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2025年6月19日木曜日

齊藤飛鳥・小説リプレイvol.35『名付けられるべきではないもの』 その3 FT新聞 No.4530

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児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.35
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〜前回までのあらすじ〜
超絶危険モンスターの似我蜂(じがばち)の探索を請け負って《太古の森》へ冒険していた、冒険家乙女のクワニャウマとその相棒のエルフの少女イェシカ。途中、樹人の従者・アテリツィを仲間に加え、さらに冒険を進めたところ、似我蜂の群れと戦うエルフ部隊を発見。助けに行ったが、アテリツィが似我蜂にさらわれ、クワニャウマも危うく似我蜂に襲われかけた。その危機を、エルフ部隊の隊長の弟・ファラサールに助けてもらったクワニャウマは、仲間と恩人を救出するため、似我蜂の棲み処を目指して突き進むのだった。

もはや、その2の後半からずっとクライマックスな気がしてならない『名付けられるべきではないもの』リプレイその3です。
仲間と恩人の拉致、子連れで危険な追跡行、無残な犠牲者の遺体発見……と、どんどん過酷な状況になってきたところで、満を持して登場してくれるあのキャラクターに、物語的にもゲーム的にも精神的にも、非常に救われました^^v
このタイミングであのキャラクターが登場してくれていなければ、このリプレイが本日最終回、しかも主人公たちの葬儀という面白みを出すのが難しい内容になるところだったので、リプレイ的にも救われました(笑)
そして、エルフの隊長・ギルサリオンとの絡みがここから増えていきます。クワニャウマを登場人物からツッコミを入れられるボケ属性に設定しているので、育ちがよくて生真面目なツンデレ属性のギルサリオンは、どんなツッコミを彼女へ入れさせたら彼の個性が際立つか、プレイ中に楽しみながら妄想したのを覚えています。
ところで、似我蜂に襲われた人間は卵を植えつけられ、孵化した成虫に顔を取られて死亡……と、解釈していたのですが、作者の水波流先生から先日、成虫になる際に宿主である人間と同化しているので、宿主は似我蜂の成虫と同化して再生しているので死んでいないという生態を御教授いただきました。
この似我蜂の生態を頭に入れておくと、さらに絶望も物語もテーマ性も深みが増し、ズッシリと心に残る冒険になること請け合いです。
これから『名付けられるべきではないもの』を冒険予定の方々も、この生態を念頭に入れておくことを推奨します^^b


最後になりますが、このたび7月30日に、国土社様から拙作『シニカル探偵安土真』6巻が刊行予定となりました!
今回は、謎の暗号を解読して行方不明になった子どもたちを探す物語です。
人生初の児童書のシリーズが、ここまで続きましたのも皆様のおかげでございます。ありがとうございますm(__)m


※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。

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ローグライクハーフ
『名付けられるべきではないもの』リプレイ
その3

齊藤(羽生)飛鳥
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5:絡まる下草
食糧を食べ、体力を回復させてから、わたしとイェシカは小川の上流を目指した。
「アテリツィとファラサールを助けるために、ちょっと無茶な前進を続けるけど、がんばってついてきてね、イェシカ!」
早歩きで進み続けることに対し、イェシカは健気にも頷く。いい子だ。
でも、イェシカがいい子だからって、こっちは図に乗ってはいけない。疲れが見えたら、休憩を入れよう。アテリツィとファラサールも大事だけど、イェシカも大事だしね。
しばらくして、鬱蒼と下草が茂る地帯に出た。
そこで、下草の中を掻き分けて進んでいると、不意に足首に草が絡みつき、そのまま物凄い早さで全身から血を吸われ始めた!
まずい! これは〈血吸い草〉だ!
「イェシカ、こっちへ来たらダメ! すぐに下がって!」
わたしを助けるために駆け寄ろうとするイェシカをとどめ、わたしは全力で絡みついてきた下草を引きちぎった。
そのはずみで〈血吸い草〉がない方へ転がると、そこにはトレントキノコ、またの名をケルタヴァハヴェロが生えていた! 
前の冒険で手に入れたトレントキノコも合わせると、これで2つ。
幸先明るいぞ!
 

6:刃花草
トレントキノコを入手できて、すっかり気力が充実してきたところで、わたしはイェシカのいる方へ戻ろうとして、気がついた。
〈刃花草〉が4本、はえている!
一難去って、また一難とはまさにこのこと。
刃花草は、自分の縄張りを荒らされたと判断したが最後、刃のように鋭い花びらを飛ばして攻撃してくる。
絡まる下草の次は、刃花草。
サービスやおかわり、オマケの類は大好きだけど、こういうのはいらない。
わたしは、息を殺して刃花草たちに気づかれないよう、その場を離れた。
ようやくイェシカの許へ戻れた時、どっと疲れが出てきたし、何なら腰が抜けた。
そんなわたしを、イェシカはよくやったと言わんばかりに頭を撫でてくれた。
回復機能はついていないけれど、数値化できない領域の癒しは得られた。


