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2025年6月5日木曜日

齊藤飛鳥・小説リプレイvol.34『名付けられるべきではないもの』 その2 FT新聞 No.4516

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.34
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〜前回までのあらすじ〜
冒険家乙女クワニャウマと相棒のイェシカは、カリウキ氏族のまじない師ヴィドの依頼で、再び《太古の森》へ旅立つ。
今回の冒険は、似我蜂(ジガバチ)という、集落を襲撃しては人間を攫っていく危険な怪物の探索が目的だ。
だが、同じく似我蜂の調査をしているエルフの一団と遭遇する。彼らは、自分達だけで似我蜂の探索をすると主張し、クワニャウマ達を排除しようとする。
が、報酬がほしいクワニャウマは、エルフの一団の警告を無視して冒険を続行するのであった。

というわけで、今回は『名付けられるべきではないもの』リプレイその2です。
今回から、本格的に《太古の森》の調査が始まるのですが、ダイスの女神様のおかげで、クワニャウマ一行は探索らしい探索はしておらず、「《太古の森》でおとぼけ☆アドベンチャー」を繰り広げていたのですが、戦慄の『妖怪ハンター』な〈中間イベント〉が待ちかまえておりました。
前回の『常闇の伴侶』で学習したので、ある程度は覚悟をしていたのですが、そのはるか上を行く戦慄っぷりでした。
〈中間イベント〉前の冒険内容が、もっと戦闘や危機に満ちたものであれば、ここまで戦慄を覚えなかったろうし、盛大なる感情の落差を体験せず、「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ……」状態にはならなかったでしょう。まさに、ダイスの女神様のいたずらと言っても過言ではありません。
ところで、今回こちらで挨拶文を書くにあたり、改めてシナリオを読み直したところ、「プレイ時間:15〜30分」と書かれていました。
「プレイヤー達に、シリアス&ダークが濃厚かつ凝縮された冒険を短時間でプレイさせる想定とは、さわやかに鬼仕様!?」と驚きましたが、「だが、それが快感!!」と思っている自分を発見し、「これが訓練されたファンというものか……」という境地に至りました^^b

最後になりますが、このたび7月31日にPHP研究所様から、拙作『女人太平記』が刊行されることになりました! 宮廷女流日記文学の掉尾を飾った『竹むきが記』の作者・日野名子(ひの・なかこ)の半生記であり、彼女が激動と混迷の人生に決着をつけるために南北朝時代最大の謎「足利尊氏による弟の足利直義毒殺疑惑」の謎に取り組む物語です。今までは歴史要素のある本格ミステリでしたが、今作はミステリ要素のある歴史小説です。そして、タイトル通り『太平記』の時代を生きた女性達が多数登場します。興味がおありの方は、御笑覧下さいませm(__)m



※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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ローグライクハーフ
『名付けられるべきではないもの』リプレイ
その2

齊藤(羽生)飛鳥
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1:トレントたちの会合
森の中を進むうち、樹木が群生している場所に出くわした。木々は奇妙なほどに密集しており、枝葉をそよぐ風さえもがどことなく騒々しく感じる。
わたしは不意に、自分が目の前にしているのは樹人たちだという事に気づいた。広場に大勢のトレントたちが集まって集会を開いているのだ。
ヒソヒソ話をしていたトレントたちのうち、年嵩のブナの木がわたしたちの方を向いて語りかけてくる。
《お前はあの忌まわしき輩を探していると聞いたが、本当かね?》
前に、〈太古の森〉で冒険した時、トレントたちの何人かと知り合ったけれど、彼とは初対面だった。
雄大さに圧倒されながらも、わたしは慌てて頷く。答えに満足したようにブナの木は梢を揺らして仲間の方に向き直る。
やがて白い花を可憐に咲かせたナナカマドの若木が進み出ると、生真面目に一礼する。
《彼奴等は森に仇なす共通の敵。外なる者よ、ワレも助力しよう》
そこで、ナナカマドの若木は少し考えてから、こう付け足した。
《この冒険の間のみ、無料で》
《これ。もっと気の利いたことが言えんのか、おまえは》
「大丈夫。ちゃんと契約期間と料金の有無をきっちりと伝えられる者は、信頼できるわ。わたしは、冒険家乙女のクワニャウマ。こちらは相棒でエルフのイェシカ。よろしくね」
《丁寧な名乗り、痛み入る。我が名は、アテリツィプテリツィプオリラウタツィヤンカ。通称アテリツィだ》
「いい名前ね、アテリツィ」
ブナの木の樹人は、最初こそ渋った顔をしていたけれど、わたしとイェシカがアテリツィとすぐに打ち解けたのを見て、眉間の皺がなくなった。
さっそく新たな仲間を無料で迎えられて、運がいい!
このまま運が味方に付いていることを祈りながら、わたしたちは似我蜂探索に向かった。


