おはようございます。FT新聞編集部員のくろやなぎです。 本日は『ゲームブックにおける死と物語』の第8回として、『単眼の巨獣』(著:ロア・スペイダー、2025年、FT書房)に関する考察記事のつづきをお届けします(前回掲載は2026/06/30、No.4906)。 『単眼の巨獣』は、「混沌」と呼ばれるモンスターを主人公とするゲームブックです。 混沌は、「あらゆるものを取り込み、成長を続ける」という特徴をもつモンスターですが、その中でも「森の一つ目狼」と呼ばれる個体は、自らの「分裂体」を生み出すという「まれな選択」を行う、変わり者の混沌でした。 作品のプロローグで、一つ目狼は人間たちの国からの討伐隊に殺されますが、その分裂体である「君」は、一つ目狼によって海へ逃がされて生き延び、作品の序盤の舞台となる絶海の孤島に流れ着きます。 前回の記事では、このプロローグにおけるいくつかの描写や、本編開始直後のある強敵との遭遇の場面を手がかりとして、混沌の「本能」と、一つ目狼や君の「個性」および「選択」との関係性について考察しました。 「あらゆるものを取り込み、成長を続ける」という指向性は、すべての混沌に共通する「本能」として語られますが、その「本能」から生じる具体的な行動は、結果として一律ではなく、それぞれの個体の個性を反映したものになります。特に、「まれな選択」をした一つ目狼の分裂体であり、さらに、その一つ目狼に命を救われる・逃がされるという経験(これも、混沌としては「まれな」経験のはずです)をした「君」は、その分裂元である一つ目狼よりも、さらに特殊で個性的な個体だと言えるかもしれません。 そして、そのような変わり者の「君」が今後どうなっていくのかは、ひとつひとつの場面における読者(プレイヤー)の選択にかかっています。 では、作品の中で、君(としての読者)にはどのような選択肢が用意されており、そこでの選択の積み重ねに応じて、君の「取り込む」「成長する」という「本能」はどのような形をとることになるのでしょうか。 あるいは、その成長の途上には、どのような形での終わり(死)が待ち構えており、君はそれをどう回避し、生き延びていくのでしょうか。 前回は物語上の背景や描写に基づき考察を行いましたが、今回の記事では、『単眼の巨獣』のゲームとしてのルールや進行という側面から、君の選択と成長のあり方について見ていきたいと思います。 記事の中には、作品の最序盤の内容に関する詳細な記述が含まれます。未プレイの方はご注意ください。 作品はBOOTHにて販売されていますので(本稿作成時点では在庫あり)、実際に読みたい・遊びたい、と思われた方はぜひお早めにどうぞ。 [FT書房公式HP内 『単眼の巨獣』紹介ページ] https://ftbooks.xyz/shinkanjyoho/tangan ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ ゲームブックにおける死と物語 第8回:『単眼の巨獣』における選択と成長 (くろやなぎ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■ ■君の成長と2種類の数値 まず、主人公である「君」の強さや成長が、どのような要素によって構成されているのかを確認しておきましょう。 プロローグの終わりに絶海の孤島へ流れ着いた時点での、君のステータスは以下のとおりです。 戦闘力:10 体力(現在値/最大値):10/10 【能力】 「ゼリーの体」 【スキル】 なし 数値化されたステータスが2種類と、取得したものを個別に記録していくタイプの【能力】【スキル】という2つのカテゴリー。 他には金貨も食料もアイテムもなく、経験値もフラグ管理のための記号もない、非常にシンプルな構成ですが、これらの4要素が作品内での「君」を表現する指標のすべてとなります。 「戦闘力」は、生物としての「強さ」の指標であり、戦闘力が高いほど強い生物になるとされています。 『単眼の巨獣』の戦闘は、基本的には「戦闘力の比べあい」の一発勝負となっており、君の戦闘力(素の戦闘力に、【能力】と【スキル】とサイコロの出目によるボーナスを加算した合計値)が相手の戦闘力より大きければ勝利、そうでなければ敗北、というシンプルなルールになっています。