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2024年4月25日木曜日

GBクトゥルー短編集小説リプレイvol.1『ヨグ・ソトースの飛沫』 FT新聞 No.4110

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児童文学・ミステリ作家、齊藤(羽生)飛鳥さんによる
『ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇』・小説リプレイ
Vol.1
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御無沙汰しておりました。齊藤(羽生)飛鳥です。
『ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇』は、いくつものクトゥルー神話ゲームブックを楽しめるお得パックな作品集です。
各話のあらすじが、四コマ漫画で紹介されているのが、遊び心満載ですし、すぐに世界観に没入できる仕掛けになっているのも嬉しいところです。こういう演出、粋なので大好きです。
第一弾にあたる『ヨグ=ソトースの飛沫』は、ゲームブック作家になってクトゥルーな冒険を繰り広げるというもの。
クトゥルー神話では、何をしていても死亡フラグに繋がる印象がありましたが、日常で仕事に励んでいても死亡フラグになることには驚かされました^^
なお、私には「ゲームブックの主人公は自分と同性に設定する」という自分ルールがあるので、リプレイの主人公は女性ですが、本編自体はどちらの性別でプレイしても大丈夫なようにシナリオが書かれています。毎度のことながら、その辺りの自由度のバランスのとり方が、ゲームブック作家の方々はすごいです!
ちなみに、ホラーが苦手なので恐怖を和らげようと、脳内で挿絵を思い浮かべながら読んだのですが、主人公の職業が作家だったので「作家……漫画家……岸辺露伴……。よし、脳内イラストは荒木飛呂彦先生タッチで行こう!」となったので、恐怖は和らがず結局ホラーになったのでした^^;
それから、最後に近況報告です。
このたび、3月末に『蝶として死す』(東京創元社刊・「羽生飛鳥」名義)が文庫となりました。解説を書いて下さったのは、文芸評論家の細谷正充先生です!! 人生初の文庫の、これまた人生初の解説に細谷先生が書いて下さるとは、ありがたさのあまり正直震えております!!
そして、4月上旬には『シニカル探偵安土真3 写生大会はトラブルいっぱい!』(国土社刊・「齊藤飛鳥」名義)が刊行されました。こちらは、人生初のシリーズ物の3巻目です!!
御興味がおありの方は、お時間ある時に御笑覧下さいませ^^

※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。


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『ヨグ=ソトースの飛沫』リプレイ

齊藤(羽生)飛鳥
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0
私の名は、甘木廿香(あまぎはつか)。
一介の零細女流作家だ。
今回は、縁あってクトゥルー神話のゲームブックを書くことになった。
クトゥルー神話について、まだあまりよく知らない。そこで勉強しつつ執筆を続けていたら、最近黒い点々が見えるようになってきた。
眼精疲労とは、ついてない。
そして、ついてない時にはついてないことが重なるものだ。
帰宅途中に雨に降られ、たまたま雨宿りで入ったコインランドリーで、強烈な個性を放つ老婆に出会ってしまった。
「あんた……呪われているね」
普段の私なら、「新手の濃茶の尼?」と茶化すところだ。
しかし、血まみれの植木ばさみを持った老婆からこんなことを言われては、つべこべ言わず逃げたくなる。
私は、雨宿りで入ったのも忘れ、全速力でコインランドリーから飛び出していった。


1
無事に帰宅できた私は、次の日、とんでもない事実に気づいた。
黒い点々が前よりも数が増えて見えるようになったし、クトゥルー神話ゲームブックのネタをメモした手帳をコインランドリーに忘れてきてしまったのだ!!
あの手帳には、お気に入りの『ゲゲゲの鬼太郎』のマスキングテープを貼ってデコってあるので、中身を見られるのも、表紙を見られるのも、つらい!!
でも、黒い点々が見え続けるのもつらいから、●眼科にも行きたい。
ここは、眼科、コインランドリーの順番で出かけよう。
日のある時間帯なら、通行人がたくさんいるから、あの老婆に出会っても、助けを呼べるから、たいして怖くないだろう。
私は、眼科に向かった。


2
眼科の医師は、中学時代の同級生という気安さ●から、フランクに飛蚊症や網膜剥離の可能性を提示してくれた後、検査もしてくれた。
結果は、これと言って異常なし。
もしかしたら、ストレス性の幻覚症状かもしれないと言い、気分転換にと、奥さんが使わなかった美術館の予約チケットをくれた。
7色の水玉模様●が、やたらかわいい。
さて、黒い点々がストレス性のものだとわかって安心したところで、コインランドリーへ行って手帳を探すとしよう。


