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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.47
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〜前回までのあらすじ〜
冒険家乙女クワニャウマは、フーウェイのトレウェリ氏族の若者アルコゥから、自身の成人の儀式の介添人を頼まれる。その儀式とは《太古の森》にある印が刻まれた木々を九つ巡って自らの杖にその印を刻むというもの。クワニャウマは、軍馬購入予算を増やしたい下心から、快く引き受けたのだった。
今回から、『九つの樹の道』リプレイは、本格的な冒険となります!
これまでのクワニャウマの冒険では、
『常闇の伴侶』→旅の相棒ゲット!
『名付けられるべきではない者』→恩人喪失
『汝、獣となれ人となれ』→いい仲間になれそうな人が死亡
『君へ贈る詩』→バックドロップ
と、彼女と関わった人々が、ほぼろくな目に遭っていないので、今回の『九つの樹の道』のアルコゥくんには、是非とも無事でいてほしいと願いながら冒険をしていました。
その割りに、アルコゥくんのダイスの目が終始ふるわず、たびたび「生きろ、アルコゥ!」となりました。
それから、経験点がたまって魔術点を上げたので、クワニャウマに新たな呪文を覚えさせようと、基本ルールを改めて目を通しました。すると、ワイロを値切る【友情】という魔法に気がつきました。まさに強欲なクワニャウマ向けの呪文だったので即採用したところ、今回さっそく使う機会がありました(笑)
最後になりますが、FT新聞5000回並びに、10月29日にFT書房様が20周年を迎えるとのこと、おめでとうございます!!
長らく趣味が俳句とぬい撮りだけだった私に、ゲームブックとローグライクハーフという新たな趣味を与えて下さり、まことにありがとうございますm(_ _)m♪
これからも、ますますの御繁栄をお祈り申し上げます^^
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
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ローグライクハーフ
『九つの樹の道』リプレイ
その2
齊藤(羽生)飛鳥
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1:四本脚の森人
日があるうちでも、《太古の森》は鬱蒼と生い茂る木々の枝はのおかげで、薄暗い。
その分、木漏れ日がよそと違って美しい。
不意に、近くの茂みが激しく揺れたので、わたしはとっさに身構える。
「……興が削がれたな。獲物かと思えば《二本足》か」
大蜘蛛の下半身に人間の上半身の異形の姿……。8つの眼と4本の脚と4本の腕を持つ蜘蛛人か。前にヴィドと飲んでいた時に聞いたことがある。酔っぱらいの与太話と思ってごめん、ヴィド。
武器を構えようとするわたしを、アルコゥが慌てて制止した。
(や、やめろ。森の人に刃を向けるな)
アルコゥはわたしを下がらせると、蜘蛛人の前に進み出た。
「森の人よ、俺はトレウェリ氏族のアルコゥ」
「フーウェイの小倅が。我らの網にその不浄な足跡を刻んで何の用だ。答えよ」
アルコゥの動揺した顔に冷や汗がにじんでいる。
「氏族の儀式の途中だ。あなたがたに迷惑を掛けるつもりはない」
「戯言を。地を這う《二本足》どもが我らの網に踏み込む……ただそれだけで、我らには身の毛もよだつ不快なのだ」
蜘蛛人は、8つの眼で冷徹に見つめながら吐き捨てる。
「消え失せろ、二本の杖で辛うじて立っている醜悪な肢体め」
絵に描いたような険悪な雰囲気に、イェシカが身震いをする。元々《太古の森》で生まれ育った彼女には、蜘蛛人は恐怖の対象なのだろう。
ここは、イェシカの恐怖心を緩和しなければ。
「じゃあ、消え失せる前に思い出の品を贈っていくわ」
わたしは、こっそりと【友情】の魔法を唱えてから、財布から金貨2枚を取り出す。8つの眼から冷徹さは消え失せ、代わりに貪欲な光が宿る。
「別にそんなつもりで声をかけたわけではない」
「わかっている。わたし達《二本足》と猟犬達《四本足》が、この偉大なる《太古の森》へ礼儀に反した振る舞いをしないか、わざわざ監督しに来てくれたんだものね。お疲れ様」
わたしは、さらに金貨を1枚取り出す。蜘蛛人の表情が緩む。
「御足労なことだけれども、礼儀を弁えた《二本足》と《四本足》が来たと、お仲間にも伝えてもらえる?」
おまけとばかりに金貨1枚を追加する頃には、蜘蛛人は初対面の時とは打って変わって気のいい男に変わっていた。
「氏族の儀式の途中だったんだよな? わかった。仲間達には見守るよう伝えておいてやる」
「ありがとう、助かるわ! やっぱり、本物の狩人は違うわね!!」
魔法とお金で解決できるし、うまくおだてて言いくるめれば、怖くない相手とイェシカは認識してくれるはず。
その予想は当たり、イェシカはほっと胸を撫で下ろしていた。
ついでに、アルコゥも。
おいおい、さっきまでの勇ましさはどうしたんだ、君ぃ?
