第8回【エメラルド海の探索】ローグライクハーフリプレイ ※本作品はローグライクハーフの規定に基づくリプレイ記事です。ローグライクハーフ「エメラルド海の探索」の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。 ぜろです。 ローグライクハーフ「エメラルド海の探索」の冒険譚です。 今回の主人公たちは、元剣闘士で熟練の傭兵ヴァルグと、彼と行動をともにする、左腕に「獣の腕」を宿す少年ハルト。 貿易都市ビストフの領主マキシミリアンから受けた依頼はクラーケンの討伐。 海神ホリィドゥーンの加護、クラーケンの居所を見通す遠見師エラ・シエロの同行を得て、クラーケンぶっ殺し号は、航海を続けます。 そしていよいよクラーケンの出現場所へ。最終決戦の幕開けです! 【ヴァルグ レベル20 技量点2 生命点9 筋力点4 従者点9】剣闘士(元) 【ハルト レベル10 技量点1 生命点7 筋力点4 従者点8】獣使い 「クラーケンぶっ殺し」号 技量点1 生命点9 攻撃回数2 【砲撃】ダメージ2点 ●アタック03-6 決戦! クラーケン 【ハルト】 そのときは、突然やってきた。 遠見師のエラが、不意にビクッと体を震わせた。 すぐに見張り台から大声が響いた。 「左舷前方に巨大な影! 急速に接近してきます!」 船に緊張が走る。 「本船はこれより、クラーケンの討伐を開始する!!」 ハーツデイル船長が高らかに宣言する。 「よォしやっときたな! 気合を入れろ! テメエら!」 師匠がバカでかい声で鼓舞する。 その声に押されるように、コビットたちが慌ただしく動き出した。 次から次へ、左舷の船側から火薬入りの樽を投下していく。 オレはヒースをともない、前方の甲板に立つ。 投げ込まれた樽は波に揺られ、船から少しずつ離れてゆく。 「近いのは狙うなよ。船を傷つけてしまうからな」 船長の言葉にオレはうなずいて、その時を待つ。 まわりは騒がしいのに、不思議と、心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。 巨大な影が、樽の下にさしかかった。 今だっ。 「ヒース、火の玉!!」 「ギャウ!」 ヒースが火の玉を放つ。 それは波間に揺られる樽に命中した。 ドォン!! 爆発とともに水柱が上がる。 続けざまに狙い撃つ。 水上にいくつもの水柱が咲いた。 水柱が消えた海上には、千切れた触手が浮かんでいた。 よし、効いている! 「よくやったヒース!」 「ギャウ!」 【ポール】 樽に火薬を入れて、ヒースの火の玉で爆発させる。 単純な作戦だったけど、効果はあった。 そのとき、海そのものが盛り上がり、クラーケンの巨大な頭が顔を出した。 かなりの至近距離だ。まるで目の前に巨大な壁が現れたよう。 これなら狙わずとも当たる。 ニーナが砲撃する。弾はクラーケンの巨大な頭部に命中したが、簡単にはじかれてしまった。 ダメだ。これじゃあ分厚い城壁に素手でパンチするようなものだ。 ヴァルグは「狙わなくても当たる」くらいなことを言っていたけど、当てるだけじゃ意味ない。 どうしたらいい。 そうか! 私は砲台を斜め下に向ける。 分厚い頭にいくら撃っても無駄だ。 狙うのなら、たくさんの触手に繋がるつけねの部分。 「そこだあ!」 透明感のある海の浅いところに見える、クラーケンの器官が密集しているところに向けて、続けざまに砲撃を叩きこむ。 エメラルドの海が黒く染まっていく。どうやら、墨を吐く部位を傷つけたらしい。 しまった。これでは海の下が見えなくなってしまう。狙えない。 「大丈夫。だいたいわかったから」 ニーナも私にならって狙いを変更し、黒い水面に砲撃を叩きこむ。 たしかな手ごたえを感じているようだ。さすがはニーナ。もうコツをつかんでいる。 いける。いけるぞ! 【ハルト】 クラーケンぶっ殺し号の砲撃が始まった。 