3
コインランドリーに到着。
手帳は、コインランドリーのベンチに置いたはずだけど、どこにも見当たらない。
誰かが拾って●、雑誌置き場に入れてくれたのかも。
さっそく雑誌置き場を探してみると、同人誌を見つけた。
タイトルは●、『ヨグ=ソトースの飛沫』
今ちょうど私が書いているゲームブックと同じテーマで、なおかつ同じ制作元だ。
こんな偶然の一致なんて、あるのだろうか?
私は気になって、見つけた同人誌『ヨグ=ソトースの飛沫』について、制作グループに電話で問い合わせた。
答えは、この同人誌はこの世にたった一冊しかなく、作者は20年前から行方不明。
文意不明の言葉が羅列された同人誌ってだけでも恐怖を感じるのに、作者が行方不明と聞いては●、完全に危険なパターンだ。
私は電話を切ると、今聞いたことはしいて忘れて、手帳探しを続けた。
そう言えば、落とし物入れがあったな。
覗いてみると、予想に違わず手帳がそこにあった!!
よかった!!
これで、一安心。
さあ、家に帰っ……うぅ……急にめまいがしてきた。
ふらつきもしてきた。
まっすぐ歩けない……。


4
●気がつくと、私は駅前の広場にいた。
周辺地図の看板の前に立つと、●どうしたわけか黒い点々が神社や美術館の上を指し示すように止まっている。
まるで、黒い点々が指し示す場所へ行けと、●指示されているみたいだ。
ちょっと言ってみるか。
私は、●まず神社へ行くことにした。


5
付喪神社。
それが、●私の来た神社の名前だった。
「つくも神社」と読むらしいが●、この字面だと、『付喪神絵巻』を思い出す。日本の絵巻物の中では、●『鳥獣戯画』と並んで好きだ。
この神社は観光スポットらしいけど、●地元にあると観光気分になれないとの理由で、来るのは初めてだ。
でも、ご神体が古い鍋とは面白いから、今度からちょくちょく散歩に来ようかな。
さてと、●予約チケットをもらっていることだし、次は美術館へ行くとしますかね。


6
草枕彌生美術館。
それが、●私の訪れた美術館の名前だ。
ここも地元にあるけど、●入場料が零細作家には高くて、いつも遠くから建物を眺めるだけという●『ティファニーで朝食を』状態だった。
でも、●今日は違う。
予約チケットがあるから、入れる!!
嬉々として美術館に入り、これまた嬉々として作品鑑賞。
特に気に入ったのは、突き当たりの壁全面に描きこんだ黒い水玉の乱れ舞う作品だ。
芸術家の無意識と同調するような心地よさを味わっていると、草枕彌生の秘書に話しかけられ、草枕彌生と話ができるようになった!!
伝説的アーティストとどんな話をしようか、●夢見る私を現実どころか超現実に叩き落とすように、草枕彌生は衝撃の事実を激白した。
何と、彼女も私と同じように、黒い点々が見えているのだ!!
この黒い点々に関する相談相手の住所を教えてくれた上に、●今夜1:37に会おうと言ってくれたのはありがたいが、相談相手のいるビルって、あのコインランドリーの裏手だ!!
すごく不安だ……。


7
私は、●美術館を後にすると、相談相手のビルへは行かず、気分転換を兼ねて高校に行った。
ここも黒い点々が指し示した場所の一つだし、我が母校だからだ。
●懐かしい。
名物の天体観測所が、●今なお健在で、嬉しくなる。
なぜだか、●むしょうに天体観測所の天体望遠鏡で見ている宇宙へ行きたい気分になってきた。
●遊園地の観覧車で地上を離れることすら嫌で、ひたすらゴーカートに乗っている普段の私からは●、想像もつかない感慨だ。変なの。
でも、●気分転換になったから、次は図書館に行くとしよう。


8
●図書館。
仕事の資料探しでよく来るから、●まるで実家に帰ってきたような安心感だ。
ちょうどいい。●岡肌コレクションのコーナーにある幻想文学専門の棚を覗いていこう。
前に読みかけだった●『マンク』の続き、気になっていたんだよね。
……●と、本を手に取ったのが仇。
気がつくと、●閉館時間の音楽が聞こえてきた。
ここの図書館で流れる閉館時間の音楽は、よくある『別れのワルツ』ではなく、なぜか『虹の彼方に』が流れるのが気になる。
だが、それはさておき、これでは●家に帰るしかない。
岡肌コレクションには、●時間を飛ばす能力があるのではなかろうかと思いつつ、私は帰宅した。


9
我が家に帰ると、●ルームウェアに着替える。
今日一日●長かった。
夕飯を作ったり、風呂に入ったり、本を読んだりするうちに、●気がつけば11時をまわっていた。
黒い点々が見えているせいか、●やけに眠たい。
でも、記憶がはっきりしているうちに、●昨日からの奇妙な出来事を整理しておこう。
まずは、●コインランドリーで拾った同人誌だ。
文意不明の内容だったから、読めるかな……?
ん?●読める……じっくり見たら、読めてきたぞ!!
内容の大半がタイトルどおり、ヨグ=ソトースについての考察だった。
つまり、●正気の沙汰とは思えない、狂気すら感じる内容だった。
恐怖を覚えるは、●黒い点々が増えてくるは、さんざんなので、私は同人誌を読むのはここまでにした。


