おはようございます、編集長の水波流です。
今日はこれまで再配信の機会のなかったローグライクハーフの各種データから、
『城塞都市ドラッツェン』を再配信いたします。
初出はなんと2023年12月。もう2年近く前になるのですねー。
・アランツァワールドガイド Vol.9(2023/12/19、12/26)
・都市サプリメント(2023/12/29)
・新職業【錬金術師】(2024/1/2)
大陸中央部にある軍事色の濃い街ドラッツェン。
龍を意味する古い言葉に端を発するこの国は、山岳部に位置する多種族国家です。
「アランツァワールドガイド」Vol.9
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ラクダ人であるカメル教授が城塞都市ドラッツェンにたどり着いたのは、春先のことだった。
カメル・グラント教授はいま、大陸を旅してまわっている。
高地にあるこの街は寒く、朝夕には濃い霧が出る。
三方を河に囲まれたこの都市は堅牢だが、たどってきた道のりは決して平坦なものではなかった。
龍人たちが創設した街を人間が奪ったという、血塗られたはじまり。
巨大クリーチャーとの戦い。
ゴーレムナイトの導入。
錬金術師の台頭。
ウォー・ドレイク戦役。
この街を彩る要素の多くには、戦が絡んでいる。
◆検問と戦争。
カメルは旅の仲間であるアレス・マイモローとともに、この街へと入る。
衛兵たちはいぶかしむような表情を投げつけた。
神聖都市ロング・ナリクからの越境である。
ふたつの都市の間では数十年もの間、戦争が続いている。
スパイの入国を、疑ったのだ。
アレスは懐から書状を出して、ハラリと見せる。
彼の妻である賢者ティーボグが書き記した、通行許可証である。
衛兵たちは書状とアレスたちを交互に見ると、結局、街への入境を許可してくれた。
「要するに、そういうことなんだよ」
衛兵たちから十分に離れてから、アレスが言う。
「戦争は長く続きすぎた。今でも兵士たちどうしの戦いはあるが、民間の交易は行われている。研究者だって、こうして通れるってわけさ」
慎重なカメルは首を振って、彼の意見を否定する。
「運がよかっただけ、かもしれない。あるいは、偉大なる七賢者の書いた書状を持たない者は、そんな風に通れるとは限らないだろう」
「そうだな。だが、少なくとも今日は通れたな。とりあえずは、そのことを喜ぼう」
カメルはうなずいて、街に視線を向ける。
◆高地の街。
河に囲まれた小高い丘。
城壁で囲まれた街に向けて、いくつかの石橋がかかっている。
それぞれの橋には城門があって、有事のさいには閉じられる。
堅牢な街である。
城門の高さは5メートルほどあって、「人間以外」の市民がいることを窺わせる。
空には小さなドレイクが飛んでいて、その姿や鳴き声が、薄くかかった霧の向こうからときおり聞こえる。
◆龍人たちと銅龍セドラク。
街の中央にある広場にたどり着く。
噴水の真ん中には、精悍な戦士が龍を足の下に敷いて、旗を掲げた銅像が建っている。
人間が龍人を征服したことを示す、モニュメントである。
ドラッツェンという名前が示すとおり、この街はもともと龍人たちのものだった。
龍人は強力な種族だったが、繁殖力において人間に劣っていた。
長い戦を続けた末に、龍人は街を捨てて南へと消え、ドラッツェンは人間の都市となった。
かつて龍人は、セドラクという名前の龍とともに、この街に住んでいたという。
古い文献によれば、セドラクは街の守り神として崇められていた。
だが、人間と龍人の戦を経て、龍がどうなったかについては諸説ある。
傷ついて死んだとも、龍人とともに去ったとも、人間が街を奪取したさいに裏切って人間側についたとも言われている。
ただひとつ確かなことは、金龍が今も街にとどまる水上都市聖フランチェスコ市とは違い、この街にはもう龍がいないということだ。
◆街の【少数種族】たち。
ドラッツェンの街は高地の山奥にあるが、歩いている種族は多種多様だ。
といってもエルフやドワーフが特別に多いわけでも、ゴブリンやオークのような【悪の種族】に溢れているわけでもない。
豚の顔をした人間型種族……〈豚人〉。
4本の脚と4本の腕を持つ、クモに似た少数種族〈アラネア〉。
人間の2倍近い身長をもつ〈半巨人〉。
毛むくじゃらの狼や猫に似た〈獣人〉。
たくさんの少数種族が、人間などの【善の種族】に混じって歩いている。
「侵略の歴史さ。里を焼かれた種族が、街で暮らすようになった」
好奇心から視線を向けていたカメルに、アレスがそう告げる。
「そうだな……。戦いは世の常だが、彼らは幸せなのだろうか?」
そう言って目を伏せるカメルの長いまつ毛を見ながら、アレスは何も答えなかった。
カメルは疑問を投げかけたわけではない……「幸せには見えない」と、反語的に言っているのだ。
故郷を追われ、家族や友人を殺された末に、街に取り込まれて生きる少数種族たち。
その身を案じているのだろう。
◆大量の難民と「テホ」。
高低差のある道を歩く。
高いところに立つと、城壁の向こうに流れる川が見える。