ポールさんもニーナさんもがんばっている。 クラーケンは巨大な二本の触腕を持ち上げ、怒り心頭のようだ。 クラーケンは二本の巨大な触腕と、八本の吸盤のついた触手を持つ。 狙いは触手の方だ。 「鉤つきロープをおろせ!!」 珍しく大声を張り上げる白奴の号令で、次々と鉤つきロープが海に投下されてゆく。 それらは海中にあるクラーケンの触手にひっかかり、あるいは巻きつかれてゆく。 「いよおおぉし。引けーーい!!」 コビットの乗組員たちが、並んでロープを持ち、全力のかけ声とともに必死に引っ張る。 「えいさっ! よいさっ! えいさっ! ほらさっ!」 船が大きく傾き始めるが、おかまいなしだ。 やがて海中から、クラーケンの触手が吊り上げられてきた。 ずるずると重い音を立てながら、ぬめぬめとした太い触手が甲板まで引きずり上げられる。 「銃士隊、前へ!」 激しく揺れる甲板で三人のノームの銃士が膝をつき、体を固定して銃を構える。 「撃てっ!」 銃声が連続して響き、触手を深く傷つける。触手は黒っぽい体液を飛び散らせながら激しくのたうった。 そのとき、二本の巨大な触腕が、船に向けて叩きつけられた。 しかしそれは船をかすめ、海面を叩く。船はさらに激しく揺れる。 そうか。海面が黒く変色しているせいで、クラーケンも視界がきかないんだ。 するとクラーケンは、船に吊り上げられた触手を起点に、船に巻きつきはじめた。 これまで隠れていた触手のつけねにあたる部分もすべてむき出しだ。 それを逃すポールさんたちじゃない。連続して砲撃を叩きこむ。 それでもクラーケンは船本体への巻きつきを強めていく。 船がギシギシと嫌な音を立てて軋む。船体はいつまでもつのか? 「いいかハルト。巻きついている触手をぜんぶぶった切るぜ」 師匠が動く。傾いた足場をものともせずに、人の胴体より太い触手に斬りつけ、あっさりと切り裂いた。 オレも一本の触手に向かう。鉤で吊り上げられ、銃士の攻撃で傷つきのたうつそれに当てるのは容易だ。 オレは獣の腕を振り上げ、槌を渾身の力で叩きつけた。 巨大な触手がぐにゃりとへこむ。オレは甲板をまな板がわりに、触手の同じ場所を繰り返し叩き続ける。 獣の腕は、全力を奮える機会にうち震え、オレは無我夢中になっていた。 やがて触手は、まるで鍛冶師が剣を鍛えるように、完全に平たくなった。 それでも先端の触手はまだ動き続けている。なんて執念深いんだ。 「もういいハルトちゃん! その触手は切り離されたも同然だ。心配はいらん!」 白奴の声が聞こえ、はっとした。オレは次の触手を求めて周囲を見渡した。 それはまさに総力戦だった。 いつまで続くのかわからない激闘。 巨大な触手に巻きつかれ、激しく揺れる船。 響く砲撃音。とどろく銃声。 白奴の指示。コビットたちのかけ声。師匠の怒号。 火薬の臭い。ヒースの鳴き声とあぶったイカの臭い。 オレも必死に戦った。 うなりを上げて飛んでくる触手をかわし、全力で槌を振りぬいた。 戦いの高揚感に、獣の血が全身を駆け巡り、まるで疲れを感じない。 終わりは唐突に来た。 船に巻きついていた巨大な触手が、不意に力なくほどけ始めた。 頭上にそびえていたクラーケンの壁が、少しずつ低くなってゆく。 海に、沈んでゆくんだ。 そのとき、船ががくん、と大きく傾いた。オレはとっさに欄干をつかみ、落下を防ぐ。 「いかん!」 ハーツデイル船長が叫ぶ。 「触手にからむロープを切り離せ! 船ごとクラーケンに引きずり込まれるぞ!」 その声を受け、師匠がすぐに動く。斜めになった甲板を、欄干伝いに移動する。 気合の声を上げながら、ピンと張られた三つ編みの太いロープを分断していく。 コビットの船員たちも、めいめいのナイフやノコギリで、ロープを切り離しにかかる。 が、がっしり太くしたロープががちがちに張られていては、簡単に切ることはできない。 