●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● 『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』は問いかける——人間とは何か、と。 岡和田晃 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● 2026年5月23日、ゲームマーケット2026春での先行発売といたしまして、『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』日本語版がFT書房のブースでお目見えします。この作品に関しては、すでに杉本=ヨハネさんが「☆モンスター!モンスター!TRPG 新刊のお知らせ☆」(「FT新聞」No.4549)で紹介をしておられますが、屋上屋を架すことになるのも恐れず、私なりに、その読みどころを掘り下げてみたいと思います。 そもそも『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』とは何か? これは世界で2番目に古いTRPGと互換性のあるTRPGルールブックです。さらには、『モンスター!モンスター!TRPG』のサプリメントでもあります。 商業的なRPGの歴史は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に始まる、というのが通説ですが、D&Dはあくまでも「中世ウォーゲーム」と銘打っていました。自覚的にRPGを名乗ったのは『モンスター!モンスター!』初版(1976)が最初だと言いますから、それくらい記念すべき作品であるわけです。 ところが『モンスター!モンスター!』は、その名の通り、モンスターをプレイして人間たちへ復讐を仕掛ける、というのが基本コンセプト。そうした「逆転の発想」からスタートし、現行、ズィムララ世界で展開されている『モンスター!モンスター!TRPG』——『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー』二分冊をご参照あれ——においては、人間中心主義が完全に転回された世界が再構築されています。 いわば、その文脈で人間をはじめとするおなじみのヒューマノイドたちは、どういう位置づけなのかを解説するというのが、『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』なのです。歴史的には、著者のケン・セント・アンドレは『トンネルズ&トロールズ』のデザイナーとして知られますが、T&Tの権利は現状、ケンのもとにはなく、Rebellion Unplugged社が『Tunnels & Trolls : A New Age』を開発中(現在、β版まで出来ています)。その状況で、T&T的な冒険を行うための裏ワザを——という安直なコンセプトなのではないかと、私としても当初は疑う部分がないではありませんでした。 けれども蓋を開けたら、そうではなく、新しい世界観のなかに、どう人間たちを再定位させるのか、というSF的というほかない問題意識による作品だということが、よくわかった次第なのです。 『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』は、「ケン、『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』を大いに語る」と題したおもしろコラムより幕を開けます。このコラムにおいては、〈小さき者ら〉が、モンスターだらけの世界で、どう生き延びるべきかが滔々と語られているのです。〈小さき者ら〉と言われれば、それこそホビットやハーフリングのような存在を意識してしまいますが、ここでは、モンスターから見た人間、エルフ、ドワーフらが、まとめて〈小さき者ら〉になっているのですね。 魑魅魍魎が蠢く、弱肉強食のズィムララ世界においては、〈小さき者ら〉は、頭を使い、戦略を練らねば、生存すらおぼつきません。様々な戦略が紹介されるなか、とりわけ大事になってくるのが、奇策(スタント)を駆使すること。 本コラムでは、『モンスター!モンスター!TRPG』第2.7版基本ルールブック(未訳)に出てくる奇策のルールを改めて紹介し、導入可能にすることで、スタンドアローンなヴァリアントとしての価値をもたらすことに成功しています。 そして本作においては、『モンスター!モンスター!TRPG』の根幹に関わる、大きな明確化がなされています。それは、原則的に「種族(race)」という言葉を使わない、ということです。raceという言葉は、それこそ人種差別(racism)に直結するから……というのが、その理由です。 自然科学的に言えば、それこそ人種という概念は架構されたフィクションにすぎません。肌の色や骨格といった、見た目にわかりやすい違いについては、人間の遺伝子の0.1%にも満たない差異にすぎないというのに、そこをクローズアップすることで「マイノリティを殺すこと」を正当化するというのが、昨今、社会問題になっているレイシズムの話ですが、ゲームタームのうえとはいえ、それを反復するのはやめてみよう、というスタンスなのですね。 かわりにケンが用いるのが、species(種)という概念です。例えば、ヴィーガニズム(菜食主義)のようなアニマル・ライツ(動物の権利)を守るための運動は、種差別に抗う営み、などという日本語で紹介されたりするわけです。 余談ですが、私の暮らすアルゼンチンでは新鮮な野菜や果物があちこちで売られているため、ヴィーガンとして生活するのは、そう難しいことでもありません。 他方で日本においては、ヴィーガンとしての生活を徹底させようとするのは、なかなか骨です。私も試みようとしたことはありますが、すぐに挫折してしまいました。 日本ではコンビニやスーパーで売っているお弁当やお惣菜の多くに、肉や卵が入っています。そうした肉や卵が、充分に動物福祉(アニマル・ウェルフェア)の保全された状態で生産されているのか、という点については、議論の分かれるところにもなっています。 ゆえに、ケンの「種」に関する問題意識は、大げさではなく、日本社会の現状へ一石を投じるものにもなりえているのですが……。