ゆったりと流れる赤錆川は、その名前のとおり雨季には川が赤色に濁る。
かつてこの川を上ってきた、難民たちがいたという。
この川を上った難民たちは〈ノーム〉たちだった。
彼らはドラッツェンの北西部に集落を作り、先住者である〈獣人〉たちや、後に住み着く〈半巨人〉たちとともに暮らした。
その地域は「テホ」と呼ばれた。
テホの民はドラッツェンとは一定の距離を置きながらも、その一部は城塞都市に流れ込んで市民となった。
ドラッツェンには〈半巨人〉の騎士や〈獣人〉の医師、〈ノーム〉の錬金術師などが居住し、一定の地位を獲得している。
◆レラヴィリアの民。
宿についた2人は、テーブルにつく。
宿に入った瞬間から、においが気にかかる。
糞尿のような……。
においの根源を目で追うと、そこには〈豚人〉が座っている。
どうも、彼か彼女か分からないが、においはそこから漂ってきているらしい。
他の宿を探すべきか、カメルは迷う。
だが、山中にあるドラッツェンの日暮れは早い。
もう日が暮れているのだ……くさいからといって、今さら宿を変えるリスクを取りたくはない。
店員が〈豚人〉に、食事を持っていく。
〈豚人〉は2人の前で、その頭を外す。
衝撃とともに、2人は〈豚人〉の「中身」を見る。
中には色白で金髪の、美しい青年が入っていたのだ。
カメルとアレスが〈豚人〉だと思っていたのは〈人間〉だったのだ。
好奇心に抗うことができず、カメルは青年に近づき、尋ねる。
「そのかぶりものは? 何のためなのか、訊いてもいいかな?」
青年は屈託のない笑顔をカメルに見せて、答える。
「狩りです。我ら『レラヴィリアの民』は、〈丸々獣〉という生きものを仕留めるためにこの格好をするのです」
いささか早口になりながら、青年は答える。
カメルはうなずく……このにおいも、狩りのためについてしまうものなのだろう。
「レラヴィリア」とは「自由」を意味する言葉で、ドラッツェンにかつてあった王国の名前だ。
王国はすでに滅んだが、レラヴィリアの民は今もドラッツェンの周辺や都市内で、こうして暮らしているという。
◆ウォー・ドレイク戦役。
カメルとアレスは食事を終えると、うっすらと暗くなりつつある外を歩く。
ギャギャギャという鳴き声が、遠くから聞こえる。
霧の晴れた空には幼いドレイクが、叫び声を放ちながら飛んでいる。
調教師が「放牧」をしているのだ。
かつてウォー・ドレイク騎兵は、ドラッツェンの象徴そのものだった。
凶暴なドレイクが空を埋め尽くし、さまざまな【少数種族】たちを制圧した。
神聖都市ロング・ナリクを代表する騎士、飛翔槍士たる鳥人たちに死をもたらした。
しかし、ドラッツェンの経済力は、その強大な軍事力を支えられるほどに強靭ではなかった。
いちどの遠征を終えると牛一頭(1日に1頭といううわさもある!)を必要とするウォー・ドレイクの維持費用はドラッツェンの財政に大きな打撃を与え……大幅な縮小が行われた。
◆ゴーレムナイトの導入。
ウォー・ドレイクを城塞都市ドラッツェンが「手なづける」以前には、〈ノーム〉たち【からくり術師】が研究開発した〈ゴーレムナイト〉が、この街の主流だった時期もあった、という。
巨大なゴーレムの中心に乗り込んで、操縦することで巨人やドレイクたち【巨大生物】と戦う。
ときには〈ゴーレムナイト〉どうしで戦うこともあったという……だが、これも歴史とともに衰退していく。
古い時代のゴーレムの頭のなかには、今は稀少となった金属オリハルコンが使われていた。
これが枯渇したために〈ゴーレムナイト〉の生産ができなくなってしまった。
それでも、アランツァの世界にはこの巨大なゴーレムによる戦いの痕跡や記録がいくつか残されている。
◆半巨人たち。
城を遠くから眺めようと、アレスが提案する。
カメルは同意して、連れ立って歩く。
城の門には板金鎧に身を包んだ、大柄の騎士が立っている。
門の左右に立つ騎士の、右の人物だけがやけに大きい。
〈半巨人〉が、銀色に輝く鎧に身を包み、門を守っているのだ。
そのたたずまいは堂々としていて、誇らしげですらある。
アレスは興奮して、その様子をスケッチしはじめる。
生物学者であるカメルは感動して、〈巨人〉の歴史に思いを馳せる。
〈巨人〉という種族はもともと、人間だったと言われている。
魔力だまり(ノード)の放射に当てられると、クリーチャーは自分自身の欲望に応じた姿へと変容する。
このことを皮肉まじりに「願いを叶える」と表現する学者もいるが……〈巨人〉はなんらかの理由で「もっと大きくなりたい」と思った、数人の人間たちからはじまったという説がある。
もっとも、この説は北方の蛮族都市フーウェイなどでは真っ向から否定されていて、〈巨人〉たちはより原始的な、かつての「汚れていなかった」頃の人間の姿だと彼らは主張する。
学者たちの意見がどうであれ、〈半巨人〉は〈巨人〉の子孫である。
代を重ねるごとに肉体的に小さくなっていったが、その理由は明らかではない。
〈巨人〉の食性はバラバラで、人を食うものもいる。
しかし、身長3メートルていどの〈半巨人〉になると、この性質を受け継いでいる者はいない……人間と同じものを食べる。