ちょっとお姉さんぶった気分になりながら、わたし達は先を急いだ。
2:冬の王
真っ直ぐ背筋を伸ばしたように直立するヒイラギの大樹の姿が、遠目にもはっきりと目に留まった。
「あれは【神・叡智】を司る〈 ᚭ アース〉だ」
アルコゥがそう教えてくれたところで、ふと根元に目が留まる。そこには、フーウェイの蛮族が重要な集まりに使う〈集会の大岩〉があった。その陰に、一人のコビットがいた。
「よう、ニンゲンの兄弟! いっちょ買い物をしていくかい?」
コビットの男は少年めいた無邪気な笑みで、旅商人のフェルディブランド・バターカップと名乗った。
「フェルディブランド……。そして、左目の下にあるほくろ……。あなた、この前、わたしを罠で釣るし上げにしたフェルディブランド・バターカップじゃないの!!」
「ゲッ!! あの時のクリスティの連れかよ!!」
「”仕込み骰子の”フェルディ。また会えて嬉しいわ。サンドヒーバー村の連中に、あなたの居場所を話してもいいのよ?」
「クソ!! クリスティが行方知れずになったから、もうサンドヒーバー村に俺の居場所を垂れ込む奴はいなくなったと思ったのに!!」
「大丈夫。正規のお値段で聖水を売ってくれれば、その喜びでわたしの記憶からあなたのことなんて、あっという間に消し飛んでしまうから」
「ちくしょう、もってけ泥棒!!」
フェルディブランドは、悔しげに正規の値段で聖水を売ってくれた。
クリスティは、もういない。
だけど、彼女を見て学んだ値切りのテクニックはまだ生きている。
「なあ、イェシカ。どうしてクワニャウマさんは、万感の思いを抱いた顔で聖水の瓶を握りしめているんだ?」
アルコゥがイェシカにそっと質問する声が聞こえたけれど、わたしは気にしなかった。
3:ちいさな混沌
いい買い物ができて満ちたりた気分で、さらに儀式の樹を探しまわり、しばらく経った頃だった。
「また増えてきてやがるな……」
シラカバの林を抜けた先の岩陰に、ぬるぬるとした肉の塊のようなものを見つけ、アルコゥは舌打ちをしながら足を止めた。
「なぁに、たいした奴じゃない。だが、これを放っておくと、もっと大きな《混沌》に成長しやがる。そうすると手がつけられなくなることもある」
アルコゥは静かに槍を構えた。
「……コイツらを駆除するのも俺たちトレウェリの仕事だ」
「これが、《混沌》ね。話では聞いていたけれど、初めて見るわ」
「《カオス平原》にバイト先があったのに、《混沌》を見るのは初めてだって? どういうことだ?」
「何か、訳ありな所だったらしくてね。《混沌》も出なければ、ゴーストも悪魔も敵対的なクリーチャー全般が出没しなかったの。ああ、でも、変死事件だけは頻繁に起きていたっけ」
「アンタのバイト先、呪われていたんじゃねえのか!?」
アルコゥがツッコミを入れて来たけれど、かまわずにわたしは雷電、飛燕、月光に戦いの合図を送る。これまでいい子について来ていた三匹の猟犬達は、恐る恐るといった様子で初めて見る《混沌》に間合いを詰めていく。
「〈しずくの怪物〉はもっとも初期の、生まれたての混沌だ。たいていの場合は周囲を見るための瞳がひとつ、身体の中央にあってせわしなく動いている。身体のどこにも瞳がないときは眠っているときだから、積極的に狙っていけば効率的に倒せる。こんな感じで、倒すのは簡単だが、大きな塊もあれば小さな塊もあって、大きいほど肉体的には優れているが、それほど打たれ強いわけじゃない」
「……以上、ミン・メーショ・ボーの著作物から引用?」
「よくわかったな、クワニャウマさん」