サイコロによるランダムなボーナスは君の戦闘力にのみ加算され、相手の戦闘力は固定値となっているので、君の戦闘力が順調に成長している場合は、目の前の敵に100%勝利できる(サイコロの出目を見る以前に勝利が確定している)状況も珍しくはありません。 物語上の設定として、君は混沌としての「本能」に基づき「最強」を目指して戦い続けるわけですが、ゲームとしても、とにかく戦闘力を高める(戦闘力に乗せられるボーナスを増やす)ことがわかりやすい勝利への道になるため、主人公としての「君」の目的は、そのまま読者としての「君」の目的と重なりやすくなっていると言えるでしょう。 「体力」は、最大値が生物としての「体長」や「頑丈さ」の指標となり、現在値が無くなると死亡する(GAME OVERになる)と決められています。 先に述べたように、戦闘は「戦闘力」による一発勝負ですので、体力の削り合いのような側面はありません(敵にはそもそも体力の設定がありません)。また、たとえば「サイコロの出目が体力以下だと成功」のような、体力を使用した判定のルールも存在しません。 では、体力はどのような場面で必要になってくるのかと言うと、たとえば以下のような場面が挙げられます。 ・敵から一方的な遠距離攻撃などを受けたとき (→現在値が減り、1以上残っていれば生き延びる) ・戦闘などで【スキル】を使用するとき (→戦闘力を一時的に増やしたり、特殊効果を発動したりする代わりに、現在値が減る) ・いくつかの特定の【能力】を取得するとき (→新たな【能力】と引き替えに、最大値が減る) ・戦闘で、【能力】や【スキル】やサイコロによるすべてのボーナスを戦闘力に足しても勝てないとき (→現在値と最大値を削って、戦闘力に上乗せできる) ここで注目したいのは、ひとつめのケース(いわゆる「ダメージを受ける」とき)を除いては、すべて「体力を失う代わりに、何かを得る」という構造になっていることです。 君はひたすら戦闘と成長のために生きるモンスターであり、食料やアイテムなどの消費財を何も携行せず、もちろん貨幣も使用しません。この作品が「何かを失う代わりに、何かを得る」という選択を読者に迫ろうとするとき、「支払われる代価」という役回りを担うのは、君の外部にある何らかのモノではなく、主に君自身の「体力」なのです。 ルール説明における定義に従えば、君の体力が成長するということは、君の「体長」が増加し、生物として「頑丈」になる、ということと同義です。 これは、成長する君の姿に対する具体的なイメージを喚起する表現であり、その意味では、物語としての側面に寄せた説明だと言うこともできるでしょう。 一方、ゲームとしての側面から見れば、君の体力の成長は「何らかのメリットと交換可能なリソースの蓄積」を意味するものでもあります。 勝利への近道として「戦闘力」を伸ばすか、あるいはリソースとしての「体力」を蓄えるか。そして、蓄積された「体力」を、どのタイミングで、何を得る代価として使用するか。 これが、『単眼の巨獣』の全体を通して、読者に対して(暗黙のうちに)投げかけられ続ける問いのひとつとなります。 ■最序盤における選択と成長のバリエーション それではここで、君の成長に関して、実際にどのような選択肢が用意されているのかを見ていきましょう。 プロローグ直後のパラグラフ1では、さっそく君にとって最初の成長の機会が与えられます。 君はもともと、自らの分裂元である「森の一つ目狼」の腕に保護されるようにして、絶海の孤島に流れ着きました。そして、砂浜でふと「空腹」を感じた君は、まず目の前にあるその「一つ目狼の腕」を「取り込む」ことに決めます。 これによって、君の外見はいくらか変化し、以下のうちどれか1つの【能力】を得ることができます。 ・爪(戦闘力+10) ・角(戦闘力+5、体力の現在値/最大値+5) ・毛皮(体力の現在値/最大値+10) この選択は、ゲームを開始したばかりの読者に対する、一種のチュートリアルになっているとも言えるでしょう。 というのは、「どの【能力】を取得するかという選択を通じて、読者がある程度、戦闘力と体力とのバランスを調整することができる」という、君の成長に関する基本的な構造が、きわめてシンプルな具体例として提示されているからです。 