第4回【最期の日に彼女は(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【最期の日に彼女は(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)】のネタバレを含んでいます。ご注意ください。
ぜろです。
「最期の日に彼女は」(クトゥルー短編集2 暗黒詩篇)をプレイしています。
双子の妹、西宮ハナとして、週末に帰宅しない姉のレナを探します。
しかし必死の捜索もむなしく、レナは遺体で発見されます。
ところが、レナの遺体は警察署から、忽然と消えてしまったというのです。
いったい、なにが起きているの?
●アタック01-9 レナの思い出
私は今、警察署にいる。署長室で、姉レナの遺体が消えたという説明を受けているところだ。
ここまでの出来事も、衝撃の連続だった。
けれど、これはどういうことなの?
遺体が勝手に消えるなんて、さすがにありえない。
説明によると、検死のために搬送用の車に載せて移動させた遺体が、病院で消えたのだという。
警察でも、なにがなんだかわからない状況だという。
署長はなにも言い訳せず、ただ、総力を挙げて発見に尽力すると言った。
信じられないことの連続に、私の頭は麻痺しているようだ。
もう、なにも考えられない。たんたんと、葬儀の準備を進めた。
この日も、私は疲れて寝落ちしてしまったようだ。
とても悲しい夢を見た。
今住んでいるアパートとは違う場所と部屋。
そこに私と姉が住んでいるみたい。朝、出かける前のようだ。
その近くに、遺跡公園があることを、なぜか私は知っている。
私はレナをそこに連れて行きたい。そこを見せたいと思っている。
誘うけれど、レナには何か用事があるみたい。学校?
「また、今度ね」
レナと別れたところで目が覚めた。
夢だからか、現実にこんなことは起きていなかった。
でも、普段の何気ない日常を想起させるような内容だった。
うすぼんやりした夢の記憶は儚く、すぐに消えてしまう。
目を覚ますと、涙が頬を濡らしていた。
そういえば、私、泣いてなかった。
そう思ったら、涙があふれて止まらなくなった。
思い出すのは姉とのこと。
両親は、私たちが高校生の頃に亡くなった。
遺産と遺族年金で、生きていくことはできた。
高校の先生が手を回してくれて、18歳になるまでは、未成年後見人をつけてもらった。
大人になって生活するのはこういうことだと、学んだと思う。
2人が大学に進学するには、費用は心もとなかった。
レナは、高校卒業とともに就職し、私が進学する大学のそばにアパートを借りて、一緒に生活をはじめた。
いつでもレナの、私のことスキスキ光線を浴びて……なんだか申し訳ないなって思いながら、いつも甘えていた。
警察の説明では、事故、ということだった。
草で足を滑らせ、ガードレールの隙間をすり抜け、頭から川べりに転落した、という説明だった。
「バカだなあ……」
そんな死に方なんて。
これからだったのに。大事な大事な私を置いて、先に行っちゃうなんて。
身近な人が突然いなくなることを、私とレナは1度経験している。
両親がいなくなったとき。
だから、この感覚には覚えがある。
あのときは、私にはレナがいた。レナには私がいた。
「ひとり……か」
つぶやいて、私はまた、泣いた。
●アタック01-10 レナの記録
葬儀に来たのは、結局1人だけだった。
レナの交際相手だったという男性だ。
名前は、新名弥四郎。
にいなやしろう、だ。
背が高い、スポーツマンタイプ。医療機器会社の営業とのこと。
仕事がら、接点があったのだろう。
その職場、ヤマト感染研究所からは、誰も来なかったし、なにも言ってこなかった。
理由はわからない。
普通に考えればおかしなことだが、奇妙さを感じこそすれ、どうこうする気にはなれなかった。
遺体のない葬儀を終える。
死体検案書はあるけれど、肝心の遺体がないので火葬にはできない。
斎場の予約はキャンセルした。理由の説明は手間だったが、葬儀会社の人間が交代してくれた。
死体検案書には雑な手書きの字で「事故死」と書いてある。
本当は検死を終えてはじめて書けるものだが、この状況では仕方ないのだろう。
これは、遺体が発見されたときのために、保管しておかなければならない。
全部終わって、家に帰ると、私には、もうなんにもなかった。からっぽだった。
ふと、レナの携帯電話を見る。
交際相手の新名弥四郎さんのこと、私は知らなかった。
もしかしたら、いいえきっとそのうち、紹介してくれたに違いないけれど。
ほかにも、私の知らないレナが、この中にはあるかもしれない。
私は、レナの携帯電話を手に取った。
目を通していく。
ほとんどが、私の知っているレナだ。
音声とか、写真とか、ないかな。
動画とか。
自撮り、してないかな。
淡い期待をしてしまう。
もう、声を聞くことはできない。
顔だって、見ることができない。
もしこの四角い小さな箱の中に、レナの姿があれば、声があれば。動いている姿があれば。
レナは、あまりそういうことをするタイプではなかった。
でも、もしかしたら。
期待しないではいられない。
最新の動画がある。
ああ、レナの声だ。レナの声が聞こえる。
そこは、金曜日の夜の、焼鳥屋だった。
私が行って、レナの携帯を預かった、あの店だ。
ところがレナの声は、切羽詰まっていた。
「私はこの携帯を、この店に置いていくよ。あなたはどうにかして、これを見つけてほしい。ロックは解いて置いていくから、お願い」
……!?