7:喰い散らかされた死体
森の清廉な空気に、むっとする血の匂いが混じってきた。
足を速めてその臭気を追ううちに、わたしはエルフの一団が何かを取り囲んでいるところに行き当たった。
エルフの巡視隊は足音を聞きつけ振り返ると、わたしたちを冷ややかな視線でじっと見つめる。
(外なる者か……如何とする?)
(ファラサール様は我らの邪魔をせぬ限りは好きにさせろとの仰せだ)
(然らば)
小声のエルフ語でやり取りが交わされると、エルフたちは取り囲んでいたものがわたしたちに見えるよう、少し隙間を空ける。
彼らがファラサールの意思を汲み取って便宜を図ってくれているので、わたしは彼にまた救われたことになる。
どんだけ恩人なんだ、ファラサール。しかも、ただだし。わたしもただで助けよう。
改めて決意を固めてから、わたしはイェシカにその場で待っているように伝え、エルフの一団に混ざって臭いの元凶を見に行く。
足元に横たわる血生臭さの元凶を目にし、わたしは思わず口元を押さえる。
まるで野獣に貪り喰われたかのように肉片や骨をそこらに散乱させ、元はオークであったろう肉体が転がっている。
イェシカに見せなかったのは、我ながらいい判断だった。
「太古の森の集落のオークだろう」
「奴らの死体が転がっていることなど珍しくも無いが……」
エルフたちの無言の視線を追うと、特に酷く損壊しているのは頭部で、顔面は判別不能なほどだ。
また腹部は何かに切り裂かれたように裂傷が走り、そこからは血だけでなく白い粘液がじくじくと漏れ出して、大地を汚している。
粘液の中を蠢くように、蛆虫のような幼生がモゾモゾと這い回っている。
さっき、こいつらを吐き出せてよかった。本当に、よかった。
さもなければ、今頃わたしもイェシカも、今はここにいないアテリツィも、このオークのようになっていた。
そして、やがては似我蜂の尻に顔を張り付けられ、死後の尊厳も打ち砕かれていた。
エルフの一人が顔をしかめながら清めの言霊を唱えると、シュウシュウと煙を上げながら汚らしい蟲は消え失せる。
あの蟲、そういう手段でないと完全に退治できないのか。だったら、くつの裏でグリグリと踏みつぶすだけで済ませず、焼いておけばよかったな。
「ファラサール様がおられれば……」
「しっ」
なにか言いたげな者に、厳しい視線が集まる。どうやらエルフたちも一枚岩ではないようだ。
ていうか、わたしが原因で、彼らにファラサール不在という大損をさせてしまっているので、いたたまれなくなる。
「ギルサリオン隊長に出くわす前に、さっさと失せるのだな」
「無料忠告、ありがとう。参考にさせてもらうわ」
「ちっ、変な女だ」
エルフたちは吐き捨てるようにそう言ってから立ち去る。
でも、わたしは気にしなかった。
罵声を浴びせられることになれているからではない。
彼らの足下に、トレントキノコを見つけたからだ! 
「これで3つ! アテリツィとファラサールを助けに行く役に立つわ。ウィーッヒッヒッヒッ!!」
イェシカは、そんなわたしを呆れながらも微笑ましそうに眺めていた。天使だ。