「はいちょいとどいてな〜」 白奴がカタナを抜き、素早い一閃でロープを断ち切った。 チィン、という金属音を立てながら、洗練された所作で鞘に収める。 白奴は師匠とは反対側の端からロープを切り離しにかかった。 その間にも船はみるみる傾いてゆく。 「だりゃああ!」 やがて師匠が、クラーケンと船を繋ぐ最後の一本を切り離した。 「反動に備えろ!」 船長の叫びと船の動きは同時だった。 ざばああん! 限界まで傾いていた船は、反動で大きく跳ね上がり、激しく揺れ戻った。 オレは欄干を必死につかんだまま、滅茶苦茶に体を揺さぶられた。 なんの支えもなかった師匠が空中に投げ出されたが、目の前のロープをつかみ、ギリギリ甲板に落下して転がったのが見えた。 突然の沈黙が訪れた。 波音しかしない。 さっきまでの激戦が、嘘のように。 ポールさんとニーナさんが、甲板に上がってきた。 コビットの乗組員も集まってくる。不安げに海面を見つめる船員もいる。 「クラーケンは力なく沈んでゆきました。……脅威は完全に去りました」 遠見師エラ・シエロが、厳かに宣言した。 それでも、現実感がない。 師匠が船長の隣に立ち、小突いた。 「おい、なんか言ってやれよ。締まらねェだろ」 はっとした船長が、皆に向かい宣言する。 「本船は見事クラーケンを打ち倒した! 我々の勝利だ!」 「おおおおおーーーー!!」 それとともに、乗組員全員の勝どきが一斉に上がる。 本当に、オレたち全員で、あのとんでもない海の魔物を倒したんだ。 オレにもようやくじんわりと、その実感がわいてきた。 「あれ、食えるのかなあ」 甲板に残され、なおもうねる触手の端っこを見ながら、白奴がつぶやいていた。 ●アタック03-7 余韻【ポール】 激戦の爪痕を残す「クラーケンぶっ殺し号」。 点検をしてみたところ、損傷は軽微だった。 点呼をかけたが、誰一人欠けている者はいなかった。 クラーケン討伐自体が奇跡のようなものなのに、犠牲者が一人も出ていないなんて、もう奇跡のレベルを超えている。 この所業はきっと英雄譚として、後世まで語り伝えられるものになるに違いない。 その中にわずかでも名を連ねられるかもしれないと思うと、私の心はうち震えた。 これから船は、行きと同じくらいの時間をかけて、ビストフへと帰還する。 航海には危険がつきものだ。帰路にもなにが起きるかわからない。 しかし今は、この高揚感に身を委ねていたい。 そう思った。 エメラルド色を取り戻した海のかなたに小さく、白いイルカが跳ねるのが見えた。 [プレイログ] 【最終イベント】 【クラーケン レベル4 生命点8 攻撃2回 ダメージ2点 防御1点】 【クラーケンの脚 8体 レベル3】 ※本体にダメージが1点入ると脚1本破壊。脚が0になれば勝利。 【0ラウンド】 ヒースの攻撃 サイコロの出目4 脚8→7 ニーナの砲撃 サイコロの出目2 外れ ポールの砲撃 サイコロの出目6 本体の生命点8→7 脚7→6 ポールの追加砲撃 サイコロの出目3+技量点1 本体の生命点7→6 脚6→5 【1ラウンド】 ヒースの攻撃 サイコロの出目5 脚5→4 ヴァルグの攻撃 サイコロの出目1 外れ ハルトの攻撃 サイコロの出目3 脚4→3 クラーケンの攻撃2回 ・船の回避 サイコロの出目4 回避 ・船の回避 サイコロの出目6 回避 クラーケンの脚の攻撃3回 ・ヴァルグの回避 サイコロの出目5 回避 ・ハルトの回避 サイコロの出目4 回避 ・ヒースの回避 サイコロの出目5 回避 【2ラウンド】 ポールの砲撃 サイコロの出目6 本体の生命点6→5 脚3→2 ポールの追加砲撃 サイコロの出目2 外れ ニーナの砲撃 サイコロの出目5 本体の生命点5→4 脚2→1 ヴァルグの攻撃 サイコロの出目5 脚1→0 勝利 【宝物判定】 サイコロの出目1+修正2 2d6枚の金貨 サイコロの出目2と3 金貨5枚入手 【ヴァルグ レベル20→21 技量点2 生命点9 筋力点4 従者点9】剣闘士(元) 【装備】 片手剣(高品質) 初撃のみ攻撃ロールにプラス1 聖剣(片手武器) 【アンデッド】【悪魔】に攻撃ロールプラス1 魔法の鎖鎧(生命点+2 防御ロール+1) 【食料】2 【金貨】25→30 【持ち物】 ランタン 魔法の大盾(従者の飛び道具防御+1) ハチミツの塊1(生命点+1) 魔法のつるはし 2回分 精巧なアクセサリー(金貨120枚) アクセサリー(金貨30枚) 宝石(金貨30枚) 【格闘術】【十字剣】【不屈の一撃】【神眼】 【未使用経験点】2→3 【従者】 ポール(砲兵) ニーナ(砲兵) 【備考】呪いのため攻撃ロールにマイナス1 【ハルト レベル10→11 技量点1 生命点7 筋力点4 従者点8】獣使い 【装備】 槌(打撃/高品質) 初撃のみ攻撃ロールにプラス1 革鎧(生命+2 器用ロール+1) 【食料】2 【金貨】45 【持ち物】 ランタン 蟹座の彫刻(金貨300枚、持ち物欄2消費) ボロボロのペンダント(金貨1枚) →売却 浮力の胴着(水中ペナルティを無視。泳ぎの判定+2) 狼の刻印の腕輪(金貨12枚) エメラルド(金貨30枚) 【獣血】【凶暴化】【騎馬防御】 【未使用経験点】1→2 【従者】 ヒース(火吹き獣/技1)炎耐性 ・0ラウンド攻撃からすみやかに1ラウンド攻撃が可能 ・特定のクリーチャーに2点ダメージ ●船 クラーケンぶっ殺し号 技量点1 生命点9 攻撃回数2 【砲撃】ダメージ2点 船の強化 【船体補強】生命点+2 【煙霧放出器】巨大クリーチャーからの防御ロール+1 3ラウンドまで ■登場人物 ヴァルグ 元剣闘士の傭兵。悪名は知れ渡っているが、危険な依頼は後を絶たない。 ハルト 自称ヴァルグの弟子の少年。左腕に「獣の腕」を持つ。 ヒース ハルトが連れている火吹き獣。火を吹く。騎乗生物のため乗ることも可能。 ポール クラーケンぶっ殺し号の砲撃手。砲撃手になりたての青年船員。 ニーナ クラーケンぶっ殺し号の砲撃手。ポールとは知り合いの女性船員。 ヴィルヘルム・マクシミリアン ビストフを治める領主。ネグラレーナを統治するマクシミリアン家と名を連ねる者。 ハーツデイル クラーケンぶっ殺し号の船長にしてビストフの貴族。 エラ・シエロ 遠見師。クラーケンの居場所を探るのに必要な人材。 白奴 コビット乗組員たちをまとめるチーフ。 ■作品情報 作品名:ローグライクハーフd66シナリオ「エメラルド海の探索」 著者:杉本=ヨハネ 監修:紫隠ねこ 発行所・発行元:FT書房 ローグライクハーフ基本ルール及び「黄昏の騎士」本編 https://booth.pm/ja/items/4671946 ローグライクハーフd66シナリオ「エメラルド海の探索」 https://ftbooks.booth.pm/items/4941872 本リプレイは、「ローグライクハーフ」製作に関する利用規約に準拠しています。 https://ftbooks.xyz/ftnews/article/RLH-100.jpg ●エンディング01 領主との対話【ハルト】 貿易都市ビストフの宮殿の謁見の間。 オレは領主マキシミリアンと一対一で対面していた。 「ハルトといったか。褒美が私とこうして話すこととは、いささか変わった申し出をするものだな」 ハーツデイル船長、師匠、遠見師エラ、そしてオレの四人で、クラーケン退治の報告にきた時のこと。 報告が終わり、領主から歓喜の言葉と褒賞の話が出た。 そこで問われた時にオレは迷った末にこう答えたのだ。 「領主様と二人きりで話がしたい」と。 領主はその発言をたいそう面白がり、他の三名を退出させ、オレだけを残した。 そして今。 領主はオレが何を言うのかを、興味深く見守っている。 オレは言葉を絞り出し、どうしても聞きたかった質問をぶつけた。 