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2025年8月14日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.3 FT新聞 No.4586

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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.3
 
 (東洋 夏)
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 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第三回にあたります。
 今日が初めての方にもお楽しみいただけるよう、まずは少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは聖騎士見習いの少年シグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまったのです。
 解決に向けて独断で捜査に乗り出したふたりは、まず宮廷医のアグピレオ先生の薬局に寄り道。聖騎士見習いとはいえ弱冠十二歳、緊張していたところに頼れる大人と出会って甘えてしまったところもありますでしょうか。聞き込みをしようとしたはずが、先生のハーブティーにぽわぽわと癒されるばかりで、事件のめぼしい情報は得られず……。
 というところから、今回の冒険は始まります。
 
 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは捜査の記録をご披露いたしましょう!
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[探索記録2]32:自称「殺人鬼」たち


 サン・サレンに全く土地勘がないシグナスは、当てずっぽうに歩いた結果、街外れの廃墟に出てしまった。かつて家だったと思しきものが並んでいるが、外壁だけ辛うじて残して、みな無惨に潰れている。何があったのだろう。ここの住人たちは何処へ行ってしまったのだろう。
 シグナスは落ち着かなげに周りを見渡した。そこに人の気配はあるものの、スラム街というには生活感がない。
 ──悪い魔法使いが隠れていたって、おかしくないかもしれない。
「ねえクロ」
「しっ、隠れろ。誰か来る」
 崩れかけた灰色の外壁の隙間に身を寄せて、息を殺す。確かに廃墟の奥から声が近づいてきた。声の調子からすると、三人の酔っ払いが言い争っているようである。
「私が写身の殺人者だ! 石材運びの男を殺した!」
 シグナスとクロは視線を交わした。写身の殺人者。悪夢による連続殺人事件の犯人のことを、サン・サレンの領主様はそう呼んでいた。
「その程度! 私は貴族だぞ! こんなこと本物にしかできん!」
「やれやれ……偽物は美学がない。美しいものに変身して殺すこと……何と素晴らしい。ああ……君たち……遠国から来た青銀の騎士たちの美しさを見たかね? 私は次に……彼らを狙う! 本物の証明だ」
 思わずシグナスは身を乗り出し、その拍子に肩で押した壁は呆気なく崩れてしまった。
 ごとごと、どかん、という派手な音に三人の〈自称殺人鬼〉はぴたりと足を止め、シグナスに視線を向ける。やはり酔っぱらいなのだろう、彼らの目は焦点が合っていなかった。
「皆さん、僕はその……」
「シグナス! 弁解は良いから逃げるぞ」
 慌てて壁の間から抜けようとするシグナスだったが、悪いことにコの字型になった壁が背後を塞いでいる。すなわち〈自称殺人鬼〉の酔っ払い三名に向かって行かなければ、逃げようがないということだ。報告したら、隠れるにせよ状況判断が不適切だとサー・ノックスに雷を落とされることだろう。生きて報告出来ればだが。
 〈自称殺人鬼〉たちは口々に喚き出す。
「あいつを殺した者が本物だ」
「そうだ本物の殺人鬼だ」
「そうだ……そうだ……!」

 (※さて自称「殺人鬼」たちは出現数3、レベル3、反応表は【死ぬまで戦う】のみ。十二歳の少年に襲い掛かり、本物の殺人鬼になろうとする三人組。状況が怖すぎます。とはいえレベル3なので、サクッと勝ちたいところ。早速判定をしていきましょう!
 まず、クロが〈おどる剣〉の固有技能【凶器乱舞】を発動。自分を飛び道具扱いにするという荒技です。ということでクロ、何と自力で飛べるんですよ。大変ファンタジーでわくわくしますね。【器用点】で判定し、難なく成功。ひとり倒しました。
 続いて自称「殺人鬼」のひとりが石を投げてきます。対象はシグナスとして、【防御ロール】は……出目6、クリティカル(大成功)! 動揺していましたが、日ごろの鍛錬は伊達ではなかったようですね!)

