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2025年6月15日日曜日

Re:アランツァワールドガイドVol.8 自治都市トーン FT新聞 No.4526

おはようございます、編集長の水波流です。
杉本=ヨハネより預かりまして、今日配信するのは「アランツァワールドガイド」。
来月のd66シナリオの舞台となる「自治都市トーン」の再配信です。

トーンはアランツァの南東部にある、神聖都市ロング・ナリクから独立してつくられた新しい街。
そして音楽の都市でもあります。

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死霊都市フアナ・ニクロを抜けて、カメルとアレスは次の街へと歩を進めていた。
目的地は自由闊達な精神に溢れた都市、トーンである。
アランツァのメイン大陸であるラドリドの南東部に位置する街だ。


◆トーンとの「出会い」。
草のうえに風が、柔らかく跡を残しながら走っていく。
その向こうに見えてくる、新しく美しい街。
カメルは足をとめて、緑の草原のなかにある美しい街を眺める。

「ヴェルデセローナ」

感動に息を呑んだ後に、カメルは小さくつぶやく。
自治都市トーンのふたつ名である。
たったひと目見ただけで、カメルは感じ取ることができた。
トーンの人々がもつ、熱狂的なまでの故郷愛。
誇りの高さと、街を守ろうとするモチベーションの高さ。
彼らはこの美しい街を、心底から愛しているのだ。
たった200年足らずのうちに、ここまで発展したこの街を。
自治都市トーンは自分たちの街を、愛を込めて「ヴェルデセローナ」と呼ぶ。
セローナとはトーンの街の足もとに存在する小高い丘の名称で、190年前にこのセローナの丘を発見したニューラント2世は、美しい緑が広がるこの丘を「ヴェルデ(緑の)セローナ」と呼んだ。
それ以来、街の人々は、会話のなかで街への愛情を示すさいに、トーンを「ヴェルデセローナ」と呼ぶ。


◆飛翔騎士。
城門を守る2人の騎士たちは、兜のバイザー(目庇{ルビ:まびさし})を上げて誰何する。
空を飛ぶ鳥たちと同じ顔が、兜のなかに見える。
その顔は凛々しく、同時に愛らしいかわいさも感じさせる。
自治都市トーンが誇る勇猛果敢な守護者、{ルビ:スカイナイト}鳥人騎士たちだ。
スパロウホーク(ハイタカ)の騎士がアレスと言葉を交わし、ほどなく2人は街のなかへと通される。


◆「白い部屋」。
カメルは街を歩き、トーンならではの「名所」へと向かう。
街の中央にある大広場から、少しはずれた小道へ。
人通りが一気に少なくなる。
そこにあるのは、素っ気ない白い家。
屋根もなく、扉や木窓もない。
ただ扉のない入口があって、外からでもなかが見える。
出入口にはカゴがあって、使い込まれた片手武器が無造作に放り込まれている。

部屋のなかには2人の男が、ひとつのテーブルを挟んで向かい合っている。
奇妙なのは、そのそばに武装した僧兵が立っていることだ。
ゴツゴツしたスパイクのついた鈍器(メイス)を腰にぶら下げて、壁にもたれかかって2人を見守っている。
2人はなにかを話し合っている。
ときどき激昂しかけては、立ち上がって部屋のなかをうろつき、テーブルに戻る。
その繰り返しをしながら、何かを決めるために話し合い続けているのだ。

ここは二神教の教会が運営する場所で、「白い部屋」と呼ばれている。
誰でも利用することができる……他の街では見かけない。
非武装地帯(アジール)と呼ばれる、特殊な場所である。
どんなに敵対していても、この部屋のなかでは暴力を振るわない「掟」がある場所だ。
僧兵は暴力に対する抑止力だが、いないこともある。
「しきたり」を破る者は、一人前とはみなされない……街の無法者たちでさえ、そのことを知っている。
敵対するグループどうしであっても、ここであれば話し合う機会を得られるのだ。

それがいいことなのかは分からない。
「ギャングどうしは殺し合ってくれるのが一番いい」と、考える者もいる。
だから、他の街でこういったアジールを見かけないのかもしれない。
しかし、他はともかくトーンの二神教の教会は、「誰であってもほんのひととき息をつけ、歩み寄り合う可能性のある、安全な場所」を提供することに決めた。
よしあしはともかく、これがこの街の文化のひとつなのだ。


