第2回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。
ぜろです。
はじまりました「狂える魔女のゴルジュ」リプレイ。
前回は、長い導入。主人公ミナ・ガーデンハートが家族と散り散りになったいきさつが語られました。
盗賊都市ネグラレーナへと生活の拠点を移したニナとミナ。ニナは盗賊ギルドへ、ミナは魔法学園へ。
ミナがからくり都市チャマイへの留学を決めたことで、2人の生活の場は離れます。
しかし、魔法の成果が上がらないミナはあるとき、魔道具を求めて学園へ忍び込みます。
そこで偶然、自身が師事する教授が禁断の研究を行っており、まさにその研究成果を秘密裏に持ち出そうとする現場を目撃するのでした。
そしてミナは、その「研究成果」を、こっそり横取りしようと画策するのでした。
●アタック01-4 闇の加護
モータス教授たちの密談の盗み聞きによれば、「魔法の時計」は時計塔にあるという。
ボクは時計塔に先回りすることにした。
教授たちが秘密の話を続けている隙に、先んじて校長室に忍び込んで、時計塔の鍵を盗み出した。
ついでに、キーケースの中の各部屋の鍵を、いくつか入れ替えておいた。
時計塔の鍵のスロットには、明らかに時計塔のものではないとわかる、器具庫の鍵をセットしておいた。
これで、しばらくは時間を稼げるはず。
ボクは校舎を出、時計塔へ。入口の鍵はばっちり合った。がちゃりと鍵を開け、時計塔の内部階段を上る。
入るのは初めてだ。モータス教授の言っていた魔法の時計は、どこにあるのだろう。
巧妙に隠されていたら、見つけられないかもしれない。ここはボクの運に賭けるしかない。
巨大な歯車が回る空間の中に、それはあった。
研究施設みたいになってる。大理石の台座に、小さな時計たちが並んでいる。
こんなに堂々と置いてあって、見つからないものなのか。
もしかしたら、年に1回程度のメンテナンスの時くらいしか、時計塔に入る人はいないのかもしれない。
そうだよね。入る人がほとんどいないから、隠し場所にはもってこいだったわけで。
台座に並べられている時計は、全部で7個。
ボクは魅入られたように、時計のひとつに手を伸ばした。
時計に触れた瞬間、心に声が響いた。
「汝……力を欲する者か……」
問いかけだ。昏くいびつで、ぞっとするほどに荘厳な声。
ボクは理解した。この時計の力を使いこなせるようになるためには、この声の主に応じなければならないと。
この時計の形を模した魔道具には、モータス教授が言っていたとおり、本当に、禁断の力が宿っていると。
ボクに、迷いはなかった。
姉たちを助ける力を手に入れるためには、なんだってやる。
師匠を出し抜いて研究成果を横取りだってする。謎の声の主の力も借りる。禁断の魔道具を使いこなしてみせる。
どんなに罪を重ねても、愛を裏切らない。
そう、誓ったから。
ボクは、声の主の提案を、受け入れた。
「ボク、ミナ・ガーデンハートは、この導きに感謝し、闇神オスクリード様の御名を永遠に讃えることを、ここに誓います」
こうしてボクは、闇神オスクリードの信徒となった。
その瞬間、ざわざわ、とした奇妙な感覚が体中を駆け巡る。
「あ……あっ……」
意識はそのままに、身体そのものが、別のものに置きかわっていくような、不思議な感覚。
でもそれは、恐怖を感じるものではなく、むしろ心地良いもので……。その心地よさが、逆に不安をかきたてた。
闇の神様に、祝福されているということ?