読者はここで、戦闘力を優先するか(爪)、体力を優先するか(毛皮)、それとも両者のバランスを取るか(角)、という数値的な成長の方向性を考慮しつつ、「爪」「角」「毛皮」それぞれに固有の特性やイメージも踏まえて、「君」としての最初の選択を行うことになります。 そして、つぎのパラグラフからはルートが細かく分岐していき、最初の中ボス的な敵の手前(パラグラフ14)で再び合流することになりますが、そこまでをゲームの最初のブロック(以下、この記事では《ブロックA》と呼びます)とすると、《ブロックA》は全部で16のパラグラフで構成されており、通過するパラグラフのパターンを細かく分ければ9通りのルートが存在します(GAME OVERになるものを除く)。 通るルートごとに、取り込める相手(能力値の上昇幅や、取得できる【能力】または【スキル】)は異なっており、さらにパラグラフ内での選択や分岐の結果も含めると、まだまだ序盤の段階ではありますが、すでに君の成長のバリエーションはそれなりの数にのぼります。 たとえば、あるルートを順調に進んでいくと、《ブロックA》の最後に辿り着いた君は、以下のようなステータスになっています。 〈ケース1〉 戦闘力35 体力15/15 【能力】「ゼリーの体」「爪」「腕」「丈夫な消化器官」「尻尾」 君が初期状態から上記のステータスになるまでの成長のプロセスを、少し詳しく見ていきましょう。 スタート地点の砂浜から森の中へと向かった君は、島の大ボス的な存在である「マグマレックス」と巨大ゴリラとの戦闘に遭遇します。やがて勝利したマグマレックスはゴリラを貪り食いますが、隠れてその場をやり過ごした君は、マグマレックスが去った後に、食べ残しの「腕」(戦闘力+5)を取り込むことができます。このとき、パラグラフ1で「爪」(戦闘力+10)を選択していれば、「腕」との相乗効果で戦闘力がさらに+5されるため、君の戦闘力は合計「30」まで上昇します。 つづいて君の前には「死体漁りの群れ」(戦闘力20)が出現しますが、君の方が戦闘力が高いので、サイコロを振るまでもなく君は勝利し、体力(現在値及び最大値)を+5した上で、新たな【能力】である「丈夫な消化器官」(腐った死体や多少の毒を食べても体力が減らない)を取得します。 さらに森の奥へ進むと、「腐った尻尾」が落ちています。これは、本来は食べると体力の現在値が「10」減ってしまうのですが、君はついさっき「丈夫な消化器官」を取得したばかりなので、その効果によって体力を減らさずに「尻尾」(戦闘力+5)の【能力】を取得することができます。 こうして、君は効率的に成長しながら、「関連する能力を系統的に取得することで、追加のボーナスを得ることができる」「特定の能力は、戦闘時以外にも効果を発揮することがある」という、この作品のゲームシステムにおける基本的事実を新たに知ることができます。 ある意味では、これもまたチュートリアルのつづきのような展開だと言えるかもしれません。 ただし、上記はあくまで、君の選択した「成長」と「ルート」とが、うまく噛み合った場合の結果です。 たとえば、最初に「爪」(戦闘力+10)ではなく「毛皮」(体力+10)を取得していると、同じルートに入っても、「腕」(戦闘力+5)を取得した時点の君の戦闘力は、初期の「10」に「5」を足した「15」だけ。つまり、つぎに出てくる「死体漁りの群れ」(戦闘力20)には、サイコロの「6」を出さないと勝つことができません(この時点では、君の戦闘力に加算できる値は「1D6」で、戦闘力が同じなら負けです)。危険だと思えば「この場から急いで離れる」こともできますが、その場合、君はそのままあっさりと《ブロックA》を終えることになり、このブロックでの君の成長は、最初の「毛皮」と「腕」1本ぶんだけ、ということになります。 また、「死体漁りの群れ」と戦った上で負けてしまうと、勝ったときとは逆に、自分の体の一部を食べられてしまうため、体力の現在値を「10」減らさなければなりません(→君の体力:10/20)。 さらに、その先で「腐った尻尾」を見つけても、「死体漁りの群れ」を倒していない君は「丈夫な消化器官」を持っていないので、食べようとすると体力を「10」減らす必要があります。