●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる
TRPG小説リプレイ
Vol.43
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
〜前回までのあらすじ〜
自治都市トーンへ遊びに来たクワニャウマとイェシカ。そこで、吟遊詩人少女ピロスカに、遺跡の街へ詩を捧げに行く冒険に同行してほしいと頼まれる。ファラサールの詩を作ってもらう条件で、破格の条件で引き受けたクワニャウマはイェシカをトーンに残してピロスカと共に遺跡の街へと旅立ったのであった。
『君へ贈る詩』リプレイは今回の中編から冒険が本番に入ります。当初は前後編の予定だったのですが、先日の葉山海月さんのショートストーリー『クワニャウマの新しいアジト』に感激し、クワニャウマが家を購入するエピソードを追加。何しろ、二次創作をしていただいたのは人生初だったからです♪
さらに、「最近ゲルダに会っていない」→「ゲルダに会いたいな」→「自分のリプレイにお出まし願おう!」とゲルダも追加。
こうして盛りに盛った結果、当初の予定よりも長くなってしまい、水波編集長の御厚意で前後編だったものを前中後編にしていただきました。それに伴い、前編は導入だけという構成になったのでした。水波編集長、その節は大変お世話になりましたm(_ _)m
さて、こうして、いよいよ始まる詩を作る冒険ですが、通常の戦闘や探索の冒険とは違うので、どのようなものになるのか。興味津々で進みました。
まず、キャラクターが詩を作るという創作過程をロールプレイする必要があるのですが、ただ「ひらめいた!」とロールプレイするだけでは味気ないものになってしまいます。
しかし、そんな凡庸なプレイヤーを見越したかのごとく、このシナリオではエピソードごとに「思い出が蘇ってきた」「少し違う調子の言葉を入れてみては?」と、アドバイスが登場する親切設計となっています。おかげで、詩を思いつく創作過程のロールプレイがやりやすくなりました^^
親切設計と言えば、詩となる言葉はダイスで決めても、自分が考えた言葉を使ってもよいとの設定がされていました。つまり、私のように詩が苦手なプレイヤーを置き去りにしない工夫がされているのです。
戦闘や探索のシナリオを考えるのも難しいですのに、それとは異なる「詩を作る」という珍しいシナリオを成立させているのは、まさに離れ業と言えましょう。去年から自分もローグライクハーフのシナリオ書きに挑戦しては、そっと闇に葬っているので、難行を達成された偉大さを実感いたします。
そういうわけで、「詩を作る冒険をしてみたい!」と『君へ贈る詩』に興味を持たれた方は、後編でネタバレを知る前に是非ともプレイしてみて下さいませ^^b
※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みますので、未読の方はご注意下さい。
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
ローグライクハーフ
『君へ贈る詩』リプレイ
中編
齊藤(羽生)飛鳥
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
1:〈庭園〉
遺跡は、かつて街だっただけに、広大だった。
まず最初にわたしとピロスカが見つけたのは、丘の上にひらけた庭だった。
花も木々も、どれも季節をそろえていない。
芽吹き、若葉、盛りの陽、落ち葉、霜の結晶——
まるで一年すべてがここに溶けているかのようだ。
ここでは、乱れた季節が共に重なり合っている。
「不思議な光景ね」
わたしの言葉に、景色に見惚れていたピロスカが我に返った顔になる。
「そうですね。ひらめきました! 季節の記憶を詩にしましょう! 例えば『落ち葉の頃。じっと待っていた』とか」
「待って。メモするから。わたしは、『酷暑の頃。汗を流して歩いた』のが記憶に残っているわ」
「いいですね! こちらも書き留めることができました!」
ピロスカは、初めて生き生きとした表情を見せる。
ここへ来るまでの道中、わたしがファラサールについて語った時は、まるで七日連続葬式に出たような顔をしていただけに、こういう表情が見られて得した気分だ。
2:〈二つの道〉
庭園を抜けてしばらく進むと、行く先が二つに分かれていた。
片方は、明るく開けた道。
もう片方は、闇の奥へ沈む細い道。
明るい道はおだやかで安全だ。暗い道は危険だが得るものがあるかもしれない。
「どちらを選んでも、先の景色はわからないけれど、辿り着く場所は同じみたいな感じですね」
おどおどしながらピロスカが言う。
冒険初心者を同行している場合、安全そうな道の方が損する可能性が減る。
「じゃあ、明るい道を進んでみようか」
わたしの提案に、ピロスカはあからさまにホッとする。
こうして、明るい道を進んでいくと、日の光に照らされ、まばゆい輝きを放つものが見える。
あれは、もしや……!!