2:トゲボク
しばらくして、針状の葉が生い茂る低木のある地帯に出た。
よく見ると、そのうちの一本の根元に泥にまみれた毛並みの小動物が見え隠れしたのをわたしは見逃さなかった。
「あれは〈銀毛イタチ〉!」
泥の隙間から輝きが覗くその毛皮は珍重されており、街に持ち帰れば高値で売りさばくことができる。
しかし、〈銀毛イタチ〉の取引価格と同時に、わたしはその小動物が寝ぐらにしている低木〈トゲボク〉について、以前ヴィドから聞かされたことも思い出した。
『このあたりに住むものは小さい頃から言い聞かされて育っている。すなわち、トゲボクには近づいてはならない! それと言うのも、無闇に近づくものは振動と熱を感知され、鋭い麻痺性の毒を持つ針状の葉を浴びることになるであろう、と。以上、ミン・メーショ・ボー作「銀毛イタチ狩人は九度死ぬ」参照』
……だから、なんでヴィドから出典元まで含む丁寧な説明をしてもらっているのに、インチキくさいと感じるのだろう?
それはさておき、銀毛イタチを捕まえるチャンスはそうそうない。
わたしは、ジェスチャーでアテリツィに《銀毛イタチを狩るぞ!》と伝える。
アテリツィは、すぐに無言で頷く。
わたしは、危険なのでイェシカにその場じっとしているようにと彼女の石板に書いて伝えてから、アテリツィと共に銀毛イタチを狩りに向かった。
銀毛イタチは、トゲボクに守られて油断しきっている。
それが、文字通り命取りになった。
欲に目がくらみ、金の亡者となった人間ほど恐ろしいものはないを地で行く行動力で、私はトゲボクの葉をかわし、銀毛イタチを1匹仕留めた。
「獲ったぞ! ウィーッヒッヒッヒッ!」
思わず歓喜の声を漏らしていると、後ろで断末魔のうめき声が聞こえてきた。
見れば、そこにはアテリツィがトゲボクの葉に全身を針の筵にされているではないか!
「死ぬな、期間限定無料従者! あなたは将来、伝説の剣士になって高給取りになっても、わたしに依頼される時だけは無料の従者になってくれるんだから!」
すかさず、わたしは前の冒険で手に入れた身代わりの依代を使う。
間一髪で、アテリツィは息を吹き返す。
これで、身代わりの依代は使えなくなったけれど、わたしが原因で「期間限定無料従者の申し出をするのは今後やめよう」という風潮が世間に広まってしまうのは大損だから、それを回避できたと思えば安いものだ。
何より、銀毛イタチを一匹仕留められたので、こちらは黒字だ。
《かたじけない、クワニャウマ殿。ワレが不甲斐ないばかりに……》
「次にうんと活躍してくれればいいだけだから、そんなに深刻にならないでよ。イェシカもそう思うよね?」
イェシカは、こくこくと頷く。
わたしの慰めの言葉は届かなくても、いたいけなイェシカの頷きなら届くだろう。
この読みは大当たり。アテリツィはすぐに機嫌を直した。
「イェシカ、あなたはやっぱりすごいわ! ありがとうね!」
わたしがイェシカに感謝すると、イェシカはなぜ礼を言われるのかわからないと言いたげに首を傾げながらも、はにかんだ笑みを浮かべたのだった。