しかし、君の体力の現在値も「10」しかないので、食べると体力がきっちり0になり、死んでGAME OVERになってしまいます。つまり、腐った尻尾は無視して先へ進むしかありません。 結果、《ブロックA》の最後に辿り着いた君は、先ほどの〈ケース1〉とまったく同じルートを通過していても、以下のようなステータスになっています。 〈ケース2〉 戦闘力15 体力10/20 【能力】「ゼリーの体」「毛皮」「腕」 〈ケース1〉と比べると、戦闘力が半分以下であるばかりか、体力の現在値でも【能力】の数でも劣っており、なかなかに先行きが不安な状態だと言えるでしょう。 そして両者の違いは、元をたどれば、パラグラフ1の最初の選択肢で「爪」を選んだか「毛皮」を選んだかという、その1点に起因します。 もちろんこれは、パラグラフ1では「爪」を選ぶのが正解だとか、「毛皮」が間違いだとかいうことではありません。 上記の森を進むルートのひとつが、たまたま「現時点としては戦闘力が高めの敵」が出てくるルートだったというだけで、森に入らず砂浜沿いに進むルートを選べば、戦闘がない代わりに「体力を減らす」イベントが発生したり、新たな【スキル】を取得できたりする場合もあります。そちらのルートだと、むしろ「毛皮」で体力を増やしておいた方が、多少のダメージを受けても余裕がある状態で先へ進むことができ、体力を消費する【スキル】も心おきなく使用できる、という点で有利だと言えるかもしれません。あるいは、どのルートでもそこそこの対応をするためには、結局のところ「角」(戦闘力+5、体力+5)でバランスを取っておくのがちょうどよい、という考え方もあるでしょう。 『単眼の巨獣』においては、読者の意識的な選択による分岐と、君の状態に応じて芋づる式に連鎖していく成長や苦難のプロセスとが、相互に絡み合いながらゲームを先へと進めていきます。 「爪」か「毛皮」か、「森」か「砂浜」か、といった選択は、それ自体としては明確な優劣を含まないとしても、それらの組合せの結果は、あるときは「最強」への近道となり、またあるときは死へ向かう下り坂となります。ある「君」にとって効率的に成長できるルートは、別の「君」にとってはほとんど成長できずに命からがら逃げのびるルートにもなり得るでしょう。そして、成否が微妙な状況においては、最終的にはサイコロの出目が君の運命を左右するかもしれません。 このような構造の中には、君の成長におけるひとつひとつの選択の重さと、その選択の結果を予見しコントロールしようとすることの限界を、ともに見て取ることができるように思います。 また、いま述べてきた2つのケースの違いは、ゲームの終盤における君の状態から振り返れば、実にささやかなものにすぎないようにも見えます。 順調に成長を続けた君は、戦闘力は3桁の規模になり、所有する【能力】も20種類を超えているので、その立場からすれば、ここでの「爪」か「毛皮」かという選択など、ほとんど意味をもたないように思えるかもしれません。 ただ、この「最序盤においては重要に見える差が、後にはほとんど意味のないもののようになる」ということ自体が、作品内での君の「桁違い」な成長の本質を表しているとも言えるでしょう。 「10」と「20」の違いが大きな意味をもつ《ブロックA》から、やがて(私の勝手な命名による)《ブロックB》、《ブロックC》、《ブロックD》……と進んでいくにつれて、君の状態は量的にも質的にも大きく変容し、作品自体のあり方もまた、《ブロックA》と同一のシンプルなルールの中にありながら、ある意味では《ブロックA》とは別のゲームのような様相を呈することになります。詳しくは次回以降で改めて述べる予定ですが、このような君の成長(あるいは死)の描き方が、「混沌」という特異なモンスターを主人公に据えた、『単眼の巨獣』というゲームブックの重要な特徴だと私は考えています。 [注:ここまでに述べた一部の【能力】(具体的には「腕」と「尻尾」)のボーナスについて、作品の本文では「攻撃力+5」と書かれているのですが、作品のルール説明で「攻撃力」という単語は使用されておらず、作品内のどこにも「攻撃力」という単語に関する説明はありません。