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『これはゲームブックなのですか!?』vol.125
かなでひびき
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温故知新、って言葉があるよね。
かなでの私見だけど、そんな言葉で古いものに「プレミア」というプライスを載せたただそれだけのものも少なくないと思うんだけど、寺沢武一先生も言ってる。
「SFは新しい革袋に入れた古い葡萄酒」だって。
古いものにも、刮目するもの、永遠に光り続けるものだってある。
いえ、「今」だからぜひ耳を傾けるべきものもある。
『火明かり ゲド戦記別冊』(アーシュラ・K.ル=グウィン著 井上里・清水真砂子・山田和子・青木由紀子・室住信子 訳 岩波少年文庫)
ゲドの最後の物語。
本作は
『オドレンの娘』、『火明かり』という短編が二本。
そして、エッセイ集で成り立っているわ。
とくに、『火明かり』。
老境に入り、全て力を失ったゲドが、その先に見つけたものとは?
この本の帯にある言葉「うれしやな、いざ、放たれて!」という言葉が深く刺さる、まさに最後を飾るにふさわしいお話。
かなで、実はある老人施設にて、現場の人がこんな疑問を呈していたのを聞いたことがあるわ。
「老いれば老いるほど、坂道を下るようなもので、その人はどんどん、いろんなものを『無くしていく』。介護している身としては、これに手も足も出ずに、指をくわえているだけなのが辛い」みたいな意見。
だけど、後年、別の老人介護施設に勤めているグレート・ボラン氏は、にやりと笑って言ったのよ。
「あまいなぁ。失ったら失うほど輝く瞬間もある」
今回の『火明かり』は、そんな輝く一瞬を捉えた掌編!
雑誌でもテレビでも「アンチエイジング」とか、まるで「老い」が絶対悪のように、ただ「回避すべきもの」みたいに扱われる昨今、これは絶対に必見な話。
加えて、かなで的におすすめしたいのは、そのエッセイ集!
例えば、自著に対する「万人受け」する表紙イラストに抗議したら「何が売れるのかは自分たちには分かっています」と編集に突っ返された話。
私たちの中にある「悪」を、ヴィランとして、切り捨てるべきものとして扱っていないか? という問題提起。
アンデルセンの童話を引き合いに出しながら「目を背けたくなる自分の闇に、目を向けるのは難しいけど、それも含めて自分を受け入れねば」という話は、深くうなずかされる。
特におすすめは『アメリカ人はなぜ竜がこわいか』。
アメリカでは、特にファンタジーが、子ども向けのたわいないフィクションとして扱われているのではないか? という問いから、「教育的」であるとか、「自己向上に役に立つ」、ひいては「即座に利益を生むもの」ではないと読まない。
そんなことは、想像力をゆがめてしまうのではないか? と問いかける。
特筆すべきは、じゃあ彼らが好むものは何か? と言えば。
「血なまぐさい犯罪スリラーや、粗悪な西部劇。そしてポルノグラフィー。そしてソープオペラ。くだらないお涙頂戴物」など。
続いて一番受けている読み物が「あの徹底的な非現実の傑作、株式日報でしょう」
と、手厳しい批判を述べている。
それに対して、言い放たれた言葉。
「言うまでもなく、ファンタジーは真実だからです」
この言葉を真摯に受け止めて書いている書き手って、どれくらいいるのかしら?
で、ここからはかなでの意見なんだけど……
残念なことに、ル=グウィン先生が示した「くだらないもの」の氾濫は、いまやファンタジーそのものにも溢れていると思うの。
「売れるという免罪符の下、俺TUEEEE!な快楽、その場のノリで読ませるファンタジー」って、結構横行していると思うの。
この場合、一つの手として、今までのそんな堕落した立場から、「ホンモノ」を求める書き手、読み手になる、ってこともいいと思う。
だけど、かなで的には「俗悪で何が悪い」って、堕落道を極めること という正反対の道もあると思う。
例えば、血まみれウエスタン=マカロニ・ウエスタンの『夕陽のガンマン』。
どんな教科書よりも、この作品から「漢の生きざま」を学んだ方は多いのでは?
あるいは、『悪魔のいけにえ』。
この作品も、ニューヨーク近代美術館に永久保存されたという輝かしい経歴を持つわ。
さらに言うと「アニメ」=「くだらないもの」という時代に産声をあげ、未だに続く国民的作品『機動戦士ガンダム』に『ルパン三世』。
凡俗さも極めれば「一理ある」ものになる。
教育テレビは素晴らしいけど、「教育テレビ」だけだったらつまらない!
かなでは、それもまたひとつの抗い方、世界との闘い方じゃないかと思うの。
かなではこの本から、まるで静かに燃える炎の波のごとく、穏やかだけど、常に「闘いを続けた」かの人のスタンスを受け取ったんだけど、みなさんはどうかなぁ?
これから「物語」を語ろうとする方にも、その受け手にも、決して損にはならない一本!
見逃せば人生後悔することウケアイ!
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『火明かり』
著 アーシュラ・K.ル=グウィン
訳 井上里・清水真砂子・山田和子・青木由紀子・室住信子
出版社:岩波書店 2025/5/29
文庫 900円+税
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