◆武器と防具、そして錬金術師。
三方を河川に囲まれたこの街の「最後の一方」は、スォードヘイルの切り立った山々に面している。
この山地には有用な鉱物がよく採れる……城塞都市ドラッツェンの「産業」といえば、鉱物なのだ。
かつてはゴーレム製作に欠かせないオリハルコンが採掘されたが、今はこの資源は枯渇してしまった。
現在は武器や防具に用いる「アダマンタイト」と「カーグ鋼」をもとに、優秀な武具を製作する。
これらの武具は彼らの軍事力になるだけでなく、輸出によって経済面からもこの街を支えている。
街外れにある採掘場では、〈ドワーフ〉たちがつるはしを振るっている。
それを眺めながら、カメルは教え子の1人の話を思い出す。
錬金術師のマグスは両親とともに、この街を亡命したドラッツェン人なのだ。
わずか9歳の頃から、非常におとなびた性格の生徒であった。
面接の席で彼は、聖フランチェスコ市への亡命理由を尋ねられた。
「先生方はきっと、ドラッツェンの錬金術師たちが、どんな仕事をやらされていたかご存じないでしょう。私の両親は錬金術師だから、実際にあの街でどんな業が行われていたか、知っています」
続きを待つ面接官の教師たちを前に、長い沈黙が訪れる。
その末に彼は、こう答えた。
「戦が近づくと、兵站(へいたん)の備蓄を行いますよね。そのなかにはコビット爆弾のような、火薬を用いるものがあります。でも、ドラッツェンでは火薬の材料のひとつ、硝石が不足気味なんです」
マグスはひと呼吸置いて、言った。
「ところで、人体の成分をご存じですか。水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100gです。だから……ドラッツェンの軍部は平民たちのところにやってきて、最近亡くなった人間の遺体を『徴収』します。死んだ人々の肉体をかき集めて、硝石を手に入れるために……。」
そして、その硝石を抽出するのは錬金術師の仕事、というわけだ。
「そのこと{圏点:小さい黒丸}だけ{/圏点}に耐えられなかったわけじゃない。あの街はそういうところなんです。たくさんの【少数種族】と、合理的な思想。魔力を蓄えたクリーチャーが、生きたままつながれている地下があるというウワサもある。もっとむごたらしいものだって……。」
吐き捨てるように、マグスは言った。
「そういうことが重なって、両親はあの街を捨てました。俺だって、あの街で育つよりも、人の心がある魔法使いになりたい」
少しうつろなマグスの瞳。
彼を見つめるカメルの瞳には、涙が浮かんでいた。
◆まとめ。
カメルとアレスは城門から出て、この街をあとにする。
この街がアランツァの他のどんな都市よりも堅牢で、強大な軍事力を蓄えていることは疑いようがない。
北から攻め込む【巨大生物】の脅威に耐えるために、彼らは「するべきこと」を選んできた。
生き延びるために彼らがしてきたことは隠されていて、街を歩くだけでは分からない。
だが、たとえ明るみになったとて、誰がそれを「ひどい」と言えるのか。
恐るべき〈巨人〉たちにドラッツェンが敗北したら、次は他の街だ。
この街が食い止めているからこそ、アランツァの都市は危うい均衡のなかで存在できているに過ぎない。
カメルはドラッツェンの支配者たちが住む城を見やる。
今の領主である姫将軍ジャルベッタが住む、灰色の城を。
振り返って眺めても、街は答えない。
2人はドラッツェンの前を流れる赤錆川に浮かぶ、一隻の船に乗る。
城塞都市ドラッツェンを去り、チャマイの街を目指すのだ。
そこにたどり着いたなら、カメルの旅はふたたび1人に戻る。
アレスの最終目的地は、からくり都市チャマイである。
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↓「城塞都市ドラッツェン」by Huargo
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/CarneReina19B.jpg
↓「アランツァ:ラドリド大陸地図」by 中山将平
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/MAPofARANCIA.png
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都市サプリメント:「城塞都市ドラッツェン」
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_SUP_Dratzen.txt
新職業【錬金術師】
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_NewClass_Alchemist.txt
呪文の力に頼ることなく、物質と生命の創造を専門とした職業に就いた者を【錬金術師】と呼びます。
幸運点を基準とする主人公で、怪物の生産を可能とします。
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