「友達に、博識なまじない師がいるおかげでね」
フーウェイは文字がない文化圏なのに、なぜか人気だ、ミン・メーショ・ボーの著作物。
それはさておき、わたし達は〈しずくの怪物〉達を駆除し始めた。
「いいか、クワニャウマさん。こいつらは身体の一部を牙やかぎ爪などに変化して伸ばしてくるため、戦いで後れを取れば冒険者といえど傷つけられることもある。くれぐれも気をつ——」
「——食らえ、古代の神槍!!」
昔、バイト先のオーナーから、《混沌》は死ぬまで戦うと聞いたことがある。ならば、古代の神槍を投げつけても、持ち逃げされる心配はなし!!
瞬く間に息絶えていく〈しずくの怪物〉を見て、闘志がわき上がったのだろう。雷電、飛燕、月光が、次々に〈しずくの怪物〉に噛みついていく。
「クワニャウマさん、本当に《混沌》と戦うのは初めてか!? 一瞬のためらいも情け容赦もなかったぞ!?」
「ためらいも情けもかけてどうするの? こちらの命を脅かすことが明白な相手は、さっさと消す方がお得じゃないの」
「これが冒険家の理屈か。俺達トレウェリ氏族と腹のくくり方が違う……」
「感心しているところ悪いけど、〈しずくの怪物〉が襲いかかってきたわよ!!」
「な……」
〈しずくの怪物〉は、アルコゥに襲いかかってくる。瞬く間に毛皮の服ごと皮膚が引き裂かれ、鮮血が飛び散る。
「ふざけやがって!!」
アルコゥは、すかさず槍を振り回し、反撃に出る。
「そうだ。さっき買った聖水で《混沌》を倒せる?」
「あいにく《混沌》に聖水はきかん! それより、さっきみたいに古代の神槍で戦ってくれ!!」
「チッ……、先に確認してから買えばよかった。では、〈しずくの怪物〉ども。わたしの憂さ晴らしの的となれ!!」
〈しずくの怪物〉は、全部で9体もいたので時間はかかったし、怪我人は出たけれど(わたしも含む)何とか死者を一人も出さずに駆除できた。
でも、わたしの気持ちはいっこうに晴れない。達成感というものを、まるで感じられないのだ。
その答えは、イェシカが石板に書いたこのメッセージでわかった。
〈《混沌》って、宝物を持ってないんだね〉
ただ働きだったからか……。
次こそ、金目の物がほしいな。
そんな思いを胸に、わたしはアルコゥの成人儀式の介添人を続けた。
(続く)
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齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。最近は、そこにローグライクハーフが加わって、ついにはシナリオ作りに挑戦。『霊廟館の悪夢』を先日FT新聞様に掲載していただいた。
現在『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を刊行中。2025年までに6巻が刊行中。2026年春に、7巻が刊行。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2026年1月上旬に文庫版『歌人探偵定家』(東京創元社)、同年5月29日『歌人探偵定家 弐』が、同年6月22日には、『御成敗式目の殺人』(中央公論新社)が刊行。
初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『九つの樹の道』
著 水波流
2026年5月3日FT新聞配信
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