「攻撃力」は「戦闘力」と読み替えてそのまま意味が通じるため、この記事の中では、作品内で「攻撃力」となっている箇所でも、ルール説明で使用されている「戦闘力」に表現を統一する形で記載しています。] ■最序盤におけるサバイバルと選択 さて、先ほどの〈ケース2〉の「君」に話を戻しましょう。 少なくとも《ブロックA》の規模感の中では、〈ケース2〉は〈ケース1〉に比べてかなりのビハインドを負っているように見えますが、これは単なる「失敗例」というわけではありません。 むしろ、すべてが順調に進んだ〈ケース1〉とはまた別の意味で、この〈ケース2〉の軌跡もまた、『単眼の巨獣』という作品に関する充実したチュートリアルになっているように思います。 まず、「死体漁りの群れ」(戦闘力20)との戦闘について改めて見てみましょう。これは、このルートを選んだ君(現時点の戦闘力:15)にとっては初めて経験する戦闘です。 ここでサイコロを振って「6」が出なければ、君は敵の戦闘力を上回れないため、そのままだと敗北となります。ただし、戦闘ルールの最後には、体力の現在値と最大値を減らせば、その分の数値を戦闘力に上乗せできることが記されています。 つまり、サイコロの出目が最低の「1」でも、君の体力を最大値ごと「5」減らせば、君は何とか勝利を収めることができるのです。 また、君はここで、唯一の初期能力である「ゼリーの体」に頼ることもできます。 「ゼリーの体」がもつ特殊効果として、君は好きなタイミングで一度だけ、ゼリーの体を「消費」することで以下のいずれかの効果を得ることができます。 (1)サイコロ1つの目を好きな数字に変更できる (2)体力の現在値の消費または減少を0にできる (3)「〜の体」という能力を得た際、体力の現在値/最大値と戦闘力を+20できる (3)の効果はここでは使用できませんが、(1)の効果によってサイコロの出目を「6」にすれば、君は体力を減らすことなく「死体漁りの群れ」に勝利できます。 あるいは、ここで「君」がひとまず敗北を受け入れ、体力を減らして先へ進んだ場合は、「腐った尻尾」を見つけたときに(2)の効果を発動し、「体力の現在値を10減らす」というペナルティを無効化しつつ「尻尾」の【能力】を取得することも可能になります。 上記のように、最初に「毛皮」(体力+10)を選択してからこのルートに入った読者は、早くも君の敗北(戦闘力不足)や死(体力の枯渇)の気配を感じつつ、戦闘ルールにおける最終手段や「ゼリーの体」の特殊効果も意識しながら、先へ進んでいくことになります。 最初に「爪」(戦闘力+10)を選んでこのルートに入った読者に比べると、なかなかハードな道のりにはなりますが、そのぶん一足先に、体力や特殊な【能力】と引きかえにその場を切り抜けるという、このゲームにおけるサバイバルの一側面を経験できるとも言えるでしょう。 そしてまた、最初にどの【能力】を選んでいても、このルートの途中でマグマレックスに戦いを挑んでしまった場合、君はあっさりとマグマレックスに食べられてGAME OVERになってしまいます(詳細は前回の記事参照)。 この段階では、マグマレックスと君との間には戦闘力にして数十の差があるため、同レベルの敵との間では大きな影響を及ぼした「爪」と「毛皮」の違いは意味をもたず、どちらにしても「ゴリラの前の前菜」にされてしまいます。 こうして死に至る選択をした読者は、最序盤からサクッと「君」を殺しに来るパラグラフ構成を見て、この作品(あるいは「君」が生きるこの作品世界)における「殺意」の高さを実感するかもしれません。 なお、スタート地点から森に入らず、砂浜沿いに移動するルートを選択すると、また別の展開が君を待っています。 そこでは、トカゲや魚を「取り込む」機会があり、細かい選択に応じて「鱗」などの【能力】や「放電」という【スキル】を取得できる場合がありますが、それらの対象をすべてスルーして進み続けた場合は、パラグラフ1の終了時点と比べ、全く何も成長していない状態でブロックの最後に辿り着くことも可能です。こうして戦闘や成長を先送りした読者は、他のルートの場合よりも一歩遅れたタイミングで、この作品における戦闘や成長の実際を知ることになるでしょう。 