「ええい、オレを抜け!」
 クロが騎士時代に巻き戻ったような口調で言った。命令され慣れているシグナスは大人しく従う。
 鞘から脱出した〈おどる剣〉はシグナスの手のひらからもすっぽ抜け、自身の能力によって宙を舞うと、一番足の速い自称殺人鬼の肩をグサッと刺した。
「ああ……美しく、ない……! 単純に……痛いッ!」
 そいつがクロを相手に七転八倒の大騒ぎにもつれ込んでいる頃、シグナスは後方から投げられた石──貴族を殺したと言った男が投げたのだ──を難なく避けていた。やはり酔っているのか、狙いそのものが適当すぎたのである。

 (※シグナスくんの攻撃順が回ってきます。攻撃ロールは……出目1、ファンブル(大失敗)。これはどうやら、彼の心に躊躇いがあると見ました。
 一方のクロは攻撃ロールに難なく成功。残る自称「殺人鬼」はひとりに。
 今度は自称「殺人鬼」からの攻撃。クロに受けてもらうこととし、こちらも難なく防御ロールに成功。頼りにさせていただきます、クロ先輩)
 
 シグナスは壁の間から脱出したが、そこに石材運びを殺したと主張した男が掴みかかってくる。シグナスは腰のもう一振りの剣を抜いて応戦しようとして、躊躇った。
 僕は本当に、この人を斬るつもり? 確かに自分を傷つけようとしてきてる、でも酔っ払ってるだけでお酒が抜けたら良い人かもしれないし、それに兵士でも何でもない……。
 シグナスは剣を構えたまま固まってしまった。無為な殺生をするなと主人からは言いつけられている。
(──僕がお前に教えたのは、確かに殺人技術だ。しかし技術は技術でしかない。主体はお前だ。忘れるなシグナス、聖騎士が成すのは常に善き事、正義であるべきだ)
 厳しい主人の声を思い出すと胸の当たりがじんじんして、酔っぱらいの隙だらけの体に幾つもの弱点を見出しつつも、動けなかった。
 そこに、クロが燕のような鋭いターンを描いて飛来する。迷いなく、ぐさりと男の太ももに突き刺さった。
「シグナス!」
「クロ、僕……」
 
 (※シグナスくん、再びの攻撃順です。果たして戦う気持ちを持てたのか、攻撃ロールで示してもらいましょう。結果は……失敗!
 ここはクロにバサッと終わらせてもらうことを期待するしかなさそうです。こちらの攻撃ロールは、軽やかに大成功の6! 全員を倒すことが出来ました)
 
 石を投げてきた自称貴族殺しが、仲間の足からクロを引き抜こうと飛びかかる。指がかかる寸前、クロは刺さっていた太ももから抜け出すや、貴族殺しの首元を真一文字に斬り払った。
空中にふわふわ浮かんだ〈おどる剣〉は、厳しい目でシグナスを見下ろす。
「僕……」
「弁明は後で聞く。さっさとこの場を離れるぞ、腰抜けシグナス」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 

