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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.38
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〜前回までのあらすじ、あるいはイェシカの日記より抜粋〜
おっす、おらイェシカ! 冒険家乙女クワニャウマの従者のランタン持ちのエルフだ! 今回は、闇の賢人メメコレオウス様の依頼を受け、〈太古の森〉に眠るヴィンドランダ遺跡群へ冒険することになった。コビットの冒険者クリスティのミソサザイになる呪いを解くカギとなる、旧き神の神像を探すためだ。かわいい三匹の猟犬・雷電、飛燕、月光を仲間にしてから初めての冒険だから、おらもワクワクしてきたぞ!!
あらすじに遊び心を入れてみようと試みたら、某竜玉アニメの次回予告風になってしまいました。それはさておき、今回は『汝、獣となれ人となれ』リプレイその2です。
今回から、ヴィンドランダ遺跡群を目指し、〈太古の森〉の冒険が本格的に開始します。
ところで、前回『名付けられるべきではないもの』の慟哭せんばかりの結末に耐え切れなかった私は、ラブコメで中和して精神を保とうと、ギルサリオンをラブコメ要員にするという、全国のギルサリオンファンから矢衾にされても文句を言えないリプレイを書いておりました。
すると、どうしたことでしょう。
ダイスの女神様が、一回目からギルサリオンとの再会という奇跡をもたらして下さいました。
このように、予期しない展開が来るので、ローグライクハーフは楽しいです^^
楽しいと言えば、今回は初めて魔法の武器を入手することができました!
その名も『古代の神槍』!!
飛び道具として扱うこともでき、その場合は【攻撃ロール】+2、命中時には2点のダメージを与えることができる優れものですが、命中した敵が逃走したり、自分が逃走した場合は回収できず失われてしまうリスクもあります。
そこで、このリスクを回避しようと【死ぬまで戦う】設定の敵のとどめを刺すタイミングでのみ投擲で攻撃してみたところ、効果絶大でした^^♪
もう一つ、戦闘において効果絶大だったのが、従者の猟犬達です。
敵の【不意打ち】を阻止してくれるので、【不意打ち】の敵と遭遇することが多かった今回の冒険において、大いに助けられました。
さらに猟犬は、接近戦での【攻撃ロール】に+1の修正を与えてくれるので、先述の古代の神槍の通常攻撃時の成功率を上げてくれました。まさに、猟犬さまさまです^^b
最後になりますが、来年1月上旬に、拙作『歌人探偵定家』(東京創元社)の文庫版が刊行となりました!!
人生二冊目の文庫化にまでたどり着けましたのも、ひとえに皆様のおかげです。まことにありがとうございます!!
少し早いですが、皆様もよい年末年始をお過ごし下さいませm(__)m
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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ローグライクハーフ
『汝、獣となれ人となれ』リプレイ
その2
齊藤(羽生)飛鳥
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1:エルフの巡視隊
「賢人が言うからには、遺跡には相当たんまりとお宝がありそうね! ああ、早くクリスティの呪いを解いて、その相棒も見つけ出したら、二人にただで遺跡の隅から隅まで案内してもらって、お宝を荒稼ぎしたい!」
はりきるわたしに、猟犬たちが元気よく一声吠えて返事をする。賢い。そんな猟犬たちをイェシカがなでる。かわいい。わたしの肩に留まっているミソサザイが、「なんでやねん!」と言いたげに羽を振る。おもろい。
何か即興で割安な割に、いいパーティー編成だな。これはツイている!
不意に風を切る音が響いた直後、目の前に投げナイフが突き立つ。
「止まれ」
鋭い声が背後からかけられる。いつの間にか多数の気配がわたしたちを取り囲んでいる。
「武器を捨てて、両手を上げろ」
「わかったから、怖い顔しないでくれる? イェシカが怖がるでしょう」
わたしはそう言いながら、持っていた斧を捨てる。地面に鈍い音がして、エルフの巡視隊がいっそう警戒した表情になる。
武器を捨てたのに、余計警戒されるとは、何だか理不尽だな。
「また厄介事に首を突っ込んでいるようだな、外なる者よ」
聞き覚えのある声にはっとして振り返ると、武器を構えたエルフの巡視隊の後方から、部隊長である王族ギルサリオンが姿を現す。
わたしは目の前のナイフに見覚えがあった。彼の弟だったファラサールが使っていたものだ。ナイフを引き抜き、ハンカチで土汚れを落として無言で手渡すと、ギルサリオンは寂しそうな笑みを口の端に浮かべる。わたしと同じか。まだファラサールの死が心に大きな影を落としているんだ。
少し雰囲気を和らげたいし、会話をするか。
「久しぶり。相変わらずみたいね。わたしも相変わらず冒険でヴィンドランダ遺跡の調査をしているわ。あなたたちエルフの領域には立ち入らないと約束するから安心して」
「よかろう……しかし森の秩序を乱すような真似をしたならば、如何に貴様といえども部下たちに容赦はさせぬからな」
(なんやの、いけ好かん奴!)