『単眼の巨獣』の最序盤(私が《ブロックA》と呼ぶ部分)では、全部で16のパラグラフの中に、9通りの通過ルートと、2箇所のデッドエンド(必ずGAME OVERとなるパラグラフ)、そして11種類の【能力】と2種類の【スキル】の取得の機会が埋め込まれています。 このブロックは、読者のためのチュートリアルとみなすこともできますが、それは決して「やさしい一本道」だからではありません。むしろ、このゲームの厳しさや多面性の基盤となる部分を、細やかな分岐によって、限られた要素でわかりやすく提示してくれるという意味において、《ブロックA》はこの作品らしい導入部分となっているように思います。 ■おわりに チュートリアル的な《ブロックA》の最後に辿り着いた君は、そこで一体の敵と出会います。 その敵とは、「チャージ・コンパニョン」。物語のプロローグに登場した、君の分裂元である「森の一つ目狼」を殺した討伐隊を構成するゴーレムたちのうちの一体です。 この敵が、枝分かれしていたルートの合流地点に配置されているということは、この作品にとってふたつの意味をもっているように思います。 ひとつは、ゲームにおける中ボス的な存在として、「チャージ・コンパニョン」は「戦って倒す」べき敵であるということです。 そこでは必ず「戦闘力の比べあい」が発生し、《ブロックA》での君の成長具合によっては、体力を削って戦闘力に上乗せしたり、「ゼリーの体」の特殊効果を発動しなければならない状況も生じるでしょう。 君は「チャージ・コンパニョン」を容易に倒せる状態まで成長しているか、そうでなければ、苦しい局面を切り抜けるためのルールや特殊効果を(読者として)使いこなせる必要があるのです。 また、さらにその先の敵の強さは、君がこの「チャージ・コンパニョン」を倒せた、ということを前提として調整されていることになります。 そしてもうひとつ、物語の上でも、君が「チャージ・コンパニョン」を倒すことには、大きな意味が与えられていると言えるでしょう。 「チャージ・コンパニョン」との遭遇、戦闘、そして君の勝利は、物語の最後まで辿り着くためには、必ず通過しなければならないイベントです。すなわち、「チャージ・コンパニョン」という存在は、『単眼の巨獣』という作品が君の物語を語りきるための、不可欠な構成要素として位置付けられているのです。 では、君の物語における「チャージ・コンパニョン」の意味とは何でしょうか。 「森の一つ目狼」を殺した当事者のひとつである「チャージ・コンパニョン」は、君にとっての仇敵であることは確かですが、君がそれを倒すことには、単なる「復讐」を超えた意味を見出すことができるように思います。 次回の記事(配信日未定)では、この「チャージ・コンパニョン」と君たち(君自身と「森の一つ目狼」)との関係性を軸に、「生物」と「生物ではないもの」をキーワードとして、『単眼の巨獣』の考察のつづきを展開する予定です。 【書誌情報】 ロア・スペイダー『単眼の巨獣』(絵:中山将平、監修:杉本=ヨハネ、FT書房、2025年) https://booth.pm/ja/items/6823989 ●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━● ■今日の新聞に対するお便りはコチラ! ぜひ、ご感想・お叱りなど一言ご意見ください。m(_ _)m ↓ https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report 【FT新聞・バックナンバー保管庫】 *2週間前までの配信記事が閲覧可能です。 https://ftnews-archive.blogspot.com/ 【FT新聞のKindle版バックナンバー】 *kindle読み放題また有料購入が可能です。 https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/entity/author/B00OYN7Z84 ■FT新聞をお友達にご紹介ください! https://ftbooks.xyz/ftshinbun 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