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「M!M!TRPGを話そう」とその補足
岡和田晃
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2025年7月25日に、X(Twitter)の音声配信機能「スペース」を活用した、「M!M!TRPGを話そう」というオンラインイベントが開催されました。『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー』の発売記念を兼ねたもので、ホストの杉本ヨハネさん、中山将平さんのトークに、岡和田晃がゲストで混ぜていただいたという形になります。中身はさながら、『モンスター!モンスター!TRPG』をテーマにしたラジオ番組。2時間を超える大盛り上がりでした。内容は実際に以下のリンク先から聞くことができます。
https://x.com/FTshobo/status/1948713925182173260
今回は、そちらを補足する内容です。情報量の多い番組ですので、お聞きいただきながら、内容を整理するためにお役立てください。先に私のXに出したものに加筆しているので、こちらを正式な参照元としていただければ幸いです。
・『モンスター!モンスター!TRPG』の位置づけ
四半世紀のブランクがあって、最近戻ってきたがM!M!をどう位置づければいいか、という、スケールの大きな質問でイベントは始まりました。
2000年頃はTRPG冬の時代まっただなかでした。2003年からはD&D3版日本語版の展開が始まり、第2次翻訳RPGブームが到来。1980年代から90年代初頭にかけて翻訳RPGに親しんでいた世代が社会人になって、懐に余裕が出来たわけです。これは2008年頃まで続きます。2016年頃からは、第3次翻訳RPGブームといっていいほど、多様な賑いを魅せています。そこにオンライン・セッションや電子書籍の浸透、インディーブランドによるビッグゲームの翻訳(例:FrogGamesによる『ルーンクエスト』や『ハーンマスター』等)、ナラティヴRPG(『フィアスコ』『モンセギュール1244』)など多様な翻訳RPGが生れています。M!M!はそのどれでもあり、どれでもないと言えるのが面白いところです。
M!M!は0版、初版、2版、2.5版、2.7版と多様なバージョンがありながら、1976年から根本の形を変えずに続いている最古参のRPGです。ただし入りづらいことはなく、しかもOSR(オールドスクールルネッサンス)やナラティヴ系など最新のRPGにも通じるところがあります。
・サイエンス・ファンタジーとしてのM!M!
M!M!の公式ワールドであるズィムララは、広く言えばサイエンス・ファンタジーとしてのSF世界になっています。日本のゲーム界隈ではファンタジーとSFとホラーが別ジャンルだとみなされがちですが、海外ではそうではなく、入口こそ異なれど、根っこの部分でつながったものとみなされます。ゲイリー・ガイギャックスにしろケン・セント・アンドレにせよ、RPGのパイオニアは、SF/ファンタジー小説の熱心なファンで、実際に小説も書きました。
ズィムララの世界観はユーザー・コミュニティを巻き込んだ多様なアイデアが集積される形で形成されていますが、ケン・セント・アンドレやスティーヴ・クロンプトンらによって、しっかり監修されています。実際、私が原著で執筆を担当したページも、ケンによる朱が大きく入っているのです。
ズィムララのサイエンス・ファンタジー性を知るためには、Don-Changが蛮人コナンの例を出していましたが、他にはケンが私淑するフリッツ・ライバーやロジャー・ゼラズニイ、レムリアで冒険ファンタジーを書いているリン・カーター、小説が再録されているロード・ダンセイニ等を勧めます。ジャック・ヴァンスやジーン・ウルフも鉄板。『創元SF文庫総解説』等のガイドブックで雰囲気を知るのも有用でしょう。
・日本オリジナルのソロアドベンチャーについて
要望の声が多くあります。現在、翻訳チーム内からは、ふろふき大根さんによるソロアドベンチャーが準備されていますが、創作意欲が高まっている方は、ズィムララの設定を使って「FT新聞」に投稿なさるのが吉かと思います。イベント内では杉本さんに、「老いぼれクーティ亭の冒険」のようなソロアドベンチャーを、という話もしました。『ズィムララ』には私(岡和田)自身が作成したクリーチャーもいますし、「カレドミナクス」および「カレドミナクスのねぐら」という設定もあるため、自身も入門用のソロアドを書くべきなのでしょうが、まずは基本的なものの翻訳の方を優先しています。
・「宗教嫌い」のはずなのに……。
T&Tでは基本ルールに僧侶を入れていなかったケン。しかしM!M!では、『Religion of Zimrala(ズィムララの宗教)』というサプリメントまで刊行されたばかり。もっとも、こちらは宗教設定をガッチリ決めるものというよりは、GM向けのアイデア集であり、整合性よりも、読者をいっそうカオスの渦に巻き込むことを目指しているようです。このあたりのデザイナーの素質は、『ルーンクエスト』のグローランサ世界を生み出したグレッグ・スタフォードの姿勢を彷彿させますね(『グローランサ年代記』では、記述へ齟齬や矛盾を盛り込むことで、世界の重層性を示そうとしていました)。
神々の存在が、過去のケン・セント・アンドレ作品よりも人間に近しいという点については、「神」という日本語が語弊を与えていますが、英語で言うimmortal、不死者という形で人間を超越した存在で、一神教的な神概念とはまた別個として捉えるべきかと思います。トールキンの『シルマリルの物語』で言えば、創造神エルではなく、ヴァラールみたいなもの。
・基本的な冒険の「型」は?