わたしたちの周りで、小鳥の姿のクリスティが不満げに鳴きながら飛び回る。ちなみに、台詞はわたしの想像だ。
(大丈夫、こいつはこんな事は言ってるけど、本当はいい奴だから)
わたしはクリスティに小声で伝える。
(何しろ、ただで協力してくれたし、こっちが投資で渡そうとしたものを断ろうとするほど無欲という珍しい奴だから)
「黙れ」
ギルサリオンは顔をしかめながら吐き捨てる。
「はーい」
わたしが返事をすると、ギルサリオンは部下たちを撤退させにかかる。
エルフたちが立ち去る際に、ギルサリオンがわたしに意味有りげに目配せをする。
わたしはその目線の先に、トレント果実〈テュルニ〉が2個、実っているのを発見する。
「これ、〈テュルニ〉じゃない! しかも、2個! ギルサリオン、あんたいつからそんないい男になったの!?」
礼を言おうと振り返ると、既にエルフは姿を消していた。
お礼は次回会った時と決め、わたしは〈テュルニ〉を2個もぎ取って先へ進んだ。
2:雨宿りの妖精
「わたしたち、幸先いいわね! この調子でお宝じゃんじゃんゲットよ!」
わたしが気合いを入れると、クリスティがその調子だと言わんばかりに囀る。
「それにしても、周囲に漂う草いきれが強く鼻をつくね」
わたしがそう言ったところで、イェシカが石板に一文字、こう書いた。
〈雨〉
直後、わたしの頬に雨粒が当たる。
そこから、一気に雨は本降りになる。
「みんな、雨宿りよ!」
うまい具合に、遺跡群に到着していたので、わたしたちは崩れかかった建物の庇の下に逃げ込む。
ミソサザイに限らず、鳥は濡れたら飛べなくなるから、動きが制限されて大変そうだ。
「しまった……持ち物に傘を加えておくべきだったわ。でも、傘を持つと武器が持てなくなるか。そうだ、武器になる傘を作ればいいんだわ! そうすれば、武器を買えば傘としても使えるから、お買い得! このアイディアを武器職人に売れば、ひと稼ぎできそうよね! そう思わない?」
(思わんわ、ボケ!)
ミソサザイが、そんなツッコミを入れているような動きを見せる。
一方、イェシカは石板にメッセージを書いた。
〈早く雨がやむといいね〉
「そうだね。じゃあ、やむまでの間、お人形遊びでもしようか」
イェシカが持っているウォー・ドールは、起動しない限り手のひらサイズだ。それをいいことに、わたしはミソサザイを人形代わりに、イェシカのウォー・ドールと人形遊びをする。おかげで、ミソサザイが虚無顔ができるのだと初めて知ることができた。
すると、絶え間ない雨足のなかにぼんやりと光るものが目に留まる。
その光は、ふわふわと不安定にわたしに向かって漂ってくると、顔の真ん前で甲高い声を発する。
「ひゃー、ひどい目に遭ったよ」
その小さい姿は、淡いピンクの花をつけるリンネソウの妖精だった。
小妖精は身体をぶるぶると震って雨水を振り落とすと、きょろきょろと何かを探し始めた。
「すてきな休憩所を発見!」
そう言って、リンネソウの妖精はイェシカが持っていたランタンの蓋を開けると、その中に身体をねじこむ。
「ここは居心地が良くていいや」
そう言うと、あくびをして寝入ってしまった。身体がうっすら光っているので、ランタンを灯している時と同じくらい明るくなる。
ランタンを小屋代わりにしてくつろぐリンネソウの妖精を気に入ったのか、イェシカが目を輝かせる。
「灯油代が浮くことだし、このまま連れて行こうか」
わたしの提案に、イェシカが喜ぶ。天使だ。
ミソサザイが、またも「なんでやねん!」の仕草をしていたけど、イェシカの笑顔のよさがわからんとは、哀れな。
3:コビットの罠師
雨も上がり、わたしたちは遺跡の廂の下を出て、崩れた遺跡の探索を始めた。
すると、遺跡の死角をうまく使って仕掛けられた罠に引っかかってしまった!