「なんで師匠は、『味方殺し』だの『全滅野郎』だの呼ばれているんだ?」 それを聞いた領主は、目を細め、ゆっくりと頷いた。 「おまえはヴァルグの弟子なのか。てっきりあいつの武器持ちかと思っていたが。なるほど、そうか……」 領主はなにやら勝手に納得している。そんなことより、早く教えてくれよ。 「本人に直接聞いてはみなかったのか?」 「聞いたさ。……あ。聞きました。けど、『事実だ』としか答えてくれなくて」 「なるほど。あいつらしいな……」 領主は、少し思案していた。 「ハルトよ。私からそれを聞き出すということは、ヴァルグ本人が望んでいないことかもしれない。それでもおまえはその答えを求めるのか?」 オレは一瞬言葉に詰まった。 でも、オレは知らなきゃならない。 そんな気がした。だからはっきりこう答えた。 「はい。お願いします」 領主は、オレの決意の固さを感じ取ったのだろう。ゆっくりと話し出した。 「不名誉な異名のことなら噂で聞いている。あいつと組んだ者たちは、必ずと言っていいほど命を落とす。使命は果たすが、一人だけ生き残る。……それでついた二つ名だと。私としては剣闘士時代の二つ名『千の傷を持つ男』の方があいつらしいと思うのだがな」 「じゃあ、本当に味方を殺したなんてことは」 「あるわけがないだろう。あいつに限って」 オレは心底ほっとした。けれど領主の話には、まだ続きがあった。 「それから、あいつは誰とも組まなくなった。一人で、誰をも寄せつけない強さを持つ。それがあの男ヴァルグだ。だからお前が弟子と聞いて、私も驚いたのだぞ」 「そんな、大げさな」 「大げさなものか。一緒に組んだ者が死ぬ。一人だけ生き残る。初見の者も、大切な者も。そんな経験を繰り返したらどうだ。組んだら、そいつが死ぬかもしれない。それに耐えられるか? だからあいつは孤独を選んだ」 オレは胸が詰まって、何も言うことができなくなってしまった。 領主は続けた。 「今回のクラーケン退治は一人ではこなせない依頼だった。そして一人の犠牲者も出さなかったと聞く。この出来事が、あいつが変わるきっかけになってくれれば、と思うが」 領主はそこで一旦言葉を切り。 「いや、おまえがそばにいるということは、もう変わり始めているのかもしれないな」 そう言った。 オレは目を伏せた。師匠のこと、ほんとうになにもわかってなかったんだな、って。 黙ってしまったオレを気遣ってか、領主はさらに言葉を続けた。 「だからな。今のヴァルグにとって、おまえは必要な存在かもしれん。……いや、今の言葉は忘れてくれ」 謁見は終わった。オレは無言のまま、謁見の間をあとにした。 「知りたかったことは聞けたか?」 「……うん。まあ」 外で待っていた師匠の問いに、ぶっきらぼうに答えると、そのまま通過して厩舎へ向かう。 どうしても、師匠の顔を直視できなかった。 不用意に、師匠の過去を覗いてしまった。 少しの後ろめたさはある。けど、後悔はしていない。 師匠を信じたい気持ちを裏づけるには、必要なことだった。 明日になれば、オレはまた師匠とともに旅立つんだろう。 「ギャウ?」 オレはヒースを、無言で抱きしめた。 今は、今だけは、誰とも顔を合わせたくない気分だった。 ●エンディング02 別れの日【ポール】 ビストフの一号桟橋には「クラーケンぶっ殺し号」が停泊している。 契約は今日でおしまいだ。いよいよこの船ともお別れとなる。 私は桟橋から船を見上げて、感傷的な気持ちになっていた。 船長以下、かつての乗組員の多くが、ここに集まっていた。 「いよいよこの船ともお別れなのね」 ニーナが感慨深げにつぶやく。 そこにヴァルグと、ヒースを連れたハルトが現れた。 彼らは、旅装束に身を包んでいる。船にお別れをして、そのまま旅立つつもりらしい。 「なんでェ。船名、変更しないのかよ。『エメラルドのなんちゃら』によ」 ヴァルグが茶化してくる。 