わたしは、後ろで何やらつぶやくピロスカを無視して、輝くものの許へ向かった。
「よっしゃ!! 金貨9枚ゲット!! ウィーッヒッヒッヒッ!!」
わたしは、素早く金貨を拾い上げては財布の中へしまっていく。
「ひらめきました! 『光の中を進む人』というのはいかがでしょう?」
ピロスカは、わたしに追いつくなり言った。
「あー、いいんじゃない? 金貨の『光の中を進む人』って、わたしも思いついたところだしね」
「あたしは、日の『光の中を進む人』だったんですけど……詩にふさわしい言葉であることに変わりはありませんね」
ピロスカは、奥歯に物がはさまったような言い方だったけれど、わたしの言葉を書き留める。わたしも、忘れないうちにメモをしておいた。
3:〈屋敷〉
先程からうっすらと見えていた屋敷が、明るい道を進むにつれ、くっきりと見えてきた。
「屋敷ですね」
「そうね、ピロスカ。あの屋敷の中を通り抜けるのが、近道になりそうだから入ろうか」
「ええっ!? だ、大丈夫なんですか? 幽霊とか出ません?」
「出たって、いいじゃない。お金やお宝を持っていてくれていたら最高!!」
「……クワニャウマさん、ご職業は盗賊ではなくて魔術師、ですよね?」
「もちろん。何を今さら?」
そんな雑談をするうちに、屋敷の中へわたしとピロスカは入った。
「随分と長い廊下ですね、クワニャウマさん。修業中、師匠の屋敷の廊下に立たされたのを思い出します」
「ピロスカも? わたしも修業中、師匠の屋敷の廊下に油を塗っていじめっ子の兄弟子たちを……過去のゴミどもの話はよそう。誰も得しないからね」
「いじめっ子の兄弟子たち、どうなったんですか!?」
「やべ、うっかり口がすべった。あれはまだわたしの犯行と知られてなかったのに……」
「犯行!? 事件に発展しちゃったんですか!?」
ピロスカがますます血相を変えたときだ。
「家のどこを思いだす?」
屋敷の中から声が聞こえたのかもしれない。それとも、ピロスカが聞いたのか。あるいは、わたしの中の声かもしれない。
そんな不思議な声が聞こえた。
たちまち、わたしは玄関を思い出した。
「『玄関。旅立ちと帰還』……」
冒険家になって最初は、たった一人で居酒屋や宿屋の玄関から旅立っては、帰ってきていた。
でも、今はイェシカと一緒に旅立って、一緒に帰ってくるようになった。
広く感じた玄関が、今はせまく感じられて、幸せな窮屈感がつまった場所になっている。
わたしが感慨にふけっている横で、ピロスカは詩人のインスピレーションが降臨したらしい。
わたしの言葉を書き留めつつも、自分も呟き出した。
「『台所』……」
「ちょっと待って。今、メモするから」
わたしが急いでメモとペンを手に取ると、ピロスカがとめどなく語り出す。
「……野ウサギ吊るし切りするお父さん。野ウサギパイ焼くお母さん。キノコシチュー煮こむおばあちゃん。みんなでテーブル囲んでジャンジャカジャン。その『ぬくもりを覚えている』」
ジャンジャカジャンって何なのとは思ったけれど、今言うべきはそっちではない。
「長いんで『台所。ぬくもりを覚えている』だけメモしとくわ」
手短に用件を告げてみたけれど、ピロスカは気を悪くした様子もなく、その後も気が済むまで実家の台所の思い出を語り続けていた。
これが、吟遊詩人ってやつか……?
4:中間イベント:詩人の霊
そこへ、どこからともなく、竪琴の音が聞こえてきた。
「え? え? いったい、どこから?」
「向こうみたいね。行ってみましょう」
わたしは、我に返ったピロスカを連れて、屋敷の奥にある円形の劇場にたどり着いた。
どうやら、この屋敷の主人が造らせた個人劇場らしい。
劇場の中央には、一人の霊がたたずんでいた。
「で、伝説の、し、詩人の霊……!!」
「よかったじゃない、本人に会えて。あの人のがんばりをたたえ、感謝するために詩を捧げるんだから、どういう詩が好きか訊けるチャンスよ」
「そ、そんな! 畏れ多いですよ!」
「何を言っているの。質問するのにお金はかからないけど、注文と違うものを作った場合はお金がかかっちゃうじゃないの。だったら、質問する方が圧倒的にお得! というわけで、どんな詩がお好み? ちなみに、わたしがメモってきた詩はこんな感じ」
わたしが、詩人の霊へ見えるようにメモを広げる。
「君たちの旅の中で、新たな詩が生まれつつあるのを感じるよ。だけど、今のままでは景色の詩になってしまう。どうだろう、ここで少し違う調子を入れてみては?」
詩人の霊はしばし音楽を奏でたあと、こう提案した。
「君たちがお互いに感じていることを詩に織り込んでみるのはどうかな?」
「その手があったか! さすが一流詩人! アドバイスありがとう!!」
「わたしにとってクワニャウマさんは、灯された炎のようです」
「『きみは灯された炎のようだ』って感じね。わたしにとってピロスカは、よくさざ波みたいにプルプル震えているから、静かな湖みたい」
「……『きみは静かな湖のようだ』でお願いします」
「わかった。吟遊詩人じゃないわたしだけど、おかげさまで詩らしくなってきたわ。ありがとう!」
わたしがお礼を言うと、霊はうなずき、微笑んで消えた。
「……案外、訊いてみるものですね」
ピロスカはそう呟いてから、幽霊の消え去った後へ深々と一礼した。
(続く)
∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴
齊藤飛鳥:
児童文学作家。推理作家。TRPG初心者。ゲームブックは児童向けの読書経験しかなかったところへ、『ブラマタリの供物』『傭兵剣士』などの大人向けのゲームブックと出会い、啓蒙され、その奥深さに絶賛ハマり中。最近は、そこにローグライクハーフが加わった。
現在『シニカル探偵安土真』シリーズ(国土社)を刊行中。2025年までに6巻が刊行中。2026年春に、7巻が刊行。
大人向けの作品の際には、ペンネームの羽生(はにゅう)飛鳥名義で発表し、2026年1月上旬に文庫版『歌人探偵定家』(東京創元社)が刊行。同年春には『歌人探偵定家 弐』(仮)が刊行予定。
初出:
本リプレイはFT新聞が初出の書き下ろしです。
■書誌情報
ローグライクハーフd33シナリオ
『君へ贈る詩』
著 丹野佑
2025年11月2日FT新聞配信
●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
■今日の新聞に対するお便りはコチラ!
ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m
↓
https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report
【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。
https://ftnews-archive.blogspot.com/
【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。
https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84
■FT新聞をお友達にご紹介ください!
https://ftbooks.xyz/ftshinbun
----------------------------------------------------------------
メールマガジン【FT新聞】
編集: 水波流、葉山海月、中山将平、明日槇悠、天狗ろむ、くろやなぎ
発行責任者: 杉本=ヨハネ (FT書房)
ホームページ: https://ftbooks.xyz/
メールアドレス: sugimotojohn■■hotmail.com(■■を@に置き換えてください)
----------------------------------------------------------------
メルマガ解除はこちら
https://ftbooks.xyz/acmailer/reg.cgi?reg=del&email=ryu00minami.2022ft0309news@blogger.com
※飛び先でワンクリックで解除されます。