[探索記録3]11:市場


 打ちひしがれたシグナスは、老いたロバのようにとぼとぼと歩いて来た道を戻った。こんな調子で、僕は主人のサー・ノックスのように堂々とした立派な騎士になれるのだろうか?
 一歩ごとに腰の辺りからクロの小言が聞こえる。〈おどる剣〉であることを隠す約束を思い出させるために、シグナスは鞘の上から叩いて注意を促さなくてはいけなかった。自分の失態から始まった小言なので、止めるのも心苦しくは思ったのだが。
 しかし気分を切りかえ、任務のことを考える。今度は街に詳しくないなりに、慎重に道を選ばなくてはならない。
「市が立ってるんだっけ」
 いつもの癖で呟いたが、クロからの返事はなかった。完全にへそを曲げてしまっている。
 シグナスは心細かったが、四つ辻できょろきょろと辺りを見渡していたら親切な親子連れが声をかけてくれ、広場への行き方を教えてくれた。春を迎えたサン・サレンでは市が毎日立っているという。温暖なロング・ナリクから来たシグナスには、毛皮のマントを着込まないと外を歩けない気候が春だとは、とても信じられないけれど。
「ところで貴方はロング・ナリクの聖騎士様の?」
 母親がシグナスの顔をじっと見ながら、
「はい、従騎士をしています」
「どうりで、サン・サレンの人とは顔立ちが違うと思った。どうか、早く悪夢の話を解決してくださいって、ご主人様にも伝えてくださいね。みんな自分も今夜見るんじゃないかって怯えてるの。この子も……」
 三歳くらいの男の子が、食い入るような表情でシグナスを見上げている。憧れと、恐れと、期待と、色んな気持ちが伝わってきた。シグナスはしゃがんで男の子と目線を合わせる。
「悪者は、ちゃんとやっつけるからね」
 こくんと頷いた男の子の目の輝きが眩しく、シグナスは何だか恥ずかしくなった。落ち込んでいる場合ではない。ちゃんと、自分の仕事を成し遂げなければ。善男善女を護るのが聖騎士なのだ。まだ従の字がついていたって、志は一緒である。
 親子と別れて市へ向かう。教えられた道順で歩くと、聞こえてくるざわめきがどんどん大きくなり、連れてシグナスの足も速くなった。めいめいに個性的な仕立ての毛皮のコートを羽織った人々が、川の流れのように同じ方向へ進んで行くのと合流する。ここで何とか情報を集めて、悪夢の原因を特定するのだ。あわよくば主人サー・ノックスの居場所も掴んでおきたい。
 ところが従騎士の真面目な決心は、広場に入るなり、異国の市場という旅先で最も好奇心を掻き立てられる喧騒の中に、早くも置き去りにされようとしていた。シグナスは、トブケール熊の群れの中に放り込まれた人のように毛皮と毛皮の間で揉みくちゃになりながら、気になるものを見つけてはそぞろ歩く。少しくらい、お土産を買ってもよいのではないか。

 (※どうやら、スリから狙われています。犯行を防げるか目標値4の【魔術ロール】で判定します。ここは好調なクロで挑戦……しますが、失敗。手持ちの金貨の半分を盗られてしまい、20枚→10枚に。成功すれば「手がかり」も得られたのですが、厳しい結果になってしまいました)

 幾つかの屋台を覗いて〈雪割薄荷のキャンディ〉というのが気に入った。きらきらと混じり気のない、水晶のように透明なキャンディ。舌に乗せたら、少し大人びた、すっとする香りが鼻に通るに違いない。サー・ノックスに差し上げるのはどうだろうか。
 シグナスは財布を取り出そうとして、
「あれっ!?」
 手触りがおかしかった。慌てて袂から引っ張り出すと、金貨が数枚一緒に転がり出るではないか。
「やられた……!」
 市場の中にスリがいることくらい、警戒してしかるべきだった。余所者と丸わかりの態度でうろつけば、格好の獲物になるのは決まっているのに。
 動揺して市場を出る。辺りに人気が無くなると、
「お前くらいの歳のスリだったな」
 クロが囁いた。
「教えてくれても良かったじゃん!」
「大抵の騎士には、オレのような相棒はいないんだぞ」
 それもその通りである。しかしちょっぴり意地悪ではなかろうか? シグナスは落ち込んでしまった。
 
 
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
 長くなりましたが、今回のリプレイは以上となります。
 自称「殺人鬼」たちとの戦闘では、出目からひしひしと、他者を攻撃することに対するシグナスくんの迷いが伝わって来ました。これはきっと彼が持ち合わせた善性の現れなのでしょう。厳しいアランツァ世界で生き抜けるのか心配ではありますが、しかし、だからこそ優しい彼に生き抜いて欲しい。
 そんなプレイヤーの祈りを込めたふたつの探索記録でした。
 
 それではまた、再来週の木曜日にお目にかかりましょう。
 良きローグライクハーフを!
 
 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。心が落ち着くハーブティーの売り上げが好調。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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