その感覚は、やがておさまった。
じっと手を見る。
肌の色が、変わっていた。闇色に近い、暗い色調に。闇の神の加護を受けた証だ。
ボクは自分自身が、取り返しのつかない状態になったことを悟った。
……でも、後悔はない。
自分で選んだことだから。
これで力が得られたのなら。これがその代償というのなら。
さあ、モータス教授たちがここに来る前に、退散しよう。
ボクは、急いで6個の腕時計をベルトにつけ、残る1個の懐中時計を首からかけた。
他にあった補助的な器具も持てるだけ持つと、急ぎ足で螺旋階段を下る。
入口に近づいたところで、外からざわついた気配を感じた。
教授たちが来たに違いない。
戸口にがちゃりと手がかけられる音がした。
「鍵がかかっていません。やはり、何者かが入り込んでいるようです」
「なんということだ。とにかく早く。侵入者を排除し、アレを確保せねば」
左右を見回す。隠れられる場所はない。
ボクは戸口の影の壁際に、気配を殺して立つほかなかった。
時計塔の扉が開く。モータス教授とその連れの小男が、急ぎ足で階段を駆け上がっていった。
教授たちがあわてふためいていたこと、そして闇色の肌が、ボクを闇に溶け込ませてくれたこと。2つの幸運が重なって、ボクは見つからずに済んだ。
このまま時計塔の鍵を閉めてしまえば、モータス教授たちは逃げ場を失い、逮捕されるかもしれない。
そんなよこしまな考えが一瞬だけよぎったが、すぐに振り払った。
教授はボクに、素晴らしい研究成果を与えてくれたんだ。感謝しかない。
不正がなんだっていうんだ。ボクが今している罪、そして闇の神様に魅入られたことを思えば、なんてことはない。
ボクは時計塔の鍵をそっと置くと、開いたままの入口から外に出た。
そしてボクは、夜の闇に紛れた。
●アタック01-5 時の魔法使い
ボクは、早々にチャマイを立ち去ることにした。
数少ない友だちに、別れも告げずに去ることになるが仕方がない。最初からそのつもりだったし。
ボクは最初から、学園の魔道具を盗み出して消えるつもりだった。
だから、学園の宿舎には二度と戻らないつもりで出た。逃走の準備は万端だ。
最初の計画では、安宿に泊まりつつ、ほとぼりが冷めるのを待って逃走するつもりだった。
けれどそこは、計画の変更を余儀なくされた。
肌の色が変わったボクが知り合いに会ってしまうリスクを思えば、早急に動いた方がいい。
今回の事態が発覚するには、もう少し時間がかかるだろう。
しかも、最初に矛先が向くのはモータス教授たちだ。
いつ動くのか。今でしょ。
ボクは、闇夜に紛れて朝を待った。
開門を待ち、朝の喧騒に紛れて、正門から堂々と外に出た。
もしかしたら、モータス教授たちが門のそばで、時計を盗んだ者がいないか観察しているかもしれない。
けれど、誰がやったかはわからないはず。実物さえ隠しておけば、見つかることはないはずだ。
それに、あちらもおたずねものになるのだ。いくら時計を取り戻したくても、そんな余裕はないと思う。
ボクは、何の問題もなくチャマイから外に出ることができた。
チャマイから北に向けて旅をしながら、盗み出した魔道具の研究を、少しずつ進めた。
オスクリード様は信仰告白の際に、ボクに「魔法の時計」の知識を与えてくれていた。それがボクの望みだったから。
だから魔法学園で落ちこぼれかけていたボクなんかでも、時の時計の構造を理解することができた。
モータス教授の10年分の成果を、実物だけでなく知識面からも得てしまうなんて、とんだチート能力だ。
野営をしながら、焚火の前に時計を並べる。
ボクが持ち出した7つの魔法の時計が、炎のゆらめきを映し、神秘的な光沢を放っている。
時計は全部、止まっている。魔法を使うときだけ時を刻む、不思議な時計だ。
その1つ1つに対応した、時の魔法がある。
つまりボクは、時を操る7つの力を持っていることになる。
モータス教授のメモによれば、7つの時計には名称がある。
・枝分かれの未来時計
・速撃の戦時計
・時もどしの回復時計
・うたかたの齢時計
・跳兎の懐中時計
・夢渡りの覚醒時計
・刻々の狭間時計
7つの力を持ってるって言ったけど、実は今すぐに7つの力全部が使えるわけじゃない。
モータス教授は、「ほぼ完成している」と言っていた。
3つの時計は完成していて、すぐに使うことができる。
残る時計は歯車が不足していて、歯車を見つけ、修理することで使えるようになる。
そして、ボクはあの時計塔から、時計だけでなく歯車も3枚持ってきた。
その歯車を使ってどの時計を修理するかで、どの魔法を最初から使えるか、選ぶことができるってこと。
モータス教授の研究メモからわかった7つの時魔法について、ここで簡単に説明しておくよ。
きっと覚えきれないと思うから、だいたいでいい。また使う時になったら説明するから。
まずは、最初から使える3つの魔法から。
【枝分かれの未来時計】
この魔法を使うと、パラグラフの番号に「↑」マークがついている範囲を自由に行き来できる。
「指セーブ」をルール化したみたいなものだ。
【うたかたの齢時計】
10年単位で年齢を変えられる魔法。変身じゃなくて、実際に若くもなれば老いもする。
けっこう集中力が必要で、集中が切れたら元に戻ってしまう。
【跳兎の懐中時計】
数年から十数年くらい昔に時間をさかのぼれる魔法。自分だけ過去の世界に行ける。
これも集中力が切れると元の時代に戻る。
あと、跳兎の懐中時計は表紙や裏表紙にイラストが載ってるやつ。兎のデザインがかわいすぎて神。
次に、修理が必要な魔法の時計が4つ。
【速撃の戦時計】
スピードがマッハに。2倍速の魔法。歯車1枚で修理できる。
【時もどしの回復時計】
