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2025年8月28日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.4 FT新聞 No.4600

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ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.4
 
 (東洋 夏)
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 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第四回にあたります。
 今日が初めての方にもお楽しみいただけるよう、まずは少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは、十二歳の聖騎士見習いシグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまいました。
 このままでは自分の身にも危険が及ぶということで捜査に乗り出したふたりでしたが、前回のリプレイでは、我こそは巷を騒がす殺人犯だという三人組に襲われた挙句、市場では金貨をすられるという災難に見舞われます。
 ダイス目からはシグナスくんの人間に剣を向けることをためらう優しい性格が明らかになり、プレイヤーはこの厳しい世界で彼が騎士として生きて行けるのか、不安で胸がいっぱいになってきました。
 そんなところから今回の冒険は始まります。
 悪夢は待ってくれません。追い付かれる前に解決に到れるか、いざダイスに問うてみましょう!
 
 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは捜査の記録をご覧あれ。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[探索記録4]中間イベント:路地裏の襲撃

 市場から一本離れた路地裏は、人通りもなく静かである。シグナスはスリに刃物で底を切られた財布から金貨を取り出し、ローブをまさぐって、少しはまともそうな場所にしまい直す。
「踏んだり蹴ったりだよ」
と口を尖らせたシグナスに、
「動いた証拠だ」
 クロは言った。
「領主館から出て、主人の手を借りず歩いているのだから」
「慰めてくれてるの?」
「さあな」
 次は何処へ行くべきだろうか。市場は確かに人が沢山いたが、落ち着いて話が出来るような所ではなかった。最初に事件が起こった家とか、そういう所から探すのが良いのかもしれない。シグナスは自分の頬をぱちんと叩いて、気合いを入れた。
「調査続行だ!」

 (※さて、このイベントでは「出目21」を通過しているかを問われます。ゲームブックっぽくて面白いですね。FT書房様の作品ならではという感じがします。出目21は薬局です。そう、いの一番に出たアグピレオ先生の薬局です。その場合は、こうシナリオに書かれています。「君は真っ暗な空間で、自分そっくりの殺人者と一対一で戦う」と。シグナスくん、これは危険な気配がしますよ!)

 雪が溶けて、所々に水溜まりが出来ている。うっかり足を突っ込まないよう下を向いて歩く。そこだけ見れば確かに春らしい青空と、サン・サレンの尖った屋根の民家、それから自分の顔。異国にいるのだ、という実感が急に湧いてきて、じっと眺めてしまった。
 すると、奇妙なことにシグナスは気づく。水溜まりの中の自分が、勝手に動いているような気がするのだ。不審に思い、試しに右腕を上げてみると、水溜まりの中の自分は不気味な形に唇を吊り上げて、にやりと笑い返すではないか。
「えっ、何!?」
 身をすくませたシグナスに向かって、水溜まりの中からもう一人のシグナスが勢いよく飛び出し、組み付くと、さらに抵抗を許さない速さでこちらの顔に手を伸ばした。
「やめろ!」
 顔を抉られてはたまらない。必死に振りほどいて目を開けると、そこは路地裏ではなかった。路地裏ではないどころか、恐らく何処でもなかった。のっぺりとした薄暗闇が前後左右に広がっている。クロもいない。邪悪なまじないに囚われてしまったのだろうか。
 微かに金属が触れ合う音がして振り返ると、そこに自分が立っていた。にやにや笑いは水溜まりに映った時と同じである。自分はこんな嫌らしい顔をしているのだろうか。違う。絶対に違う。これほど邪悪な顔はしていないはずだ。そうですよね。そう言ってください、どうか此処に来て、サー・ノックス! そして善神セルウェー様、お救いください! 自分のニセモノに襲われてるんです!
 必死に念じたが奇跡は起こらなかった。闇は闇のままで、もう一人の自分は気持ち悪い笑いを顔に張りつけたまま、抜き身の剣を持ってぶらぶらと近づいてきた。
(落ち着け、落ち着くんだ、僕)
 自分の姿をした殺人者に襲われる。これはまさしく、悪夢の後に訪れるという状況だ。
(じゃあさ、もしこいつが犯人なら……)
 ここで懲らしめたら解決するんじゃなかろうか。サー・ノックスにも感心していただけるはず!
 シグナスは意を決して剣を抜いた。
「い、いくぞ殺人犯! 覚悟しろっ」

 (※戦う相手は〈写身の襲撃者〉。レベル4、生命点3、攻撃数1。反応表は常に【死ぬまで戦う】です。一対一ですから、今回はクロの援護は得られません。技量点0のシグナスにはレベル4は立派な強敵。踏ん張りどころですよ、シグナスくん。さて大切な初撃、1ラウンドの攻撃は……出目1、ファンブル(大失敗)! これはまずい。大変まずいです。防御ロールの方もあえなく失敗してしまいました。どう見ても弱気になっています)

 突きつけた切っ先が震えている。正直なところ、実戦らしい実戦は初めてなのだ。酔っ払いに立ち向かった時とは違うってところを見せるんだぞ、と自分に言い聞かせて駆け出してみる。サー・ノックス曰く、何事も機先を制するのが第一だという。ニセモノの自分が反応するより早く、まずは斬りつけることだ。
「ええい!」
 しかしシグナスの渾身の一撃は、呆気なくかわされる。にやにや笑ったままニセモノはひょいと体を捻っただけで避けてみせ、そこから素早くシグナスの肩を剣で突いた。
「ひっ……」
 飛び退いたシグナスは思わず自分の肩を触り、指先に赤い血が付いたのを見てぞっとする。まやかしではなく、本当に怪我をしているのだ。

