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2025年9月25日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.6 FT新聞 No.4628

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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.6
 
 (東洋 夏)
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 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第六回にあたります。
 今日が初めての方にもお楽しみいただけるよう、まずは少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは、聖騎士見習いの少年シグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまいました。
 犯人を捕まえるべく捜査に乗り出したふたり。前回のリプレイでは被害者の家族に聞き込みをしようとするも拒絶され、死体の検分をさせてもらおうと教会を訪れたところ賄賂を要求され、と十二歳のシグナスくんに世間の風はとことん冷たく……。
 そんなところから今回の冒険は始まります。どうやら一難去ってまた一難、ふたりはまたも大人の世界に足を踏み入れてしまうようです。さあ、めげずに探索を続けることは出来るでしょうか?

 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは捜査の記録をご覧あれ。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[探索記録7]12:酒場の用心棒


 シグナスは、そら恐ろしくなって墓地をそそくさと後にし、街の方へと足を向けた。
 棺の中に横たわる、自傷したように見えた死体。路地裏で水溜まりから這い出してきた、自分とそっくりな殺人犯の姿。そしてシグナスが殺人犯と必死に戦っている間、クロの目には殺人犯の姿は見えておらず、ただシグナスが独りで錯乱しているようにしか映らなかったという証言。それらがあと少しで噛み合う気がするのだ。
「次はどうしよう」
 シグナスが呟くと、
「先程の遺体だがな」
 鞘に収まってただの剣のふりをしているクロが応じる。人通りは無いから、話しても構わないだろう。
「他に何か気づいたの、クロ」
「いや。しかし証言が残っているなら死ぬ直前に話した相手がいるはずだな、と思ったのさ」
「そっか、その人を捜してみようか」
「生きていればいいが」
「怖いこと言わないでよ!」
 騎士の頃の記憶を辿って、その手の話を聞くなら酒場が良かろうとクロが助言した。聖騎士の使いっ走りで来ました、と説明すればどう見ても成人ではないシグナスだって入れてはもらえるだろう。棺を開かせてもらった故人の素性は聖具係から教わっていた。自宅に近い酒場に探りを入れれば、何かしら掴めるはず。
 そのように考えたふたりが目星を付けたのは〈黒鎚亭(こくついてい)〉という、サン・サレンでも有名な酒場だった。開けっ放しの扉から、まだ日も傾いていないのに酔っぱらいの声が聞こえる。しかしどこか虚勢を張っているようで、彼らも心から笑っていないようだと、シグナスには思えた。孤児として生きてくれば作り笑いには人一倍敏感になる。
 入口に守衛はいない。するりと中へ入り込むと、薄暗闇に目が慣れるのに少しだけ時間を要する。世間擦れしていないその姿に酒場の客たちの関心が集った。
 観光客も多い〈黒鎚亭〉のこと、地元の酔客は普段ならすぐに興味を失い、あるいはからかいの言葉ひとつ投げてまた自分の酒に戻っていくのだろうが、今は違う。いつ自分の身に降り掛かるかもしれない無差別連続殺人の真っ只中にあって、日常を掻き乱す珍客は歓迎されない。
(いかん、計算を間違えた)
 クロは焦った。剣になって以来、人間としての感覚が少しずつ薄れて来ている。しかも記憶として浮かび上がる思考回路は大の大人の騎士のそれだ。十二歳の少年の立場を推測するには、まったく役に立たない。
(しかしこの子は逃げないだろう。真っ直ぐに行ってしまう。止めるべきか、いや、黙っているべきか)
 鞘の中で揺れを感じる。シグナスが大人たちの視線の中を、胸を張ろうと努力しながらも、結局おどおど泳ぐ小魚のようになって渡っていく様子が伝わってきた。
(俺は、護らねばならんのだが)
 困ったことに、クロの記憶は一部欠損している。一番鮮明なのは、女王陛下の騎士であったという記憶。これはただしロング・ナリクではなく別の国のはずだ。まだコーデリア様は即位していないのだから。
 数百年眠っていたならば分からない。最後に覚えているのは、何か理不尽なことがあって、自分が猛烈に怒っていたということ。剣を抜いてはいなかったが、怒りにかられて机を投げ飛ばした時の感覚がまだ残っていた。
 それから空白があり、次に出てくる古い記憶は、赤子時代のシグナスの顔である。彼が孤児院に預けられた時、クロも一緒に預けられたのだと聞く。残念ながら預けられた時はまだクロは〈おどる剣〉として不完全な状態で、眠りの中にあった。起動していればシグナスを預けに来た誰かの顔や、対応した孤児院の担当者との会話を記録出来ていたはずなのに、と無い歯で歯噛みしそうになる。
 何の縁があるのか分からないが、兎も角はこの少年を護るべきであるとクロは決めていた。それは騎士の矜恃であり、また共に過ごす事で自分の欠損が埋まるはずだという実利も兼ねる。
 シグナスが、カウンターの奥から余所者の挙動を見張っていた酒場の主人に近づき、話しかけた。主人であるナリクの聖騎士の命で、連続殺人事件の聞き取りをしているのだと。
 
(※ここで反応表を振ることになります。上手く聞き取りが出来たか判定するところですね。出目4=ワイロ。しかしもちろんふたりは所持金0。払えないので反応は「敵対的」に! 店主の怒りを買って酒場の用心棒をけしかけられてしまうようです。【歓待】であれば「手がかり」を得られたのですが……。被害者家族との聞き取りの時といい、シグナスくんはこのような場面への対応が不得手のようです)