8:最終イベント
小川を遡っていくと、やがて苔むした洞窟が見えてきた。巨体が乱暴に何度も出入りしたのか、入口付近の苔が剥がれ落ち、地肌が露出している。
「立ち去れと言ったはずだぞ」
藪の中から小さいが鋭い囁きが聞こえた。見れば潜んでいるのは手傷を負ったギルサリオン一人だ。
「……怪我の酷いものは集落へ帰らせた。私一人で十分だ」
「馬鹿な———」
———さっきわたしが会った連中がその怪我の酷い者たちだと思うけど、けっこう元気そうにオークの死体を見てしゃべっていたから、仮病を使われたんじゃない?……と反論しかけたわたしを押しとどめるように、ギルサリオンは洞窟前の広場を指さした。
似我蜂が何かに伸しかかり、ぼりぼりと嫌な音を立てて咀嚼している。よく見れば、喰われているのは先ほどまで戦っていた雄の似我蜂だ。
わたしは、すぐにイェシカにここから離れて安全な場所へ行くようにジェスチャーで伝える。
イェシカは、素直に頷くとすぐに遠ざかっていく。
それを見届けてから、わたしはもう一度雄の似我蜂を見る。目を離していたほんのわずかな間に、雌に食われて体がほとんどなくなっていた。
思わず息を呑んだわたしたちの方に振り返ると、雌の似我蜂は奇怪な金切り声を上げる。
小煩い羽音を伴い、小蜂どもも洞窟からうようよと飛び出してきた。
「———今は細かいことは後にして、奴らを倒しましょう」
「貴様に命令されずとも、そのつもりだ」
わたしとギルサリオンは、身構える。
雌の似我蜂は、2匹。
忌まわしき小蜂は、3匹。
「ギルサリオン。あなた、弓を持っているわよね? それで小蜂を仕留めてくれる? わたしは炎球で似我蜂の雌たちを焼く」
「……変ではあるが、馬鹿ではないようだな、女。いいだろう。その進言、聞き入れた」
話は、これでまとまった。
わたしたちは、いっせいに蜂たちへ襲いかかった。
「炎球!」
「三連射!」
わたしの炎球もギルサリオンの矢も、似我蜂と小蜂の群れに見事に当たる。
うまい具合に小蜂はすべてしとめられたものの、残る問題は似我蜂だ。
炎球で焼いてやったのはいいけれど、その後が問題だ。
さっきも、似我蜂にとどめを刺し損ねたせいで、アテリツィもファラサールも奴らに攫われてしまった。
二人で手分けして似我蜂を攻撃するも、こちらも攻撃を食らい、そのたびに攻撃の手を休め、あの老まじない師の女神様から無料提供してもらった〈ムスティッカの魔法ジャム〉で麻痺や体力の回復にあたった。
「私にも〈ムスティッカの魔法ジャム〉を施す奴があるか、愚か者め」
「これはわたしたちが生存するための投資。施しなんかじゃないわ。さあ、3ラウンド目行くわよ!」
「言われるまでもない!」
わたしとギルサリオンが、それぞれ剣と弓を構えたところだった。
風斬り音とともに、どこからか飛翔した信じられないほど邪悪な形をした投げナイフが、わたしたちに纏わり付こうとしていた小蜂の群れを切り裂く。
「ちぇっ、やはり俺がやってもあいつみたいにうまくはいかんか」
足元に突き立ったナイフに目をやる間もなく、森の木立から銀狼のまじない師ヴィドが姿を現した。
「ヴィド! どうしてここに?」
「君たちの援軍をしに森へ入ったら、そこでイェシカが手をふっていたんでね」
ヴィドは私に片目をつぶって合図すると、まじないを唱え始める。
たちまち、わたしとギルサリオンの防御力が上がった。
「使えるようだな、まじない師」
「抜群にね」
思わぬ援軍に力を得て、わたしとギルサリオンはついに似我蜂の雌を倒すことができた。
「来てくれて助かったわ、ヴィド。集落に帰ったら特別料金を払わせて」
「別にいいって。任せっぱなしってのは性にあわなくてよ」
「あれれ? 気のせい? ヴィドがいつになくいい男に見えてきたわ」
「おまえの視力、金次第かよ」
「否定できないわ。ところで、あんたがここへ来て街の守りは大丈夫なの?」
ヴィドはにやりと笑みを浮かべる。
「おあつらえ向きのタイミングで、"男の中の男"が帰ってきてくれたんでな」
そう言うとヴィドは視線を移し、洞窟の奥へ歩を進めようとしているギルサリオンに背後から声を掛ける。
「だから言ったろ、ギルサリオン。厄介ごとになる前に手を組もうと」
「要らぬ世話だ。蛮族のまじない師ごときの施しは受けぬ」
不機嫌な顔を隠そうともせずギルサリオンは吐き捨てる。
「馬鹿か。くだらねえ意地はってる場合かよ」
ヴィドはわたしの肩を軽く叩くと、ギルサリオンの横に並ぶ。
「俺が援護してやる。気合い入れろや。せり負けたら張り倒すぞ」
「きゃー、怖い。じゃあ、その前にトレントキノコで回復しとくわ。ギルサリオン、あなたにも、トレントキノコね」
「先程、貴様から施してもらったばかりだ。二度もいらん」
「施し? 何のこと? わたしは生存のための投資をしただけよ? これもまたその投資」
「……まじない師よ。この女、腹の底で何を企んでいる?」
「と、思うだろう? 実は、善悪よりも損得勘定で行動するから、口で言った以上のことを考えていないんだ、これが」
「失礼な。今日より明日より金が欲しい、夢より愛する金が欲しい。そんな強欲を美徳とする、一介の冒険家乙女なだけ。それを珍獣を紹介するみたいに言わないでくれる? いけない。それで思い出した。似我蜂と小蜂の群れが宝を落としていってないかな?」
わたしが奴らの屍の周囲をあさると、似我蜂の雌と忌まわしき小蜂の群れから金貨25枚相当の小さな宝石を1個と、金貨50枚相当の大きな宝石を1個発見することができた。
「……貴様について真面目に考えるのも馬鹿らしくなってきた」
わたしの背後で、ギルサリオンはそう力なく笑ってから、トレントキノコを食べ始めた。手のかかる男だが、こちらの投資を遠慮するほど無欲なのだから、あれこれ望むのは贅沢というものだ。
わたしは回復を済ませてからイェシカを呼び寄せ、ランタンに灯りをつけさせると、全員で洞窟の中へと足を踏み入れた。


(続く)

∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。
現在『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を刊行中。2024年末に5巻が刊行。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2024年6月に『歌人探偵定家』(東京創元社)を、同年11月29日に『賊徒、暁に千里を奔る』(KADOKAWA)を刊行。2025年5月16日刊行の「小説すばる」6月号(集英社)に、読切『白拍子微妙 鎌倉にて曲水の宴に立ち会うこと』が掲載。同年7月31日に『女人太平記』(PHP研究所)が刊行予定。

初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。

■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『名付けられるべきではないもの』
著 水波流
2024年12月1日FT新聞配信


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