「いてっ! イェシカ! みんなは大丈夫?」
慌ててふり返り、イェシカたちの無事を確認する。
すると、イェシカも猟犬たちも元気だった。ミソサザイも、ちゃっかりイェシカの頭に止まっているほどだ。
おいおい、罠にかかったのはわたしだけかーい。
それにしても、はね上げ式の罠か……。いい具合に逆さ吊りだから、長時間このままだと頭に血が上って召されそうだ。
「ちぇっ、なんでえ。間抜けなオークかと思ったのによ」
ぶつくさと文句を言いながら、コビットの罠師が現れる。
「第一声がそれか。あのさ、罠をはずしてもらえる? このままだと猟犬たちに襲われてボロ雑巾みたいになるわよ、あんたが」
「罠にかかった間抜けな姿で脅されてもなぁ。罠をはずしてほしいなら、金貨5枚をよこしな。それ以上はまからねえぜ」
「金貨5枚も!? 従者一人を余裕で雇えるお値段じゃない! もう少しまからない?」
「おまえ、自分の命が安値になっていいのか?」
「はっ……!! わたし、自分の命の値段を甘く見積もっていたわ!! そうよね。わたしが死んだら、イェシカと会えなくなるし、吟遊詩人を雇ってファラサ—ルの詩を作れなくなる……。わたしの命、ざっと金貨1000枚くらいの価値があるわ。それを考えたら、金貨5枚は破格か」
「自分を見つめ直す暇があるなら、さっさと財布の紐をゆるめろや」
「それもそうね。はい、金貨5枚」
「最初から素直に払えってんだ」
憎まれ口をたたきながらも、コビットの罠師は金貨を懐に納めると、罠をはずしてくれたのだった。
4:神の樹
〈クワニャウマ、大丈夫?〉
イェシカが、石板にそう書いてくれた。つくづく天使だ。
「心配してくれてありがとうね、イェシカ。まだちょっと痛むけど、食料を食べて元気になって来たから歩けるわ」
そんなこんなで話すうちに、わたしたちは澄んだ水が湧き出ている泉の前に出た。
猟犬たちが、いっせいにうれしそうに舌を出して尻尾を振る。
「少し休憩していこうか」
わたしたちは、泉の周りで休憩を取った。
泉の水はとてもおいしかった! ただでこの高品質、すばらしい!
すると、猟犬たちを泉の周辺で散歩させていたイェシカが、森木に絡まった根元にあった1本の古めかしい槍を拾ってきた。
木製の槍は複雑な文様が隙間無く刻み込まれていた。
〈これ、前にお兄ちゃんが読んでいた本に書いてあった。古代の神槍っていう魔法の両手武器〉
「魔法の武器!? 前からほしかったの! よくぞ見つけてくれたわ! ありがとう、イェシカ!」
わたしは、嬉々としてさっそく古代の神槍を装備した。
ここで問題になったのは、今まで装備していた片手武器の斧だ。捨てるのはもったいないけど、かと言ってこれ以上の武器は持てない。
強欲のわたしとして、ただ捨てるのは罪悪以外の何物でもなかった。
「よし、次にここへ来た冒険家がお得に思えるように、イェシカが槍を見つけてくれた場所に『ご自由にお持ち帰りください』と書いて置いておくか」
ミソサザイが、キレのよい動きで「なんでやねん!」の動きをする。……クリスティ、だいぶミソサザイの体になれてきてはいやしないか?
5:旧き騎士と旧き剣
泉を離れ、遺跡群の散策を再開する。
その中に廃墟があったので、さっそく入ってみた。遺跡の他の場所と異なり、中にある広間は綺麗でよく手入れされているように見える。
わたしは、床に敷かれた赤い絨毯や、壁にかけられた年代物の肖像画、その手前の台座に置かれた完全鎧と長剣を見る。どれも、埃一つついていない。
「もしかして、どなたかお住まいっぽい?」
〈貴族のお部屋みたい〉
イェシカが石板にそう書いて、わたしに見せた直後だった。
ガチャリという金属音と共に、台座からゆっくりと完全鎧を身につけた重装の騎士が広間に降り立った。
そして驚いたことに、長剣はふわりと宙に浮き、わたしたち目がけて飛びかかってきた!
「はぁっ!? 剣がひとりでに飛ぶって、まさかあの剣は〈おどる剣〉!?」
ゴーレムの一種と聞いたことがあるから、そうなるとあの騎士もゴーレム!?
わたしの推測の正しさを確認する暇もなく、騎士の攻撃が始まる。
「ワンッ!!」
猟犬が、わたしに体当たりを食らわせてくれたおかげで、騎士の不意打ちとも言える攻撃を回避できた。
「ありがとう、雷電!」
イェシカが石板に〈その子は月光〉と書いていたから、後で言い直そう。
息つく暇もなく、次は〈おどる剣〉が襲いかかって来た!
「食らえ、古代の神槍!」
わたしは〈おどる剣〉を槍で叩き落とす。初めて両手武器を使ったけど、悪くない使い勝手だ。
「ワンッ!!」
猟犬たちが騎士と戦って追いつめられているのがわかり、わたしはすかさず騎士めがけて古代の神槍を投げつけた。
よし、当たった!
騎士はそのまま動かなくなり、金属音を立てながら膝から崩れ落ちる。
恐る恐る近づき、槍を引き抜いても、騎士は動かない。
全身を探ってお宝の金貨1枚と金貨15枚相当の小さな宝石を見つけても、やはり動かない——倒せたのだ。
猟犬たちを従者にして初めての戦闘は、こうして無事に終わった。
欲を言えば、もうちょいお宝がゲットできたら申し分なかったけど、まだ冒険は始まったばかり。次へ行こう。
(続く)
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。最近は、そこにローグライクハーフが加わった。
2025年現在、『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を6巻まで刊行中。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2026年1月上旬に文庫版『歌人探偵定家』(東京創元社)が刊行決定。
初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『汝、獣となれ人となれ』
著 水波流
2025年9月7日FT新聞配信
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