10
口直しと言うのもいささかおかしいが、●自分の手帳を読んで恐怖を紛らわそう。
自慢ではないが、●私のクトゥルー神話のゲームブックネタは、●ちっとも怖くない。
何しろ、●ペットショップで猫や兎ではなく犬を選びペットにさえすれば、●どんな恐怖の状況に陥ろうが、神話生物に遭遇しようが、●犬が神話生物を倒してくれて生還できるハッピーエンドを迎えるプロットだからだ。
●あれ?
見覚えのないメッセージが、最後のページに書かれている?
「深夜24:30。99の裏手で待つ」
99と言えば、●つくもと読むから付喪神社のこと?
その裏手と言えば、●公園が確かあったな。
気になるから、●行ってみるか。


11
深夜の公園は、●はっきり行って薄気味悪かった。
今にも殺人鬼や変質者が現れるのではないか、●ポケットの中に隠し持つ防犯用の催涙スプレーを握りしめながら、私は約束の時間を迎えた。
現れたのは、●大学生くらいの白人の青年だ。
私、●英語は大学卒業してから、まったく使ってないからしゃべれないんだけど!?
ジェスチャーかパントマイムで乗り切ろうか、●半ば本気で検討していると、青年は巧みな日本語で話してくれた。●助かった。
しかも、●話の内容は目の黒い点々を見えなくする方法だった。●これも助かる。
ただ、●胡散臭い儀式のグッズを渡された時は、どんな顔をすればいいのか、●わからなくなった。
そんな私を放置し、謎の青年は公園を立ち去る。
彼は、●いったい何者なのか?
気になった私は、彼を尾行することに決めた。
しかし、異界に通じていそうなトンネルにさしかかったところで、青年を見失ってしまった。
これでは、帰宅するしかない。
私は帰宅してから、ふと思い出した。
1:37に、草枕彌生と会う約束だったではないか!!
私は、大急ぎで美術館に行った。


12
●ぎりぎり約束の時間に間に合った……●と喜んだのも束の間。
美術館は●跡形もなく●消滅していた。
美術館の周りには●、警官や野次馬達がいる。
しかも、●私にしか見えない巨大な黒い穴がある。
突然だけど、●今ならこの黒い穴●が異界への入り口だとわかる。
草枕彌生も、●穴へ美術館ごと引きずりこまれてしまったのだ。
そして、●私も……。
制止する警官の声も聞かず●、私は穴の中へと●入っていった。


13
暗黒の中●、私は空間に浮かんできたメッセージを読み解いた。
●ミード酒?
あの青年がくれたお酒だ。
これと●、笛と呪文が救いとなると教えてくれた。
胡散臭いけど●、試してみる価値はある。
私は●、ミード酒を飲んだ。
甘露とは、●まさにこの酒のためにある言葉だ!!
酔っ払いの勇気で●、私はラベルに書かれている呪文を唱える。
すると、●宇宙空間のただ中にある巨大な石の神殿の前に私は来ていた。●わっほう。
立ちすくむ私を迎えに来るように、●神殿の中からあの青年が現れた。
そして、●どう考えても巨大すぎる神殿の中へ私を案内してくれた。
人類のために建てられた建築物ではないのは●、そのスケールの大きさでわかる。
町サイズの書架が並ぶ図書館なんて、●生まれて初めて見た。
天井なんて、もはや空にしか見えない位置にある。
だから、青年が人間サイズの通路にへ案内してくれた時には、元の体のサイズに戻れた『ミクロキッズ』のような気分だった。
通路の先には回廊があり、重厚な革張りの古書が並んでいる。
どれも、とてもきれいな本ばかりだ。
博物館級といってもいい。
本を見てまわるうちに、一冊の大型の黒い本を見つけた。
これ、確か4日前に見た覚えが……。
もっとよく思い出そうと本を手に取った。
たちまち棚から他の本が私めがけて落ちてきた!!
これは痛い!!
いったい何が起きたの!?
そんな私の疑問を無視して、後頭部に本が直撃。
私は意識を失った……。


14
頭痛と喉の渇きで●、目が覚める。
青年が、●甲高い声の年配の男と何やら話しているのが●逆さに見える。
それもそのはず、●私は逆さ吊りにされて●いたからだ。
二人は●何か話している。
話の内容を●総合すると●……ああ●、目の前の黒い点々が増えすぎてうっとうしい。
もう●、この●黒い点々●に悩まされないなら●、どうだって●いいや。

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———それが、私の最期の思考だった———
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∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。
2023年5月に『揺籃の都 平家物語推理抄』(東京創元社)が2023年第23回本格ミステリ大賞候補作にノミネートされた。
2023年9月には、齊藤飛鳥名義で、児童書では初のシリーズ物となる『シニカル探偵安土真(1)結成!放課後カイケツ団』(国土社)を刊行。
日常の謎解きをする少年少女探偵団物で、続刊予定。現在3巻まで出たので、このまま続刊を切に願う今日この頃。
2024年3月に『蝶として死す』文庫版(東京創元社)が刊行された。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表している。

初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
「ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇」所収
『ヨグ=ソトースの飛沫』
 著:HUGO HALL 絵:HUGO HALL
 発行:FT書房(2020年11月14日) 1,650円
 https://booth.pm/ja/items/2484141


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