TRPGでは基本的な冒険の「型」が重視されます。岡和田個人は「型」はあまり気にしないのですが、『ズィムララ』に典型的な冒険のパターンが解説されているので利用しましょう。個人的にはむしろ、ホームタウンの設定を大事にしてほしい。ホームタウンを拠点にして冒険を繰り広げるスタンダードな冒険が可能になりますし、逆に敵のホームタウンへ攻め込む、というM!M!の「逆転の発想」を軸にした冒険も演出しやすいのが面白いところ。その際には、セクー=アテムとドウォンの秘密神殿の設定が使いやすいです。
・カジュアルな「多元宇宙」
ガイギャックスもアーネスンも物故した今、ケン・セント・アンドレは業界最長老として、D&D的なファンタジーとも、いわゆるJRPGとも微妙にして決定的に異なる自分ならではの世界を模索しているのが伝わってきます。そこから生まれる「新しさ」がズィムララの魅力でありましょう。
洋の東西を超えた神々が闊歩し、多様な次元界への転移門が口を開けている状況は、ムアコックの〈エターナル・チャンピオン〉を連想させますが、同じく多元宇宙ものであるD&Dより、いっそうカジュアルでスピーディな形で転移門が活用できそうです。
わかりやすく言えば『ビックリマン』『バトル騎士』等の食玩をイメージしてみて下さい。スーパーゼウス(ギリシア)とアリババ神帝(アラブ)と魔性ネロ(ローマ)が同じ世界にいて、絶えず広がっていきますよね。そういう、ゴチャゴチャして猥雑だけど、どこか馴染みやすく魅力的な世界、それがズィムララなのです。
・『シュブ=ニグラスは二度ベルを鳴らす』などのトム・プー作品については?
トム・プー作品がFT書房から刊行される可能性は、杉本さんによれば、現時点では「0でもなければ100でもない」。トムの作品についてはルール部分はM!M!がベースだが、設定(ゼニス・シティ)やラヴクラフト・ヴァリアントはトムのもの。よってFT書房外から刊行されるのは妨げられないが、相談・調整できればWin-Winだろうとの由。なお、英語版ですが、伏見健二さんと私の「Red Harvest in Zenith City」の刊行予告が出ています(『名古屋を覆う影』)。イラストは世界的に評価の高いDon-Changです。
・訂正と告知
スペース内で、私は〈アンバー〉の作者をフリッツ・ライバーと発言してしまっていますが、もちろん間違いで、正しくはロジャー・ゼラズニイですね。お詫びして訂正します。ゼラズニイはズィムララ・ファンにもオススメです。
ケンはゼラズニイのオマージュを小説として書いたばかりか(『ミッション・インプポッシブル』)、ゼラズニイらの書評を商業誌に発表したこともあります(「PULPHOUSE」1991年7月6日)。ゼラズニイは『ロードマークス』の新訳が話題ですが、発売予定の「ナイトランド・クォータリー」Vol.40(アトリエサード)では、これまで未訳だったゼラズニイのカッコいい短篇が訳されますので(菅原慎矢訳)、お楽しみに!
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