり、予知能力で「先読み」できるのは1つ先のパラグラフまで。
つまり、「ギャンブルに手を出す」選択肢から「先読み」できるのは、「1人で賭博をする」か「2人でする」かという選択肢のあるパラグラフまででしかなく、さらにその先の未来を知るためには、「ギャンブルに手を出す」選択肢を、現実として確定させてしまう必要があるのです。
そこからの君の未来は、孤独に死ぬか、相棒に刺されて死ぬか、という二者択一のいずれかであり、片方の死を「先読み」して回避したとしても、残されたもう片方の死が、必ず君を待っています。

『FSの冒険』において、物語の中の主人公としての「君」は、いくつもの死の場面を、予知能力によって回避することができます。
しかし、「君」にとって最も大切な教訓となるはずの、「堕落と孤独の中での死」という光景は、それを見てしまえば生きて帰ることができない、死の袋小路の奥に隠されているのです。
では、エンディングにおける「君」の思いは、一体どこからやってきたものなのでしょうか。

この作品のタイトルは『フィンガーセイバーの冒険』ですが、肝心の「フィンガーセイバー」という言葉が、物語の中に登場することは一度もありません。
ここでいうフィンガーセイバーとは、「指セーブをする者」を指すとみられる造語であり、それは物語の中で「予知能力」を使う「君」というよりは、むしろ、物語の外で「指セーブ」を行う「あなた」に向けられた呼称のように思われます。
この短い物語の核となる、絶望的な死の教訓と、希望に満ちた結末は、物語の中の「君」の「予知能力」だけでは、つなぎ合わせることはできません。
『フィンガーセイバーの冒険』は、その物語を完成させるために、主人公である「君」の死(予知ではなく、現実としての死)を見届けた上でなお、物語を辿り直すことができる者を必要としています。それがすなわち、物語の外の「フィンガーセイバー」たる「あなた」であり、その意味において、この物語はまさに「フィンガーセイバーの冒険」として作られているのです。

■おわりに

どこまで一般化できるかは心もとないですが、それぞれのゲームブック作品の個性を形作る中核的な構成要素の中には、「ゲームとしてのルール」「物語とそのテーマ」「パラグラフの構造」の3点が含まれると考えています(もちろん、これらの3点「だけ」ではありません)。
『フィンガーセイバーの冒険』において、ひときわ目を引くのは「予知能力」というルールですが、それが「能力の使いみち」というテーマと結びつき、さらに「ルール上は主人公が生還できない、それでも物語にとっては重要な意味をもつ死のパラグラフ」が存在することで、このわずか25パラグラフの小品は、ゲームとしても物語としても、どこか忘れがたい印象を残すものとなっているように思います。

FT新聞での掲載時には、「筆記用具もサイコロも不要の本作品は、ミニゲームブックの鑑のようなつくりをしています」という言葉が添えられていましたが、手軽さだけでなく、簡素な中に込められた奥行きの深さにおいても、この作品はミニゲームブックのひとつの鑑だと言えるかもしれません。

【書誌情報】
杉本=ヨハネ『フィンガーセイバーの冒険』(杉本=ヨハネ『ゲームブック短編集 ハンテッド・ガーデンハート』所収、FT書房刊、2022年)
杉本=ヨハネ『フィンガーセイバーの憂うつ』(FT新聞掲載、2015/02/01、および杉本=ヨハネほか『恋は盲目〜ゲームブック短編集5〜』、FT書房刊、2015年所収)
杉本=ヨハネ『狂える魔女のゴルジュ』(FT書房刊、2023年)


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