3:汚染された果実
「銀毛イタチ狩りをしたことだし、少し休憩を取りましょう」
わたしの提案に、イェシカもアテリツィもそろって賛成する。
そこで休憩しやすい場所を探し歩き、ようやく果実が成る樹木に囲まれたちょっとした空き地で休憩することにした。
わたしたちは周辺に生る美味そうな果実をもいで口にする。
「そう言えば、樹人って果実を食べても平気なの? 共食いにならない?」
《心配御無用。人間が牛や豚の肉を食べても共食いにならないのと同じ感覚で、禁忌に触れぬ》
かなり大雑把な生物の分類方法を披露しながら、アテリツィも果実を食べる。
一口食べた途端、微かな違和感を覚え、わたしは慌てて吐き出す。口に残った欠片からジクジクと蛆が這い出てくる。
見るとその木に生っている果実全てに、モゾモゾと這い回る忌まわしき似我蜂の幼生が見られ、背筋が寒くなる。
気がつけば、イェシカとアテリツィも、真っ青な顔をしてわたしと一緒に似我蜂の幼生を見ていた。
「みんな、やることはただ一つ! どんな手段を使ってでも、今口にしたモノをペッするわよ! 失敗は、死あるのみ! 一切のためらいも恥じらいもすべてかなぐり捨てて、生き延びるために、始め!」
ここから先は、ひたすら阿鼻叫喚、酸鼻を極める修羅場、ようするに、どんな言葉を重ねて表現しても表現しきれない地獄絵図が展開されたのだった。


4:〈中間イベント〉
《仲間になったというのに、今のところいいところなし。まことに面目ない……》
アテリツィは、肩を落とす。
わたしたちは今、死力を尽くして似我蜂の幼生を体内から追い出したために、ヘロヘロになりながら、ちゃんと休憩できる場所を求めて歩いていた。
「あなたは、剣士でしょう? 剣で解決できる出来事が起きたら、容赦なくこき使わせてもらうから心配しないで」
わたしの返事に納得がいかなかったのか、アテリツィはイェシカにわたしの真意を訊ねるような眼差しを向ける。
イェシカは、チョークで素早く石板に《クワニャウマは裏表のない真正直な人だから、信じていい》と書いてアテリツィに見せる。天使か。
やがて、シラカバの木立を抜けたところで、剣戟の音が微かに聞こえてくる。
誰かが戦っているのだ。わたしたちは顔を見合わせると歩みを早める。
森の中を走る小川のほとりで、大勢のエルフが無数の羽音を立てて飛び交う小蜂の群れに襲われている。あれはギルサリオン率いるエルフ部隊だ。
わたしたちに気づき、ファラサールがマントで小蜂を払いながら叫んだ。
「気をつけろ! 後ろにいる」
それはあまりにも巨大すぎて、はじめ目にした時にわたしはうまく頭が働かなかった。これが蜂だと?これではまるで馬ではないか!
わたしの背後から忍び寄った似我蜂は、尻に張り付いた村人の顔でにたりと笑う。
……て、よりによってそこに顔がつくんかーい!!
死者の尊厳破壊もいいところだ!!
「アテリツィ! 奴らの尻に顔を張り付けられないためにも、戦うわよ! イェシカは、安全な場所にランタンを持って避難!」
わたしとアテリツィは剣を抜くと、2匹の似我蜂へ襲いかかった。
「食らえ、炎球!」
2匹まとめて、魔法の炎の餌食になる。
怯んだところで、アテリツィに追撃してもらう。
わたしも、次のターンからは攻撃に参加。
とっさに思いついた戦法だけど、悪くない。 
しかも、茂みの影から誰かが煙の出る物を投げこんでくれたおかげで、似我蜂や小蜂たちの攻撃や動きが鈍る。
この隙に、似我蜂どもを退治できる!
……と思った矢先、忌まわしき似我蜂の毒針がアテリツィを襲う。
《またしても、いいところな……》
彼の叫びを最後まで聞くことも許してなるものかと言わんばかりに、似我蜂はアテリツィを鷲掴みにして連れ去ってしまった! 
「アテリツィーッ!!」
これが、いけなかった。
汚らしい体液を撒き散らしながら、弱り切った〈忌まわしき似我蜂〉が、隙だらけになったわたしに目がけて真一文字に突進してくる。
「危ない!」
わたしは横から体当たりされ大地に転倒する。
「ファラサール!」
「兄さん、僕に構うな……射つんだ!」
ファラサールは鋭い節足で全身を羽交い締めにされながら叫ぶ。しかしギルサリオンは額から血を流しながら弓を構えたものの、矢を放つ決心がつかず逡巡している。
「ぐあ」
毒針が刺し込まれ、ファラサールの身体はびくびくと痙攣するとぐったりと力を失う。
そして私たちが一歩踏み出すよりも早く、蜂の群れは捕らえた獲物とともに森の奥へ逃げ去ってしまった。
辺りは急に静けさに包まれ、怪我人の荒い息づかいだけが耳に煩い。