身体の時間を戻すことで、身体に受けた悪い影響をすべて取り去り回復する。歯車2枚で修理できる。
【夢渡りの覚醒時計】
仲間を悪夢から守る。悪夢を吸い取り、悪夢袋に入れる。歯車1枚で修理できる。
【刻々の狭間時計】
時を止めるザ・ワールド。消耗も大きい。歯車3枚で修理できる。
時の魔法は使う時に「悪夢」を消費する。悪夢って言われてもピンとこないと思うけど。
だからボクは、悪夢を蓄えるための「悪夢袋」を持ってる。時計と一緒に置いてあったものだ。
悪夢袋は闇色の小さな袋。不思議なことに、出し入れする口はない。小さな風船みたい。
7袋あって、今は悪夢をたくわえてふくらんでいる。
入っているのは、ボクの悪夢だ。覚えてないけど、けっこう悪夢を見ているみたい。
悪夢を持ち歩くってヘンな話だけど、夢の持つエネルギー?みたいなのを蓄えるらしい。
ボクの悪夢だけでなく、ほかの誰かの悪夢を蓄えることもできる。
悪い夢を持ち歩いている、と思うと気味が悪いけど、ボクにはこれが必要なんだ。
ボクが研究しながら理解してきた時の魔法は、こんなとこかな。
●インターミッション ルール説明
ここからようやく、ルール説明のパートが始まる。
いつもはここは、プレイヤーの人が説明的にやるところだけど、ここまでボク主体でやってきたから、ここもそのままいこう。
ボクのステイタスを示す、専用のキャラクターシートがある。
すっきりまとまってる。とってもわかりやすい。視認性がいいのは大事。
ルールとか説明とかあんまり読まなくても、キャラクターシートを見れば、ある程度推測できてしまうくらい。
んー。自分で自分のキャラシー説明するなんて、なんだか変な気分。
ボクの体力点は4点。ハートの形でチェックできるようになってる。0点になるとゲームオーバー。
次に、使える悪夢袋の数が、袋の形でチェックできるようになってる。
金貨は7枚、歯車は3枚持ってる。
その横に「不死化傷」という意味深なフレーズがあるけど、説明にはない。
吸血鬼が登場する作品なので、吸血鬼に傷つけられた場合とかにチェックが入るのかもしれない。
それから、持ってる時計の名前がずらり、並んでる。
修理に必要な歯車の数も見てわかるようになってる。
そして実は、8か所目のところに、カッコ書きで(〜時計)という欄が作られている。
つまり、冒険中に8個目の時の魔法が手に入る可能性があるってこと。
モータス教授にしか作れない超レア技術のはずなのに、いったいなにがあれば8個目の魔法を手にできるのだろう。
興味は尽きないね。
その下には、装備品の欄が。
5つの装備品がすでに名前つきで並んでおり、入手したらチェックするようになっている。
5つの装備品とは、「銀のナイフ」「ニンニク」「聖水」「羊皮紙」「吸血鬼ごろし」。
ほとんどが吸血鬼対策のアイテムだ。
最初から入手できるアイテムの名前がわかっているというのも親切設計だ。
これだけでも、いろいろ予想する材料になる。
さらに、仲間の欄がある。
仲間の欄には、3人のキャラクターの名前があり、チェックを入れられるようになっている。
「ボラミー」「フェル」「マイトレーヤ」の3人だ。
マイトレーヤのところにはさらに「待機」という項目にチェックを入れられるようになっている。
そして、ルール上は何も言及がないけれど、いちばん下にメモ欄があり、小さく「精密」という項目にチェックを入れられるようになっている。
これは非常に気になる。こういうところに、クリアのために必須ななにかが隠れている気がしてならない。
ルールの確認はこんなところかな。
これはボクからしたら、時の魔法の力で、未来に起きるかもしれないことを、ほんの少しだけ垣間見た気分だ。
そうだ。このキャラクターシートは、ボクが未来の可能性を感じ取った記録、ってことにしよう。
こうすることで、何か変わるのかって?
実はすごい変化がある。
これまでキャラクターシートは、プレイヤーのものだった。
でもボクの力なら、キャラクターシートに書かれていることは、未来の記憶として、ボクも知っていることにできる。
未来の記憶と言っても確定じゃない。起こるかもしれない未来の可能性だ。
たとえば、「ボラミー」という人物が登場したのなら、ボクは、その人物が仲間になるかもしれない未来があることを知っている、ということになるんだよ。
これって、すごいことだ。これだけで、このリプレイの記述そのものが変わってくるって思わない?
未来の記憶を引き出すのは、過去の記憶を思い出すのとまったく同じ感覚だ。
ただ、夢を見ているみたいにおぼろげで、はっきりしない。未来を思い出すって、すごく不思議。
じゃあ、ルールも確認できたところで、歯車3枚を使って、時計を修理しよう。
歯車は、一度はめると、ボクの技術ではもう外すことはできない。だから、修理する時計は慎重に選ばなければいけない。
まずは、その素早さで戦いや逃走に役立ちそうな、【速撃の戦時計】。体術に自信のないボクの弱点を補う時計だ。
そして回復は大事ということで、【時もどしの回復時計】にしよう。
【速撃】の修理に歯車1個、【時もどし】の修理に歯車2個を使うから、これで使い切りだ。
これで準備は整った。次回からは、ステイタスが決まったボクの冒険本番がはじまる。
【ミナ 体力点4/4 悪夢袋7/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>超スピードで限界突破。
<時もどしの回復時計>時間を戻してダメージをなかったことに。
■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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