ただ、日本語のゲーム上で「種族」を「種」に置き換えたからといって、その差分はわかりづらいですね。 そこで『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』では、「種族」の代わりに「モンスター・タイプ」という訳語を用い、クリーチャーごとの差異を表現することにしました。人間も、エルフも、ドワーフもモンスターの一種であり、個々の違いはタイプの違いにすぎない、と。こう表現すると、著者の意図するところを、日本の読者へより正確に伝えることができるのではないかと考えた次第です。何より、どことなくユーモラスな響きがあり、「お説教臭さ」も感じません。 多くのファンタジーRPGでは、人間という存在がどんなものかということは、当たり前のことすぎて(あるいは大きな問題にすぎるのか)、紹介が簡単に飛ばされるのが常です……それでも、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3.5版のサプリメント『宿命の種族』(ホビージャパン、日本語版2006年)という専門のサプリメントはありましたが。 ズィムララ世界の人間は、私たちのお馴染みの人間であることもできれば、もっと別なタイプにすることもできます。この点については、すでに『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー【ワールド編】』でサポートされているとおりです。 では『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』においては、人間というのはどういう具合に説明されるのかというと——職業(プロフェッション)、技能(スキル)、特殊能力(アビリティ)の3つを介して決まります。 ケンのデザインした他のシステムだと、『トンネルズ&トロールズ』第5版において、他のRPGにおける「キャラクター・クラス」に相当するものには「キャラクター・タイプ」という訳語が充てられていました。 私は、どうしてそうなのか、常々不思議に思っていたのですが、これもまた意図的だと、このたびわかりました。『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』では、「クラス」という言葉が使われず、「プロフェッション」が職業だと明記されていたからです。 察するに、どうしても「階級」や「階層」を想起させるからでしょう。ケンのおためごかしではない平等主義が、まさしく徹底されています。 そして面白いのは、この職業(プロフェッション)が、それで生計を立てておらずともかまわない、とさらりと書かれていること。多くのファンタジーRPGは——ファンタジー社会なのに——資本主義の論理とは無縁でいられないばかりか、かえってそうした要素が強調されていたりするのですが、『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』では、半ばそれが相対化されているわけです。 ただし、社会に存在する格差の問題に、本作は目をつぶっているわけではありません。どの職業につくかは一概に等しいチャンスではなく、わざわざ釣鐘状の確率曲線を描く2d6で決まります。2d6の期待値は7ですが、7にあるのは農民。いちばん出づらい2と12は、それぞれ錬金術師と探検家、ということになっています。それくらい、これらの職業は稀少なものとして位置づけられているわけですね。 むろん、GMが認めれば、任意に職業を選んでもかまわないとあるわけですが、つまり、ケンがイメージする世界観では、社会は本質的には平等であるべきだが、実際にはそうなってはいない、という矛盾をも表現しえているわけです。 技能(スキル)は、なんと、この職業に必ずしも紐付けなくてもよい、というものになっています。クラス・システムを取るRPGでは、多くの場合、職業ごとに推奨・制限されている技能を取るものですが、本作においてはゲーム的な軽さが優先されているのでしょう。2d6を振って技能を取得すると、その技能のレベル(1レベルから開始)だけ、セービング・ロールに数値的なボーナスが入るというのですから、実に単純明快です。 一方、特殊能力(アビリティ)は、各キャラクターを他から際立たせる、それこそスペシャルな能力であり、2d6で決定されますが、関連能力値の10の位に応じて、自動的にレベルアップしていきます。その記法は、意図してファジーなものになっていて、セービング・ロールの柔軟性、奇策(タレント)の応用性に、うまく見合うものが目指されているようです。 実際、『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』でサポートされている——人間に限らず——各種族の職業、技能、特殊能力を概観していくと、ケン自身が携わった『ストームブリンガー』はもとより、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、『ウォーハンマーRPG』、『シャドウラン』などを彷彿させるものが、ちらほらあります。それらへのアンサーも兼ねていると思えば、シンプルなようで、あなどれない。 初心者でもスタンドアローンでプレイできながら、深読みしていけば、いっそう楽しくなってくる。それが『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』なのではないかと思います。 ■書誌情報 TRPGルールブック&『モンスター!モンスター!TRPG』用サプリメント 『ヒューマンズ!ヒューマンズ!』日本語版 著 ケン・セント・アンドレ 訳 岡和田晃 絵 スティーブ・クロンプトン 印刷版 2,200円 ゲームマーケット2026春で先行発売予定 通販は以下(6月発送予定) https://ftbooks.booth.pm/items/8232648 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! 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