(※2ラウンド目。ここで流れを引き寄せたいので、技能【全力攻撃】を使います。筋力点を使って攻撃ロールの判定を行うことが出来るという技ですね。単純な技能ではありますが、技能点0、筋力点3のシグナスにとっては大きな加点です。ここで攻撃成功、さらに防御を出目6で成功させました。別に防御でクリティカル(大成功)が出てもボーナスはないのですが、気分的にこう、完璧に見切ったぞという盛り上がりを得ることが出来ますね。1ラウンド目とはガラッと出目が変わりましたので、シグナスくんの闘争心にようやく火が付いたということでしょうか)

 これは現実。まじないの類だとしても、戦って敗れれば死が待つのみ。
 そう飲み込んだシグナスの体内が、燃え上がるように、かあっと熱くなった。今まで遠慮がちだった戦士としての資質が、さあ解き放てと叫んでいるのを感じる。深呼吸をすると、体の隅々まで心地好い緊張感が伝播した。
「我こそは、サー・ノックスの一番弟子シグナス。お前の悪行もここまでだ!」
 鋭い踏み込みと共に走った刃が、ニセモノの腕をすっぱりと斬り裂く。狼狽したニセモノの放った剣撃は蝸牛の如く遅く感じられ、シグナスはそれを易々と弾き返した。
(見えてる)
 世界の中で自分だけが速くなったような。加速しているような。そんな不思議な高揚感が沸き起こる。

(※3ラウンド目。何しろ筋力点が3しかないので、通常の攻撃に賭けます。何と今回は攻撃防御ともすんなり成功しました。いいぞいいぞ。調子に乗って4ラウンド目も引き続き振りますと、ここでシグナスくん頑張りました、連続成功で勝利となります!)

 二撃目も極めて正確だ。にやにや笑いを引っ込めたニセモノの肩にシグナスは剣を突き刺し、素早く引っ込めた。ニセモノの反撃は届かない。
 シグナスの心はますます澄み渡っている。今なら無敵だと思えるほどに。三撃目は、ついに致命傷を与えた。ニセモノの首をざっくりと斬ったのである。その不気味な手応えでシグナスは我に返った。
(僕は何を喜んでるんだろう。人間に斬りつけることが楽しいだなんて)
 ニセモノがゆっくりと倒れ込むと同時に、闇が晴れる。正常な世界に戻ってきたのだ。しかし視界がおかしい。どうやら今、シグナスは仰向けになって空を見ているらしかった。
「どういうこと」
「お前が暴れたからだ」
 その言葉に驚いて体を起こそうとすると、肩口がひどく痛む。刺されたのだから当然だ。
「クロ! 無事だったんだね」
「オレの目玉を潰そうとした奴の言葉とは思えんな」
「え?」
「水溜まりを見ていたら突然わめきだして、オレに斬りかかって、目玉を突こうとしたんだぞ」
「そんな事するはずないじゃん! それにクロも見てたでしょ、水溜まりの中から僕にそっくりなのが出てきたところ!」
「……いいや?」
「嘘つかないでよ。僕は、僕のニセモノと戦ってたんだから! 突然真っ暗になってさ、クロなんてそこにいなかったよ!」
「……」
 〈おどる剣〉は首を傾げる代わりに、空中で斜め四十五度に傾いた。
 シグナスは混乱する。クロは嘘を言わないと思う。でも僕が経験した、あの戦いは嘘じゃなかったはずだ。どういう事なんだ、と。
 その時、シグナスは漂う香りに気づいた。こんな路地裏には似合わない香り。アグピレオ先生の薬局で飲ませてもらったハーブティーの香りがするのだ。路地裏には似つかわしくない気もするが、悪夢がはびこり出してから売れ行き好調だという話なので、路地に面した家で誰かが淹れているのかもしれない。先生の穏やかな顔を思い出すと、少しだけ気分が落ち着いたようだった。

 (※戦闘に勝利した後、ランダムに従者を選び目標値4の【幸運ロール】を実施します。失敗すると、主人公はいきなり武器を振りかざして従者に襲い掛かり、その従者の命を奪ってしまうとのこと。今回は従者がいないため、シグナスがクロに対して判定をすることにしますが、判定は……失敗。主人公ふたりプレイの場合の記述がございませんので、ここは「クロが生命点に1ダメージを受けた」という処理にさせていただきます)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
 今回のリプレイは以上となります。
 ついに殺人犯が再び襲ってきました!
 タイトルの『写身の殺人者』に繋がるイベント名ということで、実はここでも「手がかり」を入手するチャンスがあったのですが、戦闘後の【幸運ロール】失敗により空振りになってしまいました。なかなか上手くいきませんね。しかしその上手くいかない感が、レベル7であるシグナスくんの半人前っぷりをリアルに表している気もしています。
 個人的な話ですが、私はこのリプレイを書いている時にちょうど仕事で行き詰っており、シグナスくんの悪戦苦闘が他人事ではなく思われて、砕けた心をそのまま貼り付けるようにして文章を書いていました。
 読者の皆様も空回りする自分や部下を見るような気持ちでやきもきされているかもしれませんが、努力する者が報われますよう、引き続き応援していただければ嬉しいです。


 それではまた、再来週の木曜日にお目にかかりましょう。
 良きローグライクハーフを!
 
 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。心が落ち着くハーブティーの売り上げが好調。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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