◆宗教的自由。
カメルは街の広場に戻って、ぐるりと見渡す。
エスパダとエスクードの大理石の像が入口に立つ、二神教の大聖堂。
ソロンドオル神の信徒が建てた、魔法学校。
自然神ヴェルディアを祀る教会。
広場の隅にある獣神セリオンの彫像。
噴水に縁取られた彫刻は、海神ホリィドゥーンをあらわしている。
それらがお互いに見える位置に、存在する。
「我々は宗教的に対立しない」と、強く主張しているかのように。
だが……本当にそう主張しているとしたら、足りないものがある。


◆独立。
「セルウェー教がないからな」

アレスがそうつぶやいて、少し笑う。
考えを読み取られたカメルは顔を上げて、あたりを見渡してから、やはり笑う。

今から約200年前、神聖都市ロング・ナリクから離反した人々がいた。
ロング・ナリクではセルウェー教が主流で、他の宗教を信仰する者たちは低い地位を与えられるのが常だった。
アランツァ世界の中央部にあるロング・ナリクを捨てて、彼らは大陸の東部まで歩き続けた。
そこで出会った「セローナの丘」に、小さな集落を作った。

そんな背景を持っているから、トーンではセルウェー教だけが「存在しないかのように」扱われる。
街の人々は遠く離れた神聖都市の影響が、自分たちの新しい街に影を落とすことを何よりも恐れているのだ。


◆豊かな魔法の装備品。
カメルは広場にある、別の特徴に目を移す。
装備品を売る大きな店舗が見える。
客は多く、品揃えも豊富だ。
魔法装備店である。

この世界で魔法の装備品を製作する方法は、大きく2つに分かれている。
ひとつは錬金術だ。
魔法の薬のような形状の定まらないものは、錬金術によって生み出される。
もうひとつは、ソロンドオルのような中立の、魔法を象徴する神から与えられた力を、装備品に注入する方法である。

神聖都市ロング・ナリクから独立した人々の多くは、二神教か、あるいは中立神ソロンドオルを信仰する。
自治都市トーンに住むソロンドオル神の信徒たちは、魔法の装備品を製作するための組織的な工房を造り、上質な魔法の装備品をこしらえ続けている。
その品質は、他の街からわざわざ購入者が訪れるほどに優れている。
じっさい、カメルたちの目の前にある店は活況だ。
店の奥にあるカウンターに、行列ができている。
その多くは冒険者だが、この街の者も並んでいるように見える。


◆人気急上昇中の〈四猫亭〉。
カメルとアレスは連れ立って歩きながら、今晩の宿へとやってくる。
いい意味で古びた、雰囲気のいい宿である。
顔を毛づくろいする黒猫の絵がついた看板に、〈四猫亭〉と書かれている。

「いらっしゃい!」

宿にはたくさんの客がいる。
冒険者が多いが、トーンの市民もいるだろう。
カメルたちに近づいてくるのは、色白の女性だ。
大きな瞳と笑顔、大きな胸を店の制服が強調している。
看板娘だろう……人間女性に魅力を感じないカメルは、冷静にそう受け止める。

宿の奥はステージとして一段高くなっていて、目隠しをした色白の女性がリュートを奏でている。
ゆっくりと低く、少しずつテンポを上げながら、だんだん高く。
内側から溢れるような情熱が、胸をかき立てる。

にぎやかな店内をさっそうと歩く、背の高い色黒の女性。
用心棒だろう……目立たないように、周囲に目を配っている。

店のいちばん奥には、理知的な顔立ちの痩せた女性。

カメルたちが店についたのはまだ昼だったが、店はほとんど満員だった。
最後の宿泊客として滑り込んだ2人は、幸運に胸をなで下ろす。


◆夜ふけに。
満月がてっぺんをまわって、さらに数時間が経ったころ。
カメルがすっかり夢の世界に入り浸っている時間に、部屋をノックする音がする。

扉を開くと、店の奥に立っていた痩せた女性が「こんばんは」と言う。
こんな時刻に、ではない。
カメルとアレスが、頼み込んで呼んだのだ。
仕事が終わってから、来てくれないかと。

「遅くなってごめんなさい」

思ったよりも低い声で、彼女は言う。
この女性はウタ、〈四猫亭〉の店主だ。
「こちらこそ、お仕事の後に申し訳ない」と、カメルは謝罪する。

「他の街から来られた先生方とお話ができるんですもの。なんでもないわ」

そう答えるウタの疲れた瞳に、生気が宿る。


◆広大なネメディ平原と「戦」の話。
ウタは20代の終わりぐらいの年齢で、働く女性特有のエネルギッシュさと、少し疲れた雰囲気の両方を持っていた。
しかし、よほど体力のある人物らしく、これから朝まででも話に付き合う、と宣言する。
明日は明日で〈四猫亭〉の仕事が待っているだろうに。