 それが店主の怒りをかったようだ。殺人事件で澱んだ空気を振り払おうと自分の店を選んでくれた客の前で、それを思い出させようとする。確かに歓迎はされまい。失策だ。
 懸命に弁明しているシグナスには見えていないようだが、壁から背を離した用心棒が、ずんずんと近づいてきた。がっちりとした体格のドワーフである。
 片手に持った斧は粗末に見えるが、刃は実用的に研がれていた。無論、斧の重さは量るまでもなく、シグナスの体のどこであれ叩き斬るには必要十分以上であろう。出口を塞ぐように歩いてくるのは、店から摘まみ出す前にこのチビ助には痛い目を見させる必要がある、と考えているからに違いない。
 
(※戦闘になります。酒場の用心棒はレベル4、生命点4、攻撃数2、宝物:通常。金属鎧を装備しているため、【攻撃ロール】に-1のペナルティを受けてしまいます。これはますます危ない。繰り返しますが、シグナスくんの技量点は0なのです! 幸い【敵対的】なので生命点を2点削れば勝利が掴めます。ではまずこちらから、0ラウンドはクロの【凶器乱舞】を選んで、堅実に成功)
 
「シグナス!」
 約束を破ってクロは声を上げた。ようやく気づいたシグナスが、鞘からクロを解放する。ひらりと宙を舞ったクロは、用心棒のドワーフに斬りかかった。
「〈おどる剣〉か!」
 長い髭の下で、白い歯をむいて用心棒が威嚇する。前歯が欠けていた。おおかた前職はドルツ石採掘現場の作業員で、問題を起こして解雇された手合いだろうとクロは考える。軌道を読まれないよう稲妻のようにジグザグを描いて飛び、構えた斧の下を潜り抜けて脇腹にぶつかった。浅いが、肉に届いた感触はある。
 
(※1ラウンド。ここでふたりとも攻撃失敗、防御も失敗という結果に)
 
 ところが用心棒は怯まない。雄叫びを上げて斧を振り回し、その刃がクロに当たったばかりか、反対側の柄がなけなしの決意を掻き集めて飛び掛ろうとしたシグナスの腹にどすんと当たった。クロは床に墜落し、少年従騎士は激突した机をひっくり返しながら派手に転がって行く。
「歯応えがねえぞ、おらっ!」
と用心棒が吠える。酔っぱらい達が手を叩き、口笛を吹いて囃したてた。

(※2ラウンド。ここでまたしても、ふたりとも攻撃失敗。頼れるクロ先輩まで不振です。悪い流れを引きずり、防御は再びクロが失敗してしまいました)

 よたよたとシグナスが立ち上がる。口元を拭って剣を構えた。そのいじらしさに、今度は別の意味で拍手が起こる。少年従騎士は自分より遥かに大きな用心棒に突っかかって行き、クロも合わせた。が、軽くあしらわれてしまう。評価を上方修正する必要がありそうだ。もしかしたら元冒険者かもしれない。
 用心棒の目がぎらりと輝いた。より脅威と見なしたクロを狙っている。かわせるかと思ったが、先程の一撃が予想外に効いているらしい。体の制御が覚束ず、避けきれなかった。斧の刃と衝突して嫌な感じの圧力がクロの全身に広がる。ヒビが入ったかもしれない。
「折っちまえ!」
と酔客が叫ぶ。
「そんな気色の悪い剣なんざよ、折った方が……おい待て、そいつら殺人鬼なんじゃあないだろうなあ!?」
 まずい、とクロは思った。疑念はどこまでも尾鰭をつけて肥大化する。小魚が、あっという間に鯨となって誰かを押しつぶす。
 
(※3ラウンド。副能力値は温存しておきたかったのですが、ここはやむなし。シグナスくんで【全力攻撃】を試みます。出目は……4! 副能力値を加えて成功です。これで何とか勝利にこぎつけました!)
 
 用心棒は斧を振り上げた。しかしその瞬間、げっと叫んでうずくまる。脅威にカウントされていなかったシグナスが不意をついて飛び掛り、剣の鞘で後頭部を強打したのだ。
「クロ、逃げよう!」
 ふたりは全速力で酒場から逃げ出して行く。その背におひねりのつもりか、酔客からバラバラと金貨が投げつけられた。

(※宝物表ロールの結果は金貨6枚。心がこもってなさそうな数字だったので、喧嘩という見世物に対する「おひねり」と解釈しました。なお次が最終イベントになりますので、ここで食料を使ってシグナスの生命点を2回復しておきます。残念ながらクロは食事がとれないため回復が出来ません。損傷が重なり心配なところですが、何とか乗り切れることを祈ります)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
 今回のリプレイは以上となります。
 続・シグナスくんに世間の風が厳しい。
 拙リプレイにおいては主人公の立ち位置は最初にふんわり設定するものの、細かな気性などはダイス目から読み取っていく方針を取っています。シグナスくんについては孤児院出身という設定がありましたので、性格的には擦れている面もあったりするのかなあと予想していました。ところが蓋を開けたらご覧の通りの出目ですので、腹芸的な世渡りが苦手なピュア中のピュアの十二歳のようです。
 プレイヤー、捜査というより「はじめてのおつかい」を見守っているような気がしてきました。それにしては物騒な「おつかい」なのですが……。

 それではまた、再来週の木曜日にお目にかかりましょう。
 次回からはついに最終イベントに突入です。無事にふたりが帰還できるよう、セルウェー神にお祈りいただければ幸いです。
 良きローグライクハーフを!
 
 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。心が落ち着くハーブティーの売り上げが好調。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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