これは、私にあてたメッセージであると、直感した。
それにしても、この言い方は……。
レナは、自分の身に、なにか危険なことが起きることを、この時点で予測しているように聞こえる。
そしてその後にレナが話し出したことは、こんな場面でなければ、荒唐無稽な創作としか、受け取れないようなものだった。
●アタック01-11 スケトレス
店内にはレナと店長の2人だけだ。レナは、店長に聞かれないようにこのメッセージを残している。
そこからのレナの話は、とても信じがたく、一度聞いただけでは内容が頭に入ってこなかった。
「追い詰められてしまった。もうダメかもしれない。あの恐ろしい生き物たち……人間社会に溶け込んで、自分の主人のために、世界を破滅に導こうとする『スケトレス』に」
世界を破滅に導こうとする、って。
いきなり世界規模の話に飛躍するの?
私と姉との小さな関係性の話が、いきなり世界の危機に繋がってしまうなんて、それなんてセカイ系?
レナの話は続く。
「研究所の私専用ルームに、大事なものが入れてあるから、それを取りに行ってほしい。あいつから身を守るワクチンと、武器が入っているから」
あいつ……スケトレスという謎の存在か。
検索してみたが、「ストレス」ばかりがヒットする。
この時点では「スケトレス」というのが何を指しているのか、まったくわからない。
ショッカーみたいな組織なのか、ミギーのような寄生生物なのか。
「部屋にはロックがかかっているから、解除してね。パスナンバーはね、名前を数字に……」
そこまでで店長が、レナの話を遮るように、声をかけてきた。
「レナさん、ちょっとだけ店を空けます、すんません」
「あ、わかりました。お客さんが来たらそう言っときます」
「すんません、お願いします」
肝心なところで話が中断した。
レナが続きを話し出そうとすると、また邪魔が入った。
店長が出て行った直後、ガラガラと店の扉が開いた。
レナは携帯電話を隠したため、画面は真っ暗になる。
「西宮さん、探しましたよ」
声だけが聞こえた。
ザラザラした、低い男の声だ。
この声には聞き覚えがある。
ヤマト感染研究所の、レナの上司の人の声だ。
名前はたしか、御国獅子丸。
「なんでここがわかったんですか」
「『スタグラム』を見ました」
「立派なセクハラですよ、それ。ストーカー行為です」
これが会社の上司とすると、最悪な人間関係だ。
レナは、よくそんな会社に毎日出社していたものだと思う。
店長が帰ってくる足音。男が慌てて立ち去る足音が重なった。
「おかえりなさい店長。私、帰ります」
緊張した声で、レナが店長に言う。そこからは物音だ。
店を出る音、自転車のスタンドをおろす音。
店長の「ありがとうございました」の声。
店長が食器を片づける音。
「あれ、レナさん携帯忘れてる」
そんな店長の声とともに、動画はそこで途絶えた。
店長が切ったのだろう。
私は、何度も繰り返し、動画を再生した。
深刻な事態への不安もある。けれど、そこにレナの声があることが、声が聞けることが、なによりも嬉しかった。
そして私は決意した。
レナの死の真相を探ろうと。
物語後半の目的:姉の研究室を訪れて、その死の真相を探ること。
それにしても、慌てていたとはいえ、結局携帯電話のロックはかかっていたし、研究所のパスナンバーも言ってないじゃない。
あんなに慌てて店を出なくても、研究所のパスナンバーを言って、時間を置いた後に出た方が良かったんじゃない?
そこまで考えて、私は気づいた。
レナはこの店に「携帯を置いていく」という選択をしたのだ。
それってつまり、レナはこの時点でもう、家に帰るつもりはなかったということ。
「もしも私の身になにかあれば」みたいな仮定の話ではない。
もう、自分は助からないと確信していたからこその行動なのだと。
居酒屋を3軒もはしごするなんて、酒豪すぎるなんて思っていた。
でも、違ったのだ。
レナはこれが最後になるからと、好きなお店の好きなメニューを食べて回っていたんだ。
そう。「スケトレス」の存在。
荒唐無稽な話なんかじゃない。
目を醒ませ。私たちの世界は何者かに侵略されている。
これは訓練でもリハーサルでもない。
・さっそく姉の研究所を訪れる
・残りの動画も確認する
まずは残りの動画を確認しよう。ほかにもなにかヒントを残しているかもしれない。
次回、どうやって研究所に入りこむ?
■登場人物
西宮ハナ 主人公。双子の妹。無職。
西宮レナ 主人公の双子の姉。ヤマト感染研究所勤務。遺体で発見され、その遺体が警察署から消えた。
新名弥四郎 西宮レナの交際相手。
御国獅子丸 西宮レナの上司。ストーカー気質。
■作品情報
作品名:ゲームブック クトゥルー短編集2 暗黒詩篇 「最期の日に彼女は」
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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