「やれやれ、キノコ採りもおちおち出来ないとはね」
ハシバミの茂みの影から、落ち着いた声とともに、老女が姿を現す。裸足の足裏で下草を踏みしめながら怪我人だらけの君たちに近づいてくる。
「もしかして、さっき似我蜂と小蜂がひるむ煙を投げこんでくれたのは、あなた? 」
わたしの質問に、老女は笑った。
「いかにも。よく効く〈ハチコロリ〉だったろう? 」
「ええ。名前がかわいい割りに、効果が絶大だったから助かったわ」
わたしは礼を言いながらも、頭の片隅では蛮族のまじない師は裸足で森を逍遥することで大地から霊気を養うと以前聞いた事を思い出していた。
「ヤプーラか……」
「早くお行き。奴らは獲物をすぐには殺さない」
ギルサリオンははっとした表情で額の血を拭うと蹌踉めきながら立ち上がる。怪我の様子は酷いものだ。手勢のエルフたちもそれぞれ重傷を負っている。
「お互い、ひどい傷ね。歩ける? 」
しかし、気遣うわたしが差し出した手を彼は乱暴に払いのける。
「……我らが外なる者の助力など必要とすると思うか」
「窮地に陥っても、相手をただで利用しようともしない、その無欲さに敬意を示しただけなんだけど? 」
「からかっているのか、女? 」
吐き捨てるようにそう呟くと、隊長ギルサリオンは片足を引きずりながら、似我蜂の飛び去った先へと姿を消した。
「ふむ、ヴィドが言ってたのはアンタだね」
盲いた目をわたしに向けながら、森に棲まう老魔女はにぃと笑う。
「ヴィドの知り合い? 」
「まあね。大丈夫、あたしの好みは年上の男だから」
「そんなラブコメ的心配、してないから」
老魔女はわたしの返事を聞き流し、話を続ける。
「似我蜂は地面に穴を掘って産卵する……奴らくらいになるとそりゃあ大きい穴が必要さね。小川の上流を探してみな。樹人たちが騒いでいたから、あるいはね」
「すると、そこへ行けば、アテリツィもファラサールも助けられるのね? 教えてくれて、ありがとう!」
礼を言ってその場を離れようとするわたしたちに、老魔女は小さな瓶を投げて寄越した。中には小さな青い果実を潰したジャムが詰まっている。
「獣神セリオンの鬣にかけて。頼んだよ」
「これは、〈ムスティッカの魔法ジャム〉! プレゼント付きで有力情報をくれるなんて、もしや貴女様は女神様!?」
それは、仲間と命の恩人を似我蜂に連れていかれて落ちこんでいた気分が、一気に持ち上がった瞬間でもあった。
おかげで、似我蜂が落としていった金貨2枚相当の値打ちのあるアクセサリーを見つけて確保できるだけの気力が蘇った。


(続く)

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。
現在『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を刊行中。2024年末に5巻が刊行。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2024年6月に『歌人探偵定家』(東京創元社)を、同年11月29日に『賊徒、暁に千里を奔る』(KADOKAWA)を刊行。2025年5月16日刊行の「小説すばる」6月号(集英社)に、読切『白拍子微妙 鎌倉にて曲水の宴に立ち会うこと』が掲載。

初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『名付けられるべきではないもの』
著 水波流
2024年12月1日FT新聞配信


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