ウタは外の世界の話を聞きたがり、カメルとアレスはトーンの実情を話してもらう。
ウタの話し方は劇的ではないが、理路整然としていて、とても分かりやすい。
カメルたちは漠然と知る自治都市トーンの現状を、はっきりとした輪郭をもって把握できるようになっていった。
これから述べるのは、ウタが話してくれたことをカメル・グラントがまとめたものである。


◆前王の暗殺。
パイク・ヴェローナ王の父であるメゾット・ヴェローナ前王は、記念式典のパレード中に暗殺された。
この暗殺の首謀者は神聖都市ロング・ナリクの手の者であると、根拠なく多くの者が考えた。
しかし、「飛翔騎士」の活躍によって正体が割れた実際の犯人は、遠く「還らずの森」からやってきた不死の貴族だった。
「飛翔騎士」はこの吸血鬼を葬り去って、前王の仇をとった。


◆広大なネメディ平原で起こる「戦」の話。
この街の周りに広がる広大な土地は、ネメディ平原と呼ばれている。
この土地にも【悪の種族】や【少数種族】が生息しているものの、大きな集落や組織的な集団は存在しない。

「危険な【巨大生物】が、生息しているからです」

と、ウタは言う。
ネメディ平原には想像をはるかに上まわる、船ほどもあるような【巨大生物】が数種類、生息している。
過去には〈ハリアー〉と呼ばれる巨大なイモムシが、平原の北部で人間の集団を食い荒らした。
直近では〈荒野の巨人〉と呼ばれる、常軌を逸した大きさの巨人が現れたという。
アランツァの世界では{ルビ:ノード}魔力だまりの活性化にともなって、クリーチャーが異常な巨大化をすることがある。
ネメディ平原ではこれが起こりやすいらしい……一説によるとトーンのような住みやすい土地に先住者の姿が見られなかったのも、不定期に出現する【巨大生物】を知的種族が嫌ったからだとも、言われている。
自治都市トーンにとって目下の敵は、神聖都市ロング・ナリクでも、遠く山の向こうにある「かづら森」の吸血鬼たちでもない。
軍隊が集結する先にあるのは、いつ姿を見せるか分からない【巨大生物】なのである。


◆7人の「投票」によって決定する、街の「意思」。
自治都市トーンの王はパイク・ヴェローナ。
建国の父であるニューラント・ヴェローナ2世の血を引く正当な後継者だ。
自治都市トーンはしかし、王の考えだけですべてを決める街ではない。
王の下には7人の大臣がいて、「王の負担を減らす」ために、王をわずらわせるほど重大ではないとみなされる事柄に対しては、彼ら7人が投票によって政治的判断を下す。

「だけど、都市が『重要じゃない』と判断することのなかにも、大事なことが混ざっていることはあるわ」

〈四猫亭〉のあるじはそう言って、カメルとアレスを交互に見やる。

「そういうときには、7人の権力者のうち4人以上を、自分の味方につけるの。そうすることができれば、政治的な『たくらみ』に成功する」

ウタは悪い顔──悪人のような表情──をわざとしてみせてから、ほがらかに笑う。

「可能性があるのよ、この街には」

【巨大生物】はたしかに脅威だ。
対応を誤れば、街は壊滅的な打撃を受けるだろう。
しかし、たとえば、常に混沌との戦いを強いられている「混沌都市ゴーブ」などと比べたら、ましな負担のようにも見える。
カメルにはウタの言葉が、この街の人々が持つどこか楽観的な未来感、将来を信じて生きる前向きな明るさを端的に表しているように思えた。


※……メゾット・ヴェローナの暗殺に関するエピソードは『飛翔騎士』に登場(現在絶版)。
※※……ネメディ平原の【巨大生物】はFT新聞上のイベント「スプリットタンの攻防」に登場。
※※※……自治都市トーンの地下水道を探索する短編ゲームブック「トーンの地下水道」は、『ゲームブック短編集 Hunted Gardenheart』に収録。
※※※※……自治都市トーンと〈四猫亭〉を舞台にした冒険は「ローグライクハーフ」d66シナリオ「〈四猫亭〉の幽霊」に登場予定。

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↓「アランツァ:ラドリド大陸地図」by 中山将平
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