「しない」 船長は端的に答える。 「下品な船名なンだろ」 「栄誉ある名称だ。現実となったのだからな」 そう言って船長はひとしきり笑った。ヴァルグも笑っていた。 「なあヴァルグ。この航海で私は、ばく大な財宝を得た。けれどな、一番の財宝は、……この船だ」 船長は、誇らしげな表情で大きくうなずいた。私たち乗組員を見渡す。 その瞳は、厳粛だった船長がこれまで見せたことがないほどに柔らかだった。 「船だけじゃない。ここにいる船員たちひとりひとりが、な」 「そうかよ」 ヴァルグは短く、それだけを返した。 「行き先は決まっているのか?」 「ああ。次はロング・ナリクだ。国じきじきのご指名だ。きっとまたデカいヤマだろうぜ」 すると船長のそばにいた白奴が割って入った。 「ロング・ナリクか。もしかしたらおじさんの知り合いがいるかもしれん。ソールって貴族の若者なんだが」 「貴族の知り合いがいたのか」 「なに、海賊退治で同じ船の飯を食った仲だ。もし会ったらおじさんは元気だって伝えといてくれや」 めんどくせぇな、と答えるヴァルグの横で、ハルトがうなずいていた。 私も、ヴァルグにもハルトにもずいぶん世話になった。 何度も命を助けられた。お別れとお礼を言っとこうかな。 そう思っていたんだけれど。 「あ、ポールさん。海に落ちたとき、助けてくれてありがと」 先にハルトからお礼を言われてしまった。 「ハルトくん旅立っちゃうのね」 ニーナが残念そうにつぶやく。 「はい。ニーナさんにもお世話になりました。買い物のときとか」 「うんうん。お姉さん寂しくなるなー」 私も、ヴァルグとハルトにそれぞれお礼を言った。 ほんの少し、ハルトの表情が固いのが気になった。なにか、あったのかな? 「じゃあな。あばよ」 ヴァルグは、最後までヴァルグらしい態度で、もう歩き出しながら後ろ手に手をひらひらと振った。 ハルトとヒースも後に続く。 私とニーナは、その二人と一匹が去っていくのを見送った。 「行っちゃったね」 彼らの姿が小さくなってきた頃、ニーナがそう言ってきた。 「うん」 私はそう返しつつ、あることを切り出した。 「なあニーナ。もしよかったらだけど、……次の船も一緒に乗らないか?」 ニーナはほんの少しだけ思案し、返事をくれた。 「いいね。あなたとならいい仕事ができそう」 「ありがとう、じゃあ、よろしく」 私は小躍りしたくなる喜びを抑えながら、ニーナと握手した。 今はこれが精いっぱいの誘いだ。けど、いつかきっと。 ヴァルグたちの姿は、もう見えなくなっていた。 【エメラルド海の探索】ローグライクハーフリプレイ 完 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84 ■FT新聞をお友達にご紹介ください! https://ftbooks.xyz/ftshinbun ---------------------------------------------------------------- メールマガジン【FT新聞】 編集: 水波流、葉山海月、中山将平、明日槇悠、天狗ろむ、くろやなぎ 発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房) ホームページ: https://ftbooks.xyz/ メールアドレス: sugimotojohn■■hotmail.com(■■を@に置き換えてください) ---------------------------------------------------------------- メルマガ解除はこちら https://ftbooks.xyz/acmailer/reg.cgi?reg=del&email=ryu00minami.2026ft0409news@blogger.com ※飛び先でワンクリックで解除されます。