(編註:この記事は、過去の人気記事を再配信するReシリーズです。文中のコメント等は全て当時のものとなっております)
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オレニアックス生物学 Vol.1
『大食らい虫』
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生物学の授業は非常に重要な科目だった。
アランツァの地での戦いは、戦争となるとまた話は別だが、人間以外の生き物と交戦することも少なくなかった。
聖オレニアックス剣術学校のカメル・グラントは生物学の権威。
そんな彼の授業は生き物の外見、性質、そして対処方法を教えてくれる。
生徒たちを生き残る道へと導く、確かな灯火だ。
今日もカメルの授業が始まる……。
ラクダ人であるグラント博士は、年がら年中もっしゃもっしゃと口を動かし、授業する。
草食動物の性質を色濃く残したラクダ人は、繊維質の食物を大量に食べ、1日中消化にいそしむ必要があるのだ。
生徒から抗議が来ることもあったが、大抵の生徒は慣れてしまう。
今日の授業は「大食らい虫」についてだ。
「大食らい虫は原初の生物に近い存在だ」
グラント博士はおもむろにそう言った。
「今も原初の面影を残すゴーブの地や、あるいは地下迷宮の下の下のほう奥深くに生息する。
目がなく、耳がなく、手足がない。ただ、ものを食べるための口と、ごく小さな鼻孔が存在する。
外見は蛇のようだが、もっとずっと大きく、幅も広い。その体は柔軟で、地下迷宮の床、天井、そして壁に合わせて目いっぱいに広がる。
大食らい虫は実際、通路いっぱいに広がって、すべてのものを飲み込みながら進む。
地下迷宮で出会ったとき、大きな口が迫ってくるようにしか見えないだろう。
ヘイルくん、君ならどうするかね?」
名指しされてゴーレム剣士のヘイルは腕組みする。
「うーん。そいつって、俺みたいな木人でも消化するんですかね?」
博士はこくりとうなずく。
「わずかな鉱物を除き、どんなものでも溶かしてしまうよ」
ヘイルは困ったような顔をした。
「そんなにでかいと、倒せなさそうですよね。じゃあ、食べられちまうしかないのかな」
グラント博士は両手を叩いてヘイルを褒め称える。
「そのとおり、正解だよヘイル君。大食らい虫の弱点は身体の外側にはない。大きいだけじゃなく、急所と呼ばれる部分が存在しないのだ。だから、身体の内側に入って傷つけるしかない。大食らい虫が身体を目いっぱい伸ばして迷宮内を動きまわる間、その内側ではかなり自由に動けるのだ。じゃあ、マグス君。以上のことから、大食らい対策に必要なものは何かね?」
マグスは黙りこくって爪をかみながら、しばらく考える。
「火ですかね? あるいは、先の鋭い刃物。理容師が使うような……。」
グラント博士は口をもっしゃもっしゃと動かしはじめていたが、ゴクンと飲み込んで返事をする。
「刃物は正解だ。異物を呑み込んだと感じたら、大食らい虫は君を吐き捨てることだろう。もっと大きくて長い刃物であれば、腹を裂いて出ることだってできる。だが、火はまずい。彼らの体内にはガスが溜まっていることもある。そうなったら」
大きく息を吸い込んだ博士に対し、ニナほか何人かの生徒はすばやく耳を塞ぐ。
「ドカーン!」
とんでもない大声で、博士は叫んだ。
「と、爆発してしまうだろう。大食らい虫のゴム状の身体は、こういった爆発には強い。一方、腹の中の君はむだ死にしてしまうだろうな」
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
「最後にひとつ、アドバイスだ。大食らい虫を見つけたら、できるだけ逃げること。彼らのほうが人間よりも素早いが、さいわいなことに彼らは生き物に興味があるわけではない。気の向くままに動き回っているだけだから、その動きはランダムだ。つまり、『できるだけたくさんの曲がり角を曲がって逃げる』こと。T字路を抜けるたびに半分の確率で助かるし、十字路を抜けるたびに3分の2の確率で違う通路に向かってくれる。これが、大食らい虫から助かる公算の高い逃げ方だ。それでダメだったら、がんばって腹をつついてみること。以上!」
博士はピンと背すじを伸ばしたまま、教室の扉を開ける。ありがとうございました! と声が響く。
若い生徒たちに教えることのうち、どれが役立ち、どれが無駄になるかは分からない。
だが、いくつかはきっと、彼らの命を永らえさせてくれるだろう。
そう信じて博士は今日も教鞭をとる。
(From:杉本=ヨハネ)
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『大食らい虫』
【混沌の迷宮】に登場。259